- 新興国等知財情報データバンク 公式サイト - https://www.globalipdb.inpit.go.jp -
2017年05月25日
インド特許法に基づくプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査を取り巻く法律学は、2012年までは幾分不明瞭であった。同法は、こうしたクレームが認められ得るか、およびその可能性を判断するために評価されるべきパラメータに関して、まったく触れていなかった。したがって、こうしたクレームが特許可能であるか否かを断言することができなかった。こうしたクレームが認められ得るかは、完全に登録官(Controller)の裁量に委ねられており、これらクレームの審査アプローチは統一されていなかった。また、インド特許局の実務および手続の手引(Manual of Patent Office Practice and Procedure: MPPP)2011年版は、こうしたクレームの許容性および特許可能性を判断するために必要な検討事項について何らの指針も提供していなかった。
しかし、2012年、知的財産審判委員会(Intellectual Property Appellate Board: IPAB)は、2012年決定第200号において初めて、「プロダクト・バイ・プロセス」クレームの評価に際して考慮されるべき検討事項を明らかにした。同委員会により、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは「ある物を製造するために使用される方法(特別な工程)の観点において当該物を定義する」クレームであると確認された。こうしたクレームの基礎となる理論的根拠は、「物を製造するクレーム方法に言及すること以外に、当該物を定義しまたは先行技術から区別することができない状況」であると定められた。
最も重要な事として、以下の内容が知的財産審判委員会において示された:
「プロダクト・バイ・プロセス・クレームはまた、新規かつ非自明な物を定義しなければならず、その特許性は方法のみの新規性および非自明性によることはできない。したがって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性は、物自体に基づくものであり、生産方法には依らない。換言すると、プロダクト・バイ・プロセス・クレームが、先行技術の物と同一または先行技術の物から自明である場合、当該先行技術の物が異なる方法により製造されたものであったとしても、当該クレームは特許を受けることができない。よって、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、新規かつ非自明な物を定義しなければならず、そうしたクレームの特許性は、方法のみの新規性および非自明性によることはできない。」
1. インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査にかかる現行基準
IPABの前記決定は、インド特許局におけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査に拘束力のある影響を有する。上記に従い、2014年10月にインド特許局が発行した「医薬品分野の特許出願の審査ガイドライン」において、ある方法により得られるまたは生産される物に関するクレームは、当該物自体にかかる先行開示により新規性が失われることが示された。
したがって、実体審査において、インド特許局は「物同一説」を採用する。すなわち、物がどのように製造されたかにかかわらず、物自体が新規性および進歩性の要件を満たすか否かを評価して審査を行うことが現在は明確となっている。換言すると、発明の「要旨」が物自体の技術的長所または方法の工程に存在するか否かが確認される。発明の新規性および進歩性を有する要旨が方法の工程に存在すると確認された場合、出願人は、当該クレームを方法クレームへ補正する必要がある。
2. プロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈のためのその他検討事項
インド特許法第2条(1)(ja)の規定に基づく進歩性の条件を満たすためには、物自体が、先行技術の物と比較した場合に強化された技術的効果を発揮することが重要である。これは、インド特許法第2条(1)(ja)において、「『進歩性』とは、現存の知識と比較して技術的進歩を含みもしくは経済的意義を有するかまたは両者を有する発明の特徴であって、当該発明を当該技術の熟練者にとって自明でなくするものを意味する」と定義されているためである。よって、IPABの2012年決定第200号により確立された判例においては、物自体がその特徴に起因する何らの進歩的な技術的効果を確立していないため、当該プロダクト・バイ・プロセス・クレームは特許適格ではないと判断された。このことは、具体的には、以下の通り判示された:
「当委員会が扱っている事件は、出願人自身が、実施例2において、封入された薬の放出特性が、封入されていない薬と同じであると認めているため、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを特許適格とするものではない。」
3. プロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利行使
これまでのところ、インドの裁判所において、特許権侵害を扱う事件が公判段階まで進んだ事例は極めて少ない。インドにおいて、プロダクト・バイ・プロセスクレームに基づく特許に関してクレーム範囲の解釈および侵害の司法的検討が行われたことは、知る限りにおいて無い。しかし、指針となる判例のギャップを埋めていくために、インドの裁判所が下した判決は、特許法の様々な側面を評価するにあたり米国および英国の裁判所により確立された基準を比較論的に分析し、依拠し、採用してきた。例えば、上記のIPABの決定において、同委員会は、Atlantic Thermoplastics Corp vs Faytex Corp, 23 USPQ 2nd 1481 (Fed.Cir.1992)事件における米国連邦巡回区控訴裁判所の判決に依拠し、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの特許性を評価するために採用されるべき基準に至った。
物同一説に基づき評価された場合、方法「Y」により生産された製品「X」に関するクレームは、異なる方法「Z」により生産された侵害製品「X」に対して権利行使可能であると考えられる。しかし、物同一説に基づくプロダクト・バイ・プロセス・クレームの審査基準とは対照的に、こうしたクレームに対して同様の独占権を与えるアプローチについて、インドの裁判所はどちらかと言えば保守的であろうと考える。
後述する点を考慮すると、こうしたクレームについて認められる権利行使の範囲を確認するにあたり、裁判所は「製法限定説」に従う傾向が強いかもしれない。第一に、インドの裁判所は、クレームのすべての要素が侵害製品においてカバーされているか否かを確認することにより、クレーム解釈に際して、文言解釈の原則に大きく従ってきた。第二に、そしてより説得力のある理由として、「物同一説」に基づく権利行使が、実施可能な主題の範囲を超える保護範囲をクレームに与えるものと認識され得るということである。この見解は、Glivec事件の最高裁判決においても以下のとおり繰り返された(Novartis v Union of India & Ors)。
「……本国において、特許法は、あらゆる種類の物に関する物質特許を特許制度に導入した後も、依然として未熟であると言いたい。我々は、本国の法律が、特許に基づく保護範囲と開示との間に大きなギャップがあるような方向に発展していくことを明らかに望まない……。」
最後に、インド特許法第64条(2)(b)の規定は、クレームに記載の方法により外国で製造されたクレーム製品のインドへの輸入に基づく「先知識」または「先使用」を根拠とし、プロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する特許の無効を定めていることは指摘に値する。これら規定は、一見したところ、特許性判断基準と矛盾する。しかし、これらは、特許性、有効性および権利行使可能性を目的として、プロダクト・バイ・プロセス・クレームを評価するための特有の基準を採用する立法意図を正当化するものと理解することができる。
4. まとめ
インドにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利行使を取り巻く不確実性に照らして、絶対的な必要性がない限り、この形式でクレームを作成することを避けることが推奨される。こうした文言は、クレーム方法に言及することによる以外に物を定義できない、または先行技術から区別できない状況においてのみ使用するのが賢明である。プロダクト・バイ・プロセス・クレームに加えて、代替オプションとして、製法にかかる独立クレームも常に含めることが望ましい。しかし、高等裁判所による今後の判決が、インドにおけるこうしたクレームの権利行使を取り巻く法律学をさらに明確にすることが期待される。
Copyright National center for industrial property information and training (INPIT). All rights reserved.