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(中国)請求項記載の化合物発明が明細書に支持されているか否かに関する事例

2013年06月13日

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■概要
国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、実施例に開示されたHCVセリンプロテアーゼ阻害活性を有する化合物CU、EC、EPに基づいて、当業者は、補正後の請求項1で定義した基の変化が、構造式1で示される化合物の全体的な活性に著しく影響するまでには至らないと合理的に予期でき、構造式1で示される一部の化合物が相応のHCVセリンプロテアーゼ阻害活性を有していないことを証明するいかなる反対証拠もなく、又は合理的に疑う理由がないため、請求項1記載の発明は明細書に支持されていると認定すべきである、として、拒絶査定を取消した(第44311号審決)。
■詳細及び留意点

【詳細】

 中国国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には「『特許請求の範囲は明細書を根拠とすべきである』とは、請求項記載の発明が明細書に支持されているべきであることを意味し、各請求項において保護する発明は、当業者が明細書に開示された内容から、或いは概括して得られた技術案であって、且つ明細書の開示範囲を超えてはならない。」と規定されている(中国特許審査基準第2部分第2章3.2.1の関連規定参照)。

 本願発明は、構造式1を有する化合物であるペプチド模倣プロテアーゼインヒビターに関する。審査官は、「請求項1~20で使用する置換基は、例えば、脂肪族基、芳香族基、環式基、ヘテロシクリル基、シクロアルキル基など異なる化合物を大量に含み、基に限定を加えない置換等があり、これらの置換基は大きさが限定されず、性質の差が大きいばかりではなく、明細書で支持される範囲を遥かに超えている。当業者は、本願発明を実現するには、過度のスクリーニング、或いは創造的な労力を必要とする。したがって請求項記載の発明は、明細書に支持されておらず、特許法第26条第4項の規定に合致しない。」として拒絶査定を行った。

 本査定を不服とした出願人は、拒絶査定不服審判を請求すると同時に請求項を補正したが、前置審査において審査官は、「依然として拒絶の理由は解消されていない。」と判断した。審判段階で、出願人は更に請求項1を以下のとおり補正した。

「構造式1を有する化合物或いはその薬用塩であって、

R0は1つの結合であり、

R1は水素であり、

R2はシクロプロピル或いはシクロブチルであり、

R3は水素であり、1つ又は複数の置換されない、或いは1つ又は複数のハロゲンに置換されたC1-C4アルキル基又はC2-C4アルケニル基に置換されたメチレンであり、

R4、R6及びR8はそれぞれが独立した水素であり、

R5は1つ又は複数の置換されないC1-C4アルキル基又はC2-C4アルケニル基に置換されたメチレンであり、

R7はC5-C6単環シクロアルキル基に置換されたメチレンであり、

R9は1つ或いは複数の炭素原子及び、1つ或いは複数のN、O及びSから選択されたヘテロ原子を含有する5~6員単環ヘテロアリール基;又は((C1-C4アルキル基)OC(O)NH-)-に置換されたC1-C4アルキル基であり、

は置換されない、或いは、1つ或いは複数のハロゲンに置換された

Lは-C(O)-或いは-OC(O)-であり、

n=1である、

ことを特徴とする構造式1を有する化合物或いはその薬用塩。」

補正後の請求項1に記載された各置換基と、実施例に開示された化合物CU、EC及びEPの各置換基とを比較すれば、下表のとおりである。

 審判部合議体は、「請求項1記載の発明と実施例に開示された化合物CU、EC及びEPの各置換基との比較から分かるように、請求項1におけるR0及びR1に対する定義は、化合物CU、EC、EPと同様である。R2、R3、R5、R7、R9、 及びLに対して定義した基は化合物CU、EC、EPの相応の置換基と同一、或いは構造や性質が近い基である。

 例えば、R2が定義したシクロプロピルは化合物CU、EC、EPと同一であり、シクロブチル及びシクロプロピルは、炭素原子数が近いナフテン基でありその性質は近い。

 R3が定義した「1つ又は複数の置換されない、或いは1つ又は複数のハロゲンに置換されたC1-C4アルキル基、或いはC2-C4アルケニル基に置換されたメチレン」がカバーしている基は、全て実施例の「プロピル基に置換されたメチレン」の化学的性質に近い。

 R5が定義した「1つ又は複数の置換されないC1-C4アルキル基、或いはC2-C4アルケニル基に置換されたメチレン」がカバーしている基は、全て実施例の「tert-ブチル基或いはイソブチル基に置換されたメチレン」の化学的性質に近い。

