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(台湾)「通常の知識」は、主張者がその立証責任を負う旨が示された事例

2013年04月30日

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  • 審判・訴訟実務

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■概要
「通常の知識」は、その発明の属する技術分野における既知の一般知識を指し、ある技術的特徴が「通常の知識」であると主張する場合には、その主張者が立証責任を負う。そして、「通常の知識」の立証のためには、特定の通常の知識が存在すると主張する者が、その技術分野に属する者という理由のみでは不十分で、教科書又は参考書内に記載されている等、客観的な証拠を示す必要がある。
■詳細及び留意点

 係争特許出願第94137762号「積層型チップパッケージ構造」では、請求項1の「各該B階導電バンプ(B-stage conductive bump)が、対応する該ボンディングワイヤの一部を覆う」との技術的特徴が、「通常の知識」であるか否かが争われた。

 

 上訴人(特許出願人)は、智慧財産局は上記技術的特徴が「通常の知識」であることを証明する証拠を提出していないと主張した。

 

 判決では、「通常の知識」が、その発明の属する技術分野に存在するかどうかは具体的な証拠により証明できる客観的な事実であって、証拠なしでの主観的な判断ではないとされ、その上で、「通常の知識」は、主張を行う者がその存在について立証責任を負い、そして、特定の通常の知識が存在すると主張する者が、その技術分野に属する者という理由のみでは特定の通常の知識が存在するということはできないと判示し、智慧財産局の拒絶査定を取消した。

 

参考(智慧財産法院行政判決の判決理由より抜粋):

 

末按發明雖無專利法第22條第1 項所列情事,但為其所屬技術領域中具有通常知識者依申請前之先前技術所能輕易完成時,仍不得依本法申請取得發明專利,同法第22條第4 項定有明文。所謂「通常知識」,指該發明所屬技術領域中已知之普通知識,包括習知或普遍使用之資訊以及教科書或工具書內所載之資訊,或從經驗法則所瞭解之事項。則所屬技術領域者所具之通常知識,對於其他領域者而言固可能為該領域之專門知識,但對於所屬技術領域者而言則為普遍性、通    常性之知識。如係所屬領域中之特殊知識,而非所屬技術領域具有通常知識者所普遍具有之知識,自不能援以作為判斷發明專利有無進步性之標準。而「通常知識」於所屬技術領域是否存在為一有具體證據可以證明之客觀事實,並非所屬技術領域者毫無依據之主觀上判斷,蓋通常知識對於所屬技術領域者而言既為普遍性、通常性之知識,且若非係習知或普遍使用之資訊以及教科書或工具書內所載之資訊,即係經驗法則所能瞭解之事項,自可提出記載通常知識資訊之教科書、工具書證明通常知識之存在,或提出具體事證證明特定經驗法則之存在,及藉由經驗法則可以推知之通常知識。苟當事人對於特定通常知識是否存在之事實有爭執存在,主張特定通常知識存在者對於該特定通常知識之存在即負有舉證之責任,而不能僅因主張特定通常知識存在者為所屬技術領域之人員,即可將特定通常知識是否存在由其主觀之恣意判斷定之。經查系爭專利申請專利範圍第1 項所界定「各該B 階導電凸塊覆蓋相對應之該打線導線的一部分」之技術特徵既未為被告所提出之引證案所揭露,則必須該項技術特徵已成為所屬技術領域之通常知識,始能認該項技術特徵為所屬技術領域中具有通常知識者所能輕易完成,而被告機關並未提出足以證明該項技術特徵係所屬技術領域通常知識之證據過院,徒以該項技術特徵為所屬技術領域中具有通常知識者所能輕易完成,認定系爭專利申請專利範圍第1 項不具有進步性,顯然以主觀之恣意判斷取代客觀事實之證明,顯屬不足採信。

 

(日本語訳「発明が専利法第22条第1項各号の事情に該当しなくても、それの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が出願前の従来技術から容易に想到できる場合は、本法により、出願は特許を受けることができない。これは同法第22条第4項に明文で定められている。「通常の知識」とは、その発明の属する技術分野における既知の一般知識を指し、従来又は普遍的に使用する情報、教科書又は参考書内に記載される情報、及び経験法則から理解した事項を含む。そうすると、その発明の属する技術分野の者が有する通常の知識は、他の分野の者にとって、当該分野の専門知識である可能性があるが、その発明の属する技術分野の者にとって、普遍性や通常性の知識である。その発明の属する分野における特殊な知識であって、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が普遍的に有する知識ではなければ、引用して発明の進歩性の有無を判断する基準とすることができない。「通常の知識」が、その発明の属する技術分野に存在するかどうかは具体的な証拠により証明できる客観的な事実であって、証拠なしでの主観的な判断ではない。通常の知識は、その発明の属する技術分野の者にとって普遍性、一般性のある知識であり、且つ従来又は普遍的に使用する情報、及び教科書又は参考書内に記載されている情報でなければ、経験法則から理解できる事項であるといえる。そのため、通常の知識情報を記載する教科書や参考書を提出して通常の知識の存在を証明したり、具体的な証拠を提出して特定の経験法則の存在及び経験法則により推知できる通常の知識を証明する必要がある。特定の通常の知識が存在するか否かの事実について当事者が争う場合には、特定の通常の知識が存在すると主張する者が、該特定の通常の知識の存在について立証責任を負う。特定の通常の知識が存在すると主張する者が、その技術分野に属する者という理由のみでは、特定の通常の知識が存在するということはできない。調べにより、係争特許出願の請求項1の「各該B階導電バンプが対応する該ボンディングワイヤの一部を覆う」との技術的特徴は、被告が提出した証拠に開示されていないことから、当該技術的特徴がその発明の属する技術分野における通常の知識となってから始めて当該技術的特徴がその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に想到できるものであると認められる。しかしながら、被告機関は当該技術的特徴が、その発明の属する技術分野における通常の知識であることを証明できる証拠を本法院に提出しておらず、当該技術的特徴がその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に想到できるものであるとし、係争特許出願の請求項1が進步性を有しないとした判断は、明らかに客観的事実に代えて主観的で恣意的な判断に基づいていることから、被告機関の主張を採用することはできない。」)

 

【留意事項】

 「通常の知識」の主張については、その主張者が立証責任を負う。そのため、先行技術と請求項に係る発明に相違点があり、その相違点が「通常の知識」であると主張されている場合、当該相違点が「通常の知識」であることを示す証拠が開示されているか詳細に検討する必要がある。

 

 特に、台湾では、無効審判の審決に不服がある場合、訴願委員会、智慧財産法院に出訴することができるが、訴願委員会及び智慧財産法院では当事者対立構造を採用しておらず、審決という行政手続きの妥当性を争うことから、必ず智慧財産局が被告又は原告になる。

 

 例えば、請求人側が「通常の知識」の証拠を提示せずに無効審判を請求し、仮に無効審決が出された場合、特許権者が訴願委員会に無効審決の取り消しを求める際の被告は無効審判請求人ではなく智慧財産局であり、智慧財産局が証拠を提示した上で有効な反論ができない場合は、審決が取消される可能性がある。

 

 したがって、無効審判を請求し、相違点が「通常の知識」であると主張する場合には、十分な証拠を提示すことが望ましい。

■ソース
智慧財産法院行政判決00年度行専訴字第71号
■本文書の作成者
知崇国際特許事務所 弁理士 松本征二
■協力
萬國法律事務所 鍾文岳
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.28

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