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(中国)引用文献に開示された技術と技術常識との組合せによる進歩性判断に関する事例(その1)

2013年04月04日

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■概要
本件において、中国専利覆審委員会(日本の「審判部」に相当。以下、「審判部」という)合議体は、当業者は証拠1に記載された発明を基に、証拠2及び3に開示された本技術分野の技術常識を組合せて、請求項1に記載された低原子価マンガン酸化物をMn3O4に置替えるのは、実践に基き確定できる自明のものである、として、本件特許権の全てを無効とした。
■詳細及び留意点

 中国国家知識産権局(以下、「中国特許庁」という)が策定した審査指南(日本の「審査基準」に相当。以下、「審査基準」という)には、当業者にとって、最も近い引用文献を基に本技術分野の技術常識を組合せて請求項が保護する発明を得るのが自明であれば、当該請求項は進歩性を有していない旨規定されている(中国特許審査基準第2部分第4章3.2.1.1参照)。

 

 本特許権の請求項1に係る発明は、「Mn3O4 36%~90%、アルカリ土類金属酸化物1%~30%及びAl2O3 5%~35%を重量パーセントで含むことを特徴とするマンガン系脱酸剤。」である。

 

 無効審判請求人は、本特許権の請求項1~14に記載の発明は、中国特許法第22条第3項の進歩性に関する規定に違反するとして、証拠1~6を提出して、本特許権は無効であると主張した。

 

 審判部合議体が認定した請求項1に記載の発明と証拠1(特許第98114281.8号)に開示の技術との相違点は、以下の3点である。

(1)請求項1に記載の脱酸素剤の活性成分はMn3O4であり、証拠1の脱酸素剤の活性成分は低原子価マンガン酸化物であり、且つ両者の活性成分の含有量に関する表現が異なる。

(2)証拠1には、請求項1に記載のアルカリ土類金属酸化物及びその含有量は開示されていない。

(3)請求項1に記載の担体であるAl2O3の含有量が証拠1と異なる。

 請求項1に記載された技術的効果は、証拠1に対して決して優れているとは言えないが、請求項1が実際に解決する課題は、同一の脱酸原理に基づき、マンガン系酸化物を活性成分とするガス脱酸素剤の代替案を提供することである。

 

 審判部合議体は、証拠2について以下のとおり認定した。

「証拠2(「ガス純化」、呉彦敏著、1983年6月第1刷発行)は、ガス純化分野の技術者の参考書に供することができ、酸化マンガン脱酸素剤の原理として、低原子価マンガン酸化物が更に酸化して高原子価マンガン酸化物になることが記載されており、本技術分野の技術常識の証拠として使用できる。」

 

 さらに審判部合議体は以下のとおり認定した。

 「証拠1及び証拠2から分かるように、Mn3O4は一般的に使用される市販のマンガン系脱酸素剤である。証拠1を基に証拠2の内容を組合せ、証拠1に記載のマンガンの低原子価酸化物をMn3O4に置替えることは容易になし得る。また、マンガンの酸化物はいずれもMnCO3を高温焼結して得られるものであり、Mn3O4に置き換えた脱酸素剤組成物が水素に還元された後、同様に高脱酸活性を有することが予期できる。さらに、本特許権の請求項1に記載の活性成分Mn3O4をMnで計算すると、組成物に占める重量%の範囲は、証拠1に開示の範囲と重なる。

 一方、証拠1は、珪藻土を脱酸素剤の担体とする技術を開示し、証拠3(「ガスクロマトグラフィー実用ハンドブック」、吉林化学工業公司研究院著、化学工業出版社出版、1983年4月第2刷発行)は、商品番号6201の赤色珪藻土がアルカリ土類金属酸化物を含むことを開示している。且つ、本特許権は、アルカリ土類金属酸化物を含まない脱酸素剤の脱酸性能及び機械的性能と、アルカリ土類金属酸化物を含む脱酸素剤の各性能との相違を証明できる証拠を記載していない。言い換えれば、本特許権は証拠1に対し成分を1つ増やしているが、当該成分に関する有益な効果を取得できず、こうした成分の増加によっても請求項1に進歩性を具備させることができない。

 証拠1はAl2O3を担体とし、及びAl2O3の使用量を低減させる技術を開示し、且つ当業者は本技術分野の常識に基づき、活性成分を担うのに必要な担体の使用量を合理的に選択することができる。」

