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ベトナムにおける冒認商標出願への対抗手段
2015年03月31日
■概要
ベトナムでは、2005年知的財産法により、商標出願に対する異議申立制度が導入され、商標出願の公開から商標登録証書の付与決定日までの間、第三者は異議申立を請求することができる。異議申立手続は、商標審査を補完すると共に、商標の冒認出願に対抗する有効な行政手段となっている。ただし、時間と費用を要する場合もあるため、警告状の送付や商標権(出願)の譲渡交渉を行うことを検討することもできる。■詳細及び留意点
【詳細】
ベトナムでは、2005年知的財産法により、商標出願に対する異議申立制度が導入公布された。異議申立手続は、商標審査を補完すると共に、増加する商標の冒認出願に対抗する有効な行政手段となっている。
商標登録証書の付与に対する異議申立請求は、ベトナム国家知的財産庁(National Office of Intellectual Property of Vietnam : NOIP)に直接提出することができ、異議対象の商標出願の審査と合わせて、その審査中にNOIPにより処理される。
○異議申立を請求する権利
知的財産法第112条に従い、あらゆる第三者はNOIPに異議申立を請求する権利を有する。異議申立請求は書面で提出しなければならず、添付された証拠資料の情報源を明記しなければならない。
○異議申立理由
ベトナムの商標規則は、異議申立手続について規定しているが、異議申立の理由については具体的に定めていない。しかし、運用上および実務上の観点から、異議申立理由は下記のように要約される。
(1)当該出願商標が、当該出願意匠よりも早い優先日を有する先行登録商標と混同を生じるほど類似している。
(2)悪意の出願(出願人は当該出願を行う「権利」がない、または他者に帰属する同一または類似の商標に気づいていた、もしくは気づいていたはずである)。
(3)当該出願商標が、国際的に有名な、または名声のある未登録商標と混同を生じるほど類似している。
(4)当該出願商標が、既に使用されている他者の商標と同一または類似であり、当該商標が使用されると、商品またはサービスの出所に関して消費者に混同を生じる可能性がある。
(5)当該出願商標が、識別性を欠いている。
第三者は異議申立において、上記の一つまたはそれ以上の理由を主張することができる。
○異議申立請求期限
ベトナム国内商標出願またはマドリッドプロトコル協定議定書に基づく国際商標に対する異議申立は、知的財産法第112条に基づき、商標出願が産業財産公報に公開された日から、商標登録証書の付与決定日までに、NOIPに請求しなければならない。したがって異議申立請求は、商標出願の実体審査中にNOIPにより検討される。商標登録証書の付与決定日より後に提出された異議申立請求は、受理されない。
ベトナム商標制度に従い、国内商標出願は、その公開日から9ヶ月以内にNOIPにより実体審査が行われる。ただし、実務上、出願人は所定の9ヶ月より早期の審査を請求することができる。そのため、異議申立は、商標出願の公開日からできる限り早く請求すべきである。
下記の図は、ベトナムにおける国内商標出願に対する異議申立期間を示すものである。
ベトナムの商標規則は、ベトナムを指定したマドリッド国際商標登録に対する異議申立期限を定めていない。しかし、実務上、商標の実体審査中に異議申立を検討するという原則、および2007年2月14日付の科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号第41条に定められた国際商標登録の審査規則に基づき、国際商標登録に対する異議申立は、WIPOの通報日から12ヶ月以内にNOIPに請求されなければならない
○異議申立の種
ベトナムの商標規則は、異議申立の種類について規定していない。しかし、実務上、第三者は、異議申立を請求し、出願商標の一部の登録、指定商品または役務の一部の登録、または全ての指定商品または役務に関する出願商標全体の登録を拒絶するようNOIPに請求することが認められている。したがって、部分的異議申立であれるか全体的異議申立であるかを問わず、全ての異議申立が、同じ商標審査原則に基づいて考慮されるものと考えられる。
○代理人の指名と委任状
知的財産法第89条に基づき、(i)ベトナム国外の者が、NOIPに直接、異議申立を請求することは認められないため、異議申立の請求手続をベトナムにおける代理人に委任しなければならず、(ii)ベトナムの団体や個人、ベトナムに永住する外国人および生産または営業拠点を有する外国の企業や個人は、NOIPに直接、異議申立を請求することができる。ただし、これらの者も異議申立請求の手続をベトナムにおける代理人に委任する場合もあるが、その際には、異議申立の請求時に、委任状の原本を添付しなければならない。
ベトナムの実務上、異議申立の請求時には委任状のコピーでも受理されるが、委任状の原本を後に提出する際に、NOIPは追加の公定料金を徴収する。また、委任状の原本が提出され、全ての方式要件が満たされるまで、NOIPは異議申立を考慮しない。
○異議申立手続のフロー
2007年2月14日付け科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号第41条に従い、NOIPは、第三者からの異議申立請求を受領後1ヶ月以内に、当該請求を出願人に通知し、当該通知日から1ヶ月以内に書面で意見を提出するよう出願人に要求する。出願人の意見を受領後、必要に応じて、NOIPは当該意見を当該第三者に通知し、当該通知日から1ヶ月以内に書面で応答するよう当該第三者に要求する。NOIPは、出願人および当該第三者により提出された証拠および意見書ならびに当該出願に含まれる書類に基づいて、両者の意見を考慮する。
