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オーストラリアにおける従業者発明の管理

2016年04月27日

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■概要
1990年オーストラリア特許法では、従業者が行った発明に対する従業者の権利について明示的に定めていない。しかしながら、使用者が従業者発明(職務発明等を含む従業者による発明)の譲渡を受ける資格を有することを示すことにより、使用者側への権利帰属を容易にする規定が特許法には存在する。雇用契約に発明の譲渡や権利の帰属について明示的な規定がない場合、使用者が従業者の発明に対して権利を有するか否かは、契約法や両者間の信認関係の有無に基づいて裁判所が判断することになる。したがって、従業者の発明をより確実に使用者に帰属させるには、雇用契約の中に適切な条項を含めることが重要となる。
■詳細及び留意点

【詳細】

従業者による発明が従業者に帰属するか否かについて、オーストラリア特許法は明確とはいえない。雇用契約により、使用者が従業者の創作した著作物の所有者となる著作権については1968年著作権法第36条6項に定めがあり明確であるが、発明に対する権利帰属の問題については明確ではない。

 

  1. 1990年特許法

オーストラリアの特許法(1990年特許法)には、従業者が行った発明に対する従業者の権利を明示的に定めている条項はない。ただし、特許法第15条1項(b)は、「発明に係わる特許が付与された場合に、その特許を自己に譲渡させる権原を有する者」は特許を受けることができる、と定めている。すなわち使用者が従業者発明に基づく特許の譲渡を受ける資格を示すことができれば、第15条1項(b)を援用して、特許を受けることが可能になるといえる。ここで、使用者が特許の譲渡を受ける資格を有するか否かについては、制定法ではなくコモンロー(慣習法・判例法)に基づいて判断される。

 

  1. コモンロー概要

コモンローの下では、雇用関係の存在のみを理由として、従業者から使用者への発明譲渡を義務づけるような一般原則はない(Victoria University of Technology v Wilson 事件(2004) 60 IPR 392 at [104]参照) 。これには、当該発明が使用者の利益となる場合であっても、使用者の時間と資源が発明開発の際に使用されていた場合であっても、譲渡を義務づけるような原則はない(University of Western Australia v Gray 事件[2009] FCAFC 116 at [150]参照)。特定のケースにおいて、使用者が従業者の発明の譲渡を受ける資格を有するか否かは、契約法に基づく権利、またはこれに類する原則に基づく権利があるかどうかに依存する。

 

  1. 契約法に基づき特許譲渡を受ける資格

使用者と従業者との間の契約(通常は雇用契約だが、必ずしも雇用契約に限定されない)の条項が従業者発明の譲渡について明示的に定めていることを理由に、契約法の下で従業者の発明の譲渡を受ける資格が認められる可能性がある。

雇用契約の中で、従業者発明について定める条項がない場合であっても、従業者発明の譲渡を受ける黙示の権利が使用者に認められる場合がある。当該発明が、雇用に際し従業員に求められた作業の成果物である場合、かかる発明を使用者に譲渡することを要求する黙示の契約条件の存在が認められうる(University of Western Australia v Gray事件 [2009] FCAFC 116 at [150]参照) 。ここにおいて、従業者のなした発明が使用者に帰属すべきか否か決める重要ポイントは、当該従業者が何を目的として雇われたかということになる。

したがって、雇用契約に使用者帰属を否定する明示的な規定がない限り、以下のことがいえる。

・当該発明が、雇用に際し従業者に求められた作業の成果物である場合(たとえば、新製品の開発のために従業者が雇われている場合)、その発明は使用者側に帰属する。

・従業者が自らの発明能力を使用するために雇われているのではない場合(たとえば、従業者が倉庫管理人の場合)、使用者は当該従業者の発明に対する権利をもたない。

ときには、特定の発明が従業者に求められた職務の産物といえるか否かの判定が困難な場合がある。たとえば、従業者が通常は発明能力を求められていないが、特定の仕事に対してその能力を要求された場合には、発明がその特定の仕事から派生したのかがポイントとなる(Spencer Industries Pty Ltd v Collins事件 (2003) 58 IPR 425参照)。さらに、発明者の職務範囲が雇用期間中に変更した場合にも問題が生じる可能性もある。

 

  1. 信認に関する法に基づき特許譲渡を受ける資格

雇用における特定の状況により、使用者と従業者の間に信認関係(fiduciary relationship)が生じる場合がある。信認関係とは、二者間で信用と信頼が発生するような特定の状況において、一方の者が他方のために、または他方に代わり、特定の行為を引き受ける関係をいう(Bristol and West Building Society v Mothew事件 [1996] EWCA civ 533参照)。

特定の従業者が使用者と信認関係にあるか否かは、個々の事実関係によるが、一般に雇用期間の長い従業者や上級職の従業者の方が、雇用期間の短い従業者や下級職の従業者よりも信認義務を負う可能性が高くなる。

従業者が使用者に対して信認義務を負う場合には、従業者は自らの発明に対する権利を使用者に譲渡することになる。

 

  1. 従業者発明の管理

一般に、従業者が使用者に発明を譲渡する義務があるか否かを判断するのは困難なため、使用者は、従業者発明について定めた条項を雇用契約に含めるか、別途、発明の譲渡に関する契約を締結すべきである。いずれの契約形態をとるにせよ、以下の条件を盛り込むのがよい。

・譲渡対象となる権利はオーストラリア国内にとどまらず、他国での権利も含めること

・従業者によるアイデアの開示、適切な記録作成、その他使用者による特許取得を確保するための支援を従業者に義務図けること

・従業者による他者への発明情報開示の制限

他に、特許発明の保護に関連して、不当な取引制限となるような契約条項を盛り込まないことが重要である。オーストラリアの法律では、使用者とその事業の適切な保護のために必要な範囲を超えて、従業者の行為を制限する契約は、不当な取引制限として無効にされる。

従業者が雇用期間中に得た知識を自分自身のため、もしくは転職後の使用者のために使用することを禁ずる契約条項、あるいは研究プロジェクトに関連する情報というだけの理由で、機密情報以外の情報もすべて使用を禁ずるような契約条項は、不当な取引制限に該当するといえる。

また、それぞれの従業者が従事する職務の性質によって、契約内容を変えることが重要である。たとえば倉庫管理人のような職務の従業者に対しても、区別なく同一条項を適用することは適切でない。一方、従業者の職務内容が変わり、たとえば、これまで関わっていなかった製品開発に従事するようになった場合には、雇用契約を改定し、発明取扱い条項を含めるべきである。

■ソース
オーストラリア著作権法第36条6項
オーストラリア特許法第15条1項(b)
Bristol and West Building Society v Mothew [1996] EWCA Civ 533
Spencer Industries Pty Ltd v Collins (2003) 58 IPR 425
University of Western Australia v Gray [2009] FCAFC 116
Victoria University of Technology v Wilson (2004) 60 IPR 392
■本文書の作成者
Spruson & Ferguson Pty Limited
■協力
日本技術貿易株式会社
■本文書の作成時期
2015.12.7
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