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(中国)選択発明における進歩性判断に関する事例(その1)

2013年05月14日

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■概要
本件において、中国専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、補正後の請求項1に記載の化合物は、阻害活性に関する予期できない技術的効果を奏し、かつ当該化合物による関連医薬品への用途についても予期できない技術的効果を奏する、として本願発明の進歩性を認め、拒絶査定を取消した。
■詳細及び留意点

 中国国家知識産権局(以下、「中国特許庁」という)が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、選択発明における進歩性の判断は、選択による予期できない技術的効果が考慮すべき主な要素であり、選択によって当該発明が予期できない技術的効果を奏する場合、当該選択発明は突出した特徴及び顕著な進歩を有し、進歩性を有する旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章4.3参照)。

 

 本願発明は、下記化学構造式で表される(-)-メプタジノールビス配位子誘導体及び/又はその塩類、その製造方法及び使用に関する。 

 出願当初の化学構造式は、AはC=O、CH2、nは0~10の範囲であり、前記塩の酸基は無機酸又は有機酸である。

 

 本願の拒絶査定では、引用文献1(J. Mol. Model., 12(4), P390-397、2006年1月11日)には、Aがメチレン基、nが0~12である本願化合物に対応し、且つこれらがアルツハイマー病治療薬の開発に応用される見込みがあることが開示している、と判断し、本願の各請求項に係る発明は全て新規性又は進歩性を有していないとした。 

 

 出願人は、拒絶査定不服審判において、アルツハイマー病治療薬の製造における前記化合物の使用として、特許請求の範囲を下記のとおり補正し、以下のとおり主張した。

(1)AをC=CH2、nを6、7、8、9又は10に限定(補正後の請求項1)

(2)nを7に限定(補正後の請求項2)

「補正後の請求項1に記載の発明は、化合物における炭素鎖の長さ(nは6、7、8、9又は10に限定)が引用文献1に記載の化合物と異なり、両者の化合物はその構造も、また奏する効果も明らかに異なる。したがって請求項1記載に記載された化合物及びその応用は、引用文献1に開示された技術に対し新規性、進歩性を有する。」

 

 審判部合議体は以下のとおり認定した。

「引用文献1に開示された化合物は、本願請求項1におけるnの範囲が0~12である化合物に対応し、且つこれらがアルツハイマー病治療薬の開発に応用される見込みがあることが示唆され、更にコンピュータシミュレーションにより、この種の化合物における活性が更に高い化合物は、n=2、3、4、5及び7の化合物であると予測している。一方、補正後の請求項1の発明は、一般式においてn=6、7、8、9又は10の化合物であり、引用文献1に開示の化合物の範囲内で選択を行ったものであり、選択発明のカテゴリーに属する。

 

 選択発明の進歩性の判断は、当該選択によって予期できない技術的効果を奏するか否かである。

 

 本願明細書に記載された実験データによれば、補正後の請求項1が選択したnが6~10である場合の化合物は、ラットの脳ホモジネートのアセチルコリンエステラーゼに対する阻害活性IC50がそれぞれ0.0459、0.00294、0.0144、0.0303及び0.0641µMであるのに対し、nが0~5である場合の化合物のIC50は、0.808~154µMである。前者のIC50は後者より10~105倍以上低く、即ち、選択された化合物の阻害活性は顕著に向上している。引用文献1には、引用文献1に開示された化合物から本願請求項1の化合物を選択した際、その活性を顕著に向上させることが開示されておらず、むしろ、n=0、1、2、3又は5である化合物に相当するものを選択することで更に高い活性が予期されると示唆している。

 

 したがって、引用文献1に開示された技術に対し、本願請求項1に記載の化合物の活性は著しく向上し、関連医薬品の製造用途についても予測不能な技術的効果を奏するものであり、進歩性を有する。

 

 以上の理由により、審判部合議体は、補正後の請求項に記載の発明は進歩性を有するとして、拒絶査定を取消した。

 

参考(中国特許庁審判部査定不服審決2011年4月6日付第38373号より抜粋):

