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(中国)請求項に記載の「単位の無い百分率表記」は明瞭か否かに関する事例

2013年06月27日

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■概要
国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、請求項1~4に記載された「黒鉛粒子の積算値が○%以下である」という記載について、%形式で示された黒鉛粒子の積算値が、体積%なのか、重量%なのか、粒子個数%なのか、或いは他の物理量に基づいた%なのかを特定できず、請求項1~4の保護範囲を確定できないため、請求項1~4は保護を求める範囲を明瞭に記載していない、と認定し、拒絶査定を維持した(第23241号審決)。
■詳細及び留意点

【詳細】

 本事件は、審査官が「本願請求項の記載は、保護を求める範囲が不明瞭である。」として下した拒絶査定に対し、出願人がこの拒絶査定を不服として審判請求した事件である。本事件の争点は、「請求項に記載の単位の無い百分率表記は明瞭か否か」である。

 

 国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、請求項における一部の技術的特徴の記載が不明瞭であることにより、当該請求項の保護範囲を確定することができなければ、当該請求項は中国特許法実施細則第20条第1項(注:現在の中国特許法第26条第4項)の規定に合致しない、旨規定されている。(中国特許審査基準第2部分第2章3.2.2の関連規定参照)。

 

 本願発明は、カーボンブラシに関し、拒絶査定された請求項1~4記載の発明は以下のとおりである。

「【請求項1】

 フィラーとなる黒鉛粒子をレーザ回折法にて測定したときの粒度分布において、黒鉛粒子のうち粒子径が5μm以下の黒鉛粒子の積算値が10%以下であるカーボンブラシ。

【請求項2】

 前記フィラーとなる黒鉛粒子をレーザ回折法にて測定したときの粒度分布において、黒鉛粒子のうち粒子径が100μm以上の黒鉛粒子の積算値が10%以下である請求項1に記載のカーボンブラシ。

【請求項3】

 前記フィラーとなる黒鉛粒子をレーザ回折法にて測定したときの粒度分布において、黒鉛粒子のうち粒子径が10~40μmの黒鉛粒子の積算値が60%以上である請求項2に記載のカーボンブラシ。

【請求項4】

 前記フィラーとなる黒鉛粒子をレーザ回折法にて測定したときの粒度分布において、黒鉛粒子のうち粒子径が12~20μmの黒鉛粒子の積算値が40%以上である請求項3に記載のカーボンブラシ。」

 

 審査官は、「請求項1~4において、%形式で示された「黒鉛粒子の積算値」とは体積%なのか、重量%なのか、粒子個数%なのか、それとも他の物理量に基づいた%なのか不明である。『積算』とは一定の範囲内の総和であり、どのような物理量を積算したかを明確にしていない。したがって、請求項1~4は保護を求める範囲を明瞭に記載せず、特許法実施細則第20条第1項の規定に違反する。」として拒絶査定を下した。

 

 出願人は、この拒絶査定を不服として審判請求した。出願人の主張は、以下のとおりである。

(1)証拠文献1(『微粒子工学大系』第1巻、2001年10月31日発行)に開示された技術常識に基づけば、本技術分野において、レーザ回折法で測定して得られた粒度分布の結果は一般に体積を基準として示される。

(2)本願の全ての実施例及び比較例では、レーザ回折式粒度分布測定装置として島津製作所製SALD-2000Aを用いている。証拠文献2(『島津粉体測定機器―製品要覧』の中国語訳文)の内容から分かるように、同社SALDシリーズ粒度分布測定装置によって得られる粒度分布は、全て体積を基準としている。

(3)証拠文献3(特開2002-69122)及び証拠文献4(特開2002-324915)には、共にSALD2000Aを用いて粒度分布を測定し、且つ得られた粒度分布の測定結果は、全て体積を基準としていることが示されている。

(4)証拠文献5(新規セラミックス粉体手帳、1983年7月25日発行)には、レーザ前方散乱法(本願のレーザ回折法に相当)が粒度分布を測定する際、その分布基準は体積分布であることが記載されている。

 

 前置審査において、審査官は、「審判請求人が提出した証拠文献1、3~5は、レーザ回折法による粒度分布測定結果が一般に体積を基準としていることを示しているだけであり、必ず体積を基準とすることを証明するものではない。証拠文献2は、SALD-2000Aの一般的な紹介であり、SALD-2000Aの取扱説明書ではない。例えば、WO 03/042103 A1に開示された発明では、SALD-2000Aにより測定された粒度分布は重量パーセントで積算している。」とし、拒絶査定を維持した。

 

 審判部合議体は、「証拠文献2は副本であり、且つ出版状況及び公開時期に関するいかなる情報もないため、合議体はその真実性及び公開時期を確認できないため採用しない。証拠文献1、3~5には、レーザ回折法で粒度分布を測定する際に得られた結果が全て体積基準であることを示しているが、他の物理量に基づいて測定する可能性は排除されていない。特に、WO 03/042103 A1では、SALD-2000Aにより測定された粒度分布が重量%であることが開示されており、SALD-2000シリーズを用いてレーザ回折法にて粒度分布を測定した結果は全て体積%であるとは限らない。審判請求人が提出した意見書及び証拠文献1~5は、請求項1~4において示された『黒鉛粒子の積算値』の%が、体積基準であることを証明できない。」とする審判通知書を審判請求人に発し、反論の機会を与えた。

 

