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(中国)実用新案の進歩性判断においてビジネス上の成功を考慮すべきか否かに関する事例

2013年07月23日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、「無効請求人が提出した証拠文献2、4には、本考案の特徴であるBモード超音波探触子と膣拡張器具とを係合して避妊手術を行う点を示唆しておらず、本考案は当該構成により顕著な技術的効果を奏する。本考案が解決しようとする課題は、証拠文献2、4に開示されたものと異なっており、かつ実用新案権者は、本考案が実際のビジネスにおいて成功していることを証明している。こうしたビジネス上の成功は、本考案の技術的特徴によって直接的にもたらされたものであり、この点からも進歩性を有する。」と認定し、一審判決を取消した((2009)高行終字第1441号)。
■詳細及び留意点

【詳細】

 本事件は、中国国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下「審判部」という)合議体が下した実用新案全部無効との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)が下した審決維持との判決を不服として、高級人民法院で争われた事件である。

 

 本事件の争点は、「実用新案の進歩性判断においてビジネスの成功を考慮すべきか否か」である。

 

 中国国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、実用新案の進歩性判断においては、当該実用新案の技術的効果を考慮すべきであり、技術的特徴を機械的に分けるのではなく、全体的な技術案から考慮すべきである。当該実用新案が直接的にビジネス上の成功をもたらす場合、当該実用新案は進歩性を有する、旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章5.4及び6.4の関連規定参照)。

 

 本件実用新案は、避妊手術用のBモード超音波モニター技術に関し、無効審判請求の対象となった請求項1記載の考案は、以下のとおりである。

「女性避妊手術のBモード超音波モニターであって、

既存のBモード超音波装置1を備え、

Bモード超音波装置の探触子2と膣鏡3とを係合する、

ことを特徴とする前記Bモード超音波モニター。」

 

 無効審判請求人は、「証拠文献2(US5251613A)及び証拠文献3には、それぞれ膣拡張器具が開示されており、任意の一つのベーンにビデオ・ユニット(本考案のBモード超音波装置に相当)を固定し、当該ビデオ・ユニットは底部連結部と膣拡張器具(本考案の膣鏡に相当)の上部或いは下部に固定接続される。一方、証拠文献4(CN 1377245 A)には、探触子の係合構造が開示されている。したがって請求項1記載の考案は、証拠文献2又は3と4との組合せから容易になし得たものであり、進歩性を有していない。」と主張した。

 

 審判部合議体は、「請求項1記載の膣鏡3は、証拠文献2の膣拡張装置Sに相当する。請求項1記載の探触子2は超音波式であり、証拠文献2のビデオ・ユニットは光学式であるが、モニタリングという用途において同じであり、光学検知部材及び超音波検知部材は共に外科手術において体内の状況をモニタリングするための常用器具に過ぎない。請求項1記載の考案と証拠文献2開示の考案との実質的相違点は、具体的な固定接続の仕方である。係合は機械分野において固定に用いる一般的な方法であって、証拠文献4には、探触子と膣鏡とを係合によって固定することを示唆している。したがって請求項1記載の考案は、証拠文献2、3、4から容易になし得たものであり進歩性を有していない。」として、本実用新案権の全てを無効とする審決を下した(第12728号審決)。

 

 本審決を不服とした実用新案権者は、その取消しを求めて北京市第一中級人民法院に審決取消訴訟を提起したが、北京市第一中級人民法院は審判部合議体の判断を支持し、審決を維持する判決を下した。

 

 本判決を不服とした実用新案権者は北京市高級人民法院に上訴した。本訴訟において実用新案権者は、本考案によって手術の成功率が向上し、省政府の主導により本考案の利用が拡大している証拠を新たに提出して「本考案によってビジネスが成功した。」と主張した。

 

 北京市高級人民法院は、「本考案が解決しようとする課題は、証拠文献2及び証拠文献4に開示されたものと異なる。証拠文献2及び証拠文献4はいずれも人工妊娠中絶手術又は子宮内避妊器具の装着及び除去手術のために用いるものではなく、Bモード超音波装置探触子と膣拡張器具とを係合して避妊手術を行うことを示唆していない。また、本考案は、Bモード超音波装置探触子と膣鏡とを係合という形で接続することにより顕著な効果を奏し、実用新案権者が新たに提出したビジネス成功の証明は、本考案の技術的特徴によって直接的にもたらされたものである。したがって請求項1記載の考案は、無効審判請求人が提出した各証拠文献に開示されたものから容易になし得たものではなく、進歩性を有する。」と認定し、一審判決を取消した。

 

参考(北京市高級人民法院行政判決2010年6月13日付(2009)高行終字第1441号より抜粋):

・・・在创造性判断过程中,应当考虑该实用新型的技术效果,从整体技术方案进行考虑,不能机械地将技术特征进行分割。如果该实用新型的技术效果直接导致该实用新型取得商业上的成功,则该实用新型具备创造性。

 