  在进行选择发明创造性的判断时,选择所带来的预料不到的技术效果是考虑的主要因素,如果选择使得发明取得了预料不到的技术效果,则该选择发明具有突出的实质性特点和显著的进步,具备创造性。

 

  合议组查明,在对比文件1・・・教导了它们有望在开发治疗阿尔茨海默氏病的药物中得到应用,而且・・・预测出此类化合物中活性更高的化合物为n=2、3、4、5和7的化合物。

 

  经比较可见,上述对比文件1所公开的通式化合物对应于本申请权利要求1中 n的取值范围为0~12的化合物,预期活性更高的化合物对应于权利要求1中n=0、1、2、3或5的化合物。相对于上述对比文件1公开的化合物而言,权利要求1所涉及的n=6、7、8、9或10的化合物相当于从对比文件1公开的化合物范围中进行了选择,属于选择发明的范畴。在进行选择发明创造性的判断时,选择所带来的预料不到的技术效果是考虑的主要因素。本申请说明书记载了・・・所选择的化合物在抑制活性上有显著的提高。由于现有技术中没有公开当在对比文件1的化合物中选择本申请权利要求1的化合物范围时可以显著提高活性的教导,相反教导了选择对比文件1的其它化合物(如相当于本申请中n=0、1、2、3或5的化合物)预期具有更高活性。因此,相对于对比文件1而言,由于本申请权利要求1的化合物在活性上取得了实质性提高,具有预料不到的效果,因而权利要求1要求保护的将其用于制备相应药物的用途也取得了预料不到的技术效果,具备创造性。

 

(日本語訳「選択発明の進歩性の判断は、選択による予期できない技術的効果の存在が主な要素である。選択によって発明が予期できない技術的効果を奏する場合、当該選択的な発明は突出した特徴及び顕著な進歩を有し、進歩性を有する。

 

 合議体は、審理の結果次のとおり認定する;引用文献1は、・・・これらがアルツハイマー病治療薬の開発に応用される見込みがあることを示唆し、且つ・・・この種の化合物において、更に活性が高い化合物が、n=2、3、4、5及び7の化合物であることを予測している。

 

 両者を比較すると、前記引用文献1に開示の一般式の化合物は、本願請求項1記載の発明におけるnの範囲が0~12である化合物に対応し、活性が更に高いと予期される化合物はn=0、1、2、3又は5の化合物としている。本願請求項1に係る発明のn=6、7、8、9又は10の化合物は、引用文献1に開示の化合物の範囲内から選択しており、選択発明のカテゴリーに属する。選択発明の進歩性の判断は、選択による予期できない技術的効果の存在が主な要素である。本願明細書には、・・・選択された化合物の阻害活性が顕著に向上したことが記載されている。引用文献1には、引用文献1に記載の化合物の中から本願請求項1に記載の化合物の範囲を選択した際、阻害活性を顕著に向上させることができることが示唆されておらず、むしろ、引用文献1に記載されたその他の化合物(例えば、n=0、1、2、3又は5である化合物に相当するもの)を選択することで、更に高い活性を得られると示唆している。したがって、引用文献1に開示された技術に対し、本願請求項1に記載の化合物の活性は実質的に向上し、当該化合物による関連医薬品の製造用途についても予期できない技術的効果を奏するため、進歩性を有する。」)

 

【留意事項】

 本件は、引用文献に開示された複数の化合物において、その中の特定構造を有する化合物が、アルツハイマー病治療薬として特別顕著な効果を奏することを発見し、その使用として限定した特許である。引用文献に開示された「特に活性が優れている」とする物質と本願発明で特定する物質とが違うことから、本願発明の進歩性を認めているが、引用文献には、本願発明で特定する物質を含めて広い範囲で「活性」と「薬剤への応用」が開示されているのであるから、少なくとも容易との判断もあり得るのではないかとの疑問も残るものの、中国においても選択発明が保護されることを示した審決例としての意味はある。ちなみに出願人は中国の大学である。

■ソース
中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2011年4月6日付第38373号
http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=FS38373&lx=FS 中国特許第200610029477.8号(公告番号CN101037430 B)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2012.12.17
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