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(中国)未登録周知商標について(その1)
2013年02月15日
■概要
商標法第31条は「商標登録の出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならない。他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録してはならない。」と規定しており、未登録の周知商標を保護する規定である。本案では、第1,2,3,4,7,9,17類に商標登録されている他人の登録商標と同じ「ABRO」の文字を第16類に出願して公告されたが、異議が出されて登録すべきではないと中国商標審判部に判断され、中級法院及び高級法院においても、商標法第31条に該当するとして、異議決定が支持された。■詳細及び留意点
上訴人(湖南神力公司)が出願した「ABRO」(第16類)が「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先に登録する行為」に該当するかについて、深圳神力铃胶水包装工場が生産販売する製品と他人の周知商標の製品は包装がほとんど同一であり、行政機関の調査を受けた際、深圳神力铃胶水包装工場の法定代表者は、生産や販売は上訴人の許可を経ていると述べており、その法定代表者と上訴人の元法定代表者は元夫婦である事実から、上訴人が他人の「ABRO」周知商標について知っていたと認定された。
商標法第31条は「商標登録出願は、他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先に登録してはならない」と規定し、誠実信用の原則に基づいて既に使用している一定の影響力を持つ未登録商標を保護するものであり、不正な手段で他人の商標を先取りする行為を制止するのが狙いであるとした上で、他人の引用周知商標が使用されている商品は、効能、用途、消費対象、販売ルートにおいて上訴人の指定商品と同じ又は類似するとして、上訴人出願商標は商標法第31条に該当すると判断された。
なお、本件の周知商標の認定において具体的な売上高や広告費についての言及はなく、「使用期間が長く、範囲も広い」、「長期使用並びに大規模なプロモーション及び販売を通じて」という表現により、商標出願時点での引用商標の周知性が認定されている。
参考(北京市高級人民法院行政判決2008年3月18日付(2007)高行终字第550号より抜粋):
根据本案查明的事实,〔2005〕第4553号裁定书已经认定爱宝公司的“ABRO”商标在第16类商品上于中国大陆没有早于被异议商标注册,因此,被异议商标的申请不构成同他人在同一种或类似商品、服务上已经注册或初步审定的商标相同或者近似的情形,对此各方当事人并未提出异议,一审判决亦已查明爱宝公司的“ABRO”商标注册在第1、2、3、4、7、9、17类上,故湖南神力公司关于一审判决没有认定爱宝公司在第16类上不享有商标专用权没有依据,本院不予支持。
爱宝公司为证明其在中国大陆对“ABRO”商标进行宣传、销售,向商标评审委员会及一审法院提交了经过公证、认证的一系列商品信用证、发票、订单、货运单以及照片、展会参展证、产品宣传册,足以证明相关事实,故湖南神力公司关于爱宝公司提交的证据不足以证明爱宝公司的“ABRO”商标在中国大陆有影响力的主张不能成立,本院不予支持。
深圳神力铃胶水包装厂系个体工商户,其生产、销售的产品与爱宝公司的产品包装几乎完全相同,在接受行政机关调查时,深圳神力铃胶水包装厂的法定代表人陈述其生产、销售系经湖南神力公司授权,且其与湖南神力公司的原法定代表人确曾系夫妻关系,上述事实虽难以确定深圳神力铃胶水包装厂与湖南神力公司系关联公司,但可以用于佐证湖南神力公司对爱宝公司的“ABRO”商标是知晓的。
穗工商东分处字(2003)第018号当场处罚决定书虽未加盖工商行政管理部门的公章,但湖南神力公司的原法定代表人在承诺书上签字,足以证明该事实确曾发生,故对湖南神力公司关于当场处罚决定书未加盖公章,缺乏证明力的上诉主张,本院不予支持。
我国商标法第三十一条关于“申请商标注册不得以不正当手段抢先注册他人已经使用并有一定影响的商标”的规定,系基于诚实信用原则对已经使用并有一定影响的未注册商标予以保护,旨在制止以不正当手段抢注他人商标的行为。本案中,爱宝公司的“ABRO”商标在第16类商品上虽然没有早于被异议商标在中国大陆注册,但是爱宝公司从1995年开始即在中国大陆宣传其“ABRO”品牌的产品,并于1996年将“ABRO”产品正式销往中国大陆。在爱宝公司实际使用“ABRO”商标的商品中,“ABRO强力胶”、“ABRO环氧钢4分钟快速装”、“ABRO”环氧透明胶4分钟快速汽车级”、“ABRO环氧钢4分钟快速装汽车级”等产品在功能、用途、消费对象、销售渠道等方面与被异议商标注册申请指定使用的商品基本相同,均适合于家庭使用,二者属于类似商品,因此,爱宝公司的“ABRO”商标在强力胶、环氧钢4分钟快速装、环氧透明胶4分钟快速汽车级等与第16类商品相类似的商品上使用,已构成已经使用的未注册商标。爱宝公司成立于20世纪70年代,英文名称的显著部分即为“ABRO”,其“ABRO”商标使用时间长、范围广。通过爱宝公司长期的使用和大规模的宣传推广和销售,至被异议商标申请时,爱宝公司使用在强力胶等商品上的“ABRO”商标,在中国大陆已具有了一定影响。湖南神力公司作为类似商品的经营者,理应知道爱宝公司“ABRO”商标的存在,其申请注册被异议商标的行为,已构成商标法第三十一条所指的“以不正当手段抢先注册他人已经使用并有一定影响的商标”的情形,一审判决认定“ABRO强力胶”、“ABRO环氧钢4分钟快速装”、“ABRO”环氧透明胶4分钟快速汽车级”、“ABRO环氧钢4分钟快速装汽车级”等产品与第16类商品构成关联商品虽有不妥,但其对湖南神力公司注册“ABRO”商标的行为性质的认定是正确的,湖南神力公司所提本案情形不适用商标法第三十一条的上诉主张不能成立,本院不予支持。
