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インドにおけるトレードドレスに基づく権利行使

2015年03月31日

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■概要
インドにおけるトレードドレスの保護については、制定法こそ存在しないものの、裁判所がその重要性を繰り返し支持し、その概念は十分に認識され、根付いている。トレードドレスの構成要素の一部は「商標」として保護を求めることが可能だが、包装、ラベルあるいはトレードドレスを美術・芸術作品(アートワーク)として主張することが可能な場合、トレードドレス所有者は、著作権侵害訴訟を提起することも選択肢となる。また、2000年意匠法および2002年競争法に基づく権利行使や、コモンロー(慣習法)上の詐称通用を主張することも考えられる。
■詳細及び留意点

【詳細】

 トレードドレスという用語は、単なる製品の包装を意味するものではなく、製品の「全体的なイメージ」または「全体的な外観」として広く認識されており、以下のような特徴が含まれる。

 

・サイズ

・形状

・色

・色の組合せ

・材質感

・図画

・販売手法

 

 消費者が店に入り、同じような外観を持つ製品が並んだ陳列棚を見たとき、消費者は、製品のトレードドレスにより、ある製品を別の製品と識別し、お気に入りのブランド製品を手にする。トレードドレスの範囲は、リモコンのボタンのデザインといったものから、レストランの装飾品の配置(レイアウト)といった抽象的なものにまで及ぶ。

 

 トレードドレスの概念は米国に端を発するが、不正競争を禁止するコモンロー(慣習法)にも起源を有している。1999年インド商標法(以下、「商標法」とする。)において、商品の形状、包装、色の組合せまたはそれら同士の組合せは、第2条(m)に基づく「標章(mark)」の定義に含まれる。さらに、「包装(package)」という用語は、商標法第2条(q)において、ケース、箱、容器、貯蔵器、器、小箱、びん、包紙、ラベル、帯、下げ札、リール、枠、カプセル、さや、ふた、栓及びコルクを含むものと定義されている。従って、インドにおける商標の定義は、トレードドレスの構成要素として必須の要素を多く含んでいるといえる。商標法はトレードドレスについて具体的に言及してはいないものの、トレードドレスの構成要素の一部は商標法に基づき「商標」として保護を求めることができる。

 

 トレードドレスが商標と同様の保護を受けるためには、先天的識別性を有しているか、後天的識別性を獲得していなければならない。トレードドレスが一般的なものであれば、保護を受けることはできない。さらに、トレードドレスは、製品の機能的部分であってはならない。対象となるトレードドレスを構成する形状、デザイン、色彩または材質の配置は、消費者に認識させる以外の有用性や機能に資するものであってはならない。

 

 トレードドレスに該当する特徴がインドで商標として登録された場合、商標権侵害訴訟を提起することにより、不正な使用から保護することが可能になる。トレードドレスに具体的に言及するインドの制定法はないが、トレードドレス保護の方法は他にもいくつか考えられる。包装、ラベルあるいはトレードドレスを美術・芸術作品(アートワーク)として主張することが可能ならば、トレードドレス所有者は、著作権侵害訴訟を提起することもできる。また、2000年意匠法および2002年競争法に基づく訴えを起こすことも可能である。さらに、コモンローに基づく詐称通用(パッシングオフ)の訴訟によっても救済を求めることができる。詐称通用訴訟は、トレードドレスに帰属する営業権(のれん)または名声、当該トレードドレスの不正使用により生じるおそれのある欺瞞または誤認混同、そしてこれに起因する損害に基づき提起される。

 

 過去の判例においては、インドの裁判官は、文字要素が単独で、またはラベル中の図画と組み合わせて模倣された場合のみ、トレードドレスが侵害されたものとみなしてきた。しかし近年、トレードドレスに関する詐称通用訴訟を取り扱う上で、判断に大きな変化がみられる。1996年に判決が出されたKellogg Co. v. Kumar Badabhai事件((1996年)1 Arb LR 430 Del)では、誤認混同を招く要因として、ライバル企業が用いた色の組合せによる類似性よりも、問題の文字商標の差異が重要であるとの判断に基づくものであった。しかし、2003年のColgate事件(Colgate Palmolive Co. v. Anchor Health & Beauty Care Pvt. Ltd.(2003 (2) PTC 478 Del)では、ライバル企業の商標自体は識別性を有していたにもかかわらず、デリー高等裁判所が類似する「赤と白」の色の組合せのみを理由として差止め命令を下し、画期的な判決となった。

 

その後もColgate事件を判例として踏襲する判決がなされており、以下にいくつかの判決を紹介する。

 

 Kangaro Industries Ltd. v. Evershine STY事件(CS(OS) No. 1205/2007)では、オフィス機器および文具大手のKangaro Industries Limitedは、同社独自の組み合わせ、レイアウトおよび青色と灰色の色の組合せをEvershine STYが模倣し、「Frog」の商標で販売しているとしてデリー高等裁判所に提訴した。「Kangaro(カンガルー)」と「Frog(カエル)」の文言上の差異にもかかわらず、高等裁判所はEvershine STYとその販売代理店に対し、原告側から侵害が主張されたラベル、キャラクターおよび包装資材等のトレードドレスに関して使用差止め命令を下した。

 

 Cadbury India Limited and Ors. v. Neeraj Food Product事件(2007年 (35) PTC 95 Del)では、デリー高等裁判所は、被告の使用する「JAMES」および「JAMES BOND」商標が視覚的にも発音的にも、イギリスの菓子・飲料メーカーである原告のCadbury社登録商標「GEMS」に類似していると判示した。さらに、裁判所は、Neeraj Foodが使用している包装がCadbury社の包装に類似しているとし、Neeraj Foodによる同商標の使用およびCadbury社の包装に類似する包装の使用を禁止した。

 

 Gorbatschow Wodka KG v. John Distilleries Limited事件(2011 (47) PTC 100)は、ビンの形状に関するトレードドレスをめぐる訴訟である。商品およびその包装を商標として登録することが可能であること、被告を除き、国内外を問わず他のいかなる製造業者も原告のビンの形状を採用していなかったこと、さらに、被告には、原告のビンと著しく類似する形状のビンを採用する善意の説明がなかったことから、ボンベイ高等裁判所は、被告が原告のビンと類似する形状の使用を禁止した。

 

 上記の判例等から、トレードドレスの概念がインドにおいて認識されていることがわかる。実際に、この10年ほどの間、インドでは法制度の整備により知的財産権保護の範囲が拡大されてきた。これは主に、インドがTRIPS協定を順守し、判例を積み重ね、技術的進歩を遂げたことによる。トレードドレスの概念もこれと並行して大きく広がった。このことは重要な意味を持つ。なお、インドにおいては、全体として識字率が未だ低い状態であり、国民のかなり多くの部分がラベルを判読できないことから、識別のための指標として全体的な包装が重要な役割を果たしている点に留意する必要がある。

■本文書の作成者
Remfry & Sagar
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期

2015.02.10

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