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(韓国)性質又は特性などにより限定された「パラメーター発明」の新規性及び進歩性の判断に関する事例

2013年04月11日

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■概要
大法院は、性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む特許発明と、これとは異なる性質又は特性などにより物を特定している引用発明を対比する場合、これらを換算した結果、同一・類似であるか、又は両発明の具体的な実施形態が同一・類似である場合には、両発明は、発明に関する技術的な表現が異なるだけで実質的には同一・類似であると見做すべきであるため、進歩性が認められ難いと判示した。特許発明における未延伸糸の物性を限定する事項の新規性及び進歩性を認めた原審判決に対して、大法院が、両発明の出発原料及び製造工程の具体的な態様が同一・類似であるとして新規性及び進歩性を否定し、原審判決を破棄した事例である。
■詳細及び留意点

 (1)「寸法安全性(dimensional stability)ポリエステル糸(Polyester糸)及びその製造方法」に係る発明であるこの事件の第1項の発明は、原審の特許法院判決では、引用発明1と比較して、「ポリエステルの一種であるPET糸(ポリエチレンテレフタルレート糸)の溶融圧出段階、固化段階、引取段階及び延伸段階を経てポリエステル繊維糸を製造する方法に係るものであるとの点で同一性があり、溶融圧出段階、固化段階及び延伸段階の具体的な工程も同一であるが、ただ、引取段階において、この事件の第1項の発明では、引取速度が3~15%の結晶度及び2~10℃の融点上昇を持つ速度に限定されているのに対して、引用発明1では、引取速度を1,500~3,000m/分にすると共に、密度(ρ)が、1.338<ρ<1.365で、1.005A≧ρ≧0.995A{Aは4.4(Δn)2+0.167(Δn)+1.331}であることを同時に満足し、複屈折率(Δn)は、25×103≦Δn<60×103であると限定されている点で相違する」と認定された。

 引取速度で限定されているパラメーターについて、この事件の特許発明では「結晶度及び融点上昇」で限定されているのに対し、引用発明1では密度や複屈折等で限定されているとの差があるが、このような差に対する評価方法について、原審の特許法院判決と大法院判決との判断が相違する。

 

 (2) 上記の差について、特許法院判決では、引用発明1の未延伸糸の密度である1.338~1.365を、この事件の特許発明の明細書(248頁)に記載の「パーセント結晶度」を求める公式に代入してその結晶度を計算すれば、1.54~15.5%になり、この事件の特許発明の第1項の結晶度の3~15%と大部分が一致し、また、この事件の特許発明の実施例から把握した引取速度(2,020~2,900m/分)は、引用発明1の引取速度(1,500~3,000m/分)の範囲に含まれるとの事実及び、引取速度の増加により密度(即ち、結晶化度)や融点上昇値は増加するが、結晶化度が同一であるからといって融点上昇値も同一程度で行われるのではないとの事実などが認められ、引用発明1などの従来の先行文献では融点上昇に対する記載が存在せず、更にこの事件の第1項に係る発明の意図する、融点の上昇が起きると予測される記載が全くなくて、また、その効果においても、この事件の第1項に係る発明が従来の第1世代糸に比べ寸法安全性や強靭度転換率で著しく優秀であり、未延伸糸の融点上昇が2~10℃の範囲において、融点上昇が2℃未満になるか10℃を超える場合に比べ優秀な寸法安全性や強靭度を有するので、その作用効果も著しいといってその進歩性が認められた。特許法院では、この事件の第1項の発明に開示の融点上昇という物性パラメーターが、引用発明1などの先行文献に開示されておらず、このような限定により従来技術(引用発明1ではない)に比べ効果があるとして進歩性を認めた。

 

 (3) これに対して、大法院判決は、「性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む特許発明と、これとは異なる性質又は特性などにより物を特定している引用発明を対比する場合、特許発明の特許請求の範囲に記載の性質又は特性が、他の定義又は試験・測定方法によるものに換算可能なため換算してみた結果、引用発明に対応されるものと同一・類似であるか、又は特許発明の明細書の詳細な説明に記載の実施形態と引用発明の具体的な実施形態が同一・類似である場合には、他に特別な事情がない限り、両発明は発明に関する技術的な表現が異なるだけで実質的には同一・類似であると見做すべきであるため、このような特許発明は新規性及び進歩性が認められ難い」という一般論を判示し、当該特許発明の物性パラメーターが引用発明に記載されていないとの事情だけで評価するのではなく、その実質的な意味を更に評価すべきであるとの指針を提示した。

