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アルゼンチンにおける商標の使用と使用証拠
2024年12月19日
■概要
アルゼンチンにおいて、商標権者は登録付与後の5年後の翌日から6年後までの1年間に、登録商標の使用に関する宣誓供述書を提出しなければならない。また、登録商標を更新する際、商標権者は、当該商標の存続期間満了日前の5年以内に商取引において当該商標を使用したことを宣誓しなければ不使用と推定される。また、利害関係者は登録商標の不使用取消をアルゼンチン産業財産権庁(以下「庁」という。)に請求することができ、請求人が利害関係者であることおよび請求日前5年以内における請求の根拠となる証拠等を庁が判断して、登録商標の取消を宣言する場合がある。当該宣言に対する商標権者の不服申立は連邦民事商事審判所によって審理される。■詳細及び留意点
1. 商標の使用
アルゼンチン商標法(以下「法」という。)第26条の規定に従い、商標権者は登録付与後の5年後の翌日から6年後までの1年間に、登録商標の使用に関する宣誓供述書を提出しなければならない。この宣誓供述書は、少なくとも1つの指定商品または役務に関する使用について宣誓すれば良く、宣誓した使用を裏づける証拠を添付することは求められていない。また、改正商標規則242/2019号(以下「規則」という。)第26条の規定によれば、宣誓供述書が提出されなければ、反証がない限り、商標は使用されていないと推定される。
また、法第20条および規則第26条の規定に従い、登録商標を更新する際、商標権者は、当該商標の10年の存続期間満了日前の5年以内に商取引において、商標を使用していた商品、役務または営業活動を表示した使用に関する宣誓供述書を提出しなければならない。なお、規則第26条の規定により、使用に関する宣誓供述書が提出されなければ、更新申請は処理されない。
1-1. 不使用取消
法第26条および商標登録の有効期限に関する行政決議279/2019号付録II(以下「決議」という。)第1条の規定によれば、登録から5年以上経過した商標に対して、利害関係者の請求により、または庁の職権により、不使用および/または使用に関する宣誓供述書の未提出を理由に、庁は失効日を設定する手続(日本でいう不使用取消手続)を開始することが定められており、現在、確認されている限りでは、利害関係者の請求により当該手続が開始されている。その際、利害関係者は、自らが利害関係を有する主体的権利者であること、および、請求の根拠となる証拠を提出しなければならない(決議第3条、第5条)。
商標権者は、庁からの当該手続の通知から15就業日以内に応答することができる(決議第3条、第5条)。
庁は、上記の応答の有無にかかわらず、利害関係者による請求日前の5年以内に、登録商標がアルゼンチン国内において使用されていない商品または役務について、登録の取消を宣言する。ただし、指定された国際分類または指定された商品もしくは役務に使用されていない登録商標は、同一の商標が関連または類似の商品を販売する、または役務を提供するために使用されている場合には、たとえ、その商品または役務が他の分類に包含されるものであっても、取り消されない。また、指定された商品もしくは役務に関連する活動において名称の一部に同一の商標が使用される場合も、取り消されない。なお、登録の取消に関する宣言に不服がある場合は、宣言通知後30就業日以内に連邦民事商事審判所へ審判請求することができ、当該審判請求は、庁宛てに提出する(法第26条)。
不使用による登録の取消は、指定された商品・役務の全部取消に加え、2018年の法改正により、使用されなかった商品または役務に関してのみ一部取消を請求することができることとなった(法第26条)。一部取消請求について、請求が認められた商品または役務に関してのみ商標登録が取り消されることとなり、この場合、取り消されなかった商品や役務に関しては、引き続き登録として存続する(規則第5条)。
なお、一部取消は、2023年6月12日から請求可能となっている(決議第1条)。
また、法第26条の規定に基づき、商標の使用はアルゼンチン国内で行われていなければならず、かかる商品または役務が、国内市場に存在しなければならない。
このことから、インターネットサイトにおいて商標を表示し、当該商標を付した商品・役務について国内から海外に納品、海外から国内に納品または国内間の納品など国内での商取引を示すことができれば、当該商標の有効な使用として認められることになる。
1-2. 使用証拠
法、規則および決議に、商標の使用とみなされる行為を定義づける規定は見当たらないが、実務上、商標の広告における使用が有効な商標の使用とみなされるには、市場における当該商品または役務の実際の提供が広告後に行われなければならない。販売を伴わない単なる広告における使用は、有効な商標の使用として十分ではない。
一般的な使用証拠は、依頼人、顧客または販売店に対して発行された当該商標が明確に表示されている請求書、または表示されている商品番号等から当該商標を容易に特定できる請求書である。ただし、このような使用が有効であるとみなされるためには、現地での商取引、すなわち、アルゼンチン市場内で行われた取引であることが必要である。
証拠としてよく用いられる手段として、権利者の商業帳簿を見て明確に使用を判断できる会計処理の専門家証人による宣言書がある。これは請求書と共に、最も効果的な手段である。
さらに、使用見本としては、登録商標を提出することが好ましい。なお、商標権者が識別性に影響を及ぼさない方法で、自己の登録商標を軽微に変更し、かつ実質的な変更が無い方法で使用する場合には、登録商標の使用とみなされる(パリ条約第5条(C)(2))。
取消請求または審判において、商標権者により主張された使用証拠が不十分であった場合、当該商標は取り消され、登録簿から削除されることになる(法第26条)。
2. 未登録商標
アルゼンチンにおいて、使用する商標の登録を義務づける規定はない。未登録の商標を商取引において継続的に使用し、相当の期間にわたり当該商標を付した商品または役務に関する顧客を生み出している場合、当該商標は事実上の商標(de facto trademark)とされ、これに基づいて、出願の異議申立や、無効請求など、第三者に対する権利行使を行える可能性がある。なお、権利行使可能な当該商標の要件は、個々の事例に応じて判断されることになる。
■ソース
・アルゼンチン商標法(スペイン語)https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/19069 ・アルゼンチン商標法(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/argentine-shouhyou.pdf ・改正商標規則242/2019号(スペイン語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/19127 ・決議279/2019号(スペイン語)
https://www.wipo.int/wipolex/en/legislation/details/19418 (同決議のANEXOII IF-2019-91443336-APN-INPI#MPYTを参照)
・パリ条約
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/paris/patent/chap1.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.07.11