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(韓国)公知公用技術と周知慣用技術を収集・総合して成り立つ発明の進歩性について判断した事例
2013年04月05日
■概要
大法院は、特許発明が公知公用の既存の技術と周知慣用技術を収集・総合して成り立った場合、これを総合するのに格別な困難性があるか、若しくはこれによる作用効果が予測される効果以上の新しい相乗効果があると見られる場合でなければ、その発明の進歩性は認められないと判示した。また、ある周知慣用技術が、訴訟上の公知又は明らかな事実であると思われる程一般に知られていない場合に、その周知慣用の技術は審決取消訴訟においては証明を必要とするが、法院は自由な心証により証拠などの記録に示された資料を通じて周知慣用技術を認めることができると判示した。本件は、原審判決を支持し、上告を棄却した事例である。■詳細及び留意点
(1) この事件の第1項に係る発明は、「金、銀、セレニウム、ゲルマニウムからなっているグループから選択される材料により、下着(7)に被覆層(3)が蒸着形成されることを特徴とする皮膚保護用下着」をその構成とし、この事件の特許発明によると、上記の金属等の被覆された繊維反物で製作した下着を着用する際に、皮膚が上記の金属層に接触され皮膚に有用な金属成分が供給されるため、上記の金属等による皮膚の血行促進などの効果が得られるという。
しかし、比較対象発明3及び5には繊維又は衣類にアルミニウムなどの金属層を蒸着させる技術が公知であるのに対し、この事件の第1項に係る発明は、比較対象発明 3及び5に比べ、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムからなっているグループから金属材料を選択した点だけで差がある。その前提に立って、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムからなるグループから金属材料を選択したことが周知慣用の技術であるか否かの可否と、このような周知慣用技術の立証方法などについて争われ、比較対象発明3、5及び周知慣用技術の結合に対する構成の困難性及び効果の顕著性や効果を判断する際の商業的な成功など、副次的な要因が及ぼす影響などが検討された。
(2) 周知慣用技術の意味を明らかにした韓国大法院の判決は存在しない。ただ、特許庁の審査指針書などを参考にしてみると、周知技術とは当該技術の分野において一般的に知られている技術を意味し、慣用技術とは周知技術の中でよく使われている技術を意味するが、ある技術が周知慣用の技術に当たるか否かについては、当該技術の内容及び公知文献の性格や活用度、公知・公然実施された回数などを考慮し客観的に判断されている(特許法院2007年12月21日付宣告2007ホ3752判決)。周知慣用技術の立証は、原則的にそれが不要証の著しい事実でなければその具体的な立証が訴訟上必要とされると認められている。
しかし、本件について、大法院は、「ある周知慣用技術が、訴訟上の公知又は顕著な事実であると思われる程一般に知られていない場合に、その周知慣用技術は審決取消訴訟においては証明を必要とするが、法院は自由な心証により証拠などの記録で示された資料を通じて周知慣用の技術を認めることができる」と判示したことに意義がある。
本件事案では、このような前提に立って、「この事件の特許発明の明細書に、従来技術として、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムが人体に有用な効能を持つことについて記載されている事情などから、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムが人体に有用な効能を持つことは周知慣用技術として認められる」とした。そして、「この事件の特許発明は、原審判示の比較対象発明3及び5に示された繊維又は衣類にアルミニウムなどの金属層を蒸着させる技術に、周知慣用の技術である、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムを金属材料として採択し、これを単純に結合したものであるため、構成の困難性が認められない」、「原審判示の比較対象発明3及び5と周知慣用技術を結合したことから予測される効果以上の新しい相乗効果も認められない」として進歩性を否定し、同一趣旨の原審の判断を正当であるとした。
(3) また、本件事案は、長い間実施されていないとの事情、商業的に成功した点等に照らし進歩性は認められるべきという主張が申し立てられたが、「このような事情だけではこの事件の特許発明の進歩性は認められない」とされた。
進歩性判断時の二次的考慮事項について、以前の判例では商業的な成功などが考慮されることもできるとの趣旨の判示もあった。しかし、現在、大半の判例では、当該発明の実施品が商業的に成功した点等の二次的考慮事項は進歩性を認める一つの資料として参考にすることはできるが、このような二次的考慮事項の存在自体だけでは進歩性が認められ難く、発明の進歩性に対する判断は、優先的に明細書に記載の内容、即ち、発明の目的、構成、作用効果を土台とし先行公知技術から通常の技術者が容易に発明をすることができるか否かによって判断されるべきであり、このような二次的考慮事項が存在するとの事情だけでは進歩性を認められないことが確立されている。本件事案の場合も上記の多数の判例に基づき二次的考慮事項の考慮の可否について判断された。
参考(大法院判決2008年5月29日付宣告2006후3052 【登録無効(特)】より抜粋):
1. 특허등록된 발명이 공지공용의 기존 기술과 주지관용의 기술을 수집 종합하여 이루어진 데에 그 특징이 있는 것인 경우에 있어서는 이를 종합하는 데 각별한 곤란성이 있다거나, 이로 인한 작용효과가 공지된 선행기술로부터 예측되는 효과 이상의 새로운 상승효과가 있다고 볼 수 있는 경우가 아니면 그 발명의 진보성은 인정될 수 없다고 볼 것이고(대법원 2001. 7. 13. 선고 99후1522 판결 참조), 어느 주지관용의 기술이 소송상 공지 또는 현저한 사실이라고 볼 수 있을 만큼 일반적으로 알려져 있지 아니한 경우에 그 주지관용의 기술은 심결취소소송에 있어서는 증명을 필요로 하나, 법원은 자유로운 심증에 의하여 증거 등 기록에 나타난 자료를 통하여 주지관용의 기술을 인정할 수 있다 할 것이다(대법원 1991. 4. 23. 선고 90후489 판결, 대법원 2003. 8. 22. 선고 2002후2600 판결 등 참조).
