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(中国)実用新案権にかかる考案と証拠に開示された技術との相違点の改良は、当業者にとって自明であるか否かに関する事例

2013年05月31日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、「当業者が、証拠文献1に開示された技術に基づいて本実用新案権の請求項1に記載された考案を得るのは自明である。」として、『中華人民共和国行政訴訟法』第61条第1号の規定に基づき、一審判決を維持した((2011)高行終字第1286号判決)。
■詳細及び留意点

 本事件は、中国国家知識産権局専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体が下した「無効審判請求人の請求理由は成立しない。」との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)が下した「審決を取消す。」との判決を不服として、審判部が北京市高級人民法院に上訴した事件である。

 

 本事件の争点は、「本件実用新案権にかかる考案と証拠に開示された技術との相違点の改良は、当業者にとって自明であるか否か。」である。

 

 中国国家知識産権局が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、「実用新案権における進歩性とは、出願日前の既存技術と比較し、当該実用新案権にかかる考案が実質的な特徴と進歩を有することを指す。」と規定されている(中国特許審査基準第4部分第6章第4節の関連規定参照)。

 

 本実用新案権にかかる考案は、撮影機能付きカメラケースに関し、請求項1に記載された考案は、以下のとおりである。

 「前カバー1、後カバー2、左カバー3及び右カバー4の4部分からなる撮影機能付きカメラケースにおいて、

 前記4部分がネジ6等の固定用部材で位置決めされ、

 上部の非電子ビューファインダー5と組合わされ、

 ムーブメント・モジュールを収納可能な中空キャビネットを形成し、

 且つ4部分に、ムーブメント・モジュール回路で接続される各機能ボタン、インターフェース等に対応する開口部を設けた、

 ことを特徴とする撮影機能付きカメラケース。」

本考案の略図

本考案の略図

 

 無効審判請求人は、証拠1『Canon MV6iMCの実物写真(テープ及びメモリカードを共に記憶媒体とした製品)』を提出し、「本実用新案権にかかる考案は、既存技術に対して進歩性を有していない。」と主張した。

 

 審判部合議体は、「本実用新案権にかかる考案と証拠1に開示されたカメラとの主な相違点は、本考案のカメラケースが4つの部分から構成されているのに対し、証拠1に開示されたカメラケースは6つの部分から構成されている点である。本考案のカメラケースは、上記構成の違いにより、金型の開発及び組立てが容易であり、コスト削減という証拠1の技術に無い効果を奏する。したがって本実用新案権の請求項1に記載された考案は、証拠1に開示された技術に対し、実質的な特徴と進歩を有する。」として、本実用新案権は有効との審決を下した(第15375号審決)。

 

 本審決を不服とした無効審判請求人は、北京市第一中級人民法院に審決取消訴訟を提起した。

 

 中級人民法院は、「記憶媒体技術の発展により従来の磁気テープに加えてメモリカードが登場し、カメラがメモリカードのみを記憶媒体とする場合、先行技術である証拠1に開示されたカメラケースを、メモリカード専用に合わせて改造する程度のことは、当業者にとって容易に想到し得ることである。よって証拠文献1に開示された技術から、本実用新案権の請求項1に記載された考案をなし得ることは当業者にとって自明である。」として、審決を取消した。

 

 本判決を不服とした審判部は、一審判決の取消しを求めて高級人民法院に上訴した。審判部は、「カメラケース分野において、ケースの部品点数を減らし、金型開発及び製造コストを削減することは、常にメーカーにおける技術的な目標であり要求である。こうした目標の効果を実現した本件考案が進歩性を有していないとの認定は誤りである。」と主張した。

 

 これに対し高級人民法院は、「本実用新案権にかかる考案は、記憶媒体としてメモリカードのみを使用しているため、当該カメラケースには磁気テープを収納する部分を設ける必要がない。使用する記憶媒体に応じ、証拠1に開示されたカメラ実物の技術に基づいて本請求項1に記載された考案を得るのは、当業者にとって自明である。」と認定し、一審判決を維持した。

 

参考(北京市高級人民法院行政判決2011年11月18日付(2011)高行終字第1286号より抜粋):

  实用新型专利的创造性是指同申请日以前已有的技术相比,该实用新型具有实质性特点和进步。

 

  在摄像机外壳设计制造领域中,成本以及售后产品维修的便捷性是本领域技术人员在设计摄像机外壳时必然要考虑的因素。外壳部件的数量越多,其加工开模、组装越复杂,所需成本也越高,对此作为本领域技术人员应当是公知的。由于证据1摄像机实物可以使用摄像带和记忆卡作为存储介质,当使用摄像带作为存储介质时,出于方便使用者插入和取出摄像带,以及方便维修等目的,故证据1摄像机实物采用了左侧盖与左侧顶侧盖、底盖分离的设计。

 

  随着摄像机存贮介质技术的发展,摄像带被记忆卡所取代,在摄像机仅使用记忆卡作为存储介质时,本专利所属技术领域的技术人员不需要创造性劳动即可以想到对作为现有技术的证据1摄像机实物的外壳进行改造,以减少外壳部件的数量,便于开模和组装,从而降低成本。由于本专利是使用记忆卡而不使用摄像带作为摄像机的存储介质,因此,不需要在本专利摄像机外壳上设置存放摄像带的部分。根据本专利所使用的存储介质的具体情况,本专利所属技术领域的技术人员根据证据1摄像机实物所公开的技术方案得到本专利权利要求1的技术方案是显而易见的。

 

(日本語訳「実用新案権における進歩性とは、出願日前に既にある先行技術と比較し、当該実用新案権が実質的な特徴と進歩を有することを指す。

 

 カメラケースの設計製造分野において、製造コスト及び販売後の製品修理の利便性は、カメラケースを設計する際、必然的に考慮すべき事項である。ケースの部品点数が多いほど金型開発や組立てが複雑になり、コストも高くなるのは、当業者にとって公知の常識である。証拠1のカメラ実物は、テープ及びメモリカードを共に記憶媒体として使用できるが、テープを記憶媒体として使用する際に、便利に挿入・取出し、及び修理の利便性を目的として、左側カバー、左側上部カバー、底カバーとを分離する設計を採用しているものである。

 

 カメラの記憶媒体技術の発展につれて、テープはメモリカードに取って代わられており、カメラがメモリカードのみを記憶媒体とする場合、当業者は創造的な労力を要することなく、先行技術である証拠1のカメラ実物のケースを改造し、ケース部品点数を減らし、金型開発と組立てを容易にし、コストを低減することを容易に想到しうる。本考案は、カメラの記憶媒体としてテープを使用せず、メモリカードを使用しているため、ケースにテープを収納する部分を設置する必要がない。使用する記憶媒体に応じ、証拠1のカメラ実物に開示された技術案に基づいて請求項1の技術案を得るのは当業者にとって自明である。」)

 

【留意事項】

 本実用新案の出願は2004年であるが、メモリカードは既にデジタルカメラ・ムービーの記憶媒体として普及しており、磁気テープを使用しない機種の設計として、本考案の構造を採用するのに「創造的な労力を要しない」とした人民法院の判断は妥当なものである。

 

 中国が審決取消訴訟制度を導入したのは2001年のWTO加盟に合わせた専利法改正からであるが、本事件の特徴は、中国特許庁審判部の進歩性判断を、司法がより技術的な観点から覆した点にある。ちなみに本件の実用新案権者、無効審判請求人ともに中国企業である。

■ソース
北京市高級人民法院行政判決2011年11月18日付(2011)高行終字第1286号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=829085 中国実用新案第200420042954.0号(公告番号CN2681490Y)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.03

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