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(韓国)特許請求の範囲が詳細な説明により裏付けられているか否かの判断手法を判示した事例

2013年05月17日

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■概要
大法院は、旧特許法第42条第4項第1号に関して、特許請求の範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かの可否は、特許請求の範囲に記載の発明と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かの可否によって判断すべきであり、発明の詳細な説明に開示されている内容を特許請求の範囲に記載の発明の範囲まで拡張ないし一般化することができない場合には、その特許請求の範囲は発明の詳細な説明により裏付けられているとは認められないと判示した。

本件発明の「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」が発明の詳細な説明に開示された実験結果だけで裏付けられるとは認められないとして、原審判決を支持した事例である。
■詳細及び留意点

 (1) この事件の第1項に係る発明は、医薬用途発明であり、その活性成分として「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」を用いる。その使用量は、コラゲナーゼ-3を抑制するに効果的な量で、その使用方法は、担体などを含むことのできる組成物の形態であり、対象疾病は、哺乳動物の骨関節炎、リューマチ性関節炎や癌を対象にする。従来、II型コラーゲンを分解するマトリックスメタロプロテイナーゼ(matrix metalloproteinase、MMP)としては、MMP-1(コラゲナーゼ-1)、MMP-8(コラゲナーゼ-2) 及びMMP-13(コラゲナーゼ-3)が知られていた。この事件の出願発明は、 MMP-1(コラゲナーゼ-1)活性に比較し、MMP-13(コラゲナーゼ-3)活性を有する化合物が全身性結合組職の毒性を発生させずに軟骨コラーゲンの分解に対して非常に優秀な抑制剤であることを発見して創案されたものである。

 

 (2) この事件の第1項に係る発明の請求項において争われている点は、その活性成分である「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」との記載である。「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」という表現は、構造として特定されたのではなく、いわゆる性質又は機能として特定された機能的な表現であり、コラゲナーゼ-3に対して選択的に抑制することができる全ての物質がこれに該当する。また、コラゲナーゼ-3を何に対してどの程度選択的に抑制すれば、この事件の出願発明で特定された「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」になるのかが決定される。

 したがって、上記のような「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」との記載が発明の詳細な説明により裏付けられているのか、又、発明の詳細な説明に開示された内容により一般化されるのか否かなどについて争われている。

 

 (3) この事件の出願発明の発明の詳細な説明には、「コラゲナーゼ-1の酵素に比較しコラゲナーゼ-3の酵素活性抑制に対して100倍以上の選択性が示され、後述のMMP-13/MMP-1の蛍光分析法によるIC50の結果として定義された100nM未満の力価を有する薬剤」であるとして、その基準が明確に提示されている。

 しかし、この事件の出願発明は、その明細書にMMP-13(コラゲナーゼ-3)の抑制剤として16種の化合物が例示されているが、その中で5番目及び6番目の化合物(それぞれ実施例の2及び実施例3)のみに対して実施例の形態でその薬理効果が記載されており、上記の2種の化合物がコラゲナーゼ-3に対する選択的抑制活性を有し、このような性質により主に軟骨内のコラゲナーゼ活性を実質的に抑制し、骨関節炎などの治療及び予防に効果があるとの内容を確認できるが、列挙された残りの14種の化合物やその他において上述の定義された「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」に属する化学的な構造の特定できない様々な化学物質に対しては、その薬理効果について何らの記載がなく、一部の化合物(実施例1の物質として先行技術である米国特許第4599361の実施例2の物質)は、コラゲナーゼ-3の抑制剤であるにもかかわらず、同時にコラゲナーゼ-1も相当抑制し、この事件の出願発明で特定された「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」に該当しないことが確認された。さらに、この事件の出願発明の目的に符合する上記の2種の化合物は、その薬理効果について確認されていない残りの14種の化合物と物質等の基本構造(back-bone)も異なるだけでなく、医薬発明の場合、基本構造が同一であっても末端の微細な差により薬理活性において相当な差が付く場合が多いという特徴があるので、上記の2種の化合物がコラゲナーゼ-3の抑制剤との活性を有する全ての化合物を代表すると見做されなかった。

 なお、出願人により提出された証拠資料等を検討して見ても、どの化合物等が、この事件の出願発明の出願(優先日)以前に当業界においてコラゲナーゼ-3の選択的抑制剤の化合物として公知であったのかに関する必要十分な記載は見あたらなかった事案である。

 

 (4) 上記の事案に対して、本件大法院判決は、「特許請求の範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かについては、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者の立場で、特許請求の範囲に記載の発明と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かによって判断すべきであり、出願時の技術の常識に照らして見ても、発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に記載の発明の範囲まで拡張ないし一般化することができない場合には、その特許請求の範囲は、発明の詳細な説明により裏付けられているとは認められない」という一般的な基準を判示している。