위 법리와 기록에 비추어 살펴보면, 명칭을 “피부보호용 섬유원단 및 피부보호용 속옷”으로 하는 이 사건 특허발명(등록번호 제141506호)의 명세서에 종래기술로 금, 은, 셀레늄, 게르마늄이 인체에 유용한 효능을 가진다는 점에 대하여 기재되어 있는 사정 등에 비추어 볼 때 금, 은, 셀레늄, 게르마늄이 인체에 유용한 효능을 가진다는 점은 주지관용의 기술이라 할 것이고, 나아가 이 사건 특허발명은 원심판시의 비교대상발명 3, 5에 나타난 섬유 또는 의류에 알루미늄 등의 금속층을 증착시키는 기술에 주지관용의 기술인 금, 은, 셀레늄, 게르마늄을 금속재료로 채택하여 이를 단순 결합한 것으로서 구성의 곤란성이 인정되지 아니하고, 원심판시의 비교대상발명 3, 5와 주지관용의 기술을 결합한 것으로부터 예측되는 효과 이상의 새로운 상승효과도 인정되지 아니하므로, 이 사건 특허발명이 속하는 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 원심판시의 비교대상발명 3, 5와 주지관용의 기술로부터 용이하게 발명할 수 있어 진보성이 부정된다고 할 것이다.
따라서 같은 취지에서 이 사건 특허발명의 진보성이 부정된다고 본 원심의 판단은 정당한 것으로 수긍이 가고, 거기에 상고이유로 주장하는 바와 같은 발명의 진보성에 관한 법리오해, 주지관용기술의 인정에 관한 채증법칙 위반 등의 위법은 없다.
2. 특허발명의 제품이 상업적으로 성공을 하였거나 특허발명의 출원 전에 오랫동안 실시했던 사람이 없었던 점 등의 사정은 진보성을 인정하는 하나의 자료로 참고할 수 있지만, 이러한 사정만으로 진보성이 인정된다고 할 수는 없고, 특허발명의 진보성에 대한 판단은 우선적으로 명세서에 기재된 내용, 즉 발명의 목적, 구성 및 효과를 토대로 선행 기술에 기하여 당해 기술분야에서 통상의 지식을 가진 자가 이를 용이하게 발명할 수 있는지 여부에 따라 판단되어야 하는 것이므로 이러한 사정이 있다는 이유만으로 발명의 진보성을 인정할 수 없다(대법원 2005. 11. 10. 선고 2004후3546 판결 참조).
위 법리에 비추어 살피건대, 위에서 본 바와 같이 이 사건 특허발명의 명세서에 기재된 내용을 토대로 선행 기술과 대비한 결과 이 사건 특허발명이 선행 기술보다 향상 진보된 것으로 인정되지 아니하는 이 사건에서, 설령 이 사건 특허발명의 제품이 상업적으로 성공을 하였거나 이 사건 특허발명의 출원 전에 오랫동안 실시했던 사람이 없었다 하더라도 이러한 사정만으로는 이 사건 특허발명의 진보성을 인정할 수는 없으므로, 원심이 이 사건 특허발명의 진보성을 판단함에 있어서 이 사건 특허발명의 제품이 상업적으로 성공을 하였는지 등의 사정을 참작하지 아니한 것에 상고이유로 주장하는 바와 같은 발명의 진보성에 관한 법리오해 등의 위법이 있다고 할 수 없다.
