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台湾実務における特許請求の範囲の解釈に関する最新判例

2015年03月31日

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■概要
台湾専利法第58条第4項では「発明特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈時には、明細書および図面を参酌することができる。」と規定されている。それにもかかわらず特許請求の範囲の解釈時に明細書および図面の記載を参酌できるのか否か、実務上長年にわたり論争となっていた。最近、台湾知的財産裁判所は特許請求の範囲の解釈において、明細書および図面の内容を解釈の依拠として用いる傾向が強い。こうした実務上の見解の変化に対しては、無効審判請求等を行う際に、特に注意を払う必要がある。
■詳細及び留意点

【詳細】

事件の概要

 係争専利は発明特許であり発明の名称が「微型混合器」である。出願人(原告)である「国立成功大学(以下、「成功大学」)は知的財産局へ発明特許出願を行ったが、進歩性を有しないと判断され、拒絶査定を受けた。「成功大学」は經濟部訴願審議委員會(経済部訴願審議委員会 以下、「訴願審議委員会」)へ不服申立を行うも棄却されたため、知的財産裁判所へ行政訴訟(審決取消訴訟)を提起した。

 

 知的財産裁判所は請求項3および請求項4(請求項4は請求項3の従属項)に関しては進歩性を有すると判断したため、全ての請求項について拒絶という知的財産局による処分および「訴願審議委員会」による決定を覆し、「成功大学」勝訴の判決を下した((2013年)102年度行専訴字第66号判決)。(台湾では台湾(中華民国)が成立した1912年を元年とした台湾暦を使用している。102年度は西暦2013年となる。「行専訴字」は特許行政訴訟を指す。)

 

 係争専利は小型混合器であり、請求項は全13項、そのうち請求項1は独立項でありその他は従属項である。請求項3、請求項4は第二実施例(図2)に対応したものである。

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 係争専利は、簡単な菱形流路と邪魔板の設計を利用し、流体が通るときに複数個の渦流を発生させることで、効率の高い混合効果を有し、低レイノルズ数下で効率的な混合効果を奏する微型混合器を提供することを目的とする。

 

知的財産局による拒絶査定の概要

 知的財産局は、引用文献1、引用文献2を組み合わせることで係争専利の請求項1から請求項13は進歩性を有しないと判断した。引用文献1は「多液混合インジェクションガンの混合構造」についての実用新案(台湾第89210648号)であり、主要な図面を以下に示す。

引用文献1の図2

引用文献1の図2

 

引用文献1の図3

引用文献1の図3

 

引用文献1の図4

引用文献1の図4

 

 引用文献2は「微型混合器」についての発明特許(台湾第93139866号)であり、主要な図面を以下に示す。

引用文献2の図1

引用文献2の図1

 

引用文献2の図2

引用文献2の図2

 

 知的財産局による拒絶査定の概要は以下の通り:

 

 「引用文献1の「窪み混合槽」は係争専利の「菱形流路」に相当する。流路は流体に流動性を提供するために能動型または受動型の混合器に使用される。技術分野に属する通常知識を有する者にとって、これは公知技術である。よって引用文献1は係争専利の菱形流路の構造を開示している。

 

 引用文献2の明細書において開示されている「邪魔板は流体に渦流を発生させ…混合効果を有する」という点は、係争専利の「邪魔板」に相当する。「第一邪魔板は大部分の流体を第二菱形流動の左隅部へと引導し、第二邪魔板は大部分の流体を第三菱形流動の右隅部へと引導し、右隅部、左隅部の流量は小さい」という係争専利の明細書記載に依れば、係争専利の「邪魔板」も流路の交差部に設けられることがわかる。

 

 つまり、引用文献2の微型混合器は菱形流路に関する構造については開示していないが、引用文献2では邪魔板、主流路、次流路等技術特徴について説明されている。よって係争専利の請求項1から請求項13は、当業者が引用文献1および引用文献2を基に容易に完成することができるものであり、進歩性を有しない。」

 

知的財産裁判所による判決の概要

 知的財産裁判所は引用文献1と引用文献2を組み合わせたとしても、係争専利の請求項3、請求項4は進歩性を有しないとは証明し難いと認定した。その理由は以下の通り:

 

