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(中国)実用新案の進歩性判断において、近接する技術分野の技術常識を考慮すべきか否かに関する事例

2013年07月16日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、各証拠文献に開示された技術はいずれも本実用新案権にかかる考案の技術分野とは近接するが異なるとした上で、通常、近接する技術分野の技術常識をその根拠として実用新案の進歩性を判断することはできない、と認定し、一審判決を維持した((2009)高行終字第603号)。
■詳細及び留意点

【詳細】

 本事件は、中国国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体が下した「無効審判請求人の請求理由は成立しない。」との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)が下した「審決を維持する。」との判決を不服として、北京市高級人民法院にて争われた事件である。

 

 本事件の争点は、「実用新案の進歩性判断において、近接する技術分野の技術常識を考慮すべきか否か。」である。

 

 中国国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、実用新案にかかる考案の進歩性を判断する際、一般には当該考案が属する技術分野を重点的に考慮する。ただし、近接或いは関連する技術分野であっても、当業者に対する技術的示唆がある場合には、当該近接或いは関連する技術分野についても考慮することができる、旨規定されている(中国特許審査基準第4部分第6章4.(1)の関連規定参照)。

 

 本実用新案権にかかる考案は、オート三輪のフレームに関し、無効審判請求の対象となった請求項1に記載された考案は、以下のとおりである。

 「前端に方向柱スリーブが溶接された前梁フレームと、後梁フレームとが一体に溶接されたオート三輪フレームにおいて、

吊金具をつなぐ前後2つの横梁(7、7′)が後梁フレームに設置され、

前記前後2つの横梁(7、7′)の両端がそれぞれ後梁フレーム両辺の縦梁(6)から伸び板バネを取り付ける吊金具に固定し、

後横梁(7′)に固定された後吊金具(5)に回転可能な吊金具(4)が接続され、

板バネの一端が回転可能な吊金具(4)に接続され、

板バネの他端が前横梁(7)に固定接続された前吊金具(1)に接続され、

後梁フレーム両辺の縦梁(6)内側にそれぞれ緩衝装置(9)が接続されている、

ことを特徴とするオート三輪のフレーム。」

(図1:1前吊金具、2位置限定ブロック、3上縦梁、4回転可能な吊金具、5後吊金具、8板バネ、9緩衝装置、11下湾曲梁)

(図1:1前吊金具、2位置限定ブロック、3上縦梁、4回転可能な吊金具、5後吊金具、8板バネ、9緩衝装置、11下湾曲梁)

 無効審判請求人は、「請求項1~4に記載の考案は、証拠文献2及び証拠文献4の組合せから容易になし得たものであり、進歩性を有しておらず、かつ、証拠文献3及び証拠文献4が示す作用と同じである。」と主張した。請求人は、口頭審理時に以下の新証拠文献1、2も提出している。

証拠文献2(実用新案第200420061690.3号)

証拠文献3(『自動車構造 第3版』人民交通出版社刊)、

証拠文献4(『自動車構造 第4版』人民交通出版社刊)、

新証拠文献1(『BJ130軽トラック取扱説明書第2版』人民交通出版社刊)、

新証拠文献2(『自動車基盤構造』湖南大学機械学部編集)

証拠文献2(中国実用新案第200420061690.3号の図):1前梁、2方向柱スリーブ、4放熱器サポート、5車体サポート、6緩衝装置サポート、7モータサポート、8取付サポータ、9ブレーキケーブルブラケット、10中横梁、11後梁、12前横梁、14フレームサポータ)

証拠文献2(中国実用新案第200420061690.3号の図):1前梁、2方向柱スリーブ、4放熱器サポート、5車体サポート、6緩衝装置サポート、7モータサポート、8取付サポータ、9ブレーキケーブルブラケット、10中横梁、11後梁、12前横梁、14フレームサポータ)

 審判部合議体は、「(1)本実用新案権にかかる考案と証拠文献2に開示された技術は、同一技術分野であるが、証拠文献3及び証拠文献4は、証拠文献2と近接した四輪自動車技術分野であり、板バネを弾性部材として採用し、非独立懸架式の車体構造を示している。(2)オート三輪のフレームは、車体フレームに設置された吊りアーム、緩衝装置に垂直に接続された吊りアーム及び後部車軸間にある。当該構造ではシャシーが高くなり、車体が横転し易くなるという課題が存在していた。本考案の目的は、前記課題を解決すること、即ちシャシーを低くしてオート三輪の安定性を向上させることである。(3)四輪自動車の安定性がオート三輪の安定性よりもはるかに高いことは技術常識であるが、一般的に四輪自動車の安定性は4つの車輪に由来するとの認識があるだけで、証拠文献3及び証拠文献4に開示された四輪自動車の非独立懸架式構造が、オート三輪の安定性の向上、横転回避という技術課題を解決することを認識できず、かつ証拠文献3及び証拠文献4にはその示唆もない。(4)無効審判請求人は、証拠文献1及び証拠文献2を用いて、本考案の技術的特徴が技術常識であることを証明しようとしているが、当該技術的特徴は四輪自動車分野における技術常識であって、オート三輪分野の技術常識ではない。したがって、本考案は、証拠文献2及び証拠文献3或いは証拠文献4の組合せからは得られず、かつ新証拠文献1及び新証拠文献2の組合せからも容易に得ることはできない。」として、本実用新案権は有効との審決を下した(第10636号審決)。

 

 本審決を不服とした無効審判請求人は、北京市第一中級人民法院にその取消を求めて提訴した。

 

