アジア / 審判・訴訟実務
中国における不服系行政訴訟制度概要
2022年02月10日
■概要
(2022年5月20日訂正:本記事のソース「商標法2019年」のURLが、リンク切れとなっていたため、修正いたしました。)
中国では、中国国家知識産権局(中国特許庁)からの専利や商標の出願に対する拒絶、専利や登録商標に対する無効にかかる決定または審決などに不服の場合、その通知を受領した日から3か月以内に裁判所に提訴することができる。本稿では、中国における不服系行政訴訟制度について解説する。
■詳細及び留意点
1.中国における不服系行政訴訟の流れ
中国国家知識産権局からの専利や商標の出願に対する拒絶、専利や登録商標に対する無効にかかる決定または審決などに不服の場合、その通知を受領した日から3か月以内に裁判所に提訴することができる。
裁判所は提訴を受けた時、起訴条件に適合する案件について、立件の登録を行う。現場で起訴条件に適合するかどうかを判定できない場合、起訴状を受け取り、7日以内に当該提訴を受理(立件)するか否かを決定する(行政訴訟法(2017改正、以下同様)第51条)。立件した後、開廷審理を経て、審理を終結した後、判決を言渡す。
裁判所の一審判決に不服がある場合、上訴期間以内に上級裁判所に上訴することができる(行政訴訟法第85条)。中国は、二審終審制である。
専利(特許、実用新案、意匠)および商標に関する審決不服訴訟の第一審は北京知識産権法院であり、専利案件の第二審は最高人民法院知識産権法廷であり、商標案件の第二審は北京市高級人民法院である。
図1:不服系行政訴訟手続フローチャート
2.手続
中国における不服系行政訴訟の流れに沿って手続の詳細を説明する。
(1)提訴手続
中国国務院専利行政部門(実務において、関連決定、審決を発行する実際の部門が「国家知識産権局専利局復審と無効審理部」であり、関連決定、審決にある署名は「国家知識産権局」である。)からの決定または審決を不服とする場合、その通知を受領した日から3か月以内に裁判所に提訴することができる(専利法(2020改正、以下同様)第41条、第46条)。中国商標審判委員会(実務において、関連決定、審決を発行する実際の部門が「国家知識産権局商標局」であり、関連決定、審決にある署名は「国家知識産権局」である。)からの決定または審決を不服とする場合、その通知を受領した日から30日以内に裁判所に提訴することができる(商標法(2019改正、以下同様)第34条、第35条、第44条)。専利(特許、実用新案、意匠)および商標に関する審決不服訴訟の第一審は北京知識産権法院となる。
(2)立件審査手続
裁判所は、訴訟の提起を受け取った後、審査を経て、立件条件を満たしていると認めた場合、7日以内に立件し、立件条件を満たしていないと認めた場合、7日以内に事件を立件しない裁定を下す。原告は、立件しない裁定に対して不服がある場合には、上級裁判所に訴訟を提起することができる(行政訴訟法第52条)。
裁判所は立件した後に、行政訴訟法第49条に規定している立件条件*1を満たしていないこと、訴訟提起期限を超えたこと、重複起訴に該当することなどの状況を発見した場合、訴訟を却下する旨の裁定をしなければならない(最高人民法院による『中華人民共和国行政訴訟法』の適用に関する解釈第69条。以下、「解釈」という)。もし、解釈第69条に規定している状況に該当し、補正や更正可能な場合、裁判所は補正や変更を命じる。裁判所の指定期間に補正や更正した場合、裁判所は法により審理しなければならない。原告は、訴訟を却下する旨の裁定に対しても上訴を提起することができる(解釈第107、109条)。
*1:行政訴訟法第49条に規定している立件条件は、主に①原告が適格であること、②明確な被告があること、③具体的な訴訟請求と事実根拠があること、④裁判所の案件受理範囲及び管轄に属すること、ということを指す。
(3)開廷前手続
裁判所は、立件した日から5日以内に訴状の副本を被告に送達しなければならず、被告は、受け取った日から15日以内に答弁書を提出しなければならない。被告が答弁書を提出した場合には、裁判所は受け取った日から5日以内に答弁書の副本を原告に送付しなければならない。被告が答弁書を提出しなくても、事件の審理に影響を及ぼさない(行政訴訟法第67条)。
