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(韓国)実施例記載の必要性、数値限定発明の明細書記載要件、詳細な説明により裏づけられるか否かの判断基準を判示した事例

2013年05月31日

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■概要
大法院は、記載要件に関して、明細書に実施例が記載されていなくても明細書記載要件が充足される場合が有ること、数値限定発明の数値限定が単に発明の適当な実施範囲や形態などを提示する程度の単純な数値限定に過ぎないのであれば、明細書の数値限定の理由や効果が記載されていなくても明細書記載要件に違反するとはいえないこと、請求項が発明の詳細な説明により裏づけられるかは通常の技術者の立場で特許請求の範囲に記載された事項と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているかにより判断しなければならないことを判示した。

本件は、記載不備であるとした原審判決を破棄した事例である。
■詳細及び留意点

 (1) 当該事件の第1項発明は、「エタノールアミン、過酸化水素、水酸化ナトリウム及びホウ砂を446-1944:406-1710:885-2928:562-2543重量部で含む燃料添加剤」で、燃料添加剤を構成する各成分の組成比を数値により限定して表現した発明に該当する。原審の特許法院判決は、当該事件の特許発明の明細書に、(ⅰ)当該事件の第1項発明の燃料添加剤を構成する各成分の組成比の数値限定の理由や効果に関する記載がなく、(ⅱ)エタノールアミンの種類を特定した具体的な実施例の記載がないという理由などを挙げ、当該事件の第1項発明及びこれを引用する従属項である当該事件の第2項、第3項、第5項、第6項、第8項、第11項発明に関連して旧特許法第42条第3項に違反した記載不備があると判断した。

 韓国特許実務において、化学関連発明の場合、その実現可能性と予測可能性が著しく低い技術分野に属するため、その発明の反復再現のため実施例の記載が必要的記載要件として扱われた。また、数値限定発明の場合、その数値限定の理由と効果に関して発明の詳細な説明に記載がなければ明細書記載不備と見做され、組成物発明の場合は、特許請求の範囲にその組成成分の組成比が記載されることを要求する実務も行われていた。本件事案は、上記のような特許実務がそのまま争点として争われたものであるが、特許庁の特許実務を追認した原審の特許法院判決と異なり、本件の大法院判決では、発明の性格や内容などによりその記載事項の適法要件を問わなければならないという原則下で、本件事案は実施例の記載、数値限定の理由及び効果、従属項の組成成分比などの記載がなくても構わない事例であると判断された。

 

 (2) 実施例の記載について、本件の大法院判決は、旧特許法第42条第3項に関して、「当該発明の性格や技術内容などによっては、明細書に実施例の記載がなくても、通常の技術者がその発明を正確に理解し再現することが容易な場合もあるので、旧特許法第42条第3項で定めた明細書記載要件を充足するため、常に実施例が記載されなければならないことではない」という一般的な法理下で、「当該事件の第1項発明の燃料添加剤を構成する各成分中の一つである『エタノールアミン』は、その用語の意味とともに当該事件の特許発明の明細書に『エタノールアミン(TEAなど)によりホウ砂の凝固及び沈殿とグリセリンの凝固減少を予防した』と記載されている点などを参酌すれば、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)及びトリエタノールアミン(TEA)の全てを含むものと解釈される。しかし、当該事件の特許発明の明細書の上記の記載、…などの記載、及び記録で示された当該事件の特許発明出願当時の技術常識をまとめてみると、これらの3種類のエタノールアミンは、全てアミン系の安定剤の一種であって、…同じ役割をするものであり、但しアンモニア(NH₃)の水素を置換したヒドロキシエチルラジカル(-CH₂CH₂OH)の数が1、2、及び3個の差があるだけであることが分かる。したがって、当該事件の特許発明の明細書にこれらのエタノールアミンの全部又は一部を組成成分とする燃料添加剤の具体的な実施例の記載がなくても、通常の技術者は、これらのエタノールアミンの上記のような役割及びヒドロキシエチルラジカルの数の差を考慮して、過度な実験や特殊な知識を付加しなくても、当該事件の第1項発明を正確に理解し再現できるといえる」と判示した。

 

