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(韓国)特許請求の範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かを判断する際の図面の参酌について判示した事例
2013年08月09日
■概要
大法院は、特許法第42条第4項第1号に関する判断の際に、図面の参酌について、「実施例などを具体的に示すことで発明の構成をより理解し易くするために図面が添付された場合には、図面及び図面の簡単な説明を総合的に参酌し、請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かを判断することができる」と判示した。本件事案は、発明の詳細な説明において請求項に対応する事項が記載されているとは認められず、添付図面の内容を参酌しても、その請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているとは認められないと判断し、原審判決を支持した事例である。
■詳細及び留意点
【詳細】
(1) 原審の特許法院は、この事件の特許発明の明細書の第2実施例や図7が、この事件の第6項に係る発明である「枠体は、上記のバッフルを閉じた際には上記のバッフルの先端を覆い、上記のバッフルが冷気口を開けた際には上記のバッフルの先端が上記の枠体から露出されるようになっている構成」を説明するものとみなすことができないし、他に、その発明の詳細な説明においてこの事件の第6項に係る発明と対応する構成及び作用効果に関する記載や暗示がない、また、出願書に添付された図面は、明細書ではない別途の図面に該当するため、明細書に含まれないから、この事件の第6項に係る発明は、特許法第42条第4項に違反する、と判断した。
これに対して、上告人は、特許法第42条第4項第1号で定められている「明細書の詳細な説明により裏付けられること」との要件において、明細書の詳細な説明というのは、形式的な意味の明細書の詳細な説明だけに限定されるべきではなく、そこには出願書に添付された図面も含まれるので、この事件の第6項に係る発明の第2実施例の「冷気口(3)を冷気の流れに対して約90°になるように枠体(2)に形成し、また、枠体(2)を冷蔵庫(20)のダクト(21)の間に嵌め込むようにした」との記載部分と、図7の、バッフルの先端が枠体(2)の外側に突出された内容により、十分に裏付けられる、と主張した。
(2) 特許法第42条第4項第1号について、大法院は、「特許請求の範囲に保護を求める事項を記載した項(請求項)は、発明の詳細な説明により裏付けられるべきであることが規定されている。これは、特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項を請求項に記載し、出願人が公開していない発明に対しても特許権が付与されるとの不当な結果を防ぐための趣旨である。
請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かについては、特許出願当時の技術水準を基準とし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(通常の技術者)の立場から、特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かによって判断されるべきである(大法院判決2006年5月11日付宣告2004후1120を参照)。」と判示している。
さらに、特許法第42条第2項については、「特許出願書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明、特許請求の範囲が記載された明細書と共に、必要な図面及び要約書を添付するように規定されている。図面は、特許出願書に添付する必須項目ではなく、図面のみで発明の詳細な説明を取り替えることはできないが、実施例などを具体的に示すことで発明の構成をより理解し易くするために図面が添付された場合には、図面及び図面の簡単な説明を総合的に参酌し、請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かを判断することができる。」と判示している。
(3) 本件事案の争点は、この事件の第6項に係る発明の場合、「発明の詳細な説明」に、それについて直接言及している記載がなく、また、これに対し原審は、特許法第42条第4項第1号に違反するとの理由をもって無効と判断し、上告理由では、図7にそのような記載が存在するから上記の規定に違反していない、と争ったことにある。
