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日本とインドにおける特許審査請求期限の比較
2022年11月17日
■概要
(本記事は、2024/11/28に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/40240/
日本における特許の審査請求の期限は、日本出願日(優先権主張の有無にかかわらず)から3年であり、インドにおける特許の審査請求期限は出願日(優先権主張を伴う場合には優先日)から48か月である。日本とインドの審査請求期限に関する規定を比較紹介する。また、審査請求後に手続可能である早期審査の関連する規定を併せて紹介する。
■詳細及び留意点
1.日本における審査請求期限
1-1.審査請求
日本において特許出願の審査を受けるためには、出願審査の請求を行う必要がある。出願審査の請求は、出願日から3年以内に行うことができ、この期限内に出願審査の請求がされない場合は、その特許出願は取下げられたものとみなされる。
出願が国内優先権の主張を伴う場合や、パリ条約による優先権の主張を伴う場合においても、請求期間の起算日は実際に特許出願がされた日である。
PCTルートの場合は、国内書面を提出し、手数料の納付を行った後(外国語特許出願である場合はさらに翻訳文を提出した後)でなければ、出願審査の請求をすることができない(特許法第184条の17)。
なお、出願審査の請求は、出願人だけでなく、第三者も行うことができる。(特許法第48条の3第1項)。
条文等根拠:特許法第48条の2、第48条の3第1項、第48条の3第4項、第184条の17
日本特許法 第48条の2 特許出願の審査 特許出願の審査は、その特許出願についての出願審査の請求をまつて行なう。 |
日本特許法 第48条の3 出願審査の請求 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。 2 第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。 3 出願審査の請求は、取り下げることができない。 4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。 5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。 6 前項の規定によりされた出願審査の請求は、第一項に規定する期間が満了する時に特許庁長官にされたものとみなす。 7 前三項の規定は、第二項に規定する期間内に出願審査の請求がなかつた場合に準用する。 8 第五項(前項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)の規定により特許出願について出願審査の請求をした場合において、その特許出願について特許権の設定の登録があつたときは、その特許出願が第四項(前項において準用する場合を含む。)の規定により取り下げられたものとみなされた旨が掲載された特許公報の発行後その特許出願について第五項の規定による出願審査の請求があつた旨が掲載された特許公報の発行前に善意に日本国内において当該発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許権について通常実施権を有する。 |
日本特許法 第184条の17 出願審査の請求の時期の制限 国際特許出願の出願人は、日本語特許出願にあつては第百八十四条の五第一項、外国語特許出願にあつては第百八十四条の四第一項又は第四項及び第百八十四条の五第一項の規定による手続をし、かつ、第百九十五条第二項の規定により納付すべき手数料を納付した後、国際特許出願の出願人以外の者は、国内書面提出期間(第百八十四条の四第一項ただし書の外国語特許出願にあつては、翻訳文提出特例期間)の経過後でなければ、国際特許出願についての出願審査の請求をすることができない。 |
1-2.優先審査
特許出願の審査を早期に受けるための手段として、日本特許法において、優先審査が規定されている。
条文等根拠:特許法第48条の6、特許法施行規則第31条の3
日本特許法 第48条の6 優先審査 特許庁長官は、出願公開後に特許出願人でない者が業として特許出願に係る発明を実施していると認める場合において必要があるときは、審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させることができる。 |
日本特許法施行規則 第31条の3 優先審査に関する事情説明書の提出 特許出願人は、特許法第四十八条の六に規定する優先審査に関し、特許出願に係る発明の実施の状況等を記載し、根拠となる書類又は物件を添付した事情説明書を特許庁長官に提出することができる。出願公開がされた他人の特許出願に係る発明を業として実施している者も、同様とする。 |
特許出願の審査の順序のようなことは、特許庁の事務の取扱方法に関するものであり、庁内部の指揮命令に属するので必ずしも法定する必要のないものである(*)。そこで、日本では、法令に規定されていない「早期審査」の運用が設けられ、優先審査よりも多く活用されている。ただし、早期審査の申請が可能なのは特許出願人のみであり、他人は、優先審査制度を活用する必要がある。
(*)特許法第48条の6に関する逐条解説に基づく。
(「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕」「特許法」214ページ https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/document/chikujokaisetsu21/tokkyo.pdf)
1-3.早期審査
日本において、早期審査の申請が可能な出願は以下のとおりである。
(1) 出願審査の請求がなされていること
(2) 以下のいずれか1つの条件を満たしていること
・中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願
・外国関連出願
・実施関連出願
・グリーン関連出願
・震災復興支援関連出願
・アジア拠点化推進法関連出願
(3) 特許法第42条第1項の規定により取下げとならないものであること
(4) 代理人が弁理士、弁護士または法定代理人のいずれかに該当すること