 

 以上のとおり審判部合議体は無効請求人による無効理由は成立するとして、本特許権の全てを無効とした。

 

参考(中国特許庁審判部無効審決2011年4月6日付第16343号より抜粋):

 

 对于所属领域技术人员而言,如果在最接近的证据基础上结合该领域的公知常识得到权利要求请求保护的技术方案是显而易见的,则该权利要求不具备创造性。

 

 证据2可以作为从事气体纯化的化工领域人员的参考工具书,・・・记载了氧化锰脱氧剂的工作原理是低价锰氧化物被氧化为高价锰氧化物。因此,在证据1的基础上结合证据2的内容,容易将证据1中所述的“锰低价氧化物”替换为Mn3O4化合物。

 

 在锰元素的量相同的情况下,锰氧化物中的锰最初以何种较高价态存在对最终的脱氧效果并无实质性的影响。将本专利权利要求1中活性组分Mn3O4按Mn计・・・范围与证据1公开的范围重叠。

 

 证据3公开了商品牌号为6201的红色硅藻土化学组成包括…MgO+CaO 4.26%・・・,证据1…公开了硅藻土作为脱氧剂载体的技术方案・・・。本专利中所声称的碱土金属氧化物产生的技术效果不成立,・・・也就是说,本专利相对于证据1增加了一种组分却未取得与该组分相关的有益效果,这样的增加不能使得权利要求1具备创造性。

 

 证据1公开了使用Al2O3作为载体的技术方案…根据需要负载的活性组分多少确定载体的使用量是本领域技术人员可以依据本领域常识合理选择的内容。

 

 因此,权利要求1相对于证据1、2和3的结合不具有专利法第22条第3款规定的创造性。

 

(日本語訳「当業者にとって、最も近い証拠を基に本技術分野の技術常識を組合せて請求項が保護する発明を得るのが自明であれば、当該請求項は進歩性を有していない。

 

 証拠2は、ガス純化に従事する化学工業分野の技術者の参考書に供することができ、・・・酸化マンガン脱酸剤の原理として、低原子価マンガン酸化物が更に酸化して高原子価マンガン酸化物になることが記載されている。よって、証拠1を基に証拠2に記載の内容を組合せて、証拠1に記載の「マンガン低原子価酸化物」をMn3O4化合物に置換えることは容易である。

 

 マンガン元素の量が同一である場合、マンガン酸化物中のマンガンがどのような高い原子価状態で存在したとしても、最終的な脱酸効果に実質的に影響しない。本特許請求項1の活性成分Mn3O4はMnで計算すると、・・・その範囲は証拠1に開示の範囲と重なる。

 証拠3は、商品番号6201の赤色珪藻土の化学的組成が・・・MgO+CaO 4.26%・・・を含むことを開示し、証拠1は、・・・珪藻土を脱酸素剤の担体とする技術・・・を開示した。本特許権におけるアルカリ土類金属酸化物による技術的効果は成立せず、・・・つまり、本特許権は、証拠1に対し成分を1つ増やしているが、当該成分に関する有益な効果を取得できず、こうした成分の追加によっても請求項1に進歩性を具備させることができない。

 

 証拠1は、Al2O3を担体とする技術案を開示し、・・・担うべき活性成分の量に応じて担体の使用量を確定するのは、当業者が本技術分野の常識に基づき合理的に選択できるものである。

 

 したがって、請求項1に記載の発明は証拠1、2及び3の組み合わせから容易になし得たものであり、特許法22条3項に規定する進歩性を有していない。」)

 

【留意事項】

 本件は、特許権に記載された材料を、証拠に開示された化学的に等価な材料に置き換えることは容易であり、かつ証拠に開示されていないが効果が不明な材料の特定には進歩性が無い、として無効を決定した事案であるが、論理的にも問題が無い合理的な判断である。ちなみに特許権者は中国企業、無効審判請求人は政府機関の研究所である。

■ソース
中国特許庁審判部無効審決2011年4月6日付第16343号
http://www.sipo-reexam.gov.cn/reexam_out/searchdoc/decidedetail.jsp?jdh=WX16343&lx=WX 中国特許第200510116710.1号(公告番号CN100513367C)
■本文書の作成者
日高東亜国際特許事務所 弁理士 日高賢治
■協力
北京信慧永光知識産権代理有限責任公司
一般社団法人 日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期
2012.12.14
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