裁判所は合議体を設置して、行政訴訟を審理する(行政訴訟法第68条)。
裁判所は、通常の手続きで案件を審理する場合、開廷の3日前に、召喚状を出して当事者を召喚する。証人、鑑定人、現場検証者、翻訳者に通知書を出して出頭させなければならない(解釈第71条)。
(4)開廷手続
開廷審理の際、法廷調査の前に正当な理由があれば、当事者は合議廷の裁判官または書記官、翻訳者、鑑定人、現場検証者に対し、忌避を申請できる(行政訴訟法第55条)。開廷審理では、主に法廷調査、法廷弁論などを行う(民事訴訟法(2017改正、以下同様)第138条、141条)。
行政訴訟は、行政賠償、補償及び行政機関が法律、法規に規定している自由裁量権を行使した案件を除き、調停*2(中国語「调解」)はできないので、それ以外は全て判決が言い渡される(行政訴訟法第60条)。
原告は、裁判所が判決を言い渡す前であれば、訴訟の撤回を請求することができるが、許可されるか否かは、裁判所の判断次第である(行政訴訟法第62条)。
*2:当事者が裁判所、人民調解委員会及び関連組織のもとで解決することを指す。
(5)開廷後手続
通常、開廷審理の後、適当な時期に一審判決を言い渡すが、法律規定に従い、立件日から6か月以内に判決を言い渡さなければならない。特別な状況があれば、関連手続を経て、審理期間を延長できる(行政訴訟法第81条)。
(6)上訴手続
一審判決を受け取った日から15日間以内に、当事者は上訴を提起することができる(行政訴訟法第85条)。中国の領域内に住所を有しない当事者は、30日以内に上訴を提起することができる(民事訴訟法第269条)。
(7)二審手続
二審手続は、一審手続とほぼ同じであるが、新しい事実、証拠や理由が提出されず、合議体が開廷審理を必要ではないと判断する場合、開廷しないで書面にて審理することができる(行政訴訟法第86条)。専利(特許、実用新案、意匠)に関する審決不服訴訟の第二審は最高人民法院知識産権法廷であり、商標に関する審決不服訴訟の第二審は北京市高級人民法院である。
二審裁判所は原判決、裁定の認定事実が明白で、適用法律、法規が正確であると認めた場合、上訴を棄却し、原判決、裁定を維持する。原判決や裁定の認定事実に誤りがあるまたは適用法律、法規に誤りがある場合、改めて判決し、変更または取消を行う。原判決の認定事実が明白ではなく、証拠が不十分である場合、原審裁判所に差戻して再審理させるか、または事実が判明した後に、原判決を変更する。原判決に当事者の遺漏があり、あるいは法に違反し欠席判決など法定手続に深刻に違反した場合、原判決を取消し、原審裁判所に差戻して再審理させる(行政訴訟法第89条)。
二審手続の審理期間について、二審裁判所が上訴状を受理してから、3か月以内に終審判決を下さなければならないとされているが、特殊な情況があり、延長する必要がある場合、上級裁判所の承認を経て、審理期間を延長することができる(行政訴訟法第88条)。
■ソース
行政訴訟法2017年URL:http://www.npc.gov.cn/zgrdw/npc/xinwen/2017-06/29/content_2024894.htm
専利法2020年
URL:https://www.cnipa.gov.cn/art/2020/11/23/art_97_155167.html
商標法2019年
URL:https://www.cnipa.gov.cn/art/2019/7/30/art_95_28179.html
民事訴訟法2017年
URL:http://www.gxdongxing.jcy.gov.cn/jwzn/201808/t20180811_2323421.shtml
最高人民法院による『中華人民共和国行政訴訟法』の適用に関する解釈
URL:https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-80342.html
■本文書の作成者
北京林達劉知識産権代理事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2021.11.11