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タイにおける特許権侵害に関わる刑事手続き上の問題点

2015年02月24日

  • アジア
  • 審判・訴訟実務
  • 特許・実用新案

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■概要
タイにおいては、特許権や商標権、著作権等の知的財産権侵害に対して、民事上および刑事上の訴追をすることができる。商標権侵害や著作権侵害事件に対しては、刑事手続きで対応することが多い一方、特許権侵害事件に対しては、民事手続きで対応することが圧倒的に多い。タイの特許権侵害事件において、民事手続きが多いことの理由の一つとなっている刑事手続き上の問題を考察する。
■詳細及び留意点

【詳細】

タイは、特許権侵害に対して、民事上および刑事上の両方の手続きを取ることができる。しかしながら、約8割という比率の高さで、民事手続きが取られている。一方、商標権及び著作権侵害事件においては、刑事手続きが取られる場合が多い。刑事手続きに比して、民事手続きの所要費用が高額であるとの状況を鑑みれば、特許権侵害事件に対して、刑事手続きの割合が少ない理由は、刑事手続き上の問題によるものと思われる。

 

特許権侵害事件に対して、刑事手続きをとろうとした場合、2つの選択肢がある。1つは直接タイ中央知的財産・国際貿易裁判所(Central Intellectual Property and International Trade Court:CIPITC)に提訴する方法で、もう1つは警察当局に告訴状を提出する方法である。時間及びコスト上の利点を考慮し、刑事手続きを取る特許権者は多くの場合、後者を選択する。後者の場合、警察は告訴状を受理後、事件を検察に移送する準備として更なる証拠の収集を図る。そして検察官によって侵害に関わる十分な状況証拠があると判断された場合、検察はCIPITCにおいて刑事訴訟を提起する。

証拠が十分でない場合、検察は起訴を見送るか、事件を警察に差し戻し、十分な状況証拠の提出を求める。刑事手続きにおいて特許権者は、共同申立人としての参画が可能である。他方、特許権者が直接CIPITCに刑事訴訟を提起した場合には、状況証拠の妥当性に関わる裁判所の判断に直接応答する必要があり、時間的に長期化することが想定され、棄却リスクもあることに留意しなければない。

 

警察を通じて行う刑事手続きにおいて最も困難であるのが、検察への事件移送前に十分な証拠を確保することである。警察当局は、概して技術的知識を有しておらず、争点特許の請求範囲について、適正に理解してもらうことは非常に難しい。警察当局にとっても、商標権や著作権侵害事件に比して特許権侵害事件を取扱うことは、事案の複雑性という観点で困難なものと言える。

 

実務上、警察は争点特許の審査及び認可したタイ知的財産局(Department of Intellectual Property:DIP)審査官と面談し、被疑製品による侵害の事実に関わる審査官の見解を得るよう努めるが、DIPの審査官は一般的に、侵害認定を自ら行うことについては消極的であり、争点特許と被疑製品との間の同一性あるいは類似性に関してのみ言及することが多い。審査官が、両者間の同一性を肯定した場合、摘発に向けて十分な証拠が確保されたものと警察は判断する。審査官による言及が類似性の判断にのみ留まる場合、審査官の見解のみでは十分な証拠とはならないため、他の中立的な専門家による見解を求めるといった対応が必要となる。

 

摘発の履行に際して、警察はCIPITCあるいは管轄権を有する他の裁判所に対して、準備された証拠資料等の書類をもって令状の発行を要請する。通常、裁判所は提出された証拠資料を簡単には認めないため、提出証拠は裁判所を説得するに十分な情報(被疑製品サンプル、工場や店舗、あるいは製品輸送の写真等)を周到に準備する必要がある。令状の取得、摘発の履行に引き続き、警察は事件を検察に移送する。

 

特許権者が直接CIPITCにおける刑事訴訟を提起する場合、裁判所に対して事件の妥当性を説明し説得することは、非常に困難な作業となる。第一審においては、争点特許の審査官や中立的な専門家証人を裁判所へ召喚し、口頭審理の開催を要請する必要がある。特許権侵害事件においては、一般的に刑事手続き上の利点とされる差止請求が認容されることはまずないため、争点に複雑性が見られる場合には、民事手続きの適用がより相応しいものと思われる。一方、複雑性が低く、争点特許と被疑製品の間の同一性が高いレベルで推定される場合、刑事手続きの適用を検討しても良い。

■本文書の作成者
Rouse & Co. International (Thailand) Ltd.
■協力
日本技術貿易株式会社 IP総研
■本文書の作成時期
2014.12.28
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