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ロシアにおける第三者による商標の不正登録に対する対応策

2014年05月23日

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■概要
ロシアでは、第三者による商標の不正登録を未然に阻止するために、不正出願が登録されるまでの間に真の権利者がロシア特許庁に対してとり得る法的措置はない。真の権利者が積極的にとり得る措置としては、不正登録後の商標に対する無効審判請求や不使用取消訴訟の提起がある。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1) 無効審判

 商標の不正登録が無効理由を有する場合は、無効審判を請求することにより、不正商標の登録を消滅させることができる。

 

(i) 無効理由(ロシア民法第1483条及び第1512条)

 不正登録の無効理由としては、およそ以下のものがある。

 

(a) 先願商標との抵触(ロシア民法第1483条第6項)

 商標の不正登録が、当該不正商標の出願の優先日前の他人の商標登録出願に係る商標(以下「先願商標」という)と同一又は類似の商標であって、当該先願商標の指定商品・役務(以下「指定商品等」という)と同一又は類似の商品・役務(以下、「商品等」という)に係るものである場合に無効理由を有する。

 

(b) 商号に係る排他的権利又は取引上の表示に係る排他的権利との抵触(ロシア民法1483条第8項)

 商標の不正登録が、当該商標の出願の優先日前に、ロシアにおいて商号に係る排他的権利又は取引上の表示に係る排他的権利が発生している商号又は取引上の表示(以下、「商号等」という)と同一又は類似する商標に関するものである場合には無効理由を有する。商号等に係る排他的権利の効力は、商号等を使用する同一又は類似の事業の範囲に限られる。したがって、不正登録の指定商品等の類似範囲に商号等を使用する事業が含まれない場合には、真の権利者の商号等を盗用した商標について登録を受けたとしても当該無効理由には該当しない。

 

(c) 著作権との抵触(ロシア民法第1483条第9項第1号)

 不正に登録を受けた商標が「学術、言語若しくは美術の著作物の題号」、「これらの著作物のキャラクター若しくはその一部」又は「美術の著作物若しくはその一部」(以下、これらをまとめて「美術の著作物等」という)と同一の商標であって、以下の全ての条件に合致する場合は無効理由を有する。

・当該不正登録の出願の優先日前に著作権が発生していること

・「美術の著作物等」が当該不正登録の出願日にロシアにおいて周知であること

 

(d) 周知な氏名、ペンネーム、肖像等(ロシア民法第1483条第9項第2号)

 不正商標の登録が、当該不正登録の出願日においてロシアで周知である者の氏名、ペンネーム、それらの派生語、肖像又はその複製と同一の商標に関するものである場合には無効理由を有する。

 

(e) 意匠権との抵触(ロシア民法第1483条第9項第3号)

 不正に登録を受けた商標が、当該不正商標の出願の優先日前に発生した意匠権に係る登録意匠と同一の商標に関するものである場合には無効理由を有する。

 

(f) 動植物の品種の名称(ロシア民法第1483条第8項)

 不正に登録を受けた商標が、当該不正商標の出願の優先日前に、ロシアにおいて登録された動植物の品種の名称と同一又は類似の商標である場合には無効理由を有する(ロシアには、日本とは異なり植物だけでなく動物の新品種の登録制度もある)。

 

(g) 登録された周知商標(ロシア民法第1512条第2項第3号)

 以下のいずれにも該当する場合には、不正商標の登録は無効理由を有する。

・不正に登録を受けた商標が、登録を受けた周知商標と同一又は類似であること

・不正に登録を受けた商標の出願の優先日が、周知商標の登録申請書に記載した周知となった日よりも後であること

・指定商品及び役務について登録商標を使用することにより、消費者に登録を受けた周知商標の所有者を連想させ、当該所有者の法律上の利益を損なうこと

 

(h) 代理人又は代表者による不正登録(ロシア民法第1512条第2項第5号)

 以下のいずれにも該当する場合には、商標登録は無効理由を有する。

・真の権利者がパリ条約同盟国又はWTO加盟国の少なくとも一つの国において商標に係る排他的権利を有していること

・不正登録の指定商品等が、前記排他的権利の商品等と同一又類似であること

・不正に登録を受けた商標が、前記排他的権利に係る商標と同一又は類似であること

・前記排他的権利を有する者の許可を得ずに、その代理人等が商標登録を受けたこと

 

(i) 悪意又は不正競争(ロシア民法第1512条第2項第6号)

 不正に登録を受けた商標が、真の権利者の商標と同一又は類似であって、両商標が同一又は類似の商品に使用されるものであるため混同が生じ、真の権利者の事業者に損害が生じる可能性や真の権利者及びその事業上の評判に損害が生じる可能性がある場合、当該不正商標の登録は無効理由を有する。

 

(ii) 無効審判の手続

 無効審判の請求は、上記(i)(i)の理由を除き、特許紛争評議会に審判請求書を提出することにより行う(ロシア民法第1513条第1項乃至第3項)。上記(i)(i)の理由の場合は、連邦反独占庁に審判請求書を提出することにより行う。

 無効審判は、上記(h)の理由を除き、利害関係人のみが請求可能である。上記(i)(h)の理由の場合、商標に係る排他的権利を有する者のみが請求可能である。

 上記(i)(a)(g)の理由を除き、不正商標の登録が存続している限りいつでも請求可能である。上記(i)(a)(g)の理由の場合は、登録公告がされた日から5年以内に限り請求可能である(民法第1512条第2項第2号)。

 

(2) 不使用取消訴訟の提起

 不正に登録を受けた商標が、その指定商品等について3年以上使用されていない場合には、不使用取消訴訟を提起することにより、不正商標の登録を消滅させることが可能である(ロシア民法第1486条第1項)。不使用取消訴訟は知的財産裁判所に訴状を提出することにより行う。不使用取消訴訟は、登録商標が3年以上不使用であることを取消の要件としている。したがって登録日から3年を経過する前に取消訴訟を提起することはできない。また、不使用取消訴訟も利害関係人のみが提起することが可能である(ロシア民法第1486条第1項)。

 

【留意事項】

(1) 周知商標と同一又は類似の商標であることを理由に不正商標登録に対して無効審判を請求する場合、その前に、当該周知商標の登録申請をし、登録を受けなければならない。ロシアでは、周知商標の登録を受けなければ、周知商標として保護を受けることができないためである。

(2) 無効審判の請求及び不使用取消訴訟の提起はいずれも利害関係人のみが可能である。利害関係人であるためには、登録の無効や登録の取消を求める登録商標と同一又は類似の商標についてロシアに商標出願をしているだけでは、利害関係人であるとは認められない点に留意する必要がある。

(3) 不使用取消訴訟は、商標権者が不使用であっても、使用権者が使用している場合は、商標登録の取消を免れることができる。ただし、使用許諾契約が書面によって行われておらず、使用許諾契約の登録をしていない場合は、当該許諾契約は無効である(ロシア民法第1235条第2項)。したがって、使用権者によってのみ使用されている場合であっても、使用許諾契約が未登録の場合は、不使用取消訴訟を提起する価値はある。

■ソース
・ロシア民法第4部
・模倣対策マニュアル ロシア編(2012年3月、日本貿易振興機構)108~110頁、117~118頁
・黒瀬雅志編著、伊藤武泰・谷口登・木本大介著『ロシア 知的財産制度と実務』(一般財団法人経済産業調査会、2013年)
■本文書の作成者
協和特許法律事務所 弁理士 谷口登
■協力
一般財団法人比較法研究センター 不藤真麻
■本文書の作成時期

2014.01.17

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