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(中国)引用文献に、本願発明の進歩性を否定できる技術的示唆(動機付け)があるか否かに関する事例

2013年04月12日

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■概要
本件において、中国専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、引用文献1にはグリシン輸送阻害剤がアルコールの乱用又はアルコール切れに起因する問題の治療に用いられることが開示されており、引用文献2には具体的なグリシン輸送阻害剤が開示されており、アルコール中毒はアルコールの乱用で最も多く見られる疾患であるため、当業者は、引用文献2に開示された具体的な化合物を、引用文献1に記載されているアルコールの乱用又はアルコール切れに密接に関連するアルコール中毒治療薬として使用する動機付けがある、として、請求項1に記載の発明は進歩性を有しないと認定し、拒絶査定を維持した。
■詳細及び留意点

 中国国家知識産権局(以下、「中国特許庁」という)が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、技術的特徴の差異を最も近い先行技術に応用し、当業者が先行技術に存在していた技術的課題を解決する動機付けがあれば、発明は自明であり、進歩性を有しない旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章3.2.1.1参照)。

 

 本願発明は、薬物及びアルコール依存症を治療するグリシン再取込みインヒビターに関する。出願人は、審判段階での新たな拒絶理由通知への応答時に請求項1に請求項2の構成を追加する補正を行った。補正後の請求項1は以下のとおりである。

 「 ヒトのアルコール中毒を治療する薬物の製造における、Gly-T1インヒビターN-メチル-N-[[(1R,2S)-1,2,3,4-テトラヒドロ-6-メトキシ-1-フェニル-2-ナフタレニル]メチルグリシン又は医薬的に許容されるその塩の使用。」

 

 引用文献1には、グリシンGly-T1輸送阻害剤がアルコールの乱用又はアルコール切れに起因する疾病の治療に用いられることが開示されており、補正後の請求項1と引用文献1(WO2004013100A2)記載の発明との相違点は、以下の2点である。

(1)治療する疾病はアルコールの乱用又はアルコール切れに起因する疾病ではなく、アルコール中毒である。

(2)具体的な化合物の構造。

 

 審判部合議体は、引用文献2(CN1309631A)に記載された化合物は、請求項1の化合物の下位概念であって、当該化合物はグリシン輸送阻害活性を有することを開示している、と判断し、当業者は引用文献2の具体的な化合物をアルコール中毒治療に用いる動機付けがあるとして、拒絶理由通知を発した。

 

 これに対し、出願人は以下の2点を主張した。

(ⅰ)アルコールの乱用又はアルコール切れに基づく疾患はアルコール中毒と異なる。前者に対する治療は、アルコールの飲用を速やかに停止させることであるのに対して、後者に対する治療は、アルコールの依存性を相殺することで効果を奏する。

(ⅱ)当業者は、引用文献1で開示した全ての化合物が引用文献1に大量に列挙された適応症に有効であることを判断できず、これらの化合物がアルコールの乱用又はアルコール切れもとづく疾患とは異なるアルコール中毒にも有効であることも確定できない。更には、数多くのグリシン輸送阻害剤からアルコール中毒に対して活性を有する具体的な化合物を選択することもできない。

 

 これに対し、審判部合議体は、アルコール中毒はアルコールの乱用で最も多く見られる結果であり、アルコール中毒の治療と類似するアルコール乱用の治療の要点も、アルコールに対する依存を緩和し、又はなくすことにあるので、当業者は、引用文献2に開示されたグリシン輸送阻害作用を有する具体的な化合物を、アルコール乱用に密接に関連するアルコール中毒の治療に用いる動機付けがある、と認定した。

 

 上記理由により、審判部合議体は拒絶査定を維持した。

 

参考(中国特許庁審判部査定不服審決2012年9月25日付第45832号より抜粋):

 

  如果要求保护的技术方案相对于最接近的现有技术存在区别技术特征,且现有技术中给出了将上述区别技术特征应用到该最接近现有技术以解决其存在的技术问题的启示,这种启示会使本领域的技术人员在面对所述技术问题时,有动机改进该最接近的现有技术并获得要求保护的发明,则所述技术方案是显而易见的。

