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(韓国)医薬用途発明について、薬理データに関する明細書の記載要件及び発明の進歩性を判断した事例

2013年09月10日

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■概要
大法院は、呼吸器疾患治療用の用途発明である本件出願発明の場合、呼吸器疾患の治療のためにβ2-効能剤と消炎剤の同時使用が必要であることが優先日以前に知られており、その優先日以前に薬理メカニズムが解明されたと見做すことができるので、客観的な薬理データ又はこれと代替できる程度までの具体的な記載を必要としない発明であり、明細書の記載要件に違反しないと判断し、これと判断を異にする原審には誤りがあるとした。
その一方で、進歩性に関して、先行発明に比べて選択発明としての顕著な効果が認められないので進歩性がないと判断し、原審の判断が正当であるとして、原審の結論を支持した事例である。
■詳細及び留意点

【詳細】

 (1) 発明の名称を「ホルモテロール、及びブデソニドの新規配合物」とする本件事件の出願発明は、喘息などの呼吸器疾患の治療のため気管支拡張剤をステロイド係の消炎剤と併用すること、及びこれらの二つの活性成分を含有する製薬組成物に関するものである。その請求項第8項は、「吸入投与用の配合製剤として、(ⅰ)ホルモテロール、又はその生理学的に許容できる塩、若しくはその塩の溶媒和物;又はホルモテロールの溶媒和物;及び(ⅱ)ブデソニドが、個別的又は一緒に、含まれる呼吸器疾患治療用の薬剤」(以下、「本件事件の第8項発明」という)を請求する。医薬用途発明であるといえる本件事件の第8項発明における発明の詳細な説明において、その薬理効果に関連し、「本発明は、ホルモテロール{及び(又は)その生理学的に許容できる塩及び(若しくは)溶媒和物}、並びにブデソニドを、吸入により、同時・順次又は個別的に、投与する新規併用治療の概念を基にする。このような併用は、効能を増加させ気管支拡張を持続させることだけでなく、作用を迅速に開始させる」と記載されているだけであった。

 

 (2) これに対して、原審の特許法院は、薬理効果に関して、「本件事件の出願発明の明細書の記載だけでは、本件事件の出願発明の混合組成物が呼吸器疾患治療と関連して相加効果があるか、相乗効果があるかについて分かることができない。また、仮にそれが相乗効果を有するとの意味に解釈できるとしても、各組成物をいかなる量で使用すればいかなる程度の相乗的な薬理効果が得られるかを確認できる定量的記載であると見ることはできない。したがって、本件事件の出願発明の詳細な説明は、この技術分野における通常の知識を有する者が出願当時の技術水準から見て、特別な知識を付加せずにそのような薬理効果があることを明確に理解し、これを反復再現できるように記載されたと見做せないため、特許法第42条第3項に違反した」という趣旨の判示をした。

 しかし、上記の原審判決の薬理効果に関連する判断について、本件の大法院判決は、その判断を異にする。その根本的な理由は、本件事件の出願発明をその優先日以前に薬理メカニズムが解明された場合であると解釈したためである。本件の大法院判決が提示した医薬用途発明の記載要件に関する、「特に薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、その出願前に明細書記載の薬理効果の薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情のない限り、特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどが示された試験例により記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足したと見做すことができる」との法理によると、その優先日前に医薬用途発明の薬理メカニズムが解明されたと見做す場合には、薬理試験データによる薬理効果の実証的記載が必須ではない。

 本件の大法院判決は、本件事件の出願発明を「β2-効能剤であるホルモテロールと消炎剤であるブデソニドの混合物を気管支拡張作用と消炎作用という薬理活性に基づき、呼吸器疾患治療用に使用するための用途発明である」と見做した。そして、本件事件の出願発明の優先権主張日以前に頒布された刊行物1~3の記載を検討し、「刊行物1には、β2-効能剤の一つであるサルブタモールと消炎剤の一つであるBDPの複合製剤が公知されている。そのため、本件事件の出願発明の優先日以前に、本件事件の出願発明の属する技術分野において、β2-効能剤と消炎剤の複合療法が気管支拡張作用と消炎作用の薬理活性により、喘息などの呼吸器疾患治療の用途として使用されたことは既に知られていた。更に、刊行物1には本件事件の出願発明の第1活性成分であるホルモテロールがβ2-効能剤の例示として、本件事件の出願発明の第2活性成分であるブデソニドが消炎剤のステロイドの例示であり、各々記載されているので、本件事件の出願発明は、その優先日以前に薬理メカニズムが解明されたと見做すことが相当である。」と判断した。

