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日本と韓国における特許分割出願に関する時期的要件の比較
2022年11月01日
■概要
(2024年6月13日訂正:本記事のソース「韓国特許法」のURLを修正いたしました。)
日本および韓国においては、それぞれ所定の期間、特許出願について分割出願を行うことができる。韓国においては、特許査定謄本の送達前であればいつでも分割出願が可能だが、拒絶理由通知書が発行された場合には意見書の提出期間内のみ可能となる。2021年10月19日の韓国特許法の改正で、拒絶決定謄本の送達を受けた日から分割出願可能な期間が3か月以内に変更され、またあらたに分離出願制度が新設された。
■詳細及び留意点
1.日本における特許出願の分割出願に係る時期的要件
日本特許法第44条は、下記の(1)~(3)のいずれかの時または期間内であれば、2以上の発明を包含する特許出願の一部を1または2以上の新たな特許出願とすること(分割出願すること)ができることを規定している。
(1) 願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について補正をすることができる時または期間内(第44条第1項第1号)
なお、願書に添付した明細書、特許請求の範囲または図面について、補正をすることができる時または期間は、次の(i)~(iv)である。
(i) 出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を受けた後を除く)(第17条の2第1項本文)
(ii) 審査官(審判請求後は審判官も含む。)から拒絶理由通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第1号、第3号)
(iii) 拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の、指定応答期間内(第17条の2第1項第2号)
(iv) 拒絶査定不服審判請求と同時(第17条の2第1項第4号)
(2) 特許査定(次の(i)および(ii)の特許査定を除く)の謄本送達後30日以内(第44条第1項第2号)
(i) 前置審査における特許査定(第163条第3項において準用する第51条)
(ii) 審決により、さらに審査に付された場合(第160条第1項)における特許査定
なお、特許「審決」後は分割出願することはできない。また、上記特許査定の謄本送達後30日以内であっても、特許権の設定登録後は、分割出願することはできない。また、(2)に規定する30日の期間は、第4条または第108条第3項の規定により第108条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第5項)。
(3) 最初の拒絶査定の謄本送達後3か月以内(第44条第1項第3号)
(3)に規定する3か月の期間は、第4条の規定により第121条第1項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間に限り、延長されたものとみなされる(第44条第6項)。
・日本特許法第44条(特許出願の分割)
特許出願人は、次に掲げる場合に限り、二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。 一 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面について補正をすることができる時又は期間内にするとき。 二 特許をすべき旨の査定(第百六十三条第三項において準用する第五十一条の規定による特許をすべき旨の査定及び第百六十条第一項に規定する審査に付された特許出願についての特許をすべき旨の査定を除く。)の謄本の送達があつた日から三十日以内にするとき。 三 拒絶をすべき旨の最初の査定の謄本の送達があつた日から三月以内にするとき。 2 前項の場合は、新たな特許出願は、もとの特許出願の時にしたものとみなす。ただし、新たな特許出願が第二十九条の二に規定する他の特許出願又は実用新案法第三条の二に規定する特許出願に該当する場合におけるこれらの規定の適用及び第三十条第三項の規定の適用については、この限りでない。 3 第一項に規定する新たな特許出願をする場合における第四十三条第二項(第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定の適用については、第四十三条第二項中「最先の日から一年四月以内」とあるのは、「最先の日から一年四月又は新たな特許出願の日から三月のいずれか遅い日まで」とする。 