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台湾における仮差押及び仮処分

2013年06月18日

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■概要
仮差押、仮処分、仮の地位を定める仮処分は、いずれも保全処分であり、知的財産案件において同様に知的財産裁判所の管轄下にある。三者とも定められた期間内に当案訴訟を提起しなければならないが、目的及び要件は、それぞれ異なっている。大別すると、仮差押は金銭債権の執行に対する処分、仮処分は作為若しくは不作為を命じる処分、仮の地位を定める仮処分は係争法律関係に対し暫定的に仮の地位を確保しておく処分である。
■詳細及び留意点

【詳細】

(1)仮差押(中国語「假扣押」)

(i)目的

 債務者が将来債務を弁済することができるよう、無断で財産を処分することを防止する。

(ii)定義

 債権者が金銭債権又は金銭で支払うことができる債権を確保するための強制執行である。債権者が裁判所に仮差押命令を申立て、当該命令により仮差押が執行され、債務者が自身の財産を処分することに制約を加える保全処分である。

(iii)管轄裁判所

(a)  本案訴訟の提起前に申し立てる場合は、係属裁判所が管轄裁判所となる。例えば、特許権侵害訴訟の場合は知的財産裁判所組織法(中国語「智慧財産法院組織法」)第3条及び知的財産案件審理法(中国語「智慧財産案件審理法」)第7条により、知的財産裁判所の管轄となる。

(b)  本案訴訟の提起後は、本案訴訟の係属裁判所の管轄となる。

(iv)申立の趣旨
 将来強制執行することができなくなるおそれがあること、又は強制執行にあたって著しい困難が生ずるおそれがあること。

(v)申立要件

 債権者は、将来強制執行することができなくなるおそれがあること、又は強制執行にあたって著しい困難が生ずるおそれがあることを釈明しなければならない。釈明が不十分な場合、又は十分ではあるが裁判所が必要と認める場合、裁判所は債権者に担保を立てるように命じる。仮差押の申立て後、債権者は、当該仮差押申立てが許可されるよう自ら担保を供する旨を申し立てるのが一般的である(民事訴訟法第522、523、526条)。

(vi)申立のタイミング

 特許権者が他人に特許権を侵害されていることを発見し、損害賠償責任を請求しようとするときなど。

(vii)制限

(a)  仮差押の債務者は、仮差押命令が執行されないように、仮差押解放金を供し、命令の執行停止または取消を求めることができる(民事訴訟法第527条)。

(b)  債務者は裁判所に対して債権者が一定期間内に本案訴訟を提起することを命じるよう申し立てることができる。債権者が本案訴訟を提起しなかった場合、債務者は、当該仮差押命令を取消すよう裁判所に申し立てることができる(民事訴訟法第529条)。

(viii)知的財産権紛争における仮差押の活用

 権利者が知的財産権侵害者に対して損害賠償を求めるべく民事訴訟を提起しようとした場合において権利侵害者が財産を隠すおそれがあることに気付いたとき、又は債権者が勝訴した際に執行できる損害賠償額を最大限に保全したいときは、訴訟の提起前または訴訟中に裁判所に仮差押を申し立てることができる。なお、損害賠償を認める判決が確定した際は、仮差押されている財産に対して強制執行し、損害を補うことができる。

 

(2)仮処分(中国語「假處分」)

(i)目的

 債権者の債権を保全し、現在又は将来これが侵害されないようにして、損害の拡大を防止すること。

(ii)定義

 債権者に金銭債権以外の権利を保全し、又は係争法律関係において、債務者に作為若しくは不作為を求める必要がある場合、裁判所が債権者の申立により、一定の処分を命じる保全処分である。

(iii)管轄裁判所

(a)  本案訴訟の提起前に申し立てる場合は係属裁判所が管轄裁判所となる。例えば特許権侵害訴訟の場合、知的財産裁判所組織法第3条及び知的財産案件審理法第7条により知的財産裁判所の管轄となる。

(b)  本案訴訟の提起後は、当本案訴訟の係属裁判所の管轄となる。

(iv)申立の趣旨

 請求対象の現状に変更が生じ、将来強制執行をすることができなくなるおそれがあること、又は強制執行にあたって著しい困難が生ずるおそれがあること。

(v)申立要件

 債権者は、仮処分を申し立てる趣旨を釈明しなければならない。釈明が不十分な場合、又は十分ではあるが裁判所が必要と認める場合、裁判所は債権者に担保を立てるように命じる。実務上、担保を立てるように命じられることは一般的であり、債権者は、仮処分申立てが許可されるよう申立てに際して自ら担保を供することを申し立てる(民事訴訟法第526、532、533条)。

(vi)申立のタイミング

 特許権者が他人に特許権を侵害されていることを発見し、当該侵害行為を差止めようとするときなど。

(vii)制限

(a)  仮処分の債務者は、仮処分命令が執行されないようにするために、仮処分解放金を供することにより命令の執行停止または取消を求めることはできない。但し、債務者が当該仮処分により回復できない重大な損害を被ることになり、またはその他特別な事情があるときに限り、裁判所は職権により仮処分命令書において債務者が仮処分の執行停止を得るために供託すべき金銭の額を定めることができる。この他債務者も裁判所にこれを申立てることができる(民事訴訟法第536条)。

(b)  債務者は裁判所に対して債権者が一定の期間内に本案訴訟を提起することを命じるよう申し立てることができる。債権者が本案訴訟を提起しなかった場合、債務者は、当該仮処分命令を取消すよう裁判所に申し立てることができる(民事訴訟法第529、533条)。