(4) この事件の第6項に係る発明は、この事件の第1項に係る発明に加え、「枠体(2)は、バッフル(4)を閉じた際にはバッフル(4)の先端を覆い、バッフル(4)が冷気口(3)を開けた際にはバッフル(4)の先端が枠体(2)から露出されるようにする」ことをその特徴としている。これは、すなわち、枠体の大きさ(幅、深さ)は、バッフルが開いたときの大きさより小さく、バッフルが閉じられたときの大きさより大きいことを意味するのである。しかし、このような構成は、上告人(被告)が主張する実施例2(枠体を別途に製作し嵌め込む構成を説明するものであり、枠体の大きさについては全く言及していない)とは如何なる関係もないということが明らかであるから、結局、この事件の第6項に係る発明は、発明の詳細な説明にその記載がなく、ただ図7のみでその構成が分かるのである。ここで問題は、この事件の第6項に係る発明は、この事件の第1項に係る発明を引用しているため、枠体は通路の一部を構成するものであり(この事件の第1項に係る発明の第1構成)、枠体は図面のように、通路(21)と別途に製作し嵌め込むこともできて、また、通路(21)と共に製作し一体に形成することもできるため、もし、後者のように、枠体と通路を一体に形成した場合には、バッフルが冷気口を開けた際に上記のバッフルの先端が上記の枠体からどのように露出されるのかについて、上記の図面だけでは見出せない。
(5) 本件事案に対して、大法院は、「この事件の第6項に係る発明は、『この事件の第1項に係る発明において、バッフルが冷気口を閉じた際には枠体がバッフルの先端を覆い、バッフルが冷気口を開けた際にはバッフルの先端が枠体から露出されるようになっていることを特徴とするモータ式ダンパー装置』を特許請求の範囲としているが、発明の詳細な説明に上記の請求項に対応する事項が記載されているとは認められなく、図7を含め添付図面の内容を参酌しても、その請求項が詳細な説明により裏付けられているとは認められないので、この事件の第6項に係る発明が、特許法第42条第4項第1号に違反して特許を受けたという原審の判断は正当である」と判断し、上告を棄却した。
参考(大法院判決2006年10月13日付宣告2004후776【登録無効(特)】より抜粋):
2. 상고이유 제2점에 대한 판단
특허법 제42조 제4항 제1호는 특허청구범위에 보호받고자 하는 사항을 기재한 항(청구항)은 발명의 상세한 설명에 의하여 뒷받침될 것을 규정하고 있는바, 그 취지는 특허출원서에 첨부된 명세서의 발명의 상세한 설명에 기재되지 아니한 사항이 청구항에 기재됨으로써 출원자가 공개하지 아니한 발명에 대하여 특허권이 부여되는 부당한 결과를 막기 위한 것으로서, 청구항이 발명의 상세한 설명에 의하여 뒷받침되고 있는지 여부는 특허출원 당시의 기술 수준을 기준으로 하여 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자의 입장에서 특허청구범위에 기재된 사항과 대응되는 사항이 발명의 상세한 설명에 기재되어 있는지 여부에 의하여 판단하여야 할 것이다 (대법원 2006. 5. 11. 선고 2004후1120 판결 참조). 한편, 특허법 제42조 제2항은 특허출원서에는 발명의 명칭, 도면의 간단한 설명, 발명의 상세한 설명, 특허청구범위를 기재한 명세서와 더불어 필요한 도면 및 요약서를 첨부하여야 한다고 규정하고 있는바, 도면은 특허출원서에 반드시 첨부되어야 하는 것은 아니고 도면만으로 발명의 상세한 설명을 대체할 수는 없는 것이지만, 도면은 실시예 등을 구체적으로 보여줌으로써 발명의 구성을 더욱 쉽게 이해할 수 있도록 해주는 것으로서 도면이 첨부되어 있는 경우에는 도면 및 도면의 간단한 설명을 종합적으로 참작하여 발명의 상세한 설명이 청구항을 뒷받침하고 있는지 여부를 판단할 수 있다.
위 법리와 기록에 비추어 살펴보면, 이 사건 제6항 발명은 ‘이 사건 제1항 발명에 있어서 배플이 냉기구를 닫았을 때는 틀체가 배플의 선단을 덮고, 배플이 냉기구를 열었을 때 배플의 선단이 틀체에서 노출하도록 이루어진 것을 특징으로 하는 모터식 댐퍼장치’를 특허청구범위로 하고 있는 것으로서, 발명의 상세한 설명에 위 청구항에 대응되는 사항이 기재되어 있다고 볼 수 없고, 도면 7을 비롯한 첨부 도면의 내용을 참작하여 보더라도 그 청구항이 상세한 설명에 의하여 뒷받침되고 있다고 할 수 없으므로 이 사건 제6항 발명이 특허법 제42조 제4항 제1호에 위배하여 특허되었다는 원심의 판단은 정당하고 거기에 상고이유에서 주장하는 바와 같은 명세서의 기재불비에 관한 법리오해, 심리미진 등의 위법이 없다.