4 第一項に規定する新たな特許出願をする場合には、もとの特許出願について提出された書面又は書類であって、新たな特許出願について第三十条第三項、第四十一条第四項又は第四十三条第一項及び第二項(これらの規定を第四十三条の二第二項(前条第三項において準用する場合を含む。)及び前条第三項において準用する場合を含む。)の規定により提出しなければならないものは、当該新たな特許出願と同時に特許庁長官に提出されたものとみなす。 5 第一項第二号に規定する三十日の期間は、第四条又は第百八条第三項の規定により同条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。 6 第一項第三号に規定する三月の期間は、第四条の規定により第百二十一条第一項に規定する期間が延長されたときは、その延長された期間を限り、延長されたものとみなす。 7 第一項に規定する新たな特許出願をする者がその責めに帰することができない理由により同項第二号又は第三号に規定する期間内にその新たな特許出願をすることができないときは、これらの規定にかかわらず、その理由がなくなった日から十四日(在外者にあっては、二月)以内でこれらの規定に規定する期間の経過後六月以内にその新たな特許出願をすることができる。 |
2.韓国における特許出願の分割出願の時期的要件
韓国特許法第52条は、2つ以上の発明を1つの特許出願とした場合には下記の(1)~(3)のいずれかの時または期間内であれば、その特許出願の出願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲で、その一部を1つ以上の特許出願に分割することができることを規定している。
(1) 特許法第47条第1項により補正をすることができる期間(第52条第1項第1号)。
具体的には、出願から特許決定(特許査定)の謄本の送達日の前までは分割出願をすることができる。ただし、拒絶理由通知を受けた後は、拒絶理由通知による意見書提出期間または再審査を請求するときにのみ分割出願をすることができる。
(2) 特許拒絶決定謄本の送達を受けた日から3か月以内の期間。
(3) 特許決定の謄本もしくは特許拒絶決定取消審決の謄本の送達を受けた日から3か月以内の期間であって設定登録を受けようとする日までの期間。
・韓国特許法 第52条(分割出願)
①特許出願人は、2つ以上の発明を1つの特許出願とした場合には、その特許出願の出願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項の範囲で次の各号のいずれかに該当する期間にその一部を1つ以上の特許出願に分割することができる。ただし、その特許出願が外国語特許出願である場合には、その特許出願に対する第42条の3第2項による韓国語翻訳文が提出された場合にのみ分割することができる。 1. 第47条第1項により補正をすることができる期間 2. 特許拒絶決定謄本の送達を受けた日から3ヶ月(第15条第1項により第132条の17による期間が延長された場合、その延長された期間をいう)以内の期間 3. 第66条の規定による特許決定又は第176条第1項の規定による特許拒絶決定取消審決(特許登録を決定した審決に限定されるが、再審の審決を含む)の謄本の送達を受けた日から3ヶ月以内の期間。但し、第79条の規定による設定登録を受けようとする日が3ヶ月より短い場合には、その日までの期間 ②第1項によって分割された特許出願(以下”分割出願”という)がある場合、その分割出願は特許出願した時に出願したものとみなす。ただし、その分割出願に対して次の各号の規定を適用する場合には、該当分割出願をした時に出願したものとみなす。 1. 分割出願が第29条第3項による他の特許出願又は「実用新案法」第4条第4項による特許出願に該当してこの法第29条第3項又は「実用新案法」第4条第4項を適用する場合 2. 第30条第2項を適用する場合 3. 第54条第3項を適用する場合 4. 第55条第2項を適用する場合 ③第1項によって分割出願をしようとする者は、分割出願をするときに特許出願書にその趣旨及び分割の基礎となった特許出願の表示をしなければならない。 ④分割の基礎となった特許出願が、第54条または第55条により優先権を主張した特許出願の場合には、第1項により分割出願をしたときに、その分割出願についても優先権主張をしたものとみなし、分割の基礎となった特許出願について、第54条第4項により提出された書類または書面がある場合には、分割出願についても該当書類または書面が提出されたものとみなす。 ⑤第4項により優先権を主張したものとみなす分割出願に関しては、第54条第7項または第55条第7項による期限が過ぎた後にも、分割出願をした日から30日以内に、その優先権主張の全部または一部を取り下げることができる。 ⑥分割出願の場合に第54条による優先権を主張する者は、同条第4項による書類を同条第5項による期間が過ぎた後にも分割出願をした日から3か月以内に特許庁長に提出することができる。 ⑦分割出願が外国語特許出願の場合には、特許出願人は第42条の3第2項による韓国語翻訳文又は同条第3項本文による新しい韓国語翻訳文を同条第2項による期限が過ぎた後にも分割出願をした日から30日となる日までは提出することができる。ただし、第42条の3第3項各号のいずれかに該当する場合には、新しい韓国語翻訳文を提出することができない。 ⑧特許出願書に最初に添付した明細書に請求範囲を記載しなかった分割出願に関しては、第42条の2第2項による期限が過ぎた後にも分割出願をした日から30日になる日までは明細書に請求範囲を記載する補正をすることができる。 |
3.韓国における特許出願の分離出願
韓国では、2021年10月19日の特許法改正により、新たに分離出願制度が新設された。分離出願制度は、特許拒絶決定不服審判請求で棄却された場合、棄却から30日以内に審判請求の対象となる特許拒絶決定で拒絶されていない請求項のみを新しい特許出願として分離できる制度である。
・韓国特許法第52条の2(分離出願)
①特許拒絶決定を受けた者は、第132条の17による審判請求が棄却された場合、その審決の謄本の送達を受けた日から30日(第186条第5項により審判長が付加期間を定めた場合には、その期間をいう。)以内に、その特許出願の出願書に最初に添付された明細書または図面に記載された事項の範囲で、その特許出願の一部を新たな特許出願に分離することができる。この場合、新たな特許出願の請求範囲には次の各号のいずれかに該当する請求項のみを書くことができる。 1. その審判請求の対象となる特許拒絶決定で拒絶されない請求項 2. 拒絶された請求項で、その特許拒絶決定の基礎となった選択的記載事項を削除した請求項 3. 第1号または第2号による請求項を第47条第3項各号(同項第4号は除く。)のいずれかに該当するよう記した請求項 4. 第1号から第3号までのうち、いずれかの請求項で、その特許出願の出願書に最初に添付された明細書または図面に記載された事項の範囲を超えた部分を削除した請求項 ②第1項により、分離された特許出願(以下“分離出願”という。)に関しては、第52条第2項から第5項までの規定を準用する。この場合、“分割”は“分離”に、“分割出願”は“分離出願”とみなす。 ③分離出願をする場合には、第42条の2第1項後段または第42条の3第1項にかかわらず、特許出願書に最初に添付した明細書に請求範囲を記さなかったり、明細書および図面(図面のうち説明部分に限る。)を国語ではない言語で書くことができない。 ④分離出願は新たな分離出願、分割出願または「実用新案法」第10条による変更出願の基礎となれない。 |
関連記事:
「韓国における特許審判制度の大変化」(2022.01.06)
https://www.globalipdb.inpit.go.jp/laws/21339/
日本と韓国における特許分割出願に関する時期的要件の比較
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分割出願の時期的要件 | 1. 補正ができる時または期間 (i)出願から特許査定の謄本送達前(拒絶理由通知を受けた後を除く) (ii)審査官から拒絶理由通知を受けた場合の指定応答期間内 (iii)拒絶理由通知を受けた後第48条の7の規定による通知を受けた場合の指定応答期間内 (iv)拒絶査定不服審判請求と同時 2. 特許査定の謄本送達後30日以内(以下の(i)(ii)の特許査定を除く) (i)前置審査における特許査定 (ii)審決により、審査に付された場合における特許査定 3. 最初の拒絶査定の謄本送達後3か月以内 |
1. 特許法第47条第1項により補正をすることができる期間。 ※出願から特許決定の謄本の送達日の前まで(拒絶理由通知を受けた後は、拒絶理由通知による意見書提出期間または再審査を請求するときのみ) 2. 拒絶決定謄本の送達を受けた日から3か月以内 3. 特許査定謄本の送達日から3か月以内の期間であって設定登録を受けようとする日まで |
■ソース
・特許法https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=334AC0000000121
・韓国特許法(日本語訳)
https://www.choipat.com/menu31.php?id=14&category=0&keyword=
■本文書の作成者
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2022.08.08