国別・地域別情報

ホーム 国別・地域別情報 アジア 審判・訴訟実務 | 審決例・判例 特許・実用新案 (韓国)性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む発明の解釈に関する事例

アジア / 審判・訴訟実務 | 審決例・判例


(韓国)性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む発明の解釈に関する事例

2013年04月26日

  • アジア
  • 審判・訴訟実務
  • 審決例・判例
  • 特許・実用新案

このコンテンツを印刷する

■概要
大法院は、発明の新規性及び進歩性の判断において、特許請求の範囲に記載された性質又は特性が発明の内容を限定する事項である以上、これを発明の構成から除いて刊行物に掲載された発明と対比することはできない、ただ、刊行物に掲載された発明に、それと技術的な表現が異なるだけで実質的には同一・類似した事項があるなどの事情がある場合に限って、出願発明の新規性及び進歩性を否定できると判示した。

特許請求の範囲に記載された性質又は特性について、原審が発明の構成から除いて進歩性を判断したのに対し、大法院は、全体の構成に含めて、刊行物に掲載された発明と対比し、進歩性があるとして原審判決を破棄した事例である。
■詳細及び留意点

 (1) この事件の第1項に係る発明である「封入された電気発光性の燐光体粒子」は、湿度-加速された減衰に敏感な電気発光性の燐光体粒子が、ほぼ透明な連続相の酸化物被覆層の内に、本質的に完全に封入されている構造を取っており(第1の構成)、特定の物理的な性質(上記の封入された燐光体粒子は、被覆されていない燐光体粒子の初期の電気発光明度と同一であるか、その明度の約50%以上の初期の電気発光明度を有し、相対湿度の95%以上の環境で100時間作動させた後に保有する発光明度の百分率が、作動温度、電圧及び振動数がほぼ同一である状態で100時間作動させた後に保有する固有明度の約70%以上になるという物性パラメーター)を有すること(第2の構成)に表現されている。上記のような特許請求の範囲に関する技術的な事項の解釈について、原審特許法院の判決と大法院の判決は見解を異にしている。

 

 (2) 原審判決は、この事件の第1項に係る発明において、第2の構成である特定の物性パラメーターは、「封入された燐光体粒子」に関わる技術構成ではなく効果や物理的な性質を現わしたものに過ぎないため、これを除いて引用発明と対比した結果、この事件の第1項に係る発明の第1の構成は、その優先日の以前に刊行物に掲載された発明と同一・類似であり、両発明の構成(第1の構成)が非常に類似し、また、その構成に特別な差がないから、格別の事情がない限り両発明はその効果も類似していて、刊行物に掲載された発明がこの事件の第1項に係る発明に比べその効果が著しく落ちると見る証拠もないから、両発明はその効果に差がないと述べた。

 

 (3) しかし、本件大法院判決は、「性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む出願発明の新規性及び進歩性の判断において、その出願発明の特許請求の範囲に記載された性質又は特性が発明の内容を限定する事項である以上、これを発明の構成から除いて刊行物に掲載された発明と対比することはできない」という一般的な法理を判示している。そして、「この事件の出願発明の第1項で請求されている燐光体粒子は、構造により特定することが難しいだけでなく、構造のみで特定しようとすれば、従来の燐光体粒子と技術的に区別することが難しいという特性がある。なおさら、この事件の出願発明の第1項の第1の構成に該当する『湿度に敏感な電気発光性の燐光体粒子を透明な連続相の酸化物被覆層の内に完全に封入する構成』だけでは、この事件の出願発明が目的とする、初期の発光明度及び発光明度の湿度-加速された減衰に対する抵抗性が共に高い燐光体粒子が得られるともいえない。かつ、この事件の出願発明の第1項の第2の構成もやはり、原告がこの事件の出願発明を出願することで保護を求めている事項であるため、第1の構成と共にその特許請求の範囲に記載した事項であることが明白である。」と判示している。

 その法理に基づいて、「この事件の出願発明の第1項に係る発明の第2の構成は、発明の対象である燐光体粒子の性質又は特性を表現してはいるが、第1の構成を限定しながら発明を特定している事項であると見做すのが妥当であるため、この事件の出願発明の第1項の進歩性の判断において、刊行物に掲載された発明と対比すべき構成である」と判示している。

 

 (4) 上記の物性パラメーターを構成要素とするこの事件の第1項に係る発明は、第2の構成において従来技術との差が認められたが、「刊行物に掲載された発明では、…… この事件の出願発明の第1項の第2の構成と同一・類似したものに換算することができる性質又は特性やこの事件の出願発明の詳細な説明に記載の実施例と同一・類似した具体的な実施形態について記載されてもいないので、その第2の構成と実質的に同一・類似すると認められる事項が存在しない。また、この事件の出願発明の明細書の内容によると、この事件の出願発明の第1項において、初期の発光明度及び耐湿性に関わる特性を導出する製造方法の一つの特徴は、その製造過程の中で化学蒸着工程における温度の範囲を約25℃ないし 170℃に限定したことであるのに対し、刊行物に掲載された発明の明細書には、燐光物質の粒子と被膜用物質が反応する反応管内にある酸化ガスの入口の領域を約400℃以上に維持すると記載されていて、その付近の温度で化学蒸着の工程が行われると考えられるため、その工程温度は、この事件の出願発明の明細書に記載の上記の工程温度の範囲と異なり、むしろ同一の明細書において従来技術の工程温度として記載された200~500℃に属する以上、刊行物に掲載された発明によっては、上記のような特性があるこの事件の出願発明の第1項の封入された燐光体粒子が得られると断定することもできない」、更に、両発明の作用効果を見ても、「刊行物に掲載された発明の明細書には、被覆された燐光体粒子を用いた蛍光ランプが被覆されていない燐光体粒子を用いたものに比べて使用時間が大幅に増える効果があるという点が記載されているだけであり、刊行物に掲載された発明が、湿度の高い条件で電気発光性の燐光体粒子の発光明度の減衰速度を抑制するなどこの事件の出願発明の第1項と同一の効果を得ることができると認められる事項については示されていない」として、「この事件の出願発明の第1項は、全体的に見て刊行物に掲載された発明と技術的な構成及び作用効果が相違するので、その発明に属する分野における通常の知識を有する者が刊行物に掲載された発明に基づき容易に発明をすることができるとはいえない」と判示した。