 したがって、原審判決がその明細書上に薬理効果に関する薬理試験データを要求したことに対して、本件の大法院判決は、「上記の法理に照らしてみると、本件事件の出願発明は、当該技術分野における通常の知識を有する者の反復再現性のために、客観的な薬理データ又はこれと代替できる程度までの具体的な記載を必要としない発明である」と認めた上で、「記録によると、本件事件の出願発明は、詳細な説明において、本件事件の出願発明の構成により達成される特有の効果、有効量、投与方法、及び製剤化に関する事項を記載しているので、本件事件の出願発明の詳細な説明は、明細書の記載要件に違反したといえない」として、薬理効果に関する記載に誤りがないと判断した。

 

 (3) ただ、薬理メカニズムが公知された医薬発明の場合には、事実上その技術的概念が既に知られていることになり、新規性ないし進歩性の観点からは特許を受けることが非常に難しくなる。本件事案においても同様の結論がなされた。

 この点につき、原審判決理由は、「本件事件の第8項発明は、刊行物1、2に記載された発明と発明の目的において共通点があり、構成の困難性がないことはもちろん、効果も顕著であるといえないので、当該技術分野における通常の知識を有する者が、上記の刊行物に記載された発明から本件事件第8項を容易に発明することができる」と判断した。

 本件事件の第8項発明は、刊行物1などの先行文献に比べてその成分を具体的に選択し組み合わせた選択発明に該当すると見做せるところ、本件の大法院判決は、選択発明の効果に関する法理を提示し、選択発明の進歩性判断において効果の顕著性をもって本件事案を検討し、「記録と上述の法理によると・・・刊行物1、2において、ホルモテロールが含むβ2-効能剤とブデソニドが含まれた消炎剤を併用する複合製剤に関する技術内容が開示されている。本件事件の第8項発明は、その請求範囲においてホルモテロールとブデソニドの配合比を特定数値により限定もされていないので、本件事件の第8項発明は、その予想可能な全ての配合比において、上記の刊行物に記載された発明より顕著な効果がなければ特許を受けることができないにもかかわらず、 原告が提出した証拠だけによっては、刊行物1に記載された発明に比べて本件事件の第8項発明が、いかなる程度の顕著な効果があるかについて分かることができない。さらに、本件事件の第8項発明が、その明細書において本件事件の出願発明の好ましいホルモテロール:ブデソニドの配合比として記載したもの(1:4ないし1:70)以外の他の全ての配合比においても、顕著な効果の認定、または追認することができる資料もない」ので、その進歩性が認められないという趣旨の判断をし、「原審が上記のとおり認定、判断したことは正当である」とした。

 その結果、特許を受けることができないという原審の結論も正当であるとして、上告を棄却した。

 

参考(大法院判決2003年10月10日付宣告2002후2846【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

1. 상고이유 제1점에 대하여

가. 특허출원서에 첨부하는 명세서에 기재될 ‘발명의 상세한 설명’에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 당해 발명을 명세서 기재에 의하여 출원시의 기술 수준으로 보아 특수한 지식을 부가하지 않고서도 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있도록 그 목적·구성·작용 및 효과를 기재하여야 하고, 특히 약리효과의 기재가 요구되는 의약의 용도발명에 있어서는 그 출원 전에 명세서 기재의 약리효과를 나타내는 약리기전이 명확히 밝혀진 경우와 같은 특별한 사정이 있지 않은 이상 특정 물질에 그와 같은 약리효과가 있다는 것을 약리데이터 등이 나타난 시험예로 기재하거나 또는 이에 대신할 수 있을 정도로 구체적으로 기재하여야만 비로소 발명이 완성되었다고 볼 수 있는 동시에 명세서의 기재요건을 충족하였다고 볼 수 있다(대법원 2001. 11. 13. 선고 99후2396 판결, 2001. 11. 30. 선고 2001후65 판결 등 참조).