 北京市第一中級人民法院は、「本考案と証拠文献2に開示の考案とは、同一技術分野であるが、請求項1に記載された技術的特徴である『前後2つの横梁(7、7′)の両端がそれぞれ後梁フレーム両辺の縦梁(6)から伸び、板バネを取り付ける吊金具に固定接続する』は証拠文献2に開示されていない。また、証拠文献3及び証拠文献4は、後梁フレーム構造のみを開示しているにすぎず、証拠文献2に開示された車体フレーム全体の構造に、証拠文献3或いは証拠文献4に開示された後梁フレームを直接採用しうることについての示唆もない。」と認定し、審決を維持する判決を下した(中行初字第67号判決)。

 

 本判決を不服とした無効審判請求人は、北京市高級人民法院に上訴した。

 

 北京市高級人民法院は、「本考案と証拠文献2に開示の考案とは、同一技術分野に属するが、新証拠文献1、2及び証拠文献3、4は、近接する技術分野に属する。一般的に、実用新案権にかかる考案の進歩性判断において、近接する技術分野の技術常識は考慮すべきでない。」と認定し、一審判決を維持する判決を下した((2009)高行終字第603号)。

 

参考(北京市高級人民法院行政判決2009年7月23日付(2009)高行終字第603号より抜粋):

根据专利法第二十二条第三款的规定,实用新型的创造性,是指同申请日以前已有的技术相比,该实用新型有实质性特点和进步。

 

根据《审查指南》的规定,在评价实用新型专利的创造性时,一般着重于考虑该实用新型专利所属的技术领域。但是现有技术中给出明确的启示,如现有技术中有明确的记载,促使本领域的技术人员到相近或者相关的技术领域寻找有关技术手段的,可以考虑其相近或者相关的技术领域。

 

附件2与本专利均涉及“三轮摩托车车架”,属于相同的技术领域。附件2没有公开本专利权利要求1中“所述前后两个横梁(7、7′)的两端分别外伸出后梁架两边的纵梁(6)与用于安装钢板弹簧的吊耳固定连接”的技术特征。

 

本专利要求保护的是车架整体结构,而从现有证据看,附件3和附件4仅给出了后悬架结构,能否在附件2的车架整体结构中直接采用附件3或附件4的后悬架结构,并没有给出明确的技术启示,也没有教导采用类似后悬架结构应用到正三轮摩托车车架结构中,可以起到降低车身底盘,增强行驶稳定性,避免倾翻的作用。请求人的新证据1、2是作为公知常识证据在口头审理过程中提交的,与对附件3、4的认定一样,属于与本专利相近的技术领域,而不是相同技术领域,相近技术领域的公知常识,一般不能作为本领域公知常识引入用以评价实用新型的创造性。

 

综上所述,请求人的上诉理由缺乏事实和法律依据,不能成立,其上诉请求本院不予支持。

 

(日本語訳「専利法第22条第3項には、実用新案の進歩性とは、出願日前に存在する技術と比較し、当該実用新案が実質的な特徴と進歩を有することを指す、と規定している。

 

 《審査指南》の規定によると、実用新案の進歩性判断において、一般には当該実用新案が属する技術分野を重点的に考慮する。しかし先行技術に明確な示唆があり、例えば、先行技術には、近い又は関連の技術分野から関連する技術的手段を見出すよう当業者を促す明確な記載があれば、近い又は関連の技術分野を考慮することができる。

 

 証拠文献2及び本実用新案は共にオート三輪フレームに関し、同一の技術分野に属するが、証拠文献2には請求項1の技術的特徴である“前記前後2つの横梁(7、7′)の両端がそれぞれ後梁フレーム両辺の縦梁(6)から伸び、板バネを取り付ける吊金具に固定接続する”ことを開示していない。

 

 本実用新案が保護を求めるのはフレーム全体の構造であり、証拠文献3及び4は後部懸架装置構造しか開示しておらず、証拠文献2のフレーム全体構造に証拠文献3或いは証拠文献4の後部懸架装置の構造を直接的に採用しうるかどうかについて明確な示唆がなく、後部懸架装置構造をオート三輪フレームの構造に応用することにより、シャシーを低くし、運転安定性を向上させ、車体の傾きや横転を回避できる役割を果たせることについても示唆されていない。無効請求人の新証拠1、2は技術常識の証拠として口頭審理の過程で提出したものであるが、証拠文献3、4の認定と同じように、本考案と同一の技術分野ではなく近い技術分野に属するものであり、近い技術分野の技術常識は一般には本技術分野の技術常識として実用新案の進歩性評価に採用しない。

 

 したがって、無効請求人の上訴理由は事実及び法的根拠を欠き、成立しない。本院はこれを支持しない。」)

 

【留意事項】

 本来、本事件の争点は「オート三輪に四輪自動車の技術を採用することに困難性があるか否か」にあるべきところ、専利覆審委員会も各人民法院も、この点について一切の議論はなく、審査基準を形式的に適用したと思われる事件である。オート三輪は、二輪と四輪の両者の技術から成り立っており、普通に考えれば(実用新案と言えども)、二輪の技術、或いは四輪の技術をオート三輪に採用することに「困難性は無い」と判断されるべきものと思われる。ちなみに、本件の実用新案権者、無効審判請求人ともに中国企業である。

■ソース
・北京市高級人民法院行政判決2009年7月23日付(2009)高行終字第603号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=96714 ・中国実用新案特許第200620109926.5号(公告番号CN2860990Y)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.15
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