欧州 / 法令等 | 出願実務
ロシアにおける第一国出願義務
2016年05月17日
■概要
ロシアでは、国家機密の保護を目的として、ロシア国内でなされた発明について、外国に特許出願する前に、ロシア特許庁に出願することが義務付けられている(いわゆる第一国出願義務)。ロシア特許庁への出願後、国家機密に分類される旨の通知をロシア特許庁から受領しないかぎり、出願人はロシア国内でなされた発明についてロシア国外で特許出願することができる。ロシア特許庁を受理官庁とする国際特許出願(PCT出願)も、第一国出願義務を果たすものとされる。■詳細及び留意点
【詳細】
ロシア連邦民法には、国家機密の保護を目的として、ロシア国内で生まれた発明に関する規定が設けられている。
(ロシア連邦民法第1395条)
ロシア国内で開発された発明は、ロシア特許庁に最初に特許出願され、かつ、ロシア特許庁が国家機密に関するとして外国出願を禁止しない場合に限り、外国特許庁への特許出願が許される。
ロシア特許庁は特許出願について安全保障確認を行う。発明が国家機密に分類される場合、ロシア特許庁は、ロシア出願日から6か月以内に出願人に発明が国家機密に分類される旨を通知する(ロシア連邦民法第1395条)。発明が国家機密に分類された場合、特許出願は秘密発明出願として、特別に取り扱われる(ロシア連邦民法第1401条)。発明が国家機密に分類される旨の通知がないかぎり、出願人はロシア国外で特許出願を行うことができる。なお、ロシア出願から国家機密に分類される旨の通知が届く期限である6か月経過する前は、外国特許庁への特許出願することの許可を、ロシア出願の際にロシア特許庁に求めることもできる。
出願人がロシア国民、ロシア法人(日本企業の現地法人を含む)である場合にのみ、特許出願に係る発明が国家機密に分類され得る。ロシア国外の個人または法人によって出願された特許出願に係る発明は、国家機密に分類されない(ロシア連邦民法第1401条)。
一方、第一国出願義務は、出願人の住所や国籍を問わず、ロシア国内でなされたすべての発明に適用される。発明がロシア国内でなされたのか否かが不明な場合、最終的には、裁判所が判断することになる。第一国出願義務に違反した場合、行政処罰が科される可能性がある。出願人が法人の場合、80,000ルーブル以下の罰金が科される。なお、第一国出願義務への違反は現実には発覚しにくく、(筆者が知る限り)第一国出願義務違反に関する実際の判例は存在していない。
ロシア特許庁を受理官庁とするPCT出願によっても、第一国出願義務を果たしたものとされる。ロシア特許庁を受理官庁とするPCT出願では、欧州特許庁(EPO)を国際調査機関として選択することができる。EPOを国際調査機関とする場合、英語でのPCT出願が可能である。第一国出願義務を果たすために、ロシア語翻訳を提出したり、対応ロシア出願を出願する必要はない。PCT出願から6か月以内に、受理官庁としてのロシア特許庁は、国際事務局と国際調査機関(EPO)へ、明細書など出願書類のコピーを送付する。
出願書類のコピーを、受理官庁(ロシア特許庁)が国際事務局と国際調査機関(EPO)へと迅速に送付することを望む場合、出願人は、安全保障確認の早期実行をロシア特許庁に求めることができる。安全保障確認の早期実行のために、出願人は、出願書類のロシア語翻訳と、「出願は国家機密に関連する如何なる情報も含んでいない」という宣誓書と、をロシア特許庁に提出する。この宣誓書には、出願人とすべての発明者とが署名する。
■ソース
ロシア連邦民法■本文書の作成者
PAPULA-NEVINPAT(フィンランドを本拠とし、ロシア他ユーラシア各国に支所を有する法律事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2016.2.13