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日本と中国における特許出願書類の比較
2025年01月07日
■概要
主に日本で出願された特許出願を優先権の基礎として中国に特許出願する際に、必要となる出願書類についてまとめた。日本と中国における特許出願について、出願書類と手続言語についての規定および優先権主張に関する要件を比較した。■詳細及び留意点
1. 日本における特許出願の出願書類(パリルート)
1-1. 出願書類
所定の様式により作成した以下の書面を提出する(特許法第36条第2項)。
・願書
・明細書
・特許請求の範囲
・必要な図面
・要約書
(1) 願書
願書には、特許出願人および発明者の氏名(出願人が法人の場合は名称)、住所または居所を記載する(特許法第36条第1項柱書)。
(2) 明細書
明細書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明を記載する(特許法第36条第3項)。
発明の詳細な説明は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならない(特許法第36条第4項第1号)。
(3) 特許請求の範囲
特許請求の範囲には、請求項に区分して、各請求項ごとに特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない(特許法第36条第5項)。
(4) 要約書
要約書には、明細書、特許請求の範囲または図面に記載した発明の概要等を記載しなければならない(特許法第36条第7項)。
1-2. 手続言語
書面は、日本語で記載する(特許法施行規則第2条1項)。
1-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
書面は日本語で作成するのが原則であるが、英語その他の外国語(その他の外国語に制限は設けられていない)により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる(特許法第36条の2第1項、特許法施行規則第25条の4)。この場合は、その特許出願の日(最先の優先日)から1年4か月以内(分割出願等の場合は出願日から2か月以内)に、外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第36条の2第2項)。ただし、特許法条約(PLT)に対応した救済規定がある(特許法第36条の2第6項)。
1-4. 優先権主張手続
外国で最初に出願した日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う日本特許出願をすることができる(パリ条約第4条C(1))。優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書類を、最先の優先日から1年4か月または優先権の主張を伴う特許出願の日から4か月の期間が満了する日のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない(特許法第43条第1項、特許法施行規則第27条の4の2第3項第1号)。優先権主張書の提出は、特許出願の願書に所定の事項を記載することで、省略することができる(特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」)。また、最先の優先日から1年4か月以内に、特許庁長官に優先権証明書類を提出しなければならない(特許法第43条第2項)。
ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている(特許法第43条第5項)。
<参考URL>
特許庁:優先権書類の提出省略について(優先権書類データの特許庁間における電子的交換について)
https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/yusen/das/index.html
2. 中国における特許出願の出願書類(パリルート)
2-1. 出願書類
専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する(専利法第26条、専利法実施細則第17条)。
・願書
・明細書およびその要約
・権利要求書
・図面(必要な場合)
・委任状
(1) 願書
願書には、発明の名称、発明者の氏名、出願人の氏名または名称、住所およびその他の事項を明記しなければならない(専利法第26条第2項)。
(2) 明細書
明細書では、発明に対し、その所属技術分野の技術者が実現できることを基準とした明確かつ完全な説明を行い、必要時には図面を添付しなければならない(専利法第26条第3項)。
(3) 要約
要約は、発明の技術要点を簡潔に説明しなければならない(専利法第26条第3項)。
(4) 権利要求書
権利要求書は、明細書を根拠とし、専利保護請求の範囲について明確かつ簡潔に要求を特定しなければならない(専利法第26条第4項)。
2-2. 手続言語
専利法および専利法実施細則に基づいて提出する各種の書類は、中国語(簡体字)を使用しなければならない(専利法実施細則第3条第1項)。
2-3. 手続言語以外で記載された明細書での出願日確保の可否
外国政府部門から発行された書類、あるいは外国で作成された証明、または証拠資料を除き、中国語以外の外国語によって作成された出願書類等を提出することはできない(専利審査指南第5部分第1章3.1)。
2-4. 優先権主張手続
外国に最初に出願をした日から12か月以内に、パリ条約による優先権の主張を伴う中国専利出願をすることができる(専利法第29条第1項)。
書面による優先権主張を、出願と同時に行う。優先権証明書は、最初の特許出願日(優先日)から16か月以内に提出しなければならない(専利法第30条第1項)。
