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インドにおける商標異議申立制度

2023年03月23日

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■概要
インドでは、商標出願が商標公報に公告(公開)されてから4か月以内に、異議申立をすることができる。異議申立理由は、主として、絶対的拒絶理由および相対的拒絶理由が根拠とされる。出願人は、登録官から異議申立書を受領した日から2か月以内に、答弁書を提出しなければならない。出願人が2か月以内に答弁書を提出しない場合、異議対象の出願は放棄されたとみなされる。
■詳細及び留意点

 インドにおける商標異議申立手続は、2010年商標(改正)法第21条および2017年商標規則の規則42~51に規定されている。

1.異議申立
 何人も、登録出願の公告若しくは再公告のあった日から4か月以内に、所定の方法により所定の手数料を納付して書面をもって登録官に対して登録異議の申立てをすることができる(商標法第21条(1))。異議申立は「何人」も行うことができ、この点において、「当該登録によって被害を受ける者」のみが提起できる登録の取消(商標法第57条)とは異なっている。「何人」とは、必ずしも個人である必要はなく、法人または非法人組織であってもよい。
 異議申立は、商標法に定められた理由を根拠としなければならない。主として、絶対的拒絶理由について規定する商標法第9条、および相対的拒絶理由について規定する商標法第11条が適用される。
 商標法第9条には、(1)項から(3)項があり、商標法第9条(1)項は、出願商標の識別性の問題に関する(a)号から(c)号の規定を含んでおり、以下の商標は登録することができないとしている。

(a) 識別性を欠く商標、すなわち、ある者の商品もしくは役務を、他人の商品もしくは役務から識別できないもの
(b) 取引上、商品の種類、品質、数量、意図する目的、価格、原産地、当該商品生産の時期もしくは役務提供の時期、または当該商品もしくは役務の他の特性を指定するのに役立つ標章または表示からもっぱら構成されている商標
(c) 現行言語において、または公正な確立した取引慣行において慣習的となっている標章または表示からもっぱら構成されている商標

 商標法第9条(1)項にはただし書が設けられており、出願日より前に、商標が使用の結果として識別性を獲得している、または周知である場合には、登録を拒絶されることはない。

 商標法第9条(2)項は、公益および公序良俗の問題に言及する規定を含んでおり、以下の商標は登録することができないとしている。

(a) 公衆を誤認させるか、または混同を生じさせる内容のものであるとき
(b) インド国民の階級もしくは宗派の宗教的感情を害するおそれがある事項からなり、またはそれを含んでいるとき
(c) 中傷的もしくは卑猥な事項からなり、またはそれを含んでいるとき
(d) その使用が1950年紋章および名称(不正使用防止)法により禁止されているとき

 商標法第9条(3)項は、識別性があるとみなすことができない特定の形状からなる商標の登録を禁じており、以下の商標は登録することができないとしている。

(a) 商品自体の内容に由来する商品の形状
(b) 技術的成果を得るために必要な商品の形状
(c) 商品に実質的な価値を付与する形状

 相対的拒絶理由に関しては、商標法第11条(1)項に従い、(a)先の商標と同一、かつ商品又は役務が類似する場合、及び(b)先の商標と類似、かつ商品又は役務の同一性又は類似性により公衆に混同を生じさせるおそれがある場合、その商標は登録されない。

 商標法第11条(2)項はパリ条約第6条の2に対応するものであり、周知商標は、商品および役務が異なる場合であっても第三者の商標から保護される。

 商標法第11条(3)項は、コモン・ロー上の権利および著作権法の重要性を認め、詐称通用に関する法律または著作権法により商標の使用を阻止すべき場合には、当該商標は登録されないとしている。

 商標法第11条(6)項、(7)項は、商標が周知であるかどうかを判断する際に考慮すべき事実および証拠について説明している。以下に挙げるこれらの事項は、異議申立人または出願人が異議申立手続において、自己の商標が周知であると認定してもらい、それにより自己の主張を裏づけるための証拠の収集および提出の際の参考となる。

・当該商標の使用促進の結果として得られたインドにおける知識を含め公衆の関係階層における当該商標についての知識または認識
・当該商標の使用についての期間、範囲および地域
・当該商標が適用される商品もしくは役務についての博覧会もしくは展示会における広告または宣伝および紹介を含め、当該商標の使用促進についての期間、範囲および地域
・本法に基づく当該商標の登録、または登録出願についての期間および地域であって、当該商標の使用または認識を反映している範囲
・当該商標に関する諸権利の執行記録、特に、当該商標が当該記録に基づいて裁判所または登録官により周知商標として認識された範囲
・実際のまたは潜在的な消費者の数
・流通経路に介在する人員の数
・それを取り扱う業界

 商標法第11条(10)項では、「同一または類似の商標に対して周知商標を保護しなければならず、かつ、商標権に影響を及ぼす、出願人もしくは異議申立人の何れかに含まれた不誠実を参酌しなければならない」とし、周知商標と同一または混同を生じるほど類似の商標を採用する第三者に関連する「悪意」の概念について確認するとともに、周知商標を保護する必須義務を登録官に負わせている。

 商標法第11条(11)項は逆に、「商標が登録官に重要な情報を開示して公正に登録された場合または商標についての権利が本法の施行前に善意の使用を通じて取得された場合は、本法は、当該商標が周知商標と同一または類似するとの理由では、当該商標登録または当該商標使用の権利の有効性を一切害さない。」とし、善意で使用されている出願または登録商標を保護している。異議申立に対する抗弁として、この規定を用いることができる。