参照:「特許出願の早期審査・早期審理ガイドライン(令和3年5月)」(https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/index/guideline.pdf)
2.インドにおける審査請求
2-1.審査請求
インドにおいて特許出願の実体審査を受けるためには、実体審査請求を行う必要がある。実体審査請求は、出願日からまたは原出願の優先日から48か月以内に行うことができる。実体審査請求がされない場合は、その特許出願は取下げられたものとして取り扱われる。
なお、インドにおいては実体審査請求を行うことができるのは、出願人または利害関係人である。
条文等根拠:特許法第11B条、特許規則24B(1)(i)
インド特許法 第11B条 審査請求 (1) 如何なる特許出願についても、出願人または他の利害関係人が所定の期間内に所定の方法により審査請求をしない限り、審査しないものとする。 (2) [削除] (3) 2005年1月1日前に第5条(2)に基づいて出願された特許のクレームに係る出願の場合は、その審査請求は、出願人または他の利害関係人が所定の方法により所定の期間内にしなければならない。 (4) 出願人または他の利害関係人が(1)または(3)に規定の期間内に特許出願の審査請求をしない場合は、当該出願は出願人により取り下げられたものとして取り扱われる。ただし、 (i) 出願人は、自己の行った出願については、所定の方法により請求して、出願後で特許付与前にはいつでも、これを取り下げることができ、かつ (ii) 秘密保持の指示が第35条に基づいて発せられた場合は、審査請求については、当該秘密保持の指示取消の日から所定の期間内に、これを行うことができる。 |
インド特許規則 24B(1)(i) 出願の審査 第11B条に基づく審査請求は、様式18により、出願の優先日又は出願日の何れか先の日から48月以内にしなければならない。 |
2-2.早期審査請求
インドにおいて、早期審査請求が可能な出願はインド特許規則に規定されている。
インド特許規則 24C(1) 出願の早期審査 (1) 出願人は、次の理由の何れかに基づいて、様式18Aにより第1附則に定める手数料を添えて規則24Bに定める期間内に正式に認証された電子送信によってのみ早期審査請求を提出することができる。 (a) 対応する国際出願においてインドが管轄国際調査機関として指定されており又は国際予備審査機関として選択されていること、又は (b) 出願人がスタートアップ企業であること、又は (c) 出願人が小規模企業であること、又は (d) 出願人が自然人である場合、または共同出願人の場合、出願人全員が自然人であり、出願人または出願人の少なくとも1人が女性であること、又は (e) 出願人が政府の部門(department of the Government)であること、又は (f) 政府が所有または管理する中央、州または県の法律により設立された機関であること、又は (g) 出願人が2013年会社法(18 of 2013)第2節(45)に定義される政府系企業であること、又は (h) 出願人が政府によって全額または実質的に資金提供されている機関であること、又は (i) 中央政府の部門長からの要請に基づいて中央政府が通知した部門に関連する出願であること:ただし、そのような通知の前にパブリックコメントを募集する、又は (j) 出願人がインド特許意匠商標総局と外国特許庁との間の協定に基づく特許出願の処理に関する取り決めに基づいた資格を有する場合。 |
◆日本の基礎出願について優先権を主張しインドに出願した場合には、以下のようになる。
日本とインドにおける特許審査請求期限の比較
日本 | インド | |
提出期限 | 3年 | 48か月 |
基準日 | 日本の出願日 | インド出願日ではなく、日本の基礎出願日(優先日) |
■ソース
日本特許法https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
特許法施行規則
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335M50000400010
「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第21版〕」「特許法」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/kaisetu/kogyoshoyu/document/chikujokaisetsu21/tokkyo.pdf
特許出願の早期審査・早期審理ガイドライン(令和3年5月)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/document/index/guideline.pdf
インド特許法(日本語、2017年6月23日版)
https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/india-tokkyo.pdf
インド特許法(英語、2017年6月23日までの全ての修正を含む、PDF版)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/IPOAct/1_113_1_The_Patents_Act_1970_-_Updated_till_23_June_2017.pdf
インド特許法(英語、2017年6月23日までの全ての修正を含む、HTML版)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/sections-index.html
2003年インド特許規則(2021年9月21日までのすべての修正を含む、PDF版)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/Images/pdf/Indian_Patent_Rules_2003__1_.pdf
2003年インド特許規則(2021年9月21日までのすべての修正を含む、HTML版)
https://ipindia.gov.in/writereaddata/Portal/ev/rules-index.html
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.08.23