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インドにおける特許・意匠年金制度の概要
2024年10月29日
■概要
インドにおける特許権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である。権利期間の延長制度は存在しない。年金は、出願日を起算日として3年度から発生するが、特許査定が下された場合にのみ納付が求められる。特許査定が下された後、特許が登録簿へ登録された日から3か月以内に、3年度から査定された年までの累積年金の納付が求められ、その後の年金は、各年度の前年度満了前に納付しなければならない。意匠権の権利期間は、出願日もしくは優先権主張をしている場合は優先権主張日から15年である。意匠権が登録になると最初に起算日から10年の権利期間が与えられ、最初の10年の権利期間が満了する前に5年分の年金納付を1回のみ行うことで、計15年の権利期間を得ることができる。■詳細及び留意点
1. 特許権
1-1. 存続期間
インドにおける特許権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である(インド特許法(以下「特許法」という。)第53条(1))。権利期間の延長制度は存在しない。
1-2. 年金の納付期限
年金は、出願日を起算日として3年度から発生するが※1、特許査定がなされた場合にのみ納付が求められる(特許法第45条(1)、インド特許規則(以下「特許規則」という。)80(1))。したがって、出願から2年以上経過した場合であっても、審査中は、年金納付手続は不要である。出願から特許査定までに2年以上を要した場合には、特許査定が下された後、特許が登録簿へ登録された日(登録日)から3か月以内に、3年度から査定された年までの年金を納付する必要がある(特許法第142条(4))。これを累積年金と言う※2。その後の年金は、各年度※3の前年度満了前に納付しなければならない。例えば、出願から3年半後に登録となった場合は、3年度および4年度の年金を登録日から3か月以内に納付しなければならず、次の5年度分の年金は、4年度満了前に納付しなければならない(特許法53条(2)、特許規則80(1))。
※1 特許規則80(1)にいう「特許証の日付」とは、納付期間を計算するための起算日であり、特許出願の日と定められている(特許法第45条(1))。
※2 累積年金とは、年金納付義務が特許査定前から存在し、かつ特許査定が下されてから納付が開始される国において、登録手続の際に納付すべき年金のことを指す。指定された年度(※3を参照)から査定された年度までをカバーする年金をまとめて納付し、それ以降は年払いに移行する。なお、査定された時期と年金納付日の関係によっては、指定された年度から査定された年度の次の年度の分までを納付することになる場合もある。
※3 ここでの「年度」とは「特許証の日付」を起算日とした年度をいうが、※1のとおり、特許法第45条(1)において「特許証の日付」とは特許出願の日と定められているので、出願日を起算日とした年度を表す。
特許権者が小規模団体あるいは個人である場合は、年金金額が減額される(特許規則7、第1附則)。年金納付は、インド特許庁に対して代理人を通じて行うことができる(特許法第127条)。
1-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
特許権が登録になった後に、納付期限日までに年金の納付が行われなかった場合、期限日から6か月以内であれば追納が可能である(特許法第53条(2)、第142条(4)、特許規則80(1A)、第1附則)。追納期間中は、所定の年金金額に加えて、追徴金も同時に納付しなければならない。
1-4. 権利回復制度
6か月の追納期間を超えて年金納付がされない場合は、権利は納付期間の最終日をもって失効する(特許法第53条(2))。つまり、特許権は通常の納付期間満了時に遡及消滅する。ただし、権利失効から18か月以内であれば、インド特許庁に対して権利回復の請求を行うことが可能である(特許法第60条(1))。権利を回復するには、まず所定の書面を提出する必要がある(特許法第60条(3)、特許規則84(1))。その後、インド特許庁が権利の回復を認めた場合には、その旨が公報に掲載され一般に公告される(特許法第61条(1)、特許規則84(3))。公報掲載日から2か月の間は、権利回復に対する第三者からの異議を申し立てることが可能な期間であり(特許法第61条(1)、特許規則85(1))、この期間中に異議申立がなければ、当該特許権の特許権者はインド特許庁に未納付の更新手数料と追加手数料を納付することができる(特許法第61条(3)、特許規則86(1))。これらの金額の納付があった場合、インド特許庁は特許権の回復を公告する(特許規則86条(2))。
上記の通り、追納期間を超えて年金納付がされなかった場合に特許権は失効するが、権利を放棄したい旨を記した書面と所定の金額をインド特許庁に提出することにより自発的に放棄する手続もある(特許法第63条(1))。
