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台湾実用新案技術評価書
2013年10月18日
■概要
実用新案は方式審査のみが行われる。特許及び意匠と比べて、実用新案の特許要件は実体審査によって判断されない。このため、旧法では、実用新案権者が実用新案技術評価書を請求しない場合、又は相当の注意を払わずに相手方に権利を主張した場合、仮に当該実用新案権が無効審判によって取消されると、権利者は当該実用新案権主張によって相手方が被った損害について責任を負わなければならないとされていた。2013年1月1日に施行された2011年改正専利法(以下、「改正専利法」という。)では、技術評価書の審査範囲が減縮される他、技術評価書を権利行使時の免責要件とすることが規定された。■詳細及び留意点
【詳細】
(1)実用新案技術評価書(中国語「新型專利技術報告」。以下、「技術評価書」という。)請求の受理期間
(i)実用新案が公告された後、何人も特許庁に技術評価書を請求することができる。技術評価書の請求は、実用新案権が当然消滅(*)した後でもなすことができる(改正専利法第115条第1項及び第6項)。実務上、技術評価書は登録査定の送達後、請求することができるが、技術評価書の作成は公告後となる(「実用新案技術評価書」問題4に対する回答)。
(ii)技術評価書の請求は、取り下げることができない(改正専利法第115条第7項)、台湾特許庁が技術評価書を作成後、専利公報に掲載される(改正専利法第115条第2項)。
(iii)台湾特許庁は、実用新案権の無効審判による取消処分後且つ確定前でも、技術評価書の請求を受理することができる。但し、台湾特許庁は、無効審判の証拠に技術評価書を引用する可能性があるか否かについて確認を行う。実用新案権の取消が確定したとき、初めから実用新案権の効力は存在しなかったものとみなされるため、技術評価書作成の対象がなくなる。このため、当該請求は受理されない(「実用新案技術評価書」問題4、問題15に対する回答、改正専利法第120条準用第82条第3項)。
*:「当然消滅」とは、改正専利法第70条第1項(下記(a)~(d))の事由を指す。
(a)専利権の存続期間が満了した場合、期間満了後消滅する。
(b)専利権者が死亡し、相続人であると主張する者がいない場合
(c)二年目以降の専利年金を追納することができる期間内に納付しない場合、当該専利権は原納付期間満了の翌日に遡って消滅したものとみなす。
(d)専利権者が専利権を放棄した場合、書面にてその意思を表示した日から消滅する。
(2)技術評価書の優先審査
(i)実用新案権者が商業上実施する非専利権者の書面通知(警告書など)、広告カタログ又はその他商業上の実施事実を示す書面資料を添付し、請求した場合、台湾特許庁は6月以内に技術評価書を完成させなければならない(改正専利法第115条第5項、改正専利法施行細則第43条)。
(ii)台湾特許庁は、非専利権者が実用新案権者から発送された実用新案権利侵害の内容証明書簡、実用新案権権利侵害訴訟案件に係わる起訴状又は訴訟に関する関連証拠文書を提出の上請求する場合、優先的に技術評価書を作成する(「実用新案技術評価書」問題5に対する回答)。
(3)技術評価書の内容
(i)技術評価書は特許における実体審査に相当し、以下の内容を含む。
コード |
内 容 |
番号1 |
新規性を有さない。 |
番号2 |
進歩性を有さない。 |
番号3 |
新規性の擬制喪失。 |
番号4 |
前後出願案における専利権の重複授与。 |
番号5 |
同日出願案における専利権の重複授与。 |
番号6 |
新規性を否定することができる等要件を備えた公知技術文献等が発見できない。 |
コードなし |
明細書の記載が不明瞭等、有効性の調査及び比較が困難だと思われる場合。 |
(ii)技術評価書において、番号1乃至番号3を確認するときは、実用新案権者に「技術報告引用文献通知書」を発送して、技術評価書完成・発送前(約一ヶ月程度前)に、上記番号確認結果に対する説明書を提出するよう出願人に通知する(「実用新案技術評価書」問題12に対する回答)。
(iii)技術評価書によって実用新案権を取消すことは出来ず、実用新案権を取り消したい場合は、無効審判請求によってなされなければならない(「実用新案技術評価書」問題15に対する回答)。