(日本語訳「1.特許登録された発明が公知公用の既存の技術と周知慣用技術を収集・総合して成り立ったことにその特徴がある場合、これを総合するのに格別な困難性がある場合や、若しくはこれによる作用効果が公知の先行技術から予測される効果以上の新しい相乗効果があると見られる場合でなければ、その発明の進歩性は認められず(大法院判決 2001年7月13日付宣告99후1522を参照)、ある周知慣用技術が、訴訟上の公知又は顕著な事実であると思われる程一般に知られていない場合に、その周知慣用技術は審決取消訴訟においては証明を必要とするが、法院は自由な心証により証拠などの記録で示された資料を通じて周知慣用の技術を認めることができる(大法院判決 1991年4月23日付宣告90후489、大法院判決 2003年8月22日付宣告2002후2600などを参照)。
上記の法理と記録に照らしてみると、名称が「皮膚保護用の繊維反物及び皮膚保護用下着」であるこの事件の特許発明(登録番号第141506号)の明細書に、従来技術として、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムが人体に有用な効能を持つことについて記載されている事情などから、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムが人体に有用な効能を持つことは周知慣用技術として認められ、更に、この事件の特許発明は、原審判示の比較対象発明3及び5に示された繊維又は衣類にアルミニウムなどの金属層を蒸着させる技術に、周知慣用の技術である、金、銀、セレニウム、ゲルマニウムを金属材料として採択し、これを単純に結合したものであるため、構成の困難性が認められず、原審判示の比較対象発明3及び5と周知慣用技術を結合したことから予測される効果以上の新しい相乗効果も認められないから、この事件の特許発明が属する技術の分野における通常の知識を有する者が原審判示の比較対象発明3及び5と周知慣用の技術から容易に発明をすることができるので、進歩性は否定されるのである。
したがって、同一趣旨からこの事件の特許発明の進歩性は否定されるという原審の判断は、正当であるため納得することができ、そこに上告理由として主張するような発明の進歩性に対する法理誤解、周知慣用技術の認定に対する採証法則違反などの違法はない。
2.特許発明の製品が商業的に成功した、若しくは特許発明の出願の前に長い間実施者がいなかったとの事情は、進歩性を認めるための一つの資料として参考にすることは許されるが、このような事情だけで進歩性が認められるとは言い難く、特許発明の進歩性に対する判断は、優先的に明細書に記載された内容、すなわち、発明の目的や構成及び効果に基づき、先行技術から当該技術の分野における通常の知識を有する者がこれを容易に発明することができるかどうかの可否によって判断される必要があるため、このような事情があるという理由だけでは進歩性は認められない(大法院判決 2005年11月10日付宣告2004후3546を参照)。
上記の法理に照らしてみると、上述のように、この事件の特許発明の明細書に記載の内容を土台とし先行技術と対比した結果、この事件の特許発明が先行技術より向上進歩されたものとして認められていないこの事件において、たとえこの事件の特許発明の製品が商業的に成功した、若しくは特許発明の出願の前に長い間実施者がいなかったとしても、このような事情だけではこの事件の特許発明の進歩性は認められないため、原審がこの事件の特許発明の進歩性に対する判断において、この事件の特許発明の製品が商業的に成功したなどの事情を斟酌していなかったことに、上告理由として主張する発明の進歩性に対する法理誤解などの違法があるとは考えられない。」)
【留意事項】
特許庁における審査及び特許審判院における審判の手続では、周知慣用技術を証拠が無くても認めているが、特許審判院で行われる審決に対する審決取消訴訟の手続では、法官は審査官や審判官と違って通常の技術者ではないため、周知慣用技術については、不要証事実である公知の事実に至る程に一般化されている場合でなければ、原則的に、立証の責任を負う者が証明すべきであることに留意する必要がある。大法院では、訴訟上の公知又は顕著な事実に該当する場合には証拠を求めないと判示した事例もあるが、大法院判決2003年8月22日付宣告2002후2600では「加圧方法及び第3項に係る発明の構成は周知慣用技術に過ぎないと判断する証拠を記録上見つけることができない」と判示され、周知慣用技術は証拠によって認めるべきであるとの前提に立っていると考えられる。
一方、商業的な成功などの二次的考慮事項は、単なる参考資料に過ぎず、進歩性判断における客観的な資料により排除される可能性が高いが、このような商業的な成功などが進歩性に参酌されるためには、その商業的な成功が当該発明との技術的な係わり合いによって達成されたことが証明されるべきである。
■ソース
大法院判決2008年5月29日付宣告2006후3052http://glaw.scourt.go.kr/jbsonw/jbsonc08r01.do?docID=350F8B32F01E00EAE0438C01398200EA&courtName=대법원&caseNum=2006후3052&pageid=#
■本文書の作成者
正林国際特許商標事務所 弁理士 北村明弘■協力
特許法人AIP一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2013.01.08