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(韓国)進歩性判断に提供される先行技術は、必ず技術構成の全てが明確でなければならないか否かを判断した事例

2013年07月23日

  • アジア
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■概要
大法院は、出願発明の進歩性判断に提供される先行技術は、技術構成の全てが明確に表現されたものだけでなく、資料の不足により表現が不十分又は一部内容に誤謬(欠缺)があっても、その技術分野における通常の知識を有する者が技術常識や経験則により容易に技術内容を把握することができる範囲内では、対比対象になり得ると判示した。
その上で、比較対象発明の明細書の一部記載に誤謬(欠缺)があるにもかかわらず、出願発明の進歩性判断のための先行技術として用いることができるとした事例である。
本件は、進歩性を否定した原審判決の判断を支持し、上告を棄却した。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1) この事件の第72項発明は、活性成分としてエストロゲン化合物を単独で使用し神経退行性疾患を治療する製薬組成物であり、比較対象発明もその請求範囲で活性成分について「エストラジオール、エストロン、及びエストリオールから構成される群より選ばれる女性エストロゲン性ホルモン有効量」と記載し、その発明の詳細な説明においても「適切な投与型のエストラジオールを単独で使用することだけで…女性の性ホルモンに補充的に同化作用ホルモンを使用することは必要ではない」、「結合エストロゲンの使用以外にエストラジオール、エストロン、エストリオール群のうち任意のエストロゲンを単独又は共に使用することができる」と記載され、比較対象発明も活性成分としてエストロゲンを単独で使用しているし、その対象疾患においても比較対象発明の請求項1における疾患の老人性痴呆、アルツハイマー病、脳萎縮、小脳萎縮、老人性振戦及び本態性振戦が神経退行性疾患であることは当事者間に争いがないので、この事件の出願発明と比較対象発明は、その対象疾患においても類似な事例である。

したがって、比較対象発明を先行技術とすれば、この事件の出願発明は、その新規性ないし進歩性が否定されることは比較的明らかな事案であったが、当該事案では、新規性·進歩性の判断に提供される先行技術の資格が核心争点となり、先行比較対象発明に記載されたその実験内容及び結果が信頼できないため、新規性・進歩性の判断において提供される先行技術の資格の有無に争点が集中された事案であった。

 

(2) 原審特許法院の判決では、特許出願された医薬用途発明の新規性ないし進歩性の判断において、対比技術として提示された先行技術がその出願発明と同一の目的と構成及び薬理効果を有する場合には、他の特別な事情のない限り、そのような物質にそのような薬理効果がある点は既に公知といえるので、特許出願された発明は新規性又は進歩性がないと見做すべきであるが、先行技術に記載の薬理効果が全く実験例によりサポートされていないためその発明の効果を理解することが難しいか、又は実験例によりサポートされていてもその実験内容がその技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者が信頼できない内容であるなどの特別な事情が認められれば、その先行技術にそのような薬理効果があることをその技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者に受け入れられるはずがない。したがって、その先行技術が、たとえ特許出願された発明と目的·構成及び薬理効果が同一であっても、特許出願された発明の新規性や進歩性を否定する資料として使用できない場合があるという前提のもとで、この事件の出願発明の進歩性判断のための資料として用いることができないほど信頼性がないかについて検討することになる。その結果、比較対象発明に記載された二つの実験例を検討した後、比較対象発明の薬理効果が特許発明として登録できる程度まで統計的実験例によりサポートされていると見做せなくても、従来よりエストロゲンの効能に関する医学的知識が上記実験例により退行性疾患に対して相当サポートされていて、その実験内容に現れた薬理効果をその技術分野における通常程度の技術的理解力を有する者が相当程度まで信頼できるようになったといえるので、比較対象発明をこの事件の出願発明の進歩性判断のための先行技術として使用できると判断し、このような判断を基にして比較対象発明によりこの事件の出願発明の進歩性を否定した。

 