(iv)改正専利法では技術評価書の検索範囲が減縮された。具体的には、出願前に公開使用している状況が削除され、出願前に刊行物がみられる場合のみとなった(改正専利法第115条第4項)。
(4)技術評価書の使用方法
技術評価書は権利の有効性の判断において参考とすることができ、権利行使の対象としている相手方から特許性なしと主張され,無効理由のある権利を行使した責任を追及されるリスクを抑えることができる。
権利者が実用新案権を取消されたが、取消される前に他人に対して権利を主張して損害を負わせていた場合、原則として賠償しなければならないが、当該権利主張時に技術評価書を提出し、且つ相当の注意を払っていた場合には賠償する必要はない(改正専利法第117条)。例えば、実用新案権者(甲)が、乙に対し、乙が製造且つ販売しているUSBが甲の有する実用新案権を侵害しているとして損害賠償訴訟を提起した結果、仮処分の決定が下されて乙が販売できなくなったケースにおいて、訴訟進行中に、乙が甲の実用新案権には新規性がないとして取消審判を請求し、当該実用新案権が取消された場合、乙は、仮処分によって受けた損害について、損害賠償を請求することができる。但し、甲が訴訟提起以前に当該専利の技術評価書を乙に提示し、且つ相当の注意を払っていたと認められた場合は、専利法第117条但書により免責を主張することができる。
(5)技術評価書に対する不服申立の救済方法
(i)技術評価書は行政処分には含まれない。このため、請求人は技術評価書の比較結果に不服である場合、法によって行政救済手続きを行うことができない。但し、台湾特許庁に対して2回以上、技術評価書の請求をすることができる(「実用新案技術評価書」問題8及び問題12に対する回答)。
(ii)台湾特許庁が2回以上、技術評価書を作成するときは、原則として先に作成した技術報告書を参考にし、権利者の専利権訂正、及び何人かが台湾特許庁に提供した、又は台湾特許庁が自ら発見した検索または参酌されていない公開資料も参考とする。このとき、台湾特許庁は技術報告書の作成時(複数回申請されたときはその都度)に判明している事項について審査するため、それらの異同により技術報告書の内容が変更される可能性があるが、審査の対象期間は一貫して「実用新案の出願日以前」に発生した事実に限られる(「実用新案技術評価書」問題8及び問題18に対する回答)。
【留意事項】
2011年改正専利法施行(2013年1月1日)前の旧専利法は、実用新案権者に対して技術評価書の内容に基づいて権利行使すること、「又は」相当の注意を払っていたことを求め、これにより正当な権利行使であると推定するとしていた。そして、上記により正当な権利行使だと推定されたときは、たとえ相手方に損害を及ぼした場合でも責任を負う必要がなかった。これに対し、改正専利法第117条但書では、実用新案権者に対して技術評価書の内容に基づいて権利行使すること、「且つ」相当の注意を払っていたことを求めており、これらを満たして始めて他者が受けた損害に対する損害賠償責任が免除されることとなった。つまり、改正専利法では技術評価書の重要性が更に高まったといえる。
■ソース
・台湾改正専利法http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=490f4f9b-fa08-4d52-8587-6a8ec69989cf.doc ・台湾改正専利法施行細則
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=7a994e04-7ff0-4cd8-91e6-202b2fcbd694.doc ・「実用新案技術評価書」回答(2011年1月版)
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=89be38b6-83d6-473b-9198-456ecb6d0a98 ・専利侵害鑑定要点(2004年6月版)
http://www.tipo.gov.tw/ch/MultiMedia_FileDownload.ashx?guid=40cfded3-3f8b-4029-a937-7abf762b18ab
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦特許庁総務部企画調査課 山中隆幸