ただし、日本での特許出願を基礎とする中国特許出願の場合、デジタルアクセスサービス(DAS)を利用して日本国特許庁から優先権書類の電子データを取得するよう国務院専利行政部門に対して請求することにより、優先権書類の紙による提出を省略することが可能となる(専利法実施細則第34条第1項)。
2023年の専利法実施細則の改正により、出願人が優先権を主張した場合、優先日から16か月以内または出願日から4か月以内に、優先権主張の追加または補正を請求することが可能となった(専利法実施細則第37条)。
また、同改正によって、優先権を主張している場合には、優先権の範囲内で出願書類の誤りを補正する機会が設けられた。具体的には、専利保護請求の範囲、明細書もしくは専利保護請求の範囲、明細書の一部の内容に不足がある、または誤って提出されているものの、出願人がその提出日に優先権を主張していた場合、提出日から2か月以内または国務院専利行政部門が指定する期限内に、先願書類を援用する方式によって追加で提出することができる。追加で提出された書類が関連規定に合致する場合、最初に提出された書類の提出日が出願日と認定される(専利法実施細則第45条)。
2-5. その他の書類
出願人は、専利代理機構に委任して国務院専利行政部門に専利出願を行う場合、委任状の提出が求められる(専利法実施細則第17条第2項)。
また、出願人が専利代理機構に委任する場合、国務院専利行政部門に総委任状(包括委任状)を提出することができる。国務院専利行政部門は、規定に合致する総委任状を受け取った後に、総委任状に番号を付け、専利代理機構に通知する。総委任状を交付済みである場合、専利出願を提出する時に、出願人は総委任状番号を提示すればよい(審査指南第1部分第1章6.1.2)。
2-6. その他の留意点
2023年の専利法実施細則の改正により、優先期間(最先の優先日から12か月)を徒過した場合であっても、正当な理由があれば、国務院専利行政部門に同一の主題について出願を行う場合、優先期間の満了日から2か月以内に、優先権の回復を請求することが可能になった(専利法実施細則第36条)。
日本と中国の特許出願書類を比較すると、以下のようになる。
日本 | 中国 | |
---|---|---|
出願書類 | 所定の様式により作成した以下の書面を提出する。 ・願書 ・明細書 ・特許請求の範囲 ・必要な図面 ・要約書 | 専利法および実施細則にて規定された以下の文書を提出する。 ・願書 ・明細書およびその要約 ・権利要求書 ・図面(必要な場合) ・委任状 |
手続言語 | 日本語 | 中国語(簡体字) |
手続言語以外の明細書での出願日確保の可否 | 英語その他の外国語により作成した外国語書面を願書に添付して出願することができる。その特許出願の日から1年4か月以内に外国語書面および外国語要約書面の日本語による翻訳文を、特許庁長官に提出しなければならない。 | 不可 |
優先権主張手続 | 優先権主張の基礎となる出願の出願国と出願日を記載した書面を、最先の優先日から1年4か月、またはその優先権主張を伴う特許出願の日から4か月のいずれか遅い日までの間に、特許庁長官に提出しなければならない。 また、優先権証明書を、最先の優先権主張日から1年4か月以内に、特許庁長官に提出しなければならない。 ただし、日本国特許庁と一部の外国特許庁、機関との間では、優先権書類の電子的交換を実施しており、出願人が所定の手続を行うことで、パリ条約による優先権主張をした者が行う必要がある書面による優先権書類の提出を省略することが可能となっている。 | 優先権主張を出願と同時に行う。優先権証明書を最初の特許出願日から16か月以内に提出しなければならない。 (日本特許出願を基礎とする場合には、特許庁間DAS利用可) (留意点) 日本特許出願を優先権主張の基礎として中国出願する場合、優先期間内に中国語で出願書類作成し出願を行わなければならない。ただし、優先期間の満了日から2か月以内に、正当な理由があれば、優先権の回復を請求することができる。 |
■ソース
・日本特許法https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
・日本特許法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335M50000400010
・特許庁「出願の手続」第二章第十二節「優先権主張に関する手続」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/document/syutugan_tetuzuki/02-12.pdf
・中国専利法(2020年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・中国専利法実施細則(2023年12月11日改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/origin/admin20240120_1.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20240120_1.pdf
・中国専利審査指南(2023年改正)
(中国語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_2.pdf
(日本語)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/section/20240120_1.pdf
・パリ条約
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/chap1.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.10.02