 (3) 数値限定発明における限定の理由及び効果の記載に関しては、「そのような数値限定が単に発明の適当な実施範囲や形態などを提示するためのもので、それ自体に特別な技術的特徴がなく通常の技術者が適切に選択して実施できる程度の単純な数値限定にすぎなければ、そのような数値限定に関する理由や効果の記載がなくても、通常の技術者としては、過度な実験や特殊な知識の付加なしでその意味を正確に理解してこれを再現することができるので、この場合には、明細書に数値限定の理由や効果の記載がなくても、旧特許法第42条第3項に違反するといえない」という一般的な法理下で、「当該事件の特許発明の明細書によると、当該事件の第1項発明は、…エタノールアミン、過酸化水素、水酸化ナトリウム及びホウ砂の4つの物質を燃料添加剤の組成成分として混合することに技術的特徴がある発明である。その組成比に対する数値限定は、そのような限定がなければ発明が成立しないということではなく、単に当該事件の第1項発明を実施するのに適当な組成比の範囲を提示したものであって、それ自体に特別な技術的特徴はなく、通常の技術者が適切に選択し実施できる程度の単な数値限定にすぎないと見られる。したがって、上記のとおり、当該事件の特許発明の明細書において、組成比の数値限定に関する具体的な理由や効果の記載がなくても、それとは関係なく通常の技術者であれば、過度な実験や特殊な知識を付加しないで、上記の数値限定の意味を正確に理解してこれを再現することができるといえる」と判示した。

 

 (4) 一方、第1項の組成物を引用している従属項の発明は、第1項の成分以外に追加成分を付加する形態の従属項であり、第1項で成分比が提示されていることと異なり追加成分の成分比が提示されていなかった。

 本件の大法院判決は、「旧特許法第42条第4項第1号は、特許請求の範囲において保護を受けようとする事項を記載した項(請求項)が発明の詳細な説明により裏づけられることを規定したその趣旨は、特許出願書に添付された明細書の発明の詳細な説明に記載されなかった事項が請求項に記載されることにより、出願人が公開しなかった発明に対して特許権が付与される不当な結果を防ぐためのものであり、請求項が発明の詳細な説明により裏づけられるか否かは、特許出願当時の技術水準を基準として通常の技術者の立場から特許請求の範囲に記載された事項に対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かにより判断しなければならない(大法院判決 2006年5月11日付宣告2004후1120、大法院判決 2006年10月13日付宣告2004후776など参照)」という一般的な法理下で、「当該事件の第3項、第5項、第11項発明は、各々当該事件の第1項発明を引用する従属項であり、当該事件第3項発明は、『炭酸カリウム又は炭酸カルシウムを更に含む燃料添加剤」の構成を、当該事件の第5項発明は、『グリセリン、燐酸又はオレイン酸を更に含む燃料添加剤』の構成を、当該事件の第11項発明は、『炭酸カリウムを混合し低温燃焼を誘導することによりNOxを制御する燃料添加剤』の構成を、各々付加したものである。…これらの構成は、全て発明の詳細な説明により裏づけられるといえるので、これに旧特許法第42条第4項第1項を違反した記載不備があるとはいえない」と判示した。

 

 (5) 結局、記載不備であると判断した原審に誤りがあるとして、原審判決を破棄し、原審法院に差し戻した。

 

参考(大法院判決2011年10月13日付宣告2010후2582【登録無効(特)】より抜粋):

 

1. 구 특허법(2007. 1. 3. 법률 제8197호로 개정되기 전의 것, 이하 같다) 제42조 제3항에 관한 상고이유에 대하여

가. 구 특허법 제42조 제3항은 발명의 상세한 설명에는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자(이하 ‘통상의 기술자’라고 한다)가 용이하게 실시할 수 있을 정도로 그 발명의 목적•구성 및 효과를 기재하여야 한다고 규정하고 있는바, 이는 특허출원된 발명의 내용을 제3자가 명세서만으로 쉽게 알 수 있도록 공개하여 특허권으로 보호받고자 하는 기술적 내용과 범위를 명확하게 하기 위한 것이므로, 위 조항에서 요구하는 명세서 기재의 정도는 통상의 기술자가 출원 시의 기술수준으로 보아 과도한 실험이나 특수한 지식을 부가하지 않고서도 명세서의 기재에 의하여 당해 발명을 정확하게 이해할 수 있고 동시에 재현할 수 있는 정도를 말한다(대법원 2005. 11. 25. 선고 2004후3362 판결, 대법원 2006. 11. 24. 선고 2003후2072 판결 등 참조). 그리고 당해 발명의 성격이나 기술내용 등에 따라서는 명세서에 실시례가 기재되어 있지 않다고 하더라도 통상의 기술자가 그 발명을 정확하게 이해하고 재현하는 것이 용이한 경우도 있으므로 구 특허법 제42조 제3항이 정한 명세서 기재요건을 충족하기 위해서 항상 실시례가 기재되어야만 하는 것은 아니다. 또한 구성요소의 범위를 수치로써 한정하여 표현한 발명에 있어서, 그러한 수치한정이 단순히 발명의 적당한 실시 범위나 형태 등을 제시하기 위한 것으로서 그 자체에 별다른 기술적 특징이 없어 통상의 기술자가 적절히 선택하여 실시할 수 있는 정도의 단순한 수치한정에 불과하다면, 그러한 수치한정에 대한 이유나 효과의 기재가 없어도 통상의 기술자로서는 과도한 실험이나 특수한 지식의 부가 없이 그 의미를 정확하게 이해하고 이를 재현할 수 있을 것이므로, 이런 경우에는 명세서에 수치한정의 이유나 효과가 기재되어 있지 않더라도 구 특허법 제42조 제3항에 위배된다고 할 수 없다.