 審判請求人は、「(a)本技術分野における重量を基準とする粒度分布データは、体積を基準とした最初の測定データを、粒子密度を介して重量基準に換算して得られたものである。(b)WO 03/042103 A1の発明は、レーザ回折法(SALD-2000 A)にて粒度分布を測定した結果として、重量を基準とする粒度分布データを記載しているが、前述した通り、当該重量を基準とするデータは体積から換算して得られたものである。(c)証拠文献2は、公衆が公共のネットワークを介して島津製作所のウェブサイトから直接得られる電子資料であり、且つ明確な発行者及び発行アドレスがあるため、正式に発行された資料と見なすことができ、そこに掲載された技術的内容は真実であり、信頼性がある。」と反論した。

 

 審判部合議体は、「審判請求人の意見及び証拠文献1、3~5は、いずれも本願請求項1~4における『黒鉛粒子の積算値』が必ず体積%であることを依然として証明できず、また証拠文献2は採用できない。したがって請求項1~4は、保護を求める範囲を明瞭に記載していない。」と認定し、拒絶査定を維持した(第23241号審決)。

 

参考(中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2010年5月21日付第23241号より抜粋):

原专利法实施细则第20条第1款规定:权利要求书应当说明发明或者实用新型的技术特征,清楚、简要地表述请求保护的范围。

 

对所属技术领域的技术人员而言,如果一项权利要求中关于某些技术特征的表述是不清楚的,导致该权利要求的保护范围不能确定,则该权利要求不符合专利法实施细则第20条第1款的规定。

 

权利要求1-4・・・以百分比形式表示的“石墨粒子的累计值”是体积百分比、重量百分比、粒子个数百分比、还是以其他物理量为基础的百分比不清楚,致使权利要求1-4的保护范围不能确定。・・・

 

・・・附件2・・・为复印件,其中没有任何有关出版情况和公开时间的信息,复审请求人声称附件2・・・均从岛津制作所的网页上直接获取,但基于网络证据易于修改的特性,在没有其它证据予以佐证的情况下,合议组无法对其真实性和公开时间进行核实・・・。

 

附件1、3-5虽然都公开了激光衍射法测定粒度分布时获得的粒度分布测定结果均是以体积为基准表示的,但并未排除以其它的物理量为基准测定粒度分布的可能性;特别地,公开号为WO 03/042103 A1的专利申请・・・公开了・・・激光衍射法粒度分布测定装置SALD-2000测定的粒度分布按重量百分比累计。由此可见,同样是使用SALD-2000系列机型,采用激光衍射法测定粒度分布时也可以按重量百分比累计,并不必然是以体积为基准表示。复审请求人提交的意见陈述及上述附件无法证明本申请权利要求1-4中以百分比形式表示的“石墨粒子的累计值”一定是以体积为基准获得的。

 

(日本語訳「旧特許法実施細則第20条第1項には、特許請求の範囲は発明或いは実用新案の技術的特徴を説明し、保護を求める範囲を明瞭、簡潔に記載しなければならない、と規定している。

 

 当業者が、請求項における技術的特徴に関する記載が不明瞭であることにより、当該請求項の保護範囲を確定することができなければ、当該請求項は特許法実施細則第20条第1項の規定に合致しない。

 

 請求項1~4・・・百分率形式で示された「黒鉛粒子の積算値」が体積百分率なのか、重量百分率なのか、粒子数百分率なのか、それとも他の物理量に基づく百分率なのか不明であり、請求項1~4の保護範囲を確定することができない。・・・

 

 ・・・証拠文献2は・・・副本であり、且つ出版状況及び公開時期に関するいかなる情報もない。審判請求人は、証拠文献2が・・・島津製作所のウェブサイトから直接に得られるものであると主張しているが、ネットワーク証拠の変更特性に基づいて、それを証明する他の証拠もなく、合議体はその真実性及び公開時期を確認することができない・・・

 

 証拠文献1、3~5は、レーザ回折法で粒度分布を測定するときに得られた粒度分布の測定結果が体積基準であることを開示しているが、その他の物理量を基準として粒度分布を測定する可能性は排除されていない。特に、公開番号WO 03/042103 A1の特許出願では・・・レーザ回折法粒度分布測定装置SALD-2000により測定された粒度分布が重量百分率で積算することを開示している。このように、SALD-2000シリーズを用いてレーザ回折法で粒度分布を測定する際には、重量百分率でも積算でき、体積基準であるとは限らない。審判請求人が提出した意見及び前記証拠文献を持ってしても、請求項1~4における「黒鉛粒子の積算値」が必ず体積百分率を基準とすることを証明できない。」)

 

【留意事項】

 本件は、出願人が主張するとおりSALD-2000Aを用いて得られる分析結果は間違いなく「体積%」であると思われるが、数値限定特許において物理的単位が明記されていないという、あまりに単純で初歩的なミスであり、これによって重要な外国出願案件が拒絶されてしまった事案であると言わざるを得ない。発明者による原案作成から出願書類作成、翻訳作業に至る全ての過程で見過ごされたのではないかと推測されるが、(日本の審査では救われても)外国出願においては、こうした単純かつ初歩的ミスが致命傷になる可能性があることを肝に銘じるべきであり、常に万全な注意が必要である。ちなみに本願の出願人は日本企業である。

■ソース
・中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2010年5月21日付第23241号
http://www.sipo-reexam.gov.cn ・中国特許出願第03827038.2号(公開番号CN1839529A)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.16

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