第三者の意見に根拠がないと判断した場合、NOIPは当該意見を出願人に通知する必要はないが、当該第三者に対しては、当該意見に対する拒絶およびその理由を通知しなければならない。
第三者の意見が登録商標に関するものであって、NOIPが当該意見の是非を判断できないと認める場合には、その旨を当該第三者に通知し、当該第三者は裁判所に審理を求める申立を提出することができる。NOIPが当該通知を発行してから1ヶ月以内に、当該第三者が審理を求める申立を裁判所に提出したことをNOIPに届け出ない場合、NOIPは当該第三者が異議申立請求を取り下げたものとみなす。当該第三者が上記期間内にNOIPに届け出た場合、NOIPは、裁判所による紛争解決の結果が出されるまで、当該出願の手続を保留する。裁判所による紛争解決の結果が出された後、その結果に従い異議申立手続が再開される。
必要な場合および双方の当事者が要求する場合は、NOIPは、異議申立により提起された問題をより明確にするため当該第三者と出願人との当事者同士の面接協議を設定する。第三者の異議申立に対する応答のために出願人に設定した期間は、NOIPが規則に従い関連手続を遂行するために出願人に与える他の応答期間の算出に含めてはならない。
異議申立の処理手順は、上記のように具体的に規定されているものの、NOIPは非常に多くの業務を抱えているために異議申立の審理期間が延長されたり、異議申立が実体審査の中で同時に考慮されたりする場合もある。
さらに、異議申立を処理する手順が、NOIPの商標部門ごとに異なる面もある。NOIPには、商標出願の審査および異議申立の処理を担当する、第一部門と第二部門の二つの商標部門がある。科学技術省省令第01/2007/TT-BKHCN号第41条の規定に基づき、第一および第二商標部門は、事例ごとに異なる手順で検討することが認められている。例えば、第一商標部門は、異議申立請求を受領後1~3ヶ月以内に出願人に通知することが多いが、第二商標部門は、実体審査の最終段階で異議申立請求を出願人に通知することが多い。
上記のように検討手順が異なってはいるものの、異議申立手続は常に、商標出願の実体審査の終了前に完了されている。したがって、NOIPは異議申立を承認または拒絶する通知を発行し、この通知は異議申立の結果とみなされる。
第三者にとって不利な決定が下された場合、当該第三者は、科学技術省省令第01/2007/TT-BKHCN号第16条に定められた規定を適用し、審理をやり直すべき新たな事情が明らかになった場合には、商標出願の再審査をNOIPに請求することができる。再審査の手続は、異議申立手続の延長手続とみなすことができる。
○その他の対抗手段
異議申立手続は、冒認商標出願の登録に対抗する上で極めて有効であるが、時間と費用を要する場合もある。そのため、第三者は異議申立の請求を決定する前に、冒認商標出願に対抗する上で有効な、下記の手段を検討することもできる。
(1)警告
現行規則には第三者と出願人との交渉を禁じる規定はない。そのため、異議申立の請求を決める前に、出願人との友好的な交渉を通じて、冒認商標出願を取り下げるよう出願人に要請することが望ましい。あるいは、商標出願を取り下げ、冒認商標または混同を生じるほど類似の他のあらゆる商標の使用を中止するよう求める警告状を出願人に送付することも考えられる。
(2)商標出願の譲渡
第三者は商標権を保護し、ベトナムにおける以後の侵害を防止するために、出願人に商標出願の譲渡を要求することもできる。この措置が成功するかどうかは、交渉および出願人が要求する支払いにかかっている。両者がこの措置について合意する場合、かかる譲渡をNOIPに登録する必要があり、当該第三者はその商標出願の新しい出願人になる。
【留意事項】
(1)あらゆる模倣商標を発見し、それらに対して異議申立やその他必要な手段を講じる必要がある。商標の模倣はますます増加し、深刻度を増しており、合法的な商標所有者の財務と名声の双方に損害を及ぼしている。異議申立請求の機会を逸したために、模倣商標の一つが登録された場合、第三者にとって商標登録の取消を要求するのは極めて難しく、不利な状況となる。
(2)未登録の著名商標が模倣された場合、その著名性を証明する十分な裏づけ資料を準備しなければならない。未登録の著名商標はベトナムで保護されており、模倣商標の類似性や同一性を根拠に異議申立を提起することができる。しかし、全ての商標審査官が全ての著名商標を認識しているわけではない。そのため多くの大企業にとっても異議申立手続における著名商標の立証は大きな負担となる。このような場合、著名商標および出願人の悪意を立証するために多くの裏づけ資料や証拠が必要となる。
(3)商標の使用実態に注意を払うべきである。なぜなら多くの個人や団体が登録商標を模倣する商標出願した上で、知的財産法第95条に規定される商標の不使用を根拠とする登録商標の無効請求を提出するからである。そのため、異議申立を請求する前に、商標の使用を確認することが望ましい。
■ソース
・ベトナム知的財産法・政令第103/2006/ND-CP(2006年9月22日)
・科学技術省・省令第01/2007/TT-BKHCN号(2007年2月14日付)
■本文書の作成者
Ageless IP Attorneys and Consultants、Nguyen Thi Hai Van■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.02.03