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日本と中国の意匠出願における実体審査制度の有無に関する比較

2023年11月07日

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■概要
日本における意匠出願の審査では、意匠登録のために方式審査と実体審査が行われる。一方、中国においては、願書や添付書類などが所定の書式を満たしているかどうか、明らかに不登録事由に該当するかどうかなどの予備審査が行われるが、実体審査は行われない。
■詳細及び留意点

1.日本における意匠出願の審査

 日本において意匠登録を受けるためには、願書、図面を含む出願書類が所定の書式を満たしているかどうかの形式的な審査(方式審査)が行われた後(意匠法第68条第2項、特許法第17条第3項)、方式審査を通過した出願に対しては、審査官により意匠登録要件を満たしているかどうかの審査(実体審査)が行われる(意匠法第16条)。実体審査において審査される内容は以下の通りである(意匠法第17条)。

物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合、建築物の形状等又は画像であって視覚を通じて美感を起こさせる意匠であること(第2条第1項)
工業上利用できる意匠であること(第3条1項柱書)
新規性を有する意匠であること(第3条第1項各号)
創作非容易性を有すること(第3条第2項)
先願意匠の一部と同一または類似の意匠でないこと(第3条の2)
公序良俗違反でないこと(第5条第1号)
他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生じる恐れがないこと(第5条第2号)
物品の機能確保のために不可欠な形状のみからなる意匠でないこと(第5条第3号)
組物の意匠として統一的な美観を生じさせること(第8条)
内装の意匠として統一的な美観を生じさせること(第8条の2)
最先の出願であること(第9条)
関連意匠の要件を満たすこと(第10条)
共同出願の要件を満たすこと(第15条第1項で準用する特許法第38条)
外国人の権利の享有の要件を満たすこと(第68条第3項で準用する特許法第25条)
条約の規定により意匠登録できないものでないこと(第17条第2項)
一意匠一出願の要件を満たすこと(第7条)
出願人が意匠登録を受ける権利を有していること(第17条第4項)

条文等根拠:意匠法第16条、第17条

日本意匠法 第16条 審査官による審査
特許庁長官は、審査官に意匠登録出願を審査させなければならない。

日本意匠法 第17条 拒絶の査定
審査官は、意匠登録出願が次の各号のいずれかに該当するときは、その意匠登録出願について拒絶をすべき旨の査定をしなければならない。
一 その意匠登録出願に係る意匠が第3条、第3条の2、第5条、第8条、第8条の2、第9条第1項もしくは第2項、第10条第1項、第4項もしくは第6項、第15条第1項において準用する特許法第38条または第68条第3項において準用する同法第25条の規定により意匠登録をすることができないものであるとき。
二 その意匠登録出願に係る意匠が条約の規定により意匠登録をすることができないものであるとき。
三 その意匠登録出願が第7条に規定する要件を満たしていないとき。
四 その意匠登録出願人がその意匠について意匠登録を受ける権利を有していないとき。

2.中国における意匠出願の審査

 中国における意匠登録手続においては、新規性や、先行する他人の権利と抵触するか否かに関する審査(実体審査)は行われない。願書や添付書類などが所定の書式を満たしているかどうか、および明らかに不登録事由に該当するかどうかなどの予備審査のみが行われる(専利法第40条)。なお、予備審査において審査される内容は、以下の通りである(専利法実施細則第44条)。

法で定める意匠に該当していること(専利法第2条第4項)
公序良俗に違反しないこと(専利法第5条)
既存の意匠に属さないものであること(専利法第23条第1項)
平面印刷物の模様、色彩又は両者の組み合わせによって作成され、主に表示を機能とする意匠に該当しないこと(専利法第25条第1項第6号)
図面または写真の提出要件を満たしていること(専利法27条第2項、専利法実施細則第27条)
一意匠一出願の要件を満たしていること(専利法第31条第2項)
補正の範囲の要件を満たしていること(専利法第33条)
専利代理機関の義務に違反していないこと(専利法第18条)
手続が書面または定められたその他の形式によって行われていること(専利法実施細則第2条)
書面が中国語で作成されていること(専利法実施細則第3条)
願書の記載要件を満たしていること(専利法実施細則第16条)
意匠の簡単な説明の要件を満たしていること(専利法実施細則第28条)
分割出願の要件を満たしていること(専利法実施細則第43条第1項)

