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日本とフィリピンにおける特許審査請求期限の比較
2023年12月28日
■概要
日本における特許出願の審査請求の期限は、優先権主張の有無にかかわらず日本出願日から3年であり、フィリピンにおける特許出願の審査請求期限は、フィリピン出願公開日から6か月である。■詳細及び留意点
1.日本における審査請求期限
日本においては、特許出願の審査を受けるためには出願審査請求を行う必要がある。出願審査請求は出願の日から3年以内に行うことができ(特許法第48条の3第1項)、この期限内に出願審査請求がされない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(特許法第48条の3第4項)。ただし、所定の期間内に出願審査の請求がなされなかったことにより特許出願が取り下げたものとみなされた場合であっても、当該期間を徒過したことについて「故意によるものでない」ときは、出願審査の請求をすることができるようになった日から2か月以内で、期間経過後1年以内に限り、出願審査の請求を行うことができる(特許法第48条の3第5項)。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は、優先日(先の出願の出願日)ではなく、優先権主張を伴う出願(後の出願)の実際の出願日である(工業所有権法逐条解説 特許法第48条の3趣旨)。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でないと、出願審査請求をすることができない(特許法第184条の17)。この場合の審査請求期限は、国際出願日から3年である。
また、特許出願の分割に係る新たな特許出願、意匠登録出願または実用新案登録出願の変更に係る特許出願、実用新案登録に基づく特許出願については、原出願から3年の期間経過後であっても、分割または変更による特許出願の日から30日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。
なお、審査請求は出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第1項、第2項、第3項、第4項、第5項、第184条の17
日本国特許法 第48条の2(特許出願の審査) 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまって行なう。 |
日本国特許法 第48条の3(出願審査の請求) 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。 2 第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であっても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。 3 出願審査の請求は、取り下げることができない。 4 第一項または第二項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。 5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、経済産業省令で定める期間内に限り、経済産業省令で定めるところにより、出願審査の請求をすることができる。ただし、故意に、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をしなかつたと認められる場合は、この限りでない。 (第6から第8項省略) |
日本国特許法 第184条の17(出願審査の請求の時期の制限) 国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあつては第百八十四条の五第一項、外国語特許出願にあつては第百八十四条の四第一項又は第四項及び第百八十四条の五第一項の規定による手続をし、かつ、第百九十五条第二項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第百八十四条の四第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。 |
2.フィリピンにおける審査請求期限
フィリピンにおいては、特許出願の実体審査を受けるためには審査請求を行う必要がある。審査請求はフィリピンにおける公開日(知的財産法第44条第1項)から6か月以内に行うことができる(知的財産法第48条1項、2022 年特許・実用新案・意匠に関する改正施行規則(以下、施行規則という)804)。出願人が実体審査請求を行わない場合および所定の期間内に対応する手数料を納付しない場合は、その特許出願は取り下げられたものとみなされる(知的財産法第48条第1項、施行規則804)。
なお、出願から公開までの平均期間については、下記資料を参照されたい。
*JETRO「ASEANにおける産業財産権の検索データベースの調査2022」114頁
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/asean/ip/pdf/report_202303_asean.pdf
PCTルートの場合は、フィリピン国内段階移行日から6か月以内に審査請求費用を支払わなければその出願は取り下げられたとみなされる(特許審査マニュアル 4.8)。このため、フィリピン国内で出願の公開はされる(特許審査マニュアル4.11)が、フィリピン国内段階出願の公開日は、審査請求期限の起算日ではない。
条文等根拠:知的財産法第44条第1項、知的財産法第48条、施行規則804
第44条 特許出願の公開 44.1 特許出願は、出願日又は優先日から18月を経過した後、庁により又は庁のために作成された先行技術を記載した文献を引用する調査書とともにIPO公報において公開する。 |
第48条 実体審査の請求 48.1 出願は、第41条の規定による公開の日から6月以内に当該出願が第21条から第27条まで及び第32条から第39条までに規定する要件を満たしているか否かを決定することを求める書面による請求を提出し、かつ、所定の期間内に手数料を納付しない限り、取り下げられたものとみなす。 48.2 審査請求の取下は遡及の効果を有さず、手数料は返還されない。 |
規則 804 実体審査請求 書面による実体審査請求は、対応する手数料の全額納付とともに、特許出願の公開日から6 月以内に行う。実体審査は、特許出願がIP法に規定する特許性の要件を満たしているか否かを決定するために実施される。出願人が実体審査請求を行わない場合及び所定の期間内に対応する手数料を納付しない場合は、出願は、取り下げられたものとする。実体審査請求は、一度行われると、取消不能である。その手数料は返還されない。 |
日本の基礎出願について優先権を主張し、フィリピンに特許出願した場合には、以下のようになる。
日本とフィリピンにおける特許審査請求期限の比較
日本 | フィリピン | |
審査請求期間 | 3年 | 6か月 |
起算日 | 日本の出願日 | フィリピンの出願公開日 |
■ソース
・日本国特許法(昭和34年法律第121号)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121_20230401_503AC0000000042&keyword=特許法 ・工業所有権法逐条解説特許法第48条の3趣旨第210頁
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/document/chikujokaisetsu22/tokkyo.pdf ・フィリピン知的財産法(2013年法律第10372号により改正された法律第8293号2013年3月4日施行2015年版)
(和訳)https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/philippines-tizai.pdf
(原文)https://drive.google.com/file/d/0B2or2OrWYpIfN3BnNVNILUFjUmM/view?ts=58057027&resourcekey=0-TN5UB67CxjfQLADZofwVxA (*1)
(*1: 2023年11月現在「アクセス権が必要です」と表示され、閲覧することができない場合がある。)
・2022年特許・実用新案・意匠に関する改正施行規則(2022年7月4日公布)
(和訳)https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/ph/ip/pdf/philippines-tizai_kisoku.pdf
(原文)https://drive.google.com/file/d/1SGU-OvSLEasCzKhC7tt0dkUkIARYquWd/view
・特許審査マニュアル
(原文)https://drive.google.com/file/d/1vlZS7X81CdtRURtH9XSL8m44UiQtm0cJ/view
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2023.10.03