 

 (4) その上で本件事案について検討し、まず、「引用発明1の未延伸糸の密度である1.338~1.365は、原審の判断のように、結晶度が1.54~15.5%となっているので、この事件の特許発明の第1項の結晶度である3~15%とは大部分が一致する。」と判断した。

 そして、「この事件の特許発明の第1項では、未延伸糸の物性は『2~10℃の融点の上昇』に限定されているが、引用発明1の明細書では、これに対応する記載や暗示する記載は見出せない。しかし、この事件の特許発明の実施例2に開示の試料II-Bと引用発明1の実施例2及び実験番号13の紡糸条件とを対比してみれば、……、両発明が引取段階で得る未延伸糸は同一・類似の物性範囲内のものとして見做される余地が大きいのである。更に、……、一般的に引取速度の増加によって放出糸の融点が上昇することは、この事件の特許発明の出願の前に既にこの発明が属する技術の分野で公知であった事情を勘案すれば、引取段階において引取速度を調節し融点の上昇を調節する技術は当業者にとって自明な事項に過ぎないと判断される」と判示した。

 さらに、「このように、両発明において物性値の換算値(結晶度及び複屈折率)が実質的に同一であり、その出発原料及び製造工程の具体的な態様も同一・類似であり、また、 紡糸工程の中で引取速度が増加すれば適切な範囲内の融点上昇が導出されるということは、この発明が属する技術の分野において既に公知されていた点等に照らしてみれば、引用発明1で得られた未延伸糸においても、他に特別な事情がない限り、この事件の第1項に係る発明で意図する融点の上昇が行われると考えられるので、この事件の第1項に係る発明の未延伸糸の融点の上昇は、引用発明1から当然得られるものであるか、少なくとも当業者が引用発明1から容易に得られる程度のものであると判断するのが妥当である」、「この事件の特許発明の実施例においては、実施例1の試料I-B、I-Cで3℃、実施例2の試料II-B、II-Cで3℃と4℃の融点上昇が行われたことのみが開示され、それ以外の範囲の2℃や5~10℃に対しては何らの記載もなく、『2~10℃』の 範囲という数値範囲に対する技術的意義と臨界的意義があるとも考えられず、上記のような数値範囲は当業者とって困難を要せず適宜選択できる程度に過ぎない」と判断した。

 結局、「この事件の特許発明の第1項は、その新規性又は進歩性が認められ難い」と判断し、原審判決を破棄した。

 

参考(大法院判決2002年6月28日付宣告2001후2658 【登録無効(特)】より抜粋):

 

 나. 이 법원의 판단

 (1) 이 사건 특허발명 제1항의 신규성 및 진보성에 대하여

 (가) 먼저, 이 사건 특허발명 제1항과 인용발명 1의 기술적 구성을 대비하여 보면, 원심이 적절하게 판단하고 있는 바와 같이, 양 발명 모두 PET사의 용융압출단계, 고화단계, 인취단계 및 연신단계를 거쳐 고강인도의 치수안정성 폴리에스테르 섬유사를 제조하는 방법에 관한 것이라는 점에서 기술적 구성이 공통하고, 또 용융압출단계, 고화단계 및 연신단계의 구체적인 공정이 동일하며, 인취단계에서 인취속도를 구성요소로 하여 미연신사의 물성을 조절한다는 점도 공통하나, 인취속도를 조절하여 목표로 하는 미연신사의 물성에 대하여, 이 사건 특허발명 제1항은 ‘결정도’와 ‘융점상승’을 대상으로 하는 데에 대하여, 인용발명 1은 ‘밀도’와 ‘복굴절률’을 그 대상으로 하고 있다는 점에서 차이가 있다.

 

 (나) 그런데 성질또는특성등에의해()특정하려고하는기재를포함하는특허발명과, 이와다른성질또는특성등에의해물을특정하고있는인용발명을대비할, 특허발명의특허청구범위에기재된성질또는특성이다른정의(定義) 또는시험·측정방법에의한것으로환산이가능하여환산해결과인용발명의대응되는것과동일·유사하거나또는특허발명의명세서의상세한설명에기재된실시형태와인용발명의구체적실시형태가동일·유사한경우에는, 달리특별한사정이없는, 발명은발명에대한기술적인표현만달리할실질적으로는동일·유사한것으로보아야것이므로, 이러한특허발명은신규성진보성을인정하기어렵다.