 

(日本語訳「1.旧特許法(2007年1月3日付法律第8197号に改正される前のもの、以下同じ)第42条第3項に関する上告理由に関して

イ.旧特許法第42条第3項は、発明の詳細な説明にはその発明の属する技術分野で通常の知識を有した者(以下「通常の技術者」という)が容易に実施できる程度までその発明の目的·構成及び効果を記載しなければならないと規定し、これは、特許出願された発明の内容を第三者が明細書だけで容易に分かるように公開し、特許権として保護を受けようとする技術的内容と範囲を明確するためであり、上記条項で要求する明細書記載の程度は、通常の技術者が出願時の技術水準から見て過度な実験や特殊な知識を付加しなくても明細書の記載により当該発明を正確に理解できるとともに再現できる程度をいう(大法院判決 2005年11月25日付宣告2004후3362、大法院判決 2006年11月24日付宣告2003후2072など参照)。また、当該発明の性格や技術内容などによっては、明細書に実施例の記載がなくても、通常の技術者がその発明を正確に理解し再現するのが容易である場合もあるので、旧特許法第42条第3項で定めた明細書記載要件を充足するため、常に実施例を記載しなければならないことではない。また、構成要素の範囲を数値により限定して表現した発明において、そのような数値限定が単に発明の適当な実施範囲や形態などを提示するためのもので、それ自体に特別な技術的特徴がなく通常の技術者が適切に選択して実施できる程度の単純な数値限定にすぎなければ、そのような数値限定に関する理由や効果の記載がなくても、通常の技術者としては、過度な実験や特殊な知識の付加なしでその意味を正確に理解してこれを再現することができるので、この場合には、明細書に数値限定の理由や効果の記載がなくても、旧特許法第42条第3項に違反するといえない。」)

 

【留意事項】

 既存の特許実務において化学関連分野では厳しく実施例の記載を要求している。本件の大法院判決は、発明の内容や正確に応じて実施例がなくても通常の技術者が容易に理解でき繰返して再現することができれば、実施例の記載がなくても発明の詳細な説明が記載不備であるといえない、という一般論を化学分野に適用したことにその意味がある。本件の当該発明は、反応が随伴される化学的製造方法や未知の属性の発見を本質とする用途発明ではなく、組成成分の組合せとこれらの成分の向上された効果により発明が具現される組成物発明という特殊性とこれらの成分が全て当該分野で広く知られている成分であることと、これらの機能と作用が明細書本文で明確に開示されていたという事情が考慮された事案であるので、本件事例を化学分野全体に適用するのは困難である。

 

 さらに、本件の大法院判決は、数値限定発明に関しても、その数値限定だけにより特許性を主張する発明ではなくその数値限定が補助的構成であってその限定に特別な技術的意義がない場合には、少なくとも明細書の記載不備として取り扱ってはいけないという指針を提供している。この大法院判決の判示によると、もし数値限定により特許性を主張する場合には、その数値限定の理由及び効果などを明細書に明確に記載してこそ特許性主張の根拠となり、明細書の記載不備も避けられるので、この点に留意しなければならない。

 

 また、上記大法院判決は、組成物発明に関しても、請求項に組成比の記載がないという理由だけでその権利範囲が発明の詳細な説明に比べて範囲が広いと指摘してはいけないという指針を提供している点にその意義がある。

■ソース
大法院判決2011年10月13日付宣告2010후2582
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=B2FDBD173A373012E043AC100C643012&courtName=대법원&caseNum=2010후2582&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.08
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