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(中国)引用文献に開示された技術全体を当業者レベルで理解し、進歩性判断すべきことに関する事例

2013年05月28日

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■概要
本件において、中国特許庁専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、審査官は引用文献1が開示した内容を誤認し、誤った事実関係に基づいて本願に対して拒絶査定を行っており、引用文献1に開示された技術内容を当業者のレベルで正確に理解した上で、本願発明の進歩性を判断すべきである、として、拒絶査定を取消した。
■詳細及び留意点

 本願発明は、モリブデン含有溶液の回収方法及び触媒の製造方法に関する。拒絶査定の対象となった請求項は第1~9項であるが、出願人は審判請求時に原請求項1、2を削除し、原請求項3項に原請求項8、9項を付加して新請求項1とする補正を行った。なお、新請求項1は、原請求項1、2に記載の工程1~4について実質的に変更していない。

 

 争点となった製造工程1~4について、引用文献1に開示の内容との対比は以下のとおりである(製造工程のみの比較)。

工程 補正後の請求項1(原請求項3)に記載されている工程 引用文献1に開示されている工程
1 少なくともモリブデン、A元素(リン及び/又はヒ素)及びX元素(カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種)を含むモリブデン含有物を水に分散し、アルカリを加えて、pHを8以上とする 少なくともモリブデン、A元素及びX元素を含む使用済み触媒を水に分散し、アルカリ金属化合物及び/又はアンモニア溶液を加え、得られた混合物のpHを8.5-12とする
2 得られた混合液のpHを6~12に調整した後、1モルのA元素に対し、マグネシウム元素及びアンモニアがそれぞれ1モル以上になるようにマグネシウムを含む化合物とアンモニア水を加え、少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物を生成する 得られた混合物のpHを6.5或いはそれ以下に調整し、少なくとも前記モリブデン及び前記A元素を含む沈殿物を生成する
3 工程2で生成した少なくともマグネシウム及びA元素を含む沈殿物と、少なくともモリブデンを含む溶液(回収したモリブデン含有溶液)を分離する pHを6.5或いはそれ以下に調整する前に、ろ過或いはその他の方法で混合物中の不溶性物質を除去する
4 回収したモリブデン含有溶液をpH3以下に調整し、少なくともモリブデン含有沈殿物を生成し、生成した沈殿物(回収したモリブデン含有沈殿物)を溶液と分離する pHを6.5或いはそれ以下に調整する前に、アンモニウムイオンを提供可能な原料を添加して、モリブデン及びA元素の回収率を同時に向上させる。
使用済みの触媒に同時にリン及びヒ素が含有された場合、pHを1.5或いはそれ以下に調整してリンを回収し、pHを5-6.5に調整してヒ素を回収することが好ましい

 

 本件を担当した審査官は、原審において、引用文献1に記載の工程3及び4は本願請求項3の工程3及び4に相当するので、本願請求項3は進歩性を有していない、と認定し、本願に対して拒絶査定を行っている。

 

 出願人は、拒絶査定不服審判請求時に、以下のとおり主張した。

 「審査官は、引用文献1における不純物ろ過の工程(引用文献1の工程3)が、本願発明におけるA元素とモリブデンとを分離する工程(本願の工程3)に対応すると誤認している。

 且つ、引用文献1には、A元素だけを沈殿させるときにアンモニア水の添加が必要である(本願の工程2)ことが開示されておらず、引用文献1に開示されているのは、アンモニウムイオンを提供可能な原料を添加して、モリブデン及びA元素の回収率を同時に向上させることである(引用文献1の工程4)。」

 

 審判部合議体は、審査官に本件を差戻し、再度審査するように指示したが、審査官は拒絶査定を維持した。

 

 審判部合議体は、審理の結果、引用文献1の工程3-4と新請求項1の工程3-4は対応しないとして、以下のとおり認定した。

「新請求項1の工程4が工程3で得られたモリブデン含有溶液に対してpH調整した目的は、モリブデン含有沈殿物を回収するためであるが、引用文献1の工程4がpH調整している目的は、モリブデン及び前記A元素(リン及び、又はヒ素)を含む沈殿物を得るためである。

 つまり、技術内容全体から考えれば、引用文献1は、まずA元素を含む沈殿物を除去してモリブデン含有溶液を得た後、モリブデン含有溶液に対してpH調整し、モリブデン含有沈殿物を回収する技術を開示していない。

 引用文献1の工程3-4は新請求項1の工程3-4に対応しておらず、審査官は当業者のレベルに基づいて技術内容全体を理解せずに誤った認定により本願発明を拒絶した。」と認定し、本願に対する拒絶査定を取消した。