(3) 上記の事案に対し、大法院は、「出願発明の進歩性判断に提供される先行技術は、技術構成の全てが明確に表現されたものだけでなく、資料の不足により表現が不十分であるか一部内容に誤謬(欠缺)があっても、その技術分野における通常の知識を有する者が技術常識や経験則により容易に技術内容を把握できる範囲内では対比対象となり得る」という一般論を判示した後、「原審判示の比較対象発明はその明細書の一部記載に誤謬(欠缺)があることを否定することはできないが、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は比較対象発明の明細書の記載内容からエストロゲンなどの性ホルモンが神経退行性疾患の治療に有用であることが容易に認識でき、この事実は名称を『神経細胞群を死滅から保護し神経退行性疾患を治療するための製薬組成物』とするこの事件の出願発明の出願当時の技術常識に反することでもないので、比較対象発明はその範囲内でこの事件の出願発明の特許請求範囲第72項(以下、『この事件の第72項発明』という)の進歩性を判断するための先行技術として用いることができ、この事件の第72項発明と比較対象発明はその活性成分及び対象疾病が同一ㆍ類似であるので、原審がこのような趣旨でこの事件の第72項発明が比較対象発明によりその進歩性が否定されると判断したのは正当であると首肯でき、更に上告理由として主張する発明の進歩性判断に関する法理の誤解などの違法はない」と判断し、原審判決の結論を支持した。

 

(4) 進歩性判断に提供される先行技術の資格に関する上記の法理は、大法院判決(大法院判決1995年11月24日付宣告93후114)が意匠(デザイン)事件において提示した「意匠の新規性判断や先行意匠との類似判断において、その判断対象となる意匠は、形態全体を全て明確にした意匠だけでなく、その資料の表現不足を経験則により補充し、その意匠の要旨把握が可能である限りその対比判断の対象となり得るといえるが、引用意匠だけで意匠の要旨把握が不可能な場合には、その対比判断をすることはできない」という法理を基にしたものである。その後、意匠事件で説示された上記の法理は、特許及び実用新案事件においてもその適用範囲が広げられ、「未完成発明であっても進歩性判断の対比資料になり得ないことでもないので、引用例が未完成発明でそれに対する拒絶査定が確定されたとしても、原審がこれと対比し本願発明の進歩性を否認したことを違法であるとはいえない」という判決(大法院判決1996年10月29日付宣告95후1302)、及び「出願考案の新規性又は進歩性判断に提供される対比発明や考案は、その技術的構成の全てが明確に表現されたものだけでなく、未完成発明(考案)又は資料不足により表現が不十分であるものであってもその技術分野における通常の知識を有する者が経験則により極めて容易に技術内容の把握が可能であればその対象になり得る」という判決(大法院判決1997年8月26日付宣告96후1514)が宣告された。本件の大法院判決で提示された先行技術の資格に関する法理は、上述の過程を経て定着し発展したのである。

 

参考(大法院判決2006年3月24日付宣告2004후2307【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

출원발명의진보성판단에제공되는선행기술은기술구성전체가명확하게표현된것뿐만아니라, 자료의부족으로표현이불충분하거나일부내용에흠결이있다고하더라도기술분야에서통상의지식을가진자가기술상식이나경험칙에의하여쉽게기술내용을파악할있는범위내에서는대비대상이있다(대법원 1997. 8. 26. 선고 96후1514 판결, 2000. 12. 8. 선고 98후270 판결 등 참조).

 

위 법리와 기록에 비추어 살펴보면, 원심판시의 비교대상발명은 그 명세서의 일부 기재에 흠결이 있음을 부정할 수 없지만, 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자는 비교대상발명의 명세서에 기재된 내용으로부터 에스트로겐 등 성호르몬이 신경퇴행성질환의 치료에 유용하다는 것을 쉽게 인식할 수 있고, 이는 명칭을 ‘신경세포군을 사멸로부터 보호하고 신경퇴행성질환을 치료하기 위한 제약조성물’로 하는 이 사건 출원발명의 출원 당시의 기술상식에 배치되는 것도 아니어서, 비교대상발명은 그 범위 내에서 이 사건 출원발명의 특허청구범위 제72항(이하 ‘이 사건 제72항 발명’이라 한다)의 진보성 판단을 위한 선행기술로 삼을 수 있고, 이 사건 제72항 발명과 비교대상발명은 그 활성성분 및 대상 질병이 동일ㆍ유사하므로, 원심이 이와 같은 취지에서 이 사건 제72항 발명은 비교대상발명에 의하여 그 진보성이 부정된다고 판단하였음은 정당한 것으로 수긍이 가고, 거기에 상고이유로 주장하는 바와 같은 발명의 진보성 판단에 관한 법리오해 등의 위법이 없다.