1-5. 年金の誤納
意図しない特許権に対して誤って年金を納付した場合、または所定の納付金額を超えて納付した場合などは、通常、返金されない(特許規則7(4))。
1-6. その他
インドにおいて特許権を維持するには、上記の年金納付とは別に、インド特許庁に対して国内実施報告書を提出しなければならない(特許法第146条)。実施に関する書面の提出が行われなかった場合、最大で百万ルピーの罰金もしくは6か月以下の拘禁刑、またはこれらを併科される可能性がある(特許法第122条)。
なお、2024年の特許規則の改正(2024年3月15日施行)により、国内実施報告書の提出頻度が、従来の「1会計年度ごとに1回」から、「3会計年度ごとに1回」に変更された(特許規則131(2))。
2. 意匠権
2-1. 存続期間
意匠権の権利期間は、出願日もしくは優先権主張をしている場合は、優先権主張日から15年であり、年金は、意匠が登録査定を受けてから発生する。まず、意匠権が登録になると最初に、出願日もしくは優先権主張をしている場合は、優先権主張日を起算日として10年の権利期間が与えられる(インド意匠法(以下「意匠法」という。)第5条(6)、第11条(1)、インド意匠規則(以下「意匠規則」という。)30(3))。
その後、5年分の年金納付を1回のみ行うことで、計15年の権利期間を得ることができる(意匠法第11条(2))。更なる権利期間の延長制度は存在しない。
2-2. 年金の納付期限
10年間の満了前に意匠権期間の延長申請をした場合の5年分の年金は、最初の10年の権利期間が満了する前に納付しなければならない(意匠法第11条(2))。
年金の納付は、インド特許庁に対して代理人を通じて行うことができる(意匠法第43条(1))。意匠権者が小規模団体あるいは個人である場合は、年金金額が減額される(意匠規則5、第1附則)。
2-3. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
意匠権の場合、特許権と異なり追納制度が存在しない点に注意しなければならない。そのため、納付期限日までに年金の納付が行われなかった場合、権利は失効する(意匠法第12条(1))。
2-4. 権利回復制度
権利失効から12か月以内であれば、権利回復の請求を行うことができる(意匠法第12条(1))。権利を回復するには、所定の書面を提出する必要がある(意匠法第12条(2)、意匠規則24(1))。その後、インド特許庁が権利の回復を認めた場合には、意匠権者による未納付の延長手数料と追加手数料の納付を条件に、その旨が公報に公告される(意匠規則25)。
2-5. 年金の誤納
意図しない意匠権に対して誤って11年度の年金を納付した場合や、所定の納付金額を超えて納付した場合などは、通常は返金されない(意匠規則5(2)(c))。
■ソース
・インド特許法1970年(2017年6月23日までのすべての改正を含む)(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/sections-index.html
・インド特許法(2021年8月13日施行)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo.pdf
・インド特許規則(2024年3月15日までのすべての改正を含む)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/rules-index.html
・インド特許規則(2021年9月21日改正)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo_kisoku.pdf
・インド意匠法2000年
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOAct/1_58_1_design_act_1_.PDF
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-ishou.pdf
・インド意匠規則2001年
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/1_35_1_des-rules-2001.pdf
・インド意匠規則(2014年改正)
(英語)https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/1_23_1_design-amendment-rules-2014.pdf
*意匠規則5および第1附則の改正は、上記意匠規則2001年には反映されていないので、本URLの規則(2014年の改正部分のみを掲載)を参照されたい。
・インド意匠規則(2008年6月17日施行)
(日本語)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-ishou_kisoku.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.07.10