 

参考(中国特許庁審判部査定不服審決2012年3月6日付第41310号より抜粋):

 

  正确理解现有技术公开的内容是评价创造性的事实基础之一,而理解对比文件的技术方案,应当基于所属领域技术人员的水平整体理解技术方案。

 

  复审请求人与原审查部门争议的焦点问题之一在于,D1中“在调节pH值前,优选用过滤或其他方法将混合物中的不溶物除去”这一步骤是否相当于本申请权利要求1中的步骤3“分离A元素沉淀和含钼溶液”。对此,合议组认为・・・本申请中的步骤3是在用镁和氨水形成含有镁和A元素沉淀后进行的分离步骤,而D1是在加碱分散溶解含钼催化剂时,将不能溶解的物质去除。由此可见,二者分离去除的物质明显不同,D1中的该步骤不能对应于本申请权利要求1中的步骤3。

 

  复审请求人与原审查部门争议的焦点问题之二在于,D1中“如果使用过的催化剂中同时含有磷和砷・・・在确定将调节到的pH值时,应考虑包括钼等在内的各元素的回收率”是否相当于本申请中的步骤4“调节pH值沉淀并分离钼元素”。对此,合议组认为・・・D1在沉淀磷和砷时要考虑钼的回收率;从D1整体可以看出,D1中调节pH值至6.5或更低后得到的是钼及所述A元素(磷和、或砷)的沉淀,即上述内容并没有公开要先去除A沉淀仅为沉淀钼而进行pH值调节,D1中的该步骤不能对应于本申请权利要求1中的步骤4。

 

  综上,原审查部门错误地理解了D1公开的内容,缺乏评价涉案权利要求1创造性的事实基础;同理,该驳回决定亦缺乏评价其他涉案权利要求的事实基础,故驳回决定有关本申请不具备创造性的理由不能成立。

 

(日本語訳「先行技術に開示の内容を正確に理解することは、進歩性判断の基礎の1つであり、引用文献に開示された技術内容の理解について、当業者のレベルに基づき技術全体を理解すべきである。

 

 審判請求人と審査官との争点の第1は、引用文献1の「pHを調整する前に、ろ過又はその他の方法で混合物中の不溶性物質を除去することが好ましい」という工程が、本願請求項1の工程3「A元素沈殿物とモリブデン含有溶液を分離する」に相当するか否かである。これについて、審判合議体は、・・・本願発明の工程3はマグネシウム及びアンモニア水でマグネシウム及びA元素を含む沈殿物を生成した後に行われる分離工程であるが、引用文献1はアルカリを加えてモリブデン含有触媒を分散・溶解するときに、溶解できない物質を除去するものであり、両者が分離・除去する物質は明らかに異なり、引用文献1の当該工程は本願請求項1の工程3に対応しない。

 

 審判請求人と審査官との争点の第2は、引用文献1における「使用済みの触媒にリン及びヒ素が同時に含有された場合・・・調整したpHを確定する時に、モリブデン元素を含む内部に存在する各元素の回収率を考慮すべき」が、本願発明工程4の「pHを調整し、モリブデン元素を沈殿・分離する」に相当するか否かである。これについて、審判合議体は、・・・引用文献1ではリン及びヒ素を沈殿させる時にモリブデンの回収率を考慮しなければならず、引用文献1全体から分かるように、引用文献1でpHを6.5或いはそれ以下に調整して得られるのは、モリブデン及び前記A元素(リン及び/又はヒ素)の沈殿物であって、前記内容は、まずA沈殿物を除去し、モリブデンだけを沈殿させるためにpHを調整することを開示しておらず、引用文献1の当該工程は本願請求項1の工程4に対応するものではない。

 

 以上、審査官は引用文献1が開示した内容を誤認しているため、請求項1の進歩性を判断する基礎に欠けている。同様の理由により、当該拒絶査定はその他の請求項を判断する基礎にも欠けていた。よって、本願発明が進歩性を有していないという拒絶の理由は成立しない。」)

 

【留意事項】

 本事件は、審査実務で良くありがちな「自らの理解不足で事実誤認しながらも、強引に拒絶する」案件の典型的事案である。審判の判断は当然の帰結であるが、数千人規模の中国特許庁審査官の中には、技術の理解が不十分ではないかと疑われる者も存在するため、最初のオフィスアクションの内容等を踏まえて、審査段階での積極的な面接等の活用も必要と思われる。ちなみに、本願の出願人は日本企業である。

■ソース
中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年3月6日付第41310号
http://www.sipo-reexam.gov.cn 中国特許出願第200580005668.4号(公開番号CN1921941A)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2012.12.24
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