条文等根拠:専利法第40条、専利法実施細則第44条

中国専利法 第40条
 実用新案および意匠の特許出願に対して予備審査を行い、これを却下する理由が存在しない場合、国務院専利行政部門が実用新案特許権または意匠特許権を付与する決定を下し、相応する特許証書を交付する。同時に登記して公告し、実用新案特許権および意匠特許権は公告日から有効となる。

中国専利法実施細則 第44条
 専利法第34条と第40条に言う予備審査とは、特許出願が専利法第26条または第27条に規定する書類とその他の必要な書類を具備しているか、これらの書類が規定の書式に合致しているかを指し、さらに以下の各項を審査する。
((1)発明、(2)実用新案に関する規定は省略)
(3)意匠特許出願が専利法第5条、第25条第1項第(6)号に規定される状況に明らかに属しているか、専利法第18条、第19条第1項または本細則第16条、第27条、第28条の規定に合致しないではないか、専利法第2条第4項、第23条第1項、第27条第2項、第31条第2項、第33条あるいは本細則第43条第1項の規定に明らかに合致していないではないか、専利法第9条の規定に基づいて特許権を取得できないではないか
(4)出願書類が本細則第2条、第3条第1項の規定に合致するか。
国務院特許行政部門は審査意見を出願人に通知し、指定の期限内に意見の陳述または補正をするよう要求しなければならない。期限が満了になっても出願人が補正しない場合は、その出願を取り下げられたものと見なす。出願人が意見を陳述しまたは補正した後、国務院特許行政部門がなお前項の各規定に合致していないと考える場合、却下しなければならない。

 なお、実体審査が行われない中国においては、意匠権の付与決定が公告された後、意匠権者および利害関係者は、侵害訴訟における証拠となる意匠権の評価報告書(中国語「专利权评价报告(専利権評価報告)」)の作成を中国国家知識産権局に請求することが可能である。
 条文等根拠:専利法第61条、専利法実施細則第56条

中国専利法 第61条
 特許権利侵害を巡る紛争が新製品製造方法の発明特許に関連する場合、同様の製品を製造する部門または個人はその製品の製造方法が特許の方法と違うことを証明する証拠を提出しなければならない。
 特許権利侵害を巡る紛争が実用新案特許または意匠特許に関連する場合、人民法院または特許事務管理部門は特許権者または利害関係者に対し、特許権侵害を巡る紛争を審議し、処理するための証拠として、国務院専利行政部門が関連の実用新案または意匠について検索と分析、評価を行ってから作成した評価報告を提出するよう要求することができる。

中国専利法実施細則 第56条
 第五十六条 実用新案または意匠特許権の付与決定が公告された後、専利法第六十条に規定される特許権者または利害関係者は特許権評価報告書の作成を国務院特許行政部門に請求することができる。
 特許権評価報告書の作成を請求する場合は、特許権評価報告請求書を提出し、特許番号を明記しなければならない。一つの請求は一つの特許権に限るものとする。
 特許権評価報告請求書が規定に合致しない場合、国務院特許行政部門は指定の期限内に補正するよう請求人に通知しなければならない。期限が満了になっても請求人が補正を行わない場合、請求が提出されなかったものと見なす。

日本と中国の意匠出願の実体審査の有無に関する比較

日本 中国
実体審査の有無
 願書や添付書類などが所定の書式を満たしているかどうか、および明らかに不登録事由に該当するかどうかなどの予備審査のみが行われる。

 なお、意匠権の付与決定が公告された後に、意匠権者および利害関係者は侵害訴訟における証拠となる意匠権の評価報告書(中国語:「专利权评价报告」)の作成を中国国家知識産権局に請求することができる(専利法第61条、実施細則第56条)。

 ここで、利害関係者とは、裁判所に侵害訴訟を提起する権利を有する原告、例えば、意匠権、専用実施権者、および意匠権者から契約等により訴権を取得した通常実施権者を言う。
■ソース
・日本国意匠法
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000125_20230703_505AC0000000051&keyword=意匠法
・専利法(2021年6月1日施行)(中国語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/regulation20210601.pdf
・専利法(2021年6月1日施行)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/regulation/20210601_jp.pdf
・専利法実施細則(2010年2月1日施行)(中国語)
https://www.cnipa.gov.cn/art/2015/9/2/art_98_28203.html
・専利法実施細則(2010年2月1日施行)(日本語)
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/law/pdf/admin/20100201.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2023.08.24

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