 そして、本件事案について、「この事件の第1項に係る発明が発明の詳細な説明により裏付けられていない」趣旨の判断をした原審特許法院判決における事情を挙げている。

 すなわち、この事件の第1項に係る発明の請求項に記載の「コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤」は、「明細書に記載の用語の定義を斟酌すれば、…『発明の詳細な説明』に具体的に列挙された16種の化合物だけでなく、上記の要件を満たす全ての化学物質を指称する意味として解釈される」ところ、「発明の詳細な説明」には、上記の16種の化合物の中で2種の化合物に関わる実験の結果が記載されているだけであり、「列挙された残りの14種の化合物やその他の上記の定義された『コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤』に属する化学的な構造の特定できない様々な化学物質に対しては、その薬理効果について何らの記載がない」、「残りの14種の化合物の化学的な構造が、全て上記の2種の化合物と同一性の範疇に属していて、それと同等な効果を有すると予測されるという特別な事情も見つけられず」、「『コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤』は、その明細書において、用語の定義、基準及び確認方法について記載されているが、これは、ある化合物が結果的に『コラゲナーゼ-3の選択的抑制剤』に属するのか否かの基準及び確認方法のみが提示されており、このような記載だけでは、事前にそのような化合物にどれが含まれていて、それに属する全ての化合物等がそのような効果を持つのかについては発明の詳細な説明により裏付けられていると認められない」等である。

 大法院は、「上述の法理及び記録に照らしてみると、原審の判断は正当である」として、原審判決を支持し、上告を棄却した。

 

 

参考(大法院判決2006年5月11日付宣告2004후1120 【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

1. 특허출원서에 첨부된 명세서에 기재된 ‘발명의 상세한 설명’에 기재하지 아니한 사항을 특허청구범위에 기재하여 특허를 받게 되면 공개하지 아니한 발명에 대하여 특허권이 부여되는 부당한 결과가 되므로, 구 특허법(2001. 2. 3. 법률 제6411호로 개정되기 전의 것, 이하 같다) 제42조 제4항 제1호는 이와 같은 부당한 결과를 방지하기 위한 규정이라 할 것이다. 따라서 특허청구범위가 발명의 상세한 설명에 의하여 뒷받침되고 있는지 여부는 그 발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자의 입장에서 특허청구범위에 기재된 발명과 대응되는 사항이 발명의 상세한 설명에 기재되어 있는지 여부에 의하여 판단하여야 하는바, 출원시의 기술상식에 비추어 보더라도 발명의 상세한 설명에 개시된 내용을 특허청구범위에 기재된 발명의 범위까지 확장 내지 일반화할 수 없는 경우에는 그 특허청구범위는 발명의 상세한 설명에 의하여 뒷받침된다고 볼 수 없다.

 

(日本語訳「1.特許出願書に添付された明細書の「発明の詳細な説明」に記載されていない事項を特許請求の範囲に記載して特許を受けたならば、公開されていない発明に対して特許権が付与されるという不当な結果になるので、旧特許法(2001年2月3日付、法律第6411号に改定される以前のもの、以下、同様)の第42条第4項第1号は、このような不当な結果を防止するための規定であろう。したがって、特許請求の範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かについては、その発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者の立場で、特許請求の範囲に記載の発明と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かによって判断すべきであり、出願時の技術の常識に照らして見ても、発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に記載の発明の範囲まで拡張ないし一般化することができない場合には、その特許請求の範囲は、発明の詳細な説明により裏付けられているとは認められない。))

 

【留意事項】

 本件判決は、特許法第42条第1項第1号の趣旨を明確にすると共に、特許請求の範囲が発明の詳細な説明により裏付けられているか否かの可否に対して、その判断手法として具体的に二つの基準を提示する。第一に、通常の技術者の立場で、特許請求の範囲に記載の発明と対応する事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かの可否、第二に、出願時の技術常識に照らしてみても、発明の詳細な説明に開示された内容を特許請求の範囲に記載の発明の範囲まで拡張ないし一般化することができるか否かの可否によって判断されることを提示する。

 

 本件事案では、請求項に記載の活性成分に対する表現が化合物自体になっておらず、薬理機転が含まれた用語として表現され、このような薬理機転による機能式表現が発明の詳細な説明の実施例により十分に裏付けられていなかったため、特許を受けることができなかった事例である。薬理機転ないし機能、作用として発明を特定しようとする場合には、その用語に対する解釈を発明の詳細な説明に明確に定義すべきであるのは勿論、十分な実施例を開示し、その実施例等が特許請求の範囲の内容の全般に拡張ないし一般化されるようにすべきであり、もし、必要であれば、従来の技術水準でこのような表現が十分に理解できたという事項に対する立証も行われるべきであろう。

■ソース
大法院判決2006年5月11日付宣告2004후1120
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=350F8B32F12000EAE0438C01398200EA&courtName=대법원&caseNum=2004후1120&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

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