 なお、先行商標の所有者が既に後続商標に同意している場合には、商標法第12条による特別の状況があるものとして、後続商標の登録を許可している(商標法第11条(4)項)。商標法第12条では、「善意の同時使用」または他の「特別な事情」がある場合には、商標が商標法第11条に抵触するにもかかわらず、登録官は当該商標の登録を許可することができると定めている。

2.答弁書
 出願人は、登録官から異議申立書を受領した日から2か月以内に、答弁書を提出しなければならない。答弁書の提出期限は延長できないため、出願人が2か月以内に答弁書を提出しない場合、異議対象の出願は放棄されたとみなされる。(商標法第21条(2))

3.証拠
 出願人により提出された答弁書が、登録官により異議申立人に送達された後、異議申立人は、答弁書を受領した日から2か月(商標規則109により、1か月の延長が可能)以内に証拠を提出するよう要求される。異議申立人が証拠の提出を望まない場合、この2か月+1か月の期間内に異議申立書に明記された事実に依拠する旨を登録官に対して通知するとともに、出願人にも通知しなければならない。また、聴聞の希望がある場合には、登録官はその機会を与えなければいけない。これらの措置が取られない場合、異議申立人は自己の異議申立を放棄したとみなされる。(商標法第21条(4)、商標規則45)

 異議申立人が証拠を提出、または事実に依拠する旨を通知した後、出願人は、異議申立人の証拠を受領した日から2か月(商標規則109により、1か月の延長が可能)以内に、出願を裏づける証拠を提出、または答弁書に明記した事実に依拠する旨を登録官に対して通知するとともに、異議申立人にも通知するよう要求される(商標法第21条(4)、商標規則46)。異議申立人とは異なり、出願人がこれらの措置を取らなかったとしても、出願が放棄されたとみなされることはない。この場合、インドの法律に基づき、出願人は答弁書を提出することにより、自己の出願を防御する意思を示したと理解され、この防御は、出願人が証拠を提出しない場合でも、維持することができる。

 出願人が証拠を提出した場合、異議申立人は、出願人の証拠を受領後1か月(商標規則109により、1か月の延長が可能)以内に、弁駁証拠を提出することができる(商標規則47)。これをもって、異議申立手続における答弁および証拠段階は終了する。

 なお、いずれの側もこれ以上の証拠を提出することはできないが、登録官は、自己が適当と認めるときはいつでも、出願人または異議申立人の何れに対しても、登録官が適当と認める費用またはその他の条件を付して、証拠を提出することを許可することができる(商標規則48)。

 留意事項として、証拠の提出に関する期間の延長については、商標法第131条に「登録官において、所定の方法により、かつ、所定の手数料を添えた申請に基づき、指定期間の満了の前後を問わず、何らかの行為をする期間(本法に別途規定された期間を除く)を延長するに十分な理由があると納得したときは、登録官は、適当と認める条件を付して、その期間を延長し、かつ、この旨を当事者に通知することができる。」と規定されており、登録官の裁量に基づくものであることが挙げられる。

4.ヒアリング(聴聞)
 答弁書および証拠の提出段階が完了すると、登録官は口頭による意見陳述のために双方の当事者を招集するヒアリングの日程を定める(商標規則50(1))。ヒアリングの日付は、最初の通知の日から少なくとも1月後でなければならず(商標規則50(1))、また、ヒアリングの日の少なくとも3日前に、合理的な理由によるヒアリングの延期を請求することができるが、3回以上の延期は与えられず、かつ、各延期期間は30日を超えない(商標規則50(2))。双方の当事者は、口頭による意見陳述の代わりに、またはこれに追加して、抗弁書を提出することができる(商標規則50(5))。

5.異議申立手続の期間
 商標局にはかなりの未処理案件があり、多数の異議申立が係属中である。未処理案件を処理するために、長年にわたり様々な取り組みが行われてきた。しかし、異議申立の未処理案件は、2022年3月時点で、225,000件以上がインドの5か所の商標庁で係属中であり、これに対して聴聞官を大幅に増やすなどの対策が取られているとの情報がある
 また、インド特許意匠商標総局(the Office of the Controller General of Patents, Designs & Trade Marks (CGPDTM))ウェブサイトの商標「Quality Policy of Office」(http://www.ipindia.gov.in/quality-policy-of-office-tm.htm)では、案件の処理にあたっては時間制限のあるプロセスを順守するとともに、内部の相乗効果を活用して、迅速に結果を提供することを、商標審査における品質ポリシーの一つとしている。

6.審判請求
 商標法第21条に基づく登録官のあらゆる命令または決定を不服とする当事者は、商標法第91条(1)にもとづき、その命令または決定が当該当事者に通知された日から3か月以内に、知的財産審判部に審判請求を提出することができるとされていたが、2021年8月13日に2021年審判改革法(Tribunals Reforms Act, 2021)が制定され、知的財産審判部が廃止された。よって、今後は高等裁判所に設置された知的財産権に関連する案件を取り扱うための知的財産部において、不服申立てが管轄されることになる。
参考情報:
インドにおける知的財産審判委員会(IPAB)の廃止-その後-(2022.1.11)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/21344/

■ソース
・インド2010年商標(改正)法(英文)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOAct/1_46_1_tmr-amendment-act-2010.pdf
・インド2010年商標(改正)法(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou.pdf
・インド2017年商標規則(英語)
https://ipindia.gov.in/TM-Rules-2017.htm
・インド2017年商標規則(日本語)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-shouhyou_kisoku.pdf
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2022.12.05

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