(日本語訳「2.上告理由の第2点に関する判断
特許法第42条第4項第1号では、特許請求の範囲に保護を求める事項を記載した項(請求項)は、発明の詳細な説明により裏付けられるべきであることが規定されている。これは、特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されていない事項を請求項に記載し、出願人が公開していない発明に対しても特許権が付与されるとの不当な結果を防ぐための趣旨である。請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かについては、特許出願当時の技術水準を基準とし、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「通常の技術者」という)の立場から、特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かによって判断されるべきである(大法院判決2006年5月11日付宣告2004후1120を参照)。さらに、特許法第42条第2項では、特許出願書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明、特許請求の範囲が記載された明細書と共に、必要な図面及び要約書を添付するように規定されている。図面は、特許出願書に添付する必須項目ではなく、図面のみで発明の詳細な説明を取り替えることはできないが、実施例などを具体的に示すことで発明の構成をより理解し易くするために図面が添付された場合には、図面及び図面の簡単な説明を総合的に参酌し、請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かを判断することができる。
上述の法理と記録に照らして検討すれば、この事件の第6項に係る発明は、「この事件の第1項に係る発明において、バッフルが冷気口を閉じた際には枠体がバッフルの先端を覆い、バッフルが冷気口を開けた際にはバッフルの先端が枠体から露出されるようになっていることを特徴とするモータ式ダンパー装置」を特許請求の範囲としているが、発明の詳細な説明に上記の請求項に対応する事項が記載されているとは認められなく、図7を含め添付図面の内容を参酌しても、その請求項が詳細な説明により裏付けられているとは認められないので、この事件の第6項に係る発明が、特許法第42条第4項第1号に違反して特許を受けたという原審の判断は正当であり、更に、上告理由で主張する明細書の記載不備に関わる法理誤解や審理不十分などの違法はない。」)
【留意事項】
本判決は、特許法第42条第2項により、明細書に図面が添付された場合、請求項が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かの判断における特許法第42条第4項第1号の適用において、その図面をどう取り扱うかについて、初めて判示した判決として意味がある。
特許法第42条第2項では、特許出願書には、発明の名称、図面の簡単な説明、発明の詳細な説明、特許請求の範囲が記載された明細書と共に、必要な図面及び要約書を添付するように規定されている。図面は、全ての特許出願書に必ずしも添付しなければならないものではないが、図面を通じて実施例を具体的に示すことができ、発明の構成をより理解し易くすることができる。特許庁の審査指針書には、「発明の詳細な説明とは、特許法第42条第2条の解釈上、出願人が出願書に添付して提出した明細書に記載の事項のうち、発明の名称、図面の簡単な説明(【符号の説明】が記載された場合、これを含む)、及び特許請求の範囲を除いた他の記載事項を意味する」と説明されている。これは、発明の詳細な説明には記載されていないものの、図面にだけ記載されている場合、記載不備とみなすべきであるという見解が表明されたものとして受け入れられる。
すなわち、原則的には、発明の詳細な説明の記載を省略し図面に取り替えることは不可能である。ただ、特許出願書に図面が添付された場合には、図面及び図面の簡単な説明により補充される内容も総合的に参酌して、発明の詳細な説明により特許請求の範囲が裏付けられているか否かを判断することができるといえる。
■ソース
・大法院判決2006年10月13日付宣告2004후776https://glaw.scourt.go.kr/wsjo/panre/sjo100.do?contId=2059739&q=2004%ED%9B%84776&nq=&w=trty§ion=trty_tot&subw=&subsection=&subId=&csq=&groups=&category=&outmax=1&msort=&onlycount=&sp=&d1=&d2=&d3=&d4=&d5=&pg=0&p1=&p2=&p3=&p4=&p5=&p6=&p7=&p8=&p9=&p10=&p11=&p12=&sysCd=&tabGbnCd=&saNo=&joNo=&lawNm=&hanjaYn=N&userSrchHistNo=&poption=&srch=&range=&daewbyn=N&smpryn=N&idgJyul=&newsimyn=&trtyNm=&tabId=&dsort=
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘■協力
特許法人AIP一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.22