 「係争専利の請求項3、請求項4は発明の効果について記載されていないが、請求項で限定された構造の特徴は、明細書の該当請求項の説明部分に記載されている内容に対応する発明の効果を当然に有する。

 

 係争専利の請求項3、請求項4はレイノルズ数および関連効果についての記載がないが、請求項3、請求項4は第二実施例(明細書14ページ)を要約したものであり、且つ知的財産局の審査では専利法第26条(記載不備、実施可能要件)に違反していないと認定された事実がある。係争専利の請求項3が限定する構造特徴は、明細書14ページの請求項3、請求項4および第二実施例の説明部分に記載されている内容に対応する発明の効果を当然に有する。

 

 引用文献1、引用文献2の組合せは係争専利の請求項3、請求項4で奏される効果を開示していない。

 

 係争専利の明細書第14ページの「本発明第二実施例の微型混合器を利用し混合した時の平面図である図4を参照すれば、そのレイノルズ数は10である。本発明第二実施例の微型混合器を利用し混合した時の平面図である図5を参照すれば、そのレイノルズ数は20である。図4および図5において、前記主入口41には黒色液体を注入し、この黒色液体はインクと水が混合されたものであり、その比率は約1:20である。前記側入口42には透明の液体を注入し、この透明の液体は水である。前記出口45は混合後の液体を流出する。図4からわかるように、レイノルズ数が10のときに混合効果は大幅に上昇する。図5からわかるように、レイノルズ数が20のとき、流体は良好な混合効果を有するようになる。」という記載より、係争専利の第二実施例は、レイノルズ数が10のときに混合効果が大幅に改善し、レイノルズ数が20に上昇したときに流体は良好な混合効果を有するようになることを開示している。

 

 つまり、係争専利請求項3が菱形流路の数を三個と限定した場合、上述の効果が得られることになる。ただし、引用文献1はレイノルズ数と混合効果の記載が全くなく、引用文献2明細書第7ページで「レイノルズ数が低いときは混合効果が比較的良くなる」と記載されているのみであり、引用文献1、引用文献2は組み合わされたときに、レイノルズ数が10、20の場合に混合効果が生じることは開示していないため、この効果は予期できないものであると認定すべきである。係争専利の請求項3、請求項4は容易に完成できるものではなく、引用文献1、引用文献2の組合せにより、請求項3、請求項4が進歩性を有しないことを証明することはできない。」

 

【留意事項】

 台湾専利法第58条第4項は「発明特許権の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、特許請求の範囲の解釈時には明細書および図面を参酌することができる。」と規定している。実務上、特許請求の範囲の解釈において明細書および図面の記載を参酌することができるか否かについて、長年にわたり論争されてきた。本件では、裁判官が進歩性の判断において以下のように述べている。

 

 「発明の認定は特許請求の範囲を基準とするが、進歩性判断では発明全体を対象としつつ、該発明を理解するため明細書、特許請求の範囲、図面および出願時の通常知識を参酌することができる。よって、係争専利の請求項3、請求項4の解釈において請求項に発明の効果が記載されていないことを理由として、該効果は進歩性を審査する際に考慮すべき内容ではないと認定してはならない。また、進歩性の審査において請求項に記載されている技術手段、解決しようとする課題および達成される効果を考慮することは、『読み入れ禁止原則(明細書の記載を請求項へ読みいれることを禁止)』と関係はない。」

 

 最近、台湾知的財産裁判所は特許請求の範囲の解釈において、明細書および図面の内容を解釈の依拠とする傾向が見られる。以前は、無効審判請求人は特許請求の範囲のみを解釈の依拠として、無効事由を提出し、明細書で記載される効果を有しないため進歩性を否定するという主張をすることがよく見られた。しかし、今回の裁判所による見解の変更という流れを受けて、無効審判を請求する際には、上記のような傾向を慎重に考慮しなければならない。無効審判の対象特許が専利法第26条(記載要件、実施可能要件)に違反していると無効審判請求時に主張できれば、裁判所が明細書および図面の内容を参酌して、請求の範囲を広く解釈することを予め排除できる可能性がある。

■ソース
・台湾専利法
・民国102年度行専訴字第66号判決
http://jirs.judicial.gov.tw/Index.htm
■本文書の作成者
維新国際専利法律事務所 黄 瑞賢
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期
2015.01.14
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