(参考訳)
本案で判明した事実によれば、〔2005〕第4553号裁定書において、爱宝公司の商標「ABRO」が第16類の商品において、中国大陸では被異議申立商標より先に出願されなかったため、被異議申立商標の登録出願が他人の同一又は類似商品・役務において、登録された又は予備的査定を受けた商標と同一又は類似に該当しないと既に認定されており、これについて各当事者に異論はなかった。また、一審判決は既に爱宝公司の「ABRO」商標が第1,2,3,4,7,9,17類に登録されていると明らかにしているから、一審判決で爱宝公司が第16類に商標専用権を保有していないことを未だ認定していないとの湖南神力公司の主張には根拠がなく、当裁判所は支持しない。
爱宝公司は中国大陸で「ABRO」商標について宣伝、販売したことを証明するために、中国商標審判部(中国語「商标评审委员会」)と一審裁判所に、公証や認証済みの一連の商品の信用証、インボイス、注文書、貨物伝票、写真、展示会出展証明、パンフレットを提出しており、関連事実を十分証明している。したがって、爱宝公司より提出された証拠は、爱宝公司の「ABRO」商標が中国大陸で影響力を有していることを証明するのに不十分であるという湖南神力公司の主張は成立せず、当裁判所は支持しない。
深圳神力铃胶水包装工場は個人経営であり、その生産、販売する製品と爱宝公司の製品の包装はほとんど同一であり、行政機関の調査を受けた際、深圳神力铃胶水包装工場の法定代表者は、その生産、販売が湖南神力公司の許可を得てから行ったものであり、且つ、その人自身は湖南神力公司の元法定代表者と確かに夫婦関係があったと述べた。上述の事実によって深圳神力铃胶水包装工場と湖南神力公司が関連会社であると確定することは難しいが、湖南神力公司が爱宝公司の「ABRO」商標を知っていたことを証明することはできる。
穗工商东分処字(2003)第018号現場処罰決定書には工商行政管理機関の公印が押されていないが、湖南神力公司の元法定代表者は承諾書に署名しており、当該事実が間違いなく発生していたことを十分に証明し得る。したがって、現場処罰決定書に公印がないので、証明力を欠けているという湖南神力公司の上訴主張について、当裁判所は支持しない。
我が国の商標法第31条は「商標登録出願は、他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先に登録してはならない」という規定であるが、これは誠実信用の原則に基づいて既に使用している一定の影響力を持つ未登録商標を保護するものであり、不正な手段で他人の商標を先取りする行為を制止するのが狙いである。本件において、爱宝公司の「ABRO」商標は第16類の商品について、被異議申立商標より先に中国大陸において登録されていなかったが、爱宝公司は1995年から中国大陸で「ABRO」ブランドの商品を宣伝し始め、1996年に「ABRO」製品を中国大陸へ正式に販売していた。爱宝公司が実際に「ABRO」商標を使用する商品のうち、「ABRO強力接着剤」、「ABROエポキシ鋼4分間迅速セット」、「ABROエポキシセロテープ4分間迅速自動車レベル」、「ABROエポキシ鋼4分間迅速自動車レベル」等の商品は、効能、用途、消費対象、販売ルートなどにおいて被異議申立商標の登録出願の指定商品と基本的に同じであり、いずれも家庭用として用いられることから、両者は類似商品に該当する。そのゆえ、爱宝公司の「ABRO」商標は、「ABRO強力接着剤」、「ABROエポキシ鋼4分間迅速セット」、「ABROエポキシセロテープ4分間迅速自動車レベル」等のような第16類の商品と類似する商品に使用されており、すでに使用している未登録商標に該当する。爱宝公司は20世紀の70年代に設立され、英文表記の名称の顕著な部分は「ABRO」であり、その「ABRO」商標の使用期間が長く、範囲も広い。爱宝公司の長期的使用並びに大規模なプロモーション及び販売を通じて、被異議申立商標の出願時点で、爱宝公司が強力接着剤等の商品に使用した「ABRO」商標は、中国大陸において一定の影響力を既に有している。湖南神力公司は類似商品を扱う経営者として、爱宝公司の「ABRO」商標の存在を知っていたはずであり、被異議申立商標を出願した行為は、商標法第31条にいう「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先に登録してはならない」という状況に該当している。一審判決において、「ABRO強力接着剤」、「ABROエポキシ鋼4分間迅速セット」、「ABROエポキシセロテープ4分間迅速自動車レベル」、「ABROエポキシ鋼4分間迅速自動車レベル」等の商品は、第16類商品の関連商品であると認定されたのは妥当ではないが、湖南神力公司が「ABRO」商標を出願した行為の性質の認定は正確であり、本案の状況に商標法第31条は適用されないという湖南神力公司の上訴主張は成立せず、当裁判所は支持しない。
【留意事項】
本案では、上訴人の代表者に近い人物が他人の引用周知商標の偽造商品を製造販売し、行政機関の調査で上訴人の関与を述べていたことから、上訴人が引用周知商標の存在を知っていたと認定し、不正な利益を得るために出願したとの認定に結びつけている。周知商標の認定を受けることが難しいため、周知商標の認定に意識を集中させてしまいがちであるが、他人が不正な手段で先に出願したと論証できなければ、商標法第31条の適用を受けることができないことにも留意する必要がある。
■ソース
・中国商標法・北京市高級人民法院行政判決2008年3月18日付(2007)高行終字第550号
■本文書の作成者
特許庁総務部企画調査課 根本雅成■協力
北京林達劉知識産権代理事務所■本文書の作成時期
2012.11.27