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インドにおける新たな知的財産権関連問題
2015年03月31日
■概要
インドは近年、新たな知的財産権の枠組みに向けた動きを加速化している。その背景には、技術進歩と、国と国とのボーダーレス化が進展する中、インドでも新たな知的財産権問題が表面化しつつあるという事情がある。本稿では、インド市場に参入する前に理解、検討しておくべき、インドの最新知的財産制度と最近の知的財産関連問題について整理する。■詳細及び留意点
【詳細】
(1)インドにおける知的財産権
(i)商標
インドは「先登録主義」ではなく「先使用主義」の国である。つまり先使用者の方が強い権利を持ち、標章を先に採用し使用した者が、登録の有無にかかわらず強い権利をもつ。また、インドにおいて使用も登録もされていない場合でも、広く知られ、国境を越えた名声を有する周知商標の保護を認めている。
(ii)著作権
著作権とは「著作物」の創作者に与えられる保護であり、文芸著作物、演劇著作物、音楽著作物、美術著作物などが含まれる。著作権登録は義務ではなく、著作権は創作の時点で自動的に発生する。
(iii)特許
インドにおける特許権は本質的に属地的なもので、インドで取得された特許を外国で権利行使することはできないし、外国で取得された特許をインドで権利行使することもできない。インドはパリ条約の加盟国であり、特許協力条約(PCT)の締約国でもある。
(iv)意匠
意匠の国際登録に関するハーグ協定では、工業意匠権者がWIPO国際事務局に出願すると、複数の国で意匠保護を得ることができるが、インドは同協定に未加盟である。
(2)市場参入計画
企業はインド市場への参入に際して、以下の措置を講じることにより、自社の権利の保護を図ることができる。
・インド特許庁で該当する分類と補助分類を使用した他者権利調査を実施する。
・自社の知的財産権に対する第三者の使用の内容と程度を調べるため、コモンロー上の調査を行う。これにはインターネット調査、市場調査、ドメイン名調査が含まれる。
・知的財産が使用可能となった時点で、直ちに登録出願を行う。
・モニタリングサービスを利用して、公開された知的財産権や、混同を生じるほど類似した標章、記述的な商標等を監視する。
・商標については、関連商標がインドでの使用を通じて「のれん」や評判を獲得している場合、インドで商標出願を行うと同時に、プレスリリースや警告表示、広告を行うことにより、当該企業がインド市場に参入することを関連公衆に告知するとともに、その商標を第三者による侵害から保護する。
・ドメイン名の不法占拠(サイバースクワッティング)に対処するため、商標からなるドメイン名の登録を最優先に行う。
・著作権と特許に関しては、権利者は第三者と発明や創作的な著作物を共有する前に、契約締結を検討すべきである。これには秘密保持契約をはじめ、創作的または革新的作品の所有者と受領側当事者の関係や両当事者の権利義務、知的財産権の帰属、譲渡される具体的な作品と権利、譲渡やライセンスの有効期間や地理的範囲等を明確にした契約が含まれる。
・侵害や詐称通用(パッシングオフ)が生じた場合、知的財産権の保護措置を直ちに講じる。その手段としては、異議申立や取消請求、調査、警告状の送付、民事訴訟や刑事訴訟の提起などがある。
・商標については不使用取消審判請求を避けるため、商取引上の使用をする必要がある。
(3)インドにおける最近の知的財産権関連問題
(i)ソーシャルメディアと知的財産権関連問題
知的財産権者は世界的にブランドを宣伝するためにソーシャルメディアを幅広く使用していることも多い。ソーシャルメディアはブランドを宣伝するための実効性の高い選択肢を提供するが、その一方でブランド侵害を招きやすい。しかも商標法は、権利保護について属地主義を取っているため、ソーシャルメディアにおける知的財産権侵害が悪化するリスクがある。
2000年情報技術法第2条(w)は、ある特定の電子メッセージに関する「仲介者(intermediary)」とは、他人を代理してメッセージを受信し、蓄積し、送信する者、またはかかるメッセージに関するサービス提供する者と定めている。
さらに2011年情報技術(仲介者ガイドライン)規則の規則3は、インターネット上の知的財産権保護を定めており、仲介者によるコンピュータへのアクセスと利用について、仲介者は関連ルール、個人情報取り扱いルール、およびユーザー合意を発行するよう定めており、かかるルールやユーザー合意は、コンピュータリソースのユーザーに対し、特許権、商標権、著作権、その他の権利を侵害する情報を掲載し、表示し、アップロードし、修正し、公表し、送信し、更新し、共有してはならないとユーザーに告知するよう定めている。
(ii)eコマースと知的財産権関連問題
インドではeコマース(電子商取引)も目覚しい成長を遂げている。そうした成長に伴い、eコマースにおけるアドワーズ(クリック課金広告サービス)、メタタグ(検索サイトでの検索結果順位を決める材料のひとつになっているタグ情報)、ハイパーリンク、ディープリンク(ホームページのトップではないページへのリンク)、フレーミング(インターネット上での誹謗中傷)といった知的財産権侵害や不正競争に関する問題も深刻さを増している。
People Interactive (I) Pvt. Ltd. v. Gaurav Jerry & Ors事件では、「Shaadi.com」という標章の下でオンラインの出会い・婚活サービスを提供する原告が、被告に対する暫定差止命令を求めて提訴した。被告が原告と類似するサービスを提供するポータルサイト「ShaadiHiShaadi.com」を立ち上げたことにより損害を被り、また、被告が登録商標を使用しているのみでなく、メタタグを使用していると原告は主張した。
裁判所は、メタタグの重要性を認めた上で差止命令を認め、以下の通り述べている。
「メタタグはウェブページに埋めこまれた特別なコードであり、特別な種類のタグである。ページの表示には何ら影響を与えないが、ウェブページの著者、アップデートの頻度、コンテンツの概要、キーワード、著作権表示等の追加情報を提供する。検索エンジンと検索エンジンのロボットはメタタグを日常的に使用して、ウェブページのコンテンツその他の関連情報を評価して、検索エンジンのインデックスを構築している。よって、メタタグの不正使用は重大な損害をもたらす可能性がある。」
(iii)その他の知的財産権関連問題
インドは8つの国と海に面しており、国境線が長い独特な地理的特徴を有するため、模倣品や密輸品が流入しやすい。
インド政府は2007年に、「2007年知的財産権(輸入品)執行規則」を発表した。これは水際で知的財産権を保護するための法的および行政的ガイドラインを強化することを目的とするものであり、知的財産権者が自らの知的財産権を税関に登録するための手続きを詳細に定めている。
税関登録がされると、税関は、知的財産権者以外の者または知的財産権者の許可や承諾を受けていない者が、インドで登録され有効に存続する知的財産権を侵害する、または侵害するおそれがある物品を差し押さえ、押収し、没収する権限が与えられる。
○まとめ
インドにおける知的財産権の保護は、国際基準との調和が進んでいる。インド政府が国家知的財産権政策を策定するため設置したIPRシンクタンク(IPR Think Tank)は、知的財産に関する最新動向を政府に報告し、定期的に報告書を作成している。また、現行の知的財産法令の問題点を調査、検討し、政府に解決策等を提案している。
■ソース
・インド特許法・インド商標法
・インド意匠法
・インド著作権法
・インド情報技術法
・インド2007年知的財産権(輸入品)執行規則
■本文書の作成者
S. S. Rana & Co.■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.13