 本件は、原審判決を破棄し、原審法院に差し戻した。

 

参考(大法院判決2004年4月28日付宣告2001후2207 【拒絶査定(特)】より抜粋):

 

2. 대법원의 판단

 가. 이 사건 출원발명 제1항과 간행물에 실린 발명의 구성을 대비하여 볼 때, 이 사건 출원발명 제1항의 제1구성 부분, 즉 ‘거의 투명한 연속상의 산화물 피복층 내에 본질적으로 완전히 봉입되고, 습도-가속된 감쇠에 민감한 전기발광성 인광체 입자’의 구성은 원심이 적절하게 판단하고 있는 바와 같이, 간행물에 실린 발명에 이에 해당하는 구성이 나타나 있거나 그 기술 분야에서 통상의 지식을 가진 사람이 간행물에 실린 발명에 있는 대응되는 사항에 의하여 쉽게 도출할 수 있는 구성이라고 볼 수 있다.

 

나. 그러나 이 사건 출원발명 제1항의 제2구성이 제1구성의 효과일 뿐 발명의 내용을 한정하는 기술적 구성이 아니라는 전제 아래 간행물에 실린 발명과 구성의 차이를 대비할 필요조차 없다고 하여 이 사건 출원발명의 진보성을 부정한 원심의 판단은 다음과 같은 이유로 수긍하기 어렵다.

(1) 성질 또는 특성 등에 의하여 물건을 특정하려고 하는 기재를 포함하는 출원발명의 신규성 및 진보성을 판단함에 있어서 그 출원발명의 특허청구범위에 기재된 성질 또는 특성이 발명의 내용을 한정하는 사항인 이상, 이를 발명의 구성에서 제외하고 간행물에 실린 발명과 대비할 수 없으며, 다만 간행물에 실린 발명에 그것과 기술적인 표현만 달리할 뿐 실질적으로는 동일·유사한 사항이 있는 경우 등과 같은 사정이 있을 때에 그러한 출원발명의 신규성 및 진보성을 부정할 수 있을 뿐이다(대법원 2002. 6. 28. 선고 2001후2658 판결 참조).

 

(日本語訳「2.大法院の判断

 イ.この事件の出願発明の第1項と刊行物に掲載された発明の構成を比較してみると、この事件の出願発明の第1項の第1の構成の部分、すなわち、「ほぼ透明な連続相の酸化物被覆層の内に本質的に完全に封入され、湿度-加速された減衰に敏感な電気発光性の燐光体粒子」の構成は、原審が適切に判断したように、刊行物に掲載された発明にこれに当たる構成が示されているか、或いはその技術の分野における通常の知識を有する者が刊行物に掲載された発明の対応する事項により容易に導出することができる構成であると認められる。

 

 ロ.しかし、この事件の出願発明の第1項の第2の構成は、第1の構成の効果であるだけで発明の内容を限定する技術的な構成ではないという前提の下に、刊行物に掲載された発明と構成の差を対比する必要もないと述べて、この事件の出願発明の進歩性を否定した原審の判断は、次の理由により納得し難い。

 (1) 性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む出願発明の新規性及び進歩性の判断において、その出願発明の特許請求の範囲に記載された性質又は特性が発明の内容を限定する事項である以上、これを発明の構成から除いて刊行物に掲載された発明と対比することはできない。ただ、刊行物に掲載された発明にそれと技術的な表現が異なるだけで実質的には同一・類似する事項がある場合などのような事情があるときのみ、その出願発明の新規性及び進歩性が否定されるのである(大法院判決 2002年6月28日付宣告 2001후2658を参照)。」)

 

【留意事項】

 この事件において、特許審判院の審決及び特許法院の判決では、特許請求の範囲に記載された特性と性質に関する記載を発明の効果として認め、これを構成から除いて先行の従来技術と比べ進歩性を判断したが、大法院では、特性と性質などに関する記載であってもこのような事項が記載されなければならない事情があれば、特性と性質などの記載も発明を限定する事項として認められ、このような記載により従来技術との差が認められる場合には、これに基づき当該発明の進歩性が認められる根拠にできることを判示する。

 

 本件の大法院判決は、従来、認められなかった物性パラメーターを発明の構成として認めた最初の判例として意味があり、発明の限定記載に関する様々な表現について、出願人の自由な選択で発明を特定し記載できるようにした点で、既存の判例に比べて一層進展した判例であると評価される。

 

 しかし、このような形態の記載を通じて発明の進歩性が認められるためには、物性パラメーターを採用した根拠は勿論、こうした限定によって従来技術と対比できる根拠を明細書上に明確に提示することが求められると考えられる。また、従来の構造を持つ場合において当該限定された物性パラメーターが導出されない点についても立証することが求められると考えられる。物性パラメーターの限定発明の進歩性が認められるためには、これらの点に特に留意すべきである。

■ソース
大法院判決2004年4月28日付宣告2001후2207
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=350F8B32E43F00EAE0438C01398200EA&courtName=대법원&caseNum=2001후2207&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

■関連キーワード