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(中国)進歩性判断において本願発明と先行技術との技術的特徴の相違を如何に分析するかに関する事例

2013年05月28日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、本願請求項1記載の発明と引用文献1に開示された発明とは、同一の技術的課題を解決するために2つの異なる技術を採用しているが、これは単なる慣用技術の置換に過ぎない、とした国家知識産権局専利覆審委員会(以下、「審判部」という)の認定は証拠不足であり、また引用文献2には、本願請求項1記載の発明と引用文献1に開示された発明との相違点が開示されているという認定も技術的な根拠がない、として、『中華人民共和国行政訴訟法』第54条2項1及び第61条第3項の規定に基づき、一審判決を取消した((2010)高行終字第753号判決)。
■詳細及び留意点

 本事件は、審判部合議体が下した拒絶査定維持との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)で下された審決維持の判決を不服として、北京市高級人民法院にて争われた事件である。

 

 本事件の争点は、「本願発明が、先行技術と比較して実質的な特徴及び顕著な進歩を有するか否か。」である。

 

 中国専利法(日本の特許法、実用新案法、意匠法を合体した法律)には、進歩性とは、出願日前に存在する技術と比較し、当該発明が突出した実質的な特徴及び顕著な進歩を有することを指す、旨規定されている(中国専利法第22条第3項参照)。

 

 本願発明は蒸気発生器に関し、請求項1に記載された発明は以下のとおりである。

「一種の蒸気発生器(1)であって、供給される熱ガスが略水平の熱ガス方向(X)に沿って流れる熱ガス通路(6)内に蒸発器直流加熱面(10)を設け、該蒸発器直流加熱面(10)は流動媒体(W)が流れる互いに並列な蒸気発生器管(12)を有し、かつ、該同一の蒸発器直流加熱面(10)のもう一方の蒸気発生器管(12)よりも更に加熱された蒸気発生器管(12)が、もう一方の蒸気発生器管(12)よりもさらに多くの流動媒体(W)流量を有するように設計され、その特徴は:各蒸気発生器管(12)はそれぞれ以下を有する;略垂直に配置され、流動媒体(W)が上方向に流れる上昇ダクト(24)、該流動媒体(W)が流れる該上昇ダクト(24)の下流に接続され、略垂直に配置され且つ流動媒体(W)が下方向に流れる下降ダクト(26)、及び流動媒体(W)が流れる該下降ダクト(26)に接続され、略垂直に配置され且つ流動媒体(W)が上方向に流れる上昇ダクト(28)。」(【注】本願の中国語クレームは、外国語を機械翻訳したような極めて不自然かつ理解しづらい中国語となっているが、善意に解釈して上記のとおり和訳した)

 

 請求項1に記載された発明と、審査官が拒絶査定の根拠とした引用文献1及び2に開示された発明の構造は、それぞれ以下のとおりである。なお、引用文献2は、同一出願人の先願発明である。

1.請求項1に記載された発明

 流動媒体Wは、上昇ダクト24、下降ダクト26及び上昇ダクト28(注:図示なし)を順次通り、上昇ダクト28は上昇ダクト24及び下降ダクト26の間に位置する。

図1:本願発明の構造

図1:本願発明の構造

 

2.引用文献1に記載された発明

 流動媒体Wは、上昇ダクト13、下降ダクト17(ガス通路の外に設置)、上昇ダクト14を順次通る。

図2:引用文献1の構造

図2:引用文献1の構造

 

3.引用文献2に記載された発明

 高圧節炭器19の末端は下降ダクト、高圧蒸発器18の始端及び末端は上昇ダクト、流動媒体の流動方向から見ると高圧節炭器19の下降ダクトは最上流に位置し、当該下降ダクトの下流に高圧蒸発器の各上昇ダクトが配置されている。

図3:引用文献2の構造

図3:引用文献2の構造

 

 審判部合議体は、本願請求項1に記載された発明と引用文献1に開示された発明とを対比し、相違点1として「本願発明が下降ダクトを熱ガス通路内に設けているのに対し、引用文献1の技術では垂直ダクトシステム17を熱ガス通路の外に設置している。」と認定した上で、各蒸気発生管が合流した後、再び分流し、継続して加熱或いは各蒸気発生管が加熱区域において終始保持することは、本技術分野における慣用手段に過ぎないと判断した。

 また、相違点2として、「本願発明が、2つの上昇ダクト(24)(28)を有し、一つの上昇ダクト(28)は、他方の上昇ダクト(24)と下降ダクト(26)の間に配置するのに対し、引用文献1の技術では、当該技術的特徴を開示していない点で相違する。」と認定した上で、「相違点2は、引用文献2に開示され、且つ当該技術的特徴が解決する技術的課題も同一である。本願発明は、引用文献1及び引用文献2にそれぞれ記載された発明との組合せによって、容易になし得るものであり、自明である。」と判断し、拒絶査定を維持した(第17601号審決)。

 

 本決定を不服とした出願人は、北京市第一中級人民法院に審決取消訴訟を提起したが、中級人民法院は、審判部の認定を支持し審決を維持した(第2775号判決)。

 