 

  本领域技术人员公知,酒精滥用是不计有害后果的重复使用酒精,由于酒精是成瘾性物质,重复使用酒精会导致成瘾性,成瘾的酒精滥用会对导致肝脏等器官损伤和会对神经系统产生损伤,导致酒精中毒,可见酒精中毒是酒精滥用最常见的后果。对酒精滥用的治疗既包括治疗肝脏等器官损伤,更重要的是缓解或去除对酒精的瘾性。

 

  对比文件2公开了・・・(+/-)-顺式-N-甲基-N-(6-甲氧基-1-苯基-1,2,3,4-四氢化萘-2-基甲基)氨甲基羧酸锂、(-)-顺式-N-甲基-N-(6-甲氧基-1-苯基-1,2,3,4-四氢化萘-2-基甲基)氨甲基羧酸锂具有hGlyT-1的甘氨酸转运抑制作用・・・由于对比文件2公开了该化合物能够发挥GlyT-1甘氨酸抑制效果,而作为GlyT-1甘氨酸抑制剂,其具有与对比文件1中所述的GlyT-1甘氨酸抑制剂相同的治疗活性,因此本领域技术人员在对比文件1基础上,根据对比文件2的教导,有动机选择具有甘氨酸抑制活性的对比文件2所示的具体化合物用于治疗酒精中毒。

 

  因此,本领域技术人员在对比文件1的基础上结合对比文件2和公知常识获得权利要求1请求保护的技术方案是显而易见的。

 

(日本語訳「技術的特徴の差異を最も近い先行技術に応用し、当業者が先行技術に存在していた技術的課題を解決する動機付けがあれば、発明は自明であり、進歩性を有しない。

 

 アルコールの乱用は有害な結果を顧みずにアルコールを繰り返し飲用することであり、アルコールは依存性のある物質であるため、アルコールを繰り返し飲用することで依存症になる。アルコールの乱用は肝臓などの器官を損傷し、神経系にも損害を与え、アルコール中毒を引き起こす。このように、アルコール中毒はアルコール乱用の最も多く見られる結果である。アルコール乱用に対する治療は肝臓など器官の損傷の治療だけでなく、より重要なのはアルコールへの依存を緩和、又はなくすことであることは当業者にとって公知である。

 

 引用文献2には・・・、(+/-)-cis-N-メチル-N-(6-メトキシ-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-イルメチル)アミノメチルカルボン酸リチウム、(-)-cis-N-メチル-N-(6-メトキシ-1-フェニル-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2-イルメチル)アミノメチルカルボン酸リチウムが、hGlyT-1のグリシン輸送阻害作用を有することを開示し・・・、引用文献2は、当該化合物がGlyT-1のグリシン輸送阻害効果を発揮できることを開示しており、GlyT-1グリシン輸送阻害剤として、当該化合物は引用文献1に記載のGlyT-1グリシン輸送阻害剤と同じ治療活性を有するので、当業者は、引用文献1を基に、引用文献2に示されたグリシン輸送阻害活性を有する具体的な化合物を選択して、アルコール中毒の治療に用いる動機付けがある。

 

 したがって、当業者が引用文献1を基に引用文献2及び技術常識を組合せて請求項1の発明を得るのは自明である。」)

 

【留意事項】

 本事件は、動機付けとなる引用文献2が審判段階で示されてはいるものの、審査基準に照らして判断したとしても、個々の審査官、審判官によって判断が異なり得る(どちらでも説明可能な)案件と思われる。結果としてやや厳しめな結論に至っているが、出願人は中国企業であることから考えると、内外国平等に判断されている事例の一つであるとも言える。

■ソース
中国特許庁審判部拒絶査定不服審決2012年9月25日付第45832号
http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=FS45832&lx=FS 中国特許第200680002314.9号
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2012.12.17
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