 

(日本語訳「出願発明の進歩性判断に提供される先行技術は、技術構成の全てが明確に表現されたものだけでなく、資料不足により表現が不十分であるか一部の内容に誤謬(欠缺)があっても、その技術分野における通常の知識を有する者が技術常識や経験則により、容易に技術内容を把握できる範囲内では対比対象になり得る(大法院判決1997年8月26日付宣告96후1514、2000年12月8日付宣告98후270など参照)。

 

 上記の法理及び記録に照らして検討すると、原審判示の比較対象発明はその明細書の一部記載に誤謬(欠缺)があるのを否定することはできないが、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、比較対象発明の明細書に記載された内容からエストロゲンなどの性ホルモンが神経退行性疾患の治療に有用であることを容易に認識することができ、この事実は名称を「神経細胞群を死滅から保護し神経退行性疾患を治療するための製薬組成物」とするこの事件の出願発明の出願当時の技術常識に反することでもないので、比較対象発明はその範囲内でこの事件の出願発明の特許請求範囲第72項(以下、「この事件の第72項発明」という)の進歩性を判断するための先行技術として用いることができ、この事件の第72項発明と比較対象発明はその活性成分及び対象疾病が同一ㆍ類似であるので、原審がこのような趣旨でこの事件の第72項発明が比較対象発明によりその進歩性が否定されると判断したのは、正当であると首肯でき、更に上告理由として主張する発明の進歩性判断に関する法理の誤解などの違法はない。」)

 

【留意事項】

 本件の大法院判決は、発明の新規性又は進歩性判断に提供される対比発明は、その技術的構成の全てが明確に表現されたものだけでなく、未完成発明又は資料不足により表現が不十分であるか一部内容に誤謬があっても、その技術分野における通常の知識を有する者が発明の出願当時の技術常識を参酌し、技術内容を容易に把握できれば、先行技術になり得るという態度を取っている。すなわち、上記大法院判決の趣旨は、欧米の実務事例或いは特許法院の原審判決理由のように、先行文献に記載された技術内容に一定の誤謬があれば先行技術から除外されるという消極的な態度ではなく、そのような誤謬があるにもかかわらず、先行文献の記載から技術内容を容易に把握できれば先行技術と認めるという積極的な態度を取っていると解釈される。このような解釈方式は、先行文献としての資格は、文献の完成度ではなく、その先行文献が特許発明を教示(Teaching)や示唆(Suggestion)することにより決定されるというアメリカ式の解釈方式に近いといえる。しかし、未完成発明は、新規性・進歩性の先行文献としての資格があるのに対して、先願ないし拡大された先願における先行文献としての資格がないこと(大法院判決2002年9月6日付宣告2000후2248など)に留意する必要がある。

 

 未完成発明、又は資料の不足により表現が不十分であるか一部内容に誤謬があっても、通常の技術者が容易に技術内容を把握できる限り、先行技術として利用できるという上記の法理は、今後さらに具体化及び客観化を必要とされるのが韓国特許実務における多数の立場である。例えば、先行文献に記載された技術の内容上の誤謬ないし矛盾が如何に深刻であれば技術全体として技術内容を容易に把握することができないといえるか、新規性判断に提供される先行技術と進歩性判断に提供される先行技術の資格を区別すべきか、先行文献に記載された技術がどれほどの具体的な範囲と内容で示されれば先行技術として用いることができるか、先行文献への一般公衆の通常的な接近可能性を先行技術の資格として要求すべきか、などの細部的争点については、未だ事例が蓄積されていないため、具体的基準が設けられておらず、これに対する合理的基準の提示が必要である。

■ソース
・大法院判決2006年3月24日付宣告2004후2307
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jsp/jbsonc/jbsonc08.jsp?docID=350F8B32F01E00EAE0438C01398200EA&courtValue=대법원&caseNum=2004후2307
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.08
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