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ロシアにおける特許年金制度の概要
2024年06月11日
■概要
ロシアにおける特許維持年金の納付義務は、特許出願日を起算日として3年目から発生するが、その納付は特許査定がなされた後でよい。したがって、特許出願から特許査定までに2年以上を要した場合には、3年目から特許査定がなされた年までの年金(累積年金)を遡って納付する必要がある。累積年金は、特許登録料と同時に納付しなければならない。同様に、実用新案、意匠についても、登録査定日が年金納付期日より後になった場合には、登録査定日までの累積年金を、登録料と同時に納付しなければならない。■詳細及び留意点
1. 特許権
1-1. 存続期間
特許権の存続期間は、出願日(PCT条約に基づく特許出願の場合は国際特許出願日)から20年である。
医薬品、害虫駆除剤、農薬に関する発明で、法律の規定に適合するものについては、権利を最長5年間延長することができる。
(ロシア連邦民法典第4部第1363条)
1-2. 年金の納付期日
年金の支払いは、出願日を起算日として3年目から発生するが、出願日から2年以上経過していても、登録前であれば年金納付の必要はない。特許が付与された場合に初めて納付が必要となる(ロシア政令第941号付表1第1.21.1項)。
年金の納付期限は、権利期間の起算日となる毎年の出願日に対応する日である。
1-3. 累積年金の納付
出願から特許査定まで2年以上を要した場合は、特許登録手続時に納付する登録料に加えて、3年目から特許査定があった年までの年金(累積年金)を遡って納付する必要がある。
この累積年金の納付は、登録料の納付と同時に行わなければならない。
注:ロシア政令第941号第10条では、翌年分の年金を前年中に納付することとされ、「累積年金」の直接的な記述はないが、出願日を起算日とした権利の有効期間に対応する年金(累積年金)の支払いが求められる。「累積年金」は、年金納付義務が特許査定前から存在するものの、特許査定が下された後、登録手続を行う際に同時に納付する必要がある。
1-4. 納付期限を徒過した場合(追納制度)
特許権の登録後、年金の納付期限日までに年金が納付されなかった場合、年金の納付延長申請を行うことにより、納付期限日から6か月以内であれば、年金の追納が可能である。この場合、所定の年金額に加え、50%の割増手数料も同時に納付しなければならない(ロシア政令第941号第10条)。
1-5. 権利回復制度
追納期間を過ぎても年金が納付されない場合、その権利は失効するが、年金納付期限日から3年以内に所定の金額を納付することにより、権利の回復が可能である(ロシア連邦民法第4部第1400条、ロシア政令第941号付表1第1.22項)。
1-6. 年金の誤納
一旦ロシア特許庁によって受理された年金の返金は、年金が所定の額を超えて支払われた場合を除き行われない(ロシア政令第941号第6条)。
また、納付金額に誤りがあった場合、納付は受理されないため、再度納付手続を行う必要がある。
2. 実用新案権
2-1. 存続期間
実用新案権の権利期間は、出願日(PCT条約に基づく実用新案登録出願の場合は国際実用新案登録出願日)から10年である(ロシア連邦民法第4部第1363条)。
2-2. 年金の納付期日
年金は出願日を起算日として初年度から発生するが、特許権と同様に、納付は実用新案登録査定を受けてから開始される(ロシア政令第941号付表1第1.21.2項)。
維持年金の納付期限は、権利期間の起算日である毎年の出願日に対応する日となる。
2-3. 累積年金の納付
実用新案登録手続の際には、設定登録料に加えて、登録査定を受けた年までの累積年金を納付する必要がある(1-3.注:参照)。
2-4. その他
特許権と同じく追納制度、権利回復制度がある。
3. 意匠権
法律改正により、意匠権の存続期間の変更があり、年金の納付時期については意匠出願日により異なる。
3-1. 存続期間
(i)<出願日が2015年1月1日以降の場合>
意匠権の存続期間は出願日から5年であり、25年を上限として5年単位で延長することができる(ロシア連邦民法第4部(2014.03.12、No.35-FZ改正)第1363条)。
(ii)<出願日が2014年12月31日以前の場合>
意匠権の存続期間は出願日から15年であり、さらに最大10年延長可能である(ロシア連邦民法第4部(2006.12.18、No.230-FZ新設)第1363条(https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10342974/www.jpo.go.jp/shiryou/s_sonota/fips/pdf/russia/minpou_no4.pdf))。
3-2. 年金の納付期日
年金納付義務は、出願日から起算して3年目から発生するが、特許権と同様、年金納付は意匠出願の登録査定後に行われる(ロシア政令第941号付表1第1.21.1項)。
(i)<出願日が2015年1月1日以降の場合>
出願から登録査定まで2年以上要した場合には、登録料に加えて、3~5年目の期間を含む最初の年金納付も必要となる(ロシア政令第941号第10条)。
すなわち、登録料(3,000ルーブル)と、3~5年目の期間の年金(1,700+1,700+2,500ルーブル)の合計(8,900ルーブル)を納付する。
存続期間を延長する場合には、5年ごとにロシア特許庁に延長申請書を提出し、5年目、10年目、15年目、20年目の満了前(または6か月の猶予期間内)に、延長に対応する5年分の年金を納付する(ロシア政令第941号第10条)。
(ii)<出願日が2014年12月31日以前の場合>
出願日から3年目以降は維持年金が発生するので、出願から登録査定まで2年以上要した場合には、3年目から登録査定がなされた年までの維持年金(累積年金)を、登録料の支払と同時に納付する。その後の維持年金は毎年の出願日に対応する日までに納付する(ロシア政令第941号第10条)。
3-3. その他
特許権と同じく追納制度、権利回復制度がある。
4. その他
4-1. オープンライセンスを宣言した特許権の維持年金
特許権者が、その発明、実用新案または工業意匠を使用する権利を何人に対しても許諾する可能性がある旨の宣言(オープンライセンス)を提出した場合、特許維持年金の額は、ロシア特許庁がオープンライセンスに関する通知を公表した年の翌年から50%減額される(ロシア政令第941号第20条)。
4-2. 代理人による納付手続
年金納付手続は、委任された手続代理人が行うことができる。
■ソース
・ロシア連邦民法典第4部https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/russia-minpou_no4.pdf ・政令第941号、2008年12月10日施行(2022年9月19日改正、同年12月31日施行)(Постановление Правительства РФ от 10.12.2008 № 941)
https://rospatent.gov.ru/ru/documents/941-postanovlenie-pravitelstva-rf-ot-10-dekabrya-2008-g-941
■本文書の作成者
黒瀬IPマネジメント■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2024.01.07