アジア / 審判・訴訟実務
タイにおける知的財産権訴訟での口頭審理
2015年03月04日
■概要
タイにおける知的財産権訴訟において、訴訟当事者は一般的に、口頭審理に際して専門家証人の選定を必要とされるが、争点が複雑でないケースにおいては、書面による証拠資料の提出で足りるとされる場合もある。特に、商標に関する審決取消訴訟において、書面による証拠資料で足りるとされる場合が多い。以下、こうした判断の背景や現状を紹介する。■詳細及び留意点
【詳細】
タイにおける知的財産権訴訟において、訴訟当事者は一般的に、口頭審理に際して専門家証人の選定を必要とされるが、争点が複雑でないケースにおいては、書面による証拠資料の提出で足りるとされる場合がある。
通常の知財訴訟手続きにおいては、まず、原告が中央知的財産・国際貿易裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court:CIPITC)に訴状を提出し、これに対して被告が訴答を行う。裁判所判事は、この後、専門家証人の召喚を含むスケジュールを組む。
両当事者は裁判所に対して、召喚を希望する専門家証人の人数を知らせる必要がある。口頭審理においては専門家証人による供述に加えて、両当事者がそれぞれの専門家証人に対して質疑を行い、判事による閉廷の宣誓、そして判決(結審)に至ることとなる。
しかしながら、争点が複雑でない事件について、現行の実務上の慣行では、裁判所は両当事者に対して専門家証人の召還に関わる連絡をする際、提出済みの書面による証拠資料のみを重用するか(すなわち専門家証人の召喚は不要とするか)を打診し、両当事者が同意した場合、専門家証人を召喚して行う口頭審理を開催しないこともある。このように、提出された証拠資料に依拠して判決を下す場合も少なくはなく、両当事者による時間および費用の負担の軽減につながっている。
上述のような簡易訴訟手続きは、商標を争点とするケース、とりわけ行政訴訟事件(審決取消訴訟等)において適用される場合が多く見受けられる。
タイは他国と比べて商標の登録要件に関わる登録官の判断が厳格かつ保守的であることが知られており、他国で認可された出願であっても、タイにおいては識別性の欠如や先登録との類似性を理由に拒絶される場合が少なくない。訴訟実務を扱ってきた経験では、CIPITCへの控訴に際して、出願人あるいは異議申立人は、書面により提出する証拠資料が裁判所の考慮する証拠資料として十分であるために、専門家の召喚を不要と判断する場合が多い。
興味深いことに、CIPITCは商標権侵害あるいは著作権侵害等の争点がより複雑なケースにおいても、書面による証拠資料のみでの審理を推奨するような傾向が見られる。この傾向は、両当事者間の緊張を緩和し、事件を仲裁による和解に誘導しようとする裁判所の意向や試みが背景にあるのではないかと推定される。
■本文書の作成者
Rouse & Co. International (Thailand) Ltd.■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研■本文書の作成時期
2014.12.28