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台湾における冒認商標出願に対する対策
2015年03月10日
■概要
台湾では、先願登録主義をとっているため、先に商標出願した者に権利が付与されることになる。自社が使用する商標を他者が先に出願した場合、他者により権利取得されてしまう。台湾と日本は交流が盛んであり、日本においては周知ではあるものの、台湾において一般的に知られていない商標が、台湾において他者により権利取得されてしまう可能性がある。このような場合に講じることができる対策を解説する。■詳細及び留意点
【詳細】
台湾では、先願登録主義をとっているため、先に商標出願した者に権利が付与されることになる。同一または類似の商品・役務について、他者が先に商標を出願した場合、たとえ当該商標を自らが先に使用していても、他者による登録出願が認められ、他者が権利を取得できる。
台日の民間交流は盛んに行われている状況ではあるが、日本において、ある程度周知な商標であっても、台湾ではまだ一般的に知られていないものであれば、他者により先に登録されてしまう可能性がある。商標公報を調べたところ、下記のものは明らかに日系企業が先行して使用しているものであるにもかかわらず、他者に権利を取得されてしまった例である。
このように、自分が先に創作・使用している商標であるにもかかわらず、他者に先に権利を取得されてしまった場合、どのような対策が取れるのかについて、以下に解説する。
(1)出願中の場合
(i)商標登録出願後に出願情報が公開されるため、自分の商標が他者により先に出願されているかを確認できる。
(ii)自分の商標が他者により出願されたことを発見した場合、台湾において先に対象商標を使用していることを示す証拠資料を知的財産局に審査の参考として情報提供し、当該登録出願に対して、審査官が拒絶との判断を導き出しやすくすることができる。ちなみに、台湾では、「情報提供制度」は設けられていないが、出願審査の参考として情報や資料を知的財産局に提供することは可能である。
(iii)証拠資料としては、日本や諸外国における登録情報のほか、台湾で商標を使用していることを示す新聞・雑誌またはその他の電子メディアにおける広告、展示会・見本市等の資料、インターネットにおける口コミ、カタログ、チラシなどがある。
(2)登録になった場合
(i)権利付与後の異議制度になっているため、商標登録を受けてから3ヶ月以内であれば当該登録に対し異議申立を行い、登録の取消を請求することができる。異議申立人については利害関係者のみでなく、誰でも異議申立を行うことができる。
(ii)商標登録を受けてから既に3ヶ月が過ぎてしまった場合は、無効審判や取消審判を通じて、登録商標に対する無効請求や取消請求をする方法がある。すなわち:
(a)商標登録を受けてから満3年が経過していないとき、無効審判請求を通じて、登録を無効とするよう請求することができる。ちなみに、無効審判請求には5年という除斥期間が設けられており、登録後満5年が経過した後には登録の権利者が悪意をもって他者の周知著名商標を盗用していることを証明できなければ、無効審判を請求することはできない。
(b)商標登録を受けてから既に3年以上経過した場合には商標の使用状況を調査し、3年以上使用しているという事実が見つからない場合、不使用取消審判を通じて登録の取消を請求することができる。
(iii)異議申立や不使用取消審判請求、無効審判請求を行いながら、登録商標の権利者にコンタクトをとり、自主的取り下げあるいは権利の譲渡について交渉することも考えられる。交渉の際に相手方から金銭的補償を求められる可能性がある。
【留意事項】
(i)他者による冒認出願があるか否かについては、継続的な商標ウォッチングや検索を通じて早期に発見することができる。
(ii)異議申立には利害関係は必要なく、誰でも申立てすることができるが、無効審判請求は利害関係者に限られるため、冒認出願に対する無効審判請求の場合、対象商標の真の権利者が無効審判請求を行うことができる。
(iii)自分の登録商標を根拠に無効審判を請求する場合、根拠とする自分の登録商標が登録後満3年経過した場合、審判請求と同時に使用証拠を提出する必要がある。使用証拠の提出ができない場合には審判請求しても受理されない。
(iv)登録出願を行ったところ、冒認出願が存在することにより拒絶されたとき、引用された冒認出願に対し、異議申立や無効審判または取消審判にかけて、これを理由として拒絶となった出願の審理を保留してもらうよう請求することができる。
(v)代理店、提携先あるいは販売代理店等に先取り登録された場合、代理、提携、売買関係の存在を示す書類(例えば代理店契約書類など)を根拠に異議申立や無効審判を請求することが考えられる。
(vi)登録された商標がキャラクターであれば、商標異議申立や無効審判のほか、著作権侵害に基づき対応する方法もある。ちなみに、著作権は無審査主義を採用しているため著作物が完成した時点で自然に権利が発生する。
(vii)異議申立または不使用取消審判は、利害関係者でなく第三者でも請求することができるため、相手側に異議申立または不使用取消審判を行うことを明かしたくない場合、第三者の名義にて手続きをすることもできる。
■本文書の作成者
理律法律事務所 弁護士 李文傑■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2015.01.12