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(中国)進歩性否定の根拠である「技術常識」を証明するための証拠提出が必要か否かに関する事例

2013年05月21日

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■概要
北京市高級人民法院(日本の「高裁」に相当)は、本件特許発明と証拠に開示された発明との相違点につき、本技術分野の技術常識であることを証明する証拠がないため、本件特許権の請求項1記載の発明が進歩性を有していないという請求人の理由は成立しない、として、『中華人民共和国行政訴訟法』第61条1号の規定に基づき、一審判決を維持した。
■詳細及び留意点

 本事件は、国家知識産権局専利覆審委員会(以下、「審判部」という)合議体が下した特許有効との審決に対し、一審である北京市第一中級人民法院(日本の「地裁」に相当)で下された審決維持の判決を不服として、北京市高級人民法院に争われた事件である。

 

 本事件の争点は、「進歩性否定の根拠である技術常識を証明するための証拠の提出が必要か否か」である。

 

 本件特許権にかかる発明は樹脂コンクリートに関し、請求項1に記載された発明は、以下のとおりである。

「原料の重量比が骨材71-86%、充填材3-12%、強化材3-8%、結合材7-11%である樹脂コンクリートにおいて、

 骨材の粒度分布が異なり、粒度14-20mmの粒子が樹脂コンクリート総数の42-47%を占め、粒度3.5-5mmの粒子が樹脂コンクリート総数の14-19%を占め、240MPaの花こう岩小石であり、

 充填材は石炭灰、石英パウダー或いは火山灰の何れか1つであり、

 強化材はガラス繊維、炭素繊維、スチール繊維又はポリマー繊維の何れか1つであり、

 結合材はエポキシ樹脂及び硬化剤である

 ことを特徴とする樹脂コンクリート。」

 

 無効審判請求人は4つの証拠文献を提出し、本件特許権の無効を主張したが、審判部は、「請求項1に記載された発明と証拠文献2(『特殊コンクリート及び新型コンクリート』)に開示された技術との相違点は、証拠文献2が骨材の不連続粒度分布を開示していない点である。証拠文献1(CN1709817A)、証拠文献3(『炭鉱機械』)及び証拠文献4(『建築材料パンフレット』)のいずれにも、当該相違点が開示されていない。」として、本件特許権は有効との審決(第16650号審決)を下した。

 

 この決定を不服とした無効審判請求人は中級人民法院に同審決の取消しを求めて上訴したが、中級人民法院は同審決を維持する判決を下し、これを不服とした無効審判請求人は高級人民法院に上訴した。

 

 無効審判請求人は高級法院での口頭審理において、「連続粒度分布或いは不連続粒度分布は共に本技術分野の通常の技術的手段であり、本件特許発明と証拠文献2との相違点は技術常識に過ぎない。また緩衝及び地震波吸収作用は、特定の数値範囲の不連続粒度分布する骨材と、結合材、充填材及び強化材とを配合使用し、互いに架橋するユニットを形成したことによるものではなく、小石とエポキシ樹脂からなるユニットの組合せによるものである。」と主張した。

 

 これに対し高級法院は、「緩衝及び地震波吸収作用が小石とエポキシ樹脂からなるユニットの組合せによるものである、という請求人の主張については技術的根拠がなく、本院はこれを支持しない。

 一方、結合材、充填材及び強化材とを配合使用することで、緩衝及び地震波吸収の効果を奏することは技術常識であると主張しているが、証拠文献1~4のいずれにも開示しておらず、且つこれを証明する他の証拠も一切提出されていない。よって、本件特許権にかかる請求項1記載の発明は進歩性を有していないという請求人の理由には、事実及び法的根拠がなく、本院はこれを支持しない。」として、一審判決を維持した。

 

参考(北京市高級人民法院判例2012年7月17日付(2012)高行終字第404号より抜粋):

