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ロシアにおける商標出願の拒絶理由通知に対する対応策
2020年04月16日
■概要
商標出願に拒絶理由があると審査官が判断したときは、拒絶理由を出願人に通知し応答する機会が与えられる。これに対し、出願人は、意見書を提出し拒絶理由がない旨の反論をすることができるが、その他にも指定商品等の補正、先願商標権者や登録周知商標の所有者との交渉、先願商標権を消滅させるために不使用取消訴訟の提起等の対応をとることもできる。■詳細及び留意点
実体審査の結果、商標出願に拒絶理由があると審査官が判断したときは、直ちに拒絶査定をすることなく、拒絶理由を出願人に通知する。応答期間は拒絶理由の発送日から6か月である(ロシア民法第1499条第3項)。拒絶理由通知に対する対応策としては、以下のものがある。
(1)意見書の提出
(i)識別力を有しないとの拒絶理由の場合
出願商標が指定商品等の品質表示に過ぎないと認定されたが、当該認定は審査官の誤解によるものであって不適切なものである場合は、意見書にてその旨を主張する。
出願商標の一部に識別力がない部分が含まれている場合も拒絶理由が通知されるが、当該部分が当該出願商標の主要部分でなく、当該出願商標全体として識別力を有する場合は、当該部分について、権利不要求をするとともに、その旨を意見書にて主張することにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
また、識別力を有しないとの拒絶理由の場合、長年の使用により識別力を獲得したことの主張および立証を行うことにより、拒絶理由の克服を狙うこともできる(ロシア民法第1483条第1項)。
(ii)他人の先願登録商標と類似する、との拒絶理由の場合
他人の先願登録商標と類似する、と認定された場合は、称呼、観念および外観のいずれの点からも出願商標とは非類似である旨の反論を意見書で行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。
また、後述する指定商品・役務(以下、「指定商品等」という)の補正や不使用取消訴訟等により拒絶理由が解消した場合には、意見書にてその旨を主張する。
(iii)先行する商号・取引上の表示と類似する場合
この理由は職権審査の対象ではなく、第三者より情報提供された場合に限り、先行する商号・取引上の表示と類似する、との拒絶理由が通知される。商号は、ロシアで登記されている場合に限り保護され、取引上の表示に関する権利は、識別力がありロシアの特定の地域で使用され知られるようになった場合に発生し、1年間全く当該地域で使用されない場合は消滅する。したがって、引用された先行する商号がロシアでは未登記の場合や引用された取引上の表示が1年以上不使用の場合は、意見書にてその旨を主張することにより争うことができる。また、引用された先行する商号や取引上の表示が使用される商品等が指定商品と非類似の場合も意見書にて争い、拒絶理由の克服を試みることができる。
(2)指定商品等の補正
指定商品等の補正により拒絶理由を克服することもできる。例えば、指定商品等の一部のみが先願登録商標の指定商品等や先行する商号等を使用する商品等と類似する場合に、当該類似する指定商品等を削除することにより、拒絶理由を克服できる。
(3)商標出願の分割
拒絶理由のない指定商品等については、分割出願を行うことにより、早期に登録を受けるとともに、拒絶理由を有する指定商品等については、別途争うという対応を取ることもできる。
(4)先願商標権者または登録周知商標の所有者(以下、「先願商標権者等」という)との交渉
拒絶理由が先願登録商標または登録周知商標と類似することを根拠とする場合、先願商標権者等と交渉を行うことにより、拒絶理由の克服を試みることができる。交渉の内容としては、以下のものがある。
(i)商標登録を受けることについて、先願商標権者等の同意を受けるための交渉
交渉により後願の出願商標の登録を受けることについて先願商標権者等より同意を受けることができれば、拒絶理由を克服できる可能性がある(ロシア民法第1483条第6項)。ただし、先願商標権者等の同意に審査官は拘束されず、同意を受けて拒絶理由を解消させるか否かは審査官の裁量に委ねられているので、前記同意を受けたとしても、拒絶理由を克服できない場合もある。
また、先願登録商標と後願の出願商標が同一であって、かつ、先願の指定商品等と後願の指定商品等も同一の場合には、先願商標権者の同意を受けたとしても、拒絶理由を克服することはできない。
(ii)先願商標権を譲り受けるための交渉
上記交渉により、先願商標権を譲り受けることできれば、先願商標権者と後願の出願人が同一人となるため、拒絶理由を克服することができる。
先願商標権者等の交渉の結果、同意書を得ることができたとしても、これだけでは拒絶理由は解消せず、当該同意書を上記意見書とともに提出しなければならない。
同様に、先願商標権の譲り受けの交渉に成功した場合も、これだけでは拒絶理由は解消しない。譲渡契約は書面により締結していなければならず、登録しなければならない(ロシア民法第1234条および第1490条)。譲渡契約が書面によらない場合や登録されていない場合は、いずれも商標権の譲渡は無効である(ロシア民法第1234条第6項)ため、前記譲り受けの交渉が成功した場合は、譲渡契約書を作成の上、移転登録申請を行って移転登録をしなければならない。
(5)不使用取消訴訟の提起、無効審判の請求
拒絶理由が先願商標と類似することを根拠とする場合、当該先願商標の登録に対して不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求をし、当該商標登録を消滅させることにより拒絶理由の克服を試みることが可能である(ロシア民法第1483条第6項第2項、第1486条、第1512条)。
(6)留意事項
(i)上記のような先願商標権者等との交渉を行っている場合や不使用取消訴訟の提起や無効審判の請求を行っている場合であっても、応答期間経過後に審査手続が中止されないため、交渉成立や不使用取消訴訟の判決前に拒絶査定が出されてしまう可能性がある点に留意する必要がある。
(ii)先願商標権の放棄か譲渡を求める書簡を権利者に送付し、2か月以内に放棄申請の提出、譲渡契約の締結のいずれもされなかった場合に、前記2か月経過後30日以内に不使用取消訴訟が提起可能である点に留意が必要である。
(iii)無効審判の請求や不使用取消訴訟の提起をするためには、取消、無効にすることについて利害関係を有することを要するが、無効審判等の被請求登録商標を引例とした拒絶理由通知がされた、という事実のみでは「利害関係あり」とはいえない点に留意が必要である。例えば、ロシア以外の国で使用しており、ロシアで使用意図がある、といった事実があれば、利害関係を有すると認められる。
■ソース
・ロシア民法第4部https://www.jpo.go.jp/system/laws/gaikoku/document/mokuji/russia-minpou_no4.pdf ・模倣対策マニュアル ロシア編(2016年3月、日本貿易振興機構)
https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/mohohin/document/manual/russia01.pdf ・黒瀬雅志編著、伊藤武泰・谷口登・木本大介著『ロシア 知的財産制度と実務』(一般財団法人経済産業調査会、2013年)
■本文書の作成者
西村あさひ法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2019.08.15