 

2. 상고이유 제2점에 대하여

가. 선행 또는 공지의 발명에 구성요건이 상위개념으로 기재되어 있고 위 상위개념에 포함되는 하위개념만을 구성요건 중의 전부 또는 일부로 하는 이른바 선택 발명은, 첫째, 선행발명이 선택발명을 구성하는 하위개념을 구체적으로 개시하지 않고 있으면서, 둘째, 선택발명에 포함되는 하위개념들 모두가 선행발명이 갖는 효과와 질적으로 다른 효과가 있거나, 질적인 차이가 없더라도 양적으로 현저한 차이가 있는 경우에 한하여 특허를 받을 수 있고, 이때 선택발명의 상세한 설명에는 선행발명에 비하여 위와 같은 효과가 있음을 명확히 기재하면 충분하고, 그 효과의 현저함을 구체적으로 확인할 수 있는 비교실험자료까지 기재하여야 하는 것은 아니며, 만일 그 효과가 의심스러울 때에는 출원일 이후에 출원인이 구체적인 비교실험자료를 제출하는 등의 방법에 의하여 그 효과를 구체적으로 주장·입증하면 된다(대법원 2003. 4. 25. 선고 2001후2740 판결 참조).

 

(日本語訳「1. 上告理由第1点に関して

 イ.特許出願書に添付する明細書に記載の「発明の詳細な説明」には、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が、当該発明を明細書の記載により、出願時の技術水準から見て特殊な知識を付加しなくても、正確な理解と再現ができるように、その目的·構成·作用及び効果を記載しなければならない。特に薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、その出願前に明細書記載の薬理効果の薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情のない限り、特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどが示された試験例により記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載してこそ、初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足した、と見做すことができる(大法院判決2001年11月13日付宣告99후2396、2001年11月30日付宣告2001후65など参照)。

 

 2.上告理由第2点に関して

イ.先行又は公知の発明において構成要件が上位概念として記載されていて、前記上位概念に含まれる下位概念だけを構成要件の全部又は一部とする、いわゆる選択発明は、第一に、先行発明が選択発明を構成する下位概念を具体的に開示していておらず、第二に、選択発明に含まれる下位概念の全てが先行発明の有する効果と質的に異なる効果を奏しているか、質的な差がなくても量的に顕著な差がある場合に限って特許を受けることができ、この際、選択発明の詳細な説明には先行発明に比べて上記のような効果を奏していることを明確に記載すれば充分であり、その効果の顕著さを具体的に確認できる比較実験資料まで記載すべきということではなく、もしその効果が疑わしい場合には出願日以後に出願人が具体的な比較実験資料を提出するなどの方法によりその効果を具体的に主張·立証すれば足りる(大法院判決2003年4月25日付宣告2001후2740参照)。」)

 

【留意事項】

 薬理効果の記載が要求される医薬の用途発明においては、原則的に対象の特定物質にそのような薬理効果があることを薬理データなどを示した試験例として記載するか、又はこれに代替できる程度まで具体的に記載して初めて発明が完成されたと見做せるとともに、明細書の記載要件を充足したと見做せるという法理が確立されている。上記の法理の例外的事項として、その出願前に、明細書に記載の薬理効果を示す薬理メカニズムが明確に解明された場合のような特別な事情が例示されている。実務において、薬理効果を示す薬理メカニズムが明確に解明されたと認められる場合には、その技術的概念が事実上公知されていて、新規性と進歩性の観点から特許を受けることは非常に難しくなる。

  本件事案も併用投与療法に特徴がある医薬用途発明において、二つの機能(β2-効能剤と消炎剤)を有する成分の併用投与による気管支治療の薬理メカニズムが公知されていて、その具体的な成分がその優先日前の刊行物に開示されていたので、優先日前にこの発明の薬理メカニズムが解明された場合であると認められたが、その薬理メカニズムを解明した刊行物に記載された先行技術により進歩性が否定された。

  事実上、薬理メカニズムが出願前に解明された通常の医薬用途発明は、それ自体の構成だけでは特許性を得ることが難しいといえる。医薬用途の範疇に属するが、その有効成分を結晶型や異性体などにすることによって新たな相乗効果が得られた場合や、製剤形態を変えて製剤化による付随的な効果を得る発明のような形態にすれば、新規性・進歩性が認められる可能性は高くなると考えられる。

■ソース
・大法院判決2003年10月10日付宣告2002후2846
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=350B3E433CAFD040E0438C013982D040&courtName=대법원&caseNum=2002후2846&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.22
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