 

 

 (日本語訳「ロ.該法院の判断

 (1)この事件の特許発明の第1項の新規性及び進歩性について

  (i)まず、この事件の特許発明の第1項と引用発明1の技術的構成とを対比して見れば、原審で適切に判断されたように、両発明は、PET糸の溶融圧出段階、固化段階、引取段階及び延伸段階を経て高強靭度の寸法安全性ポリエステル繊維糸を製造する方法に係るものであるという点でその技術的な構成が共通し、また、溶融圧出段階、固化段階及び延伸段階の具体的な工程も同一であり、引取段階において引取速度を構成要素として未延伸糸の物性を調節するところも共通するが、ただ、引取速度の調節で目標にする未延伸糸の物性について、この事件の特許発明の第1項では「結晶度」及び「融点上昇」をその対象にしているのに対し、引用発明1では「密度」及び「複屈折率」を対象にしているので、両発明は相違している。

 

 ()しかし、性質又は特性などにより物を特定しようとする記載を含む特許発明と、これとは異なる性質又は特性などにより物を特定している引用発明を対比する場合、特許発明の特許請求の範囲に記載の性質又は特性が、他の定義又は試験・測定方法によるものに換算可能なため換算してみた結果、引用発明に対応されるものと同一・類似であるか、又は特許発明の明細書の詳細な説明に記載の実施形態と引用発明の具体的な実施形態が同一・類似である場合には、他に特別な事情がない限り、両発明は発明に関する技術的な表現が異なるだけで実質的には同一・類似であると見做すべきであるため、このような特許発明は新規性及び進歩性が認められ難いのである。」)

 

【留意事項】

 (1) 従来の特許実務において、特許請求の範囲に物性パラメーターが記載されている場合、実務的に二つの争点があった。第一は、物性パラメーターを発明の構成として認めるべきか、或いは発明の効果として認めこれを構成から除いて評価すべきであるかという問題である。このような問題に対して、大法院判決2004年4月28日付宣告2001후2207では、特性又は性質として記載されていてもこれが発明を限定するものであれば、これを除いて特許性を評価することはできないと確立された。第二は、このような当該物性パラメーターをどう評価すべきかである。当該発明が採用する物性パラメーターが先行文献に開示されていなければ、事実上、新規性や進歩性が認められる可能性は非常に高い。このような論議に対して、本件の大法院判決では、たとえ当該物性パラメーターが明示的に先行文献に開示されていなくても先行文献の他の物性と換算できるのであれば、両者を対比することができるということが判示されているのは勿論、先行文献の具体的な実施形態が当該発明の実施形態と同一・類似であれば、その物性パラメーターも同一であるという、いわゆる「実施例同一」の法理が判示され、パラメーター発明における新規性、進歩性判断の基準が提示された。

 パラメーター発明は、広い権利を確保することができるという点で、出願人にとっては非常に有効な発明の特定手段になり、特に物自体の発明においてその物を構造・組成などにより容易に特定できない場合には、パラメーターが発明の特定手段として有効に機能し、このような利便性から、材料発明を中心に更に有力な発明の特定手段として活用されている。ところで、本質的に特許性のあるパラメーター発明と、公知技術から表現だけを変えたパラメーター発明とを適切に区分して評価することは、実に難しい問題であり、このような基準について最初に提示したという点に本件大法院判決の意義がある。

 

 (2) パラメーター限定により特許を受けようとする立場では、パラメーターを採用した根拠及びこのような限定により従来の物と明確に区分されるという点を含め、従来の実施形態からはこのような物性パラメーターを得ることができないという点を立証しなければならないと考えられることに注意が必要である。一方、パラメーター発明を阻止しようとする立場では、それが従来の表現方式だけを変えたものに過ぎないという点を立証することが一案であるが、従来技術の厳格な再現実験を通じて当該発明の物性パラメーターを得ることができることを立証する方法が実務的に有力な手段として提案されている。

■ソース
大法院判決2002年6月28日付宣告2001후2658
http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=350F8B32D3D100EAE0438C01398200EA&courtName=대법원&caseNum=2001후2658&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘
■協力
特許法人AIP
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2013.01.08

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