(viii)知的財産権紛争における仮処分の活用

 例えば、A社とB商標権者が商標譲渡契約を締結したが、B商標権者がこれを履行せずに第三者Cに譲渡しようとしたとき、裁判所はA社の申立てにより、B商標権者による係争商標の譲渡、権利許諾、質権設定、信託及びその他一切の処分又はその他負担の設定を禁止し、台湾特許庁に登記又は登記変更の請求を差止めることを命じることができる。

 

(3)仮の地位を定める仮処分(中国語「定暫時狀態處分」)

(i)目的

 重大な損害が発生することを回避するため、当事者間の法律関係を暫定的に確定しておき、公益を守る。

(ii)定義

 継続的な法律関係にある双方当事者が係争法律関係において争う事項があるとき、当該法律関係は中断できない性質を有するため、訴訟提起前又は進行中においても当該法律関係を暫定的に認める必要がある。このため、訴訟当事者は、裁判所に当該法律関係を暫定的に確定しておくことを申し立てることによって権利主張時にこれを根拠とすることができる。例えば、近隣している土地において、隣地の道路を通行するしか通過する手立てがないとき、当該土地の所有権者は裁判所に暫定的に隣地を通行できる仮の地位を定める仮処分を申し立てることができる。

(iii)管轄裁判所

(a)  本案訴訟の提起前に申し立てる場合は、係属裁判所が管轄裁判所となる。例えば特許権侵害訴訟の場合、知的財産裁判所組織法第3条及び知的財産案件審理法第7条により、知的財産裁判所の管轄となる。

(b)  本案訴訟の提起後は、本案訴訟の係属裁判所の管轄となる。

(iv)申立の趣旨

 係争の法律関係に対し、債権者に生じる重大な損害、切迫した危険、又はその他類似する事情を回避する。

(v)申立要件

 債権者は、仮の地位を定める仮処分を申し立てる趣旨を釈明しなければならない。釈明が不十分な場合、又は十分ではあるが裁判所が必要と認める場合、裁判所は債権者に担保を立てるように命じる。実務上、担保を立てるよう命じられることは一般的であり、債権者は、仮処分命令が許可されるよう申立てに際して自ら担保を供することを申し立てる(民事訴訟法第526、533、538-4条、知的財産案件審理法第22条)。

(vi)申立のタイミング

 特許権の帰属について争っているとき、一方の当事者が先に当該特許を実施する必要がある場合など。判決確定を待たずに先に仮の地位を確定することで、申立人が訴訟進行中または確定前に暫定的に係争特許を実施することが可能になる。

(vii)制限

(a)  仮の地位を定める仮処分の債務者は仮処分解放金を供することにより、命令の執行停止または取消を求めることはできない。但し、当該処分により保全された債務者の請求が金銭の給付により弁済できる場合、債務者が当該仮処分により回復できない重大な損害を被るとき、又はその他特別な事情があるときに限り、裁判所は職権により仮処分命令書において、債務者が仮処分の執行停止を得るために供託すべき金銭の額を定めることができる。この他債務者も裁判所にこれを申し立てることができる(民事訴訟法第536、538-4条)。

(b)  知的財産案件審理法第22条第5項により、債務者は裁判所に対して、命令書が送達された日から30日内に当案訴訟を提起することを債権者に命じるように申し立てることができる。債権者が30日内に起訴しなかったとき、裁判所は申立て又は職権により、これを取り消すことができる。

(viii)知的財産権紛争における仮の地位を定める仮処分の活用

 例えば、著作権者の著作物である映画が上映中であるにもかかわらず、既に当該映画の海賊版ディスクが販売されていることを発見したときは、映画の上映期間が短く、且つ海賊版の流通スピードが速いことから、著作権者と映画興行業者の利益に甚大な影響を及ぼすことに鑑みて、重大な損害又は差し迫った危険を回避、またはその他特別な事情が発生することを防止しなければならない。このため、著作権者は即刻海賊版ディスクの販売を差止めるよう、仮の地位を定める仮処分を申し立てることができる。

 

【留意事項】

(1)仮の地位を定める仮処分は、債権者が命令書の送達日から30日内に、訴訟を提起しなければならない旨が明文で規定されている(知的財産案件審理法第22条第5項)。このため、債権者は当該処分を申し立てる時、又は申し立てる以前に訴訟の準備に取り掛かることが望ましい。また、仮処分と仮差押においても、裁判所は債務者の申立により債権者に一定期間内に訴えを提起するよう命じるので、早期に訴えの準備に取り掛かることが望ましい。

 

(2)債権者が供託すべき金銭の額は明文では規定されていないため、裁判所は各案件に応じて金額を定める。仮差押の場合、実務において、裁判所は通常債権者の本案訴訟債権額の三分の一程度の担保を立てるように命じるが、仮処分と仮の地位を定める仮処分の場合は、債務者の被った損害を基準として定めるので、裁判所が定める金額を事前に予測することはできない。

 仮差押、仮処分、仮の地位を定める仮処分は、目的及び要件がそれぞれ異なるため、これらを混同しないよう、仮処分を申し立てる際には、事前にそれぞれの内容を理解しておくことが望ましい。

■ソース
•台湾民事訴訟法
http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawContent.aspx?PCODE=B0010001 •台湾知的財産案件審理法
http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawContent.aspx?PCODE=A0030215
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.01.08

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