  本专利权利要求1与最接近的现有技术D2相比,区别在于D2没有公开集料的间断级配的技术特征。

 

  树脂混凝土的性能和用途取决于聚合物的类型、集料的类型及级配等多种因素,根据选用的树脂不同、使用目的不同,各种树脂混凝土的配比、集料级配也有所不同。本专利技术方案通过特定数值范围的间断级配的集料与胶结料、填补料、增强料配合使用形成相互交联的单元从而起到缓冲和吸收震波的作用。

 

  无效请求人主张减震作用来源于石子与环氧树脂组成的单元组合,而非通过特定树脂范围的间断级配的集料与胶结料、填充料、增强料配合使用形成相互交联的单元从而起到缓冲和吸收震波作用,无事实依据,本院不予支持。

 

  对比文件没有给出使用上述区别特征中记载的间断级配的集料与胶结剂、填补料、增强料配合使用从而起到缓冲和吸收震波作用的技术启示,并且也没有证据表明将上述区别技术特征与胶结料、填补料、增强料配合使用从而起到缓冲和吸收震波作用属于本领域的公知常识,因此请求人上诉主张本专利权利要求1不具备创造性的主张不能成立。

 

  依据《中华人民共和国行政诉讼法》第六十一条第(一)项规定,判决如下:维持国家知识产权局专利复审委员会第16650号无效宣告请求审查决定。

 

(日本語訳「本特許請求項1と、それに最も近い先行技術D2との差異は、D2には骨材の不連続粒度分布の技術的特徴が開示されていないことである。

 

 樹脂コンクリートの機能及び用途はポリマーのタイプ、骨材のタイプ及び粒度分布など多くの要素によって決められ、選択された樹脂や使用目的によって、各樹脂コンクリートの配合比率、粒度分布は異なる。本特許の技術案は、特定の数値範囲の不連続粒度分布する骨材、結合材、充填材及び強化材とを配合して使用し、互いに架橋するユニットを形成することで、緩衝及び地震波吸収の役割を果たす。

 

 緩衝作用は小石とエポキシ樹脂からなるユニット構成に起因し、特定の樹脂中に不連続粒度分布する骨材、結合材、充填材及び増強材とを配合して使用し、形成される互いに架橋するユニットが緩衝及び地震波吸収の役割を果たすのではない、という無効請求人の主張は事実根拠がなく、本院はこれを支持しない。

 

 証拠文献は、前記特徴の差異に記載された不連続粒度分布する骨材、結合材、充填材及び強化材とを配合して使用することで、緩衝及び地震波吸収の役割を果たす技術的示唆を開示しておらず、且つ前記特徴の差異と、結合料、充填材及び強化材とを配合して使用することで、緩衝及び地震波吸収の役割を果たすのが本技術分野の技術常識であることを証明する証拠もないため、本特許請求項1が進歩性を有していないという請求人の上訴理由は成立しない。

 

 『中華人民共和国行政訴訟法』第61条第(1)号の規定により、以下のとおり判決する:知識産権局専利覆審委員会による第16650号無効審判決定を維持する。」)

 

【留意事項】

 例示するまでもなく広く一般に普及する技術ではなく、「特定技術分野における技術常識」と主張するためには、少なくとも何らかの証拠を提出すべきであり、本事件における国家知識産権局覆審委員会、裁判所の判断は妥当である。

 

 なお中国の当事者系審決取消訴訟の被告は、審決を下した行政庁である国家知識産権局専利覆審委員会であり(一方当事者は第三人として訴訟参加。単独で上訴可能。)、行政事件訴訟の性格を有する。ちなみに本事件の特許権者及び無効審判請求人のいずれも中国の個人である。

■ソース
北京市高級裁判所判例2012年7月17日付(2012)高行終字第404号
http://bjgy.chinacourt.org/public/paperview.php?id=905386 中国特許第200610044905.4号(公告番号CN1872766B)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2012.01.04

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