本案中,本专利要解决的是“对女性计划生育手术中的人工流产手术、放置节育器及取出节育器手术可在直视下进行”的技术问题,附件2・・・所解决的技术问题是通过视频录影观察宫颈的病变从而进行诊断及后续治疗。附件4・・・所解决的技术问题是在手术中防止对宫颈造成损伤的情况下进行可视监控。附件2和附件4・・・没有给出将B型超声仪探头与扩张阴道的器具进行卡接进行女性计划生育手术的技术启示。

 

・・・实用新型往往是对现有技术的技术方案在形状、构造上进行简单的改进,其创造性的要求低于发明专利。本专利・・・通过卡接这种方式连接,操作简单、准确直观、节省空间,大大提高了计划生育手术的效率,减小了医生盲视状态下仅仅凭借经验操作导致失误的风险,产生了显著的效果。而且・・・本专利的提出,・・・解决了长期以来女性计划生育手术中的人工流产手术、放置、取出节育器不能在直视下进行、容易发生意外的问题。

 

・・・新证1、3能够证明本专利以及依照本专利的技术方案生产的B超监视妇产科手术仪解决了现有技术中・・・的问题。新证2、3能够证明依照本专利的技术方案生产的B超监视妇产科手术仪已经在全国广为推广并通过政府采购占有一定的市场份额。上述证据可以证明本专利已经取得商业上的成功,而且这种成功是由于该实用新型的技术特征直接导致的。

 

(日本語訳「・・・進歩性の判断においては、当該実用新案の技術的効果を考慮すべきであり、全体的な技術案から考慮し、技術的特徴を機械的に分割してはならない。当該実用新案による技術的効果が直接的にビジネス上の成功をもたらすとすれば、当該実用新案は進歩性を有している。

 

 本考案が解決しようとする課題は “女性避妊手術の人工妊娠中絶手術、子宮内避妊器具の装着と除去手術を直視で行う”ことであり、証拠文献2が・・・解決しようとする課題は、ビデオ撮影によって子宮頸部の病変をモニタリングし、診断及び治療を行うことである。証拠文献4が・・・解決しようとする課題は、手術中に子宮頸部への損傷を防止するためモニタリングすることである。証拠文献2及び証拠文献4には・・・Bモード超音波装置探触子と膣拡張器具とを係合して女性避妊手術を行うことを示唆していない。

 

・・・実用新案は往々にして先行技術の技術案について形状、構造を簡単に改善し、その進歩性に対する要求は特許より低い。本考案は・・・係合という形で接続することにより、操作が簡単で、正確で直観的であり、スペースも節約するため、避妊手術の効率を大幅に向上させ、医者が直視できない状況において経験のみで操作し、ミスを引き起こすリスクを軽減するという顕著な効果を奏する。かつ、・・・本考案によって、・・・女性避妊手術、人工妊娠中絶手術、子宮内避妊器具の装着と除去手術を直視で行うことができなかった長年に及ぶ課題を解決した。

 

 ・・・新証拠1、3は本考案及び本考案の技術案に従って製造されたBモード超音波モニター婦人科手術装置が先行技術における・・・問題を解決したことを証明できる。新証拠2、3は、本考案の技術案に従って製造されたBモード超音波モニター婦人科手術装置が既に全国規模で普及しつつあり、かつ政府導入により一定の市場シェアを占めていることを証明できる。本証拠は本考案がビジネスにおいて成功したことを証明でき、こうした成功は当該実用新案の技術的特徴が直接にもたらしたものである。」)

 

【留意事項】

 本事件において、北京市高級人民法院が権利有効との判決を下した大きな要因はビジネス上の成功であるが、実用新案権者が「ビジネスで成功している」との証拠を提出したのは高級人民法院での審理段階である。ビジネスとして成功したかどうかは、出願、登録から時間的経過を必要とし、かつ技術的要因のみによるものではない(ビジネスとして成功するかどうかは、技術、品質、価格、デザイン、ブランド力、営業力、広告宣伝など様々な要因からなる)。例えば権利化時点では実施しておらず、5年後にビジネスとして成功したとすると、権利化時点では純粋な技術的見地のみから進歩性判断を行って「無効」とされ、5年後はビジネスで成功しているという理由から「有効」と判断されるのでは、著しく合理性を欠いていると言わざるをえない。進歩性の判断においては、当該技術が有する作用効果を考慮すべきであるところ、「実際のビジネスで成功しているか否か」のみに基づいて、当該技術が有する作用効果を判断することは妥当ではないが、中国においてはこうした判断が高裁で下されることもあることに注意が必要である。ちなみに、本件の実用新案権者、無効審判請求人ともに中国企業である。

■ソース
・北京市高級人民法院行政判決2010年6月13日付(2009)高行終字第1441号
http://www.fsou.net.cn/html/text/fnl/1178292/117829203.html ・中国実用新案特許第200420012332.3号(公告番号CN 2717390Y)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.18
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