 R7が定義した「C5-C6単環シクロアルキル基に置換されたメチレン」において、C6単環シクロアルキル基に置換されたメチレンは、実施例においてシクロヘキシル基に置換されたメチレンであり、C5単環シクロアルキル基はC6単環シクロアルキル基と炭素原子数が近いシクロアルキル基であって性質は近い。

 R9が定義した「1つ或いは複数の炭素原子及び、1つ或いは複数のN、O及びSから選択されたヘテロ原子を含有する5~6員単環ヘテロアリール基」は、性質及び構造が近い単環ヘテロアリール基であり、「 ((C1-C4アルキル基)OC(O)NH-)-に置換されたC1-C4アルキル基」がカバーした基と性質が近いものであり、化合物CU、EC及びEPは、ピラジニル基及びCH3OCO-NH-CH(CH3)-である。

 

 構造及び性質が近く、また当該窒素含有複素環におけるハロゲンは、当業者が化合物を製造する工程で常用される環置換基に過ぎない。

Lが定義した-C(O)-は実施例に記載されており、-OC(O)-は-C(O)-と性質が十分に近い。」と認定した。

 以上の認定を踏まえ、審判部合議体は、「実施例に開示された化合物CU、EC、EPに基づき、当業者はその専門知識によって請求項1に記載された構造式1に示された化合物の全体的な活性を合理的に予期できる。よって、請求項1記載の発明は、明細書によって支持されている。」と認定し、拒絶査定を取消した(第44311号審決)。

参考(中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年7月9日付第44311号より抜粋):

专利法第26条第4款规定:权利要求书应当以说明书为依据,说明要求专利保护的范围。

如果权利要求所要求保护的技术方案是所属技术领域的技术人员能够从说明书充分公开的内容中得到或概括得出的技术方案,则权利要求能够得到说明书的支持。

在复审决定文本中,权利要求1对R0和R1的定义与化合物CU、EC、EP相同;对R2、R3、R5、R7、R9、 和L定义的基团与化合物CU、EC、EP的相应取代基相同或是结构、性质相近的基团・・・。

因此,合议组认为:根据说明书实施例已公开的具有HCV丝氨酸蛋白酶抑制活性的化合物CU、EC、EP,本领域技术人员结合专业知识可以合理地预期,R2、R3、R5、R7、R9、 和L的定义中的这些基团的变化不致于显著影响式1化合物的整体活性,因此,在没有任何相反证据证明或没有合理理由怀疑权利要求1通式1中某些化合物不能具备相应HCV丝氨酸蛋白酶抑制活性的情况下,应当认为该权利要求1能够得到说明书的支持,符合专利法第26条第4款的规定。基于与权利要求1中相同的理由,权利要求2-11也得到了说明书的支持,符合专利法第26条第4款的规定。

(日本語訳「特許法第26条第4項の規定により、特許請求の範囲は明細書を根拠として特許が保護を求める範囲を説明しなければならない。

 請求項で保護を求める技術案が、明細書に開示された内容から得られ、或いは概括して得られる技術案であれば、請求項は明細書の支持を得ている。審決書中において、請求項1のR0及びR1に対する定義は化合物CU、EC、EPと同じであり;R2、R3、R5、R7、R9、 及びLに対して定義した基は化合物CU、EC、EPの相応の置換基と同一、又は構造や性質が近い基であり・・・。

したがって合議体は、明細書実施例において開示しているHCVセリンプロテアーゼ阻害活性を有する化合物CU、EC、EPに基づいて、当業者はその専門知識によって、R2、R3、R5、R7、R9、 及びLが定義したこれらの基の変化が、構造式1の化合物の全体的な活性に著しく影響するまでには至らないと合理的に予期でき、請求項1の構造式1の一部の化合物が相応のHCVセリンプロテアーゼ阻害活性を有していないことを証明するいかなる反対の証拠もなく、又は合理的に疑う理由がないため、当該請求項1は明細書の支持を得ており、特許法第26条第4項の規定に合致すると認めるべきである。請求項1と同様の理由で、請求項2-11も明細書の支持を得ているため、特許法第26条第4項の規定に合致する、と認定する。」)

 

【留意事項】

 本事件は、クレーム記載の化合物について、化学的にほぼ等価な物質の全てを実施例で開示する必要は無い、という審判部による判断により拒絶査定を覆した事案である。審査では見られる「専門的知識を軽視した強引な拒絶査定」の一例でもあるが、審査段階でこのような拒絶理由を受けた場合には、審判で争わざるを得ないことが多い。ちなみに本件の出願人は米国企業である。

■ソース
・中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年7月9日付第44311号
http://www.sipo-reexam.gov.cn ・中国特許出願第200610080326.5号(公開番号CN1869061A)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
構造社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.10

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