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台湾における商標審判手続概要————取消審判

2021年06月17日

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■概要
登録商標を取り消すべき事由(商標法第63条第1項)があるとき、何人もいつでも台湾経済部智慧財産局(日本の特許庁に相当する、以下智慧財産局という)に取消審判を請求することができ、また智慧財産局も職権により登録を取り消すことができる。智慧財産局は、請求人と商標権者が提出した書状にて書面審査(*1)し、最終的に「登録維持」もしくは「登録取消」とする審決を下す。
最も多い取消事由は、登録後に正当な事由なく未使用または継続して3年間使用していない(商標法第63条第1項第2号)ことによるものである。
なお、智慧財産局の審決に対し、取消審判請求人または商標権者はその上位機関である経済部に行政不服を申立てることができる。
(*1)我が国では口頭審理を行う場合も稀にあるが、台湾では常に書面審理のみである。
■詳細及び留意点

台湾における商標審判手続きの流れ

(1)取消事由
主な取消事由は以下の通りである(商標法第63条、登録商標の使用における注意事項(中国語「註冊商標使用之注意事項」)4.2)。
(a)商標権者が自ら商標を変更し、または付記を加え、当該取消審判請求時に取消対象とされた商標(即ち、係争商標)と他人が使用する同一または類似の商品または役務を指定する登録商標(即ち、根拠商標)と同一または近似となり、関連消費者に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。

例:

(b)商標権者が正当な事由なしに未使用または継続して3年間使用していないとき。ただし、係争商標の商標権が権利許諾され、使用権者により使用されているときは、この限りでない。

(c)第43条に規定する適当な区別表示を付していない場合。ただし、商標主務官庁の処分前に区別表示を付し、かつ混同誤認を生じるおそれのない場合は、この限りでない。

(d)商標が指定する商品もしくは役務の通用名称となっているとき。

(e)商標を実際に使用するとき、その商品もしくは役務の性質、品質または原産地について公衆に混同誤認を生じさせるおそれがあるとき。

 前述の(a)の場合、もし取消審判請求人が提出した根拠商標が登録後3年が経過しているとき、取消審判請求人は根拠商標の(請求前3年間の)使用証拠を添付しなければならない。また、上記使用証拠は一般的な商慣習(*2)に合致し、かつ、実際に使用されている必要がある。(商標法第67条第2項において準用する同法第57条第2、3項)。この規定は証拠の偽造を防止し(例えば、偽の領収書を作るなど)、商業取引にて商標の使用として認められないものを排除するために定められた(例えば、新聞の広告