 出願人は、この判決を不服とし北京市高級人民法院に上訴した。

 

 高級人民法院は、「本願発明と引用文献1に記載された発明との相違点1、2につき、審判部による『相違点1は慣用手段の置換にすぎない』との認定は証拠が不足しており、また『引用文献2には、本願発明と引用文献1との相違点2が開示されている』という認定は技術的な根拠がない。」と判示し、一審判決を取消した(第753号判決)。

 

参考(北京市高級人民法院行政判決書2011年8月9日付(2010)高行終字第753号より抜粋):

  创造性是指同申请日以前已有的技术相比,该发明有突出的实质性特点和显著的进步。

 

  如果将下降管段设置在热燃气通道内,面临着下降管段中的流动介质流动不稳定的技术问题。・・・对比文件1中的技术方案之所以将垂管系统17设置在热燃气通道外,是因为这样设置下降管段17中的流动介质不再受热,不会受到向上流动的力,流动介质很容易依靠自重向下流动。如果要将下降段17设置在热燃气通道内,必须要解决流动不稳定的技术问题。本申请之所以能够不设置垂管系统17,是通过不同于外设在热气通道的垂管系统17的技术手段即区别特征2解决了流动不稳定的技术问题。因此,区别特征1反映出对比文件1和本申请对于解决相同技术问题采取了两种不同技术方案,专利复审委员会认为这种区别只是惯用技术手段的采用,证据不足。

 

  对比文件2中,高压省煤器19的末端为一下降管段,高压蒸发器18的始端和末端为上升管段,但从流动介质流向来看,高压省煤器19的下降管段处于最上游,在该下降管段的下游布置有高压蒸发器的各上升管段,这种布局与本申请的下降管段沿流动介质流向布置在两个上升管段之间的布局并不相同。因此,专利复审委员会认为对比文件2中公开了本申请权利要求1与对比文件1的区别技术特征2,无事实依据。

 

  综上,第17601号决定和原审判决・・・依据不足,应当依法予以撤销。・・・A公司的上诉理由能够成立,其上诉请求本院依法予以支持。原审判决认定事实错误,应当予以纠正。

 

(日本語訳「進歩性とは、出願日前に既存の技術と比較し、当該発明は突出した実質的な特徴及び顕著な進歩を有することを指す。

 

 仮に下降ダクトを熱ガス通路内に設けた場合、下降ダクト内の流動媒体の流動が不安定になる技術的課題がある。・・・引用文献1の技術で垂直ダクトシステム17を熱ガス通路の外に設置したのは、このように設置することで、下降ダクト17中の流動媒体が熱を受けず、上方へ流動する力を受けないため、流動媒体が自重で下方へ流動できるからである。下降ダクト17を熱ガス通路内に設置した場合、流動が不安定になる技術的課題を解決する必要がある。本願で垂直ダクトシステム17を設置しなくても良いのは、熱ガス通路外に設置された垂直ダクトシステム17とは異なる技術的手段、即ち、技術的特徴の相違点2によって、流動が不安定になる技術的課題を解決できるからである。したがって、技術的特徴の相違点1は、引用文献1と本願とが、同一の技術的課題を解決するために、2つの異なる技術案を採用したことを反映しており、この相違点が単に慣用の技術的手段を採用しただけであるという専利覆審委員会による認定は証拠不足である。

 

 引用文献2において、高圧節炭器19の末端は下降ダクトであり、高圧蒸発器18の始端及び末端は上昇ダクトであるが、流動媒体の流動方向から見ると、高圧節炭器19の下降ダクトは最上流に位置し、当該下降ダクトの下流に高圧蒸発器の各上昇ダクトが配置されており、このような配置と、下降ダクトが流動媒体の流動方向に沿って両上昇ダクトの間に設置されるという本願の配置とは同一ではない。したがって、引用文献2には本願請求項1と引用文献1との技術的特徴の相違点2が開示されているという専利覆審委員会による認定は事実に基づかず根拠がない。

 

 以上により、第17601号審決及び原審判決は・・・根拠が不足し、法により取消すべきである。・・・A社の上訴理由は成立し、その本院への上訴請求については、法に基づき支持する。原審判決の認定事実は誤りであり、是正すべきである。」)

 

【留意事項】

 本事件において、審査官、専利覆審委員会、北京市第一中級人民法院の認定は論理的でなく、証拠も明らかに不足している。高級人民法院による妥当な判決で最終的に救われたが、中国における権利化の困難さを示す事例と言える。なお、請求項1の和訳で注記しているが、本願明細書の中国語は、外国語を直訳したかなり違和感のある、場合によっては構成不明瞭との指摘を受ける可能性のあるレベルである。権利化のみならず、登録後の確実な権利行使の観点からも中国語訳には細心の注意を払うべきである。ちなみに、本願の出願人はドイツ企業である。

■ソース
北京市高級人民法院行政判決2011年8月9日付(2010)高行終字第753号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=822915 中国発明特許出願第200380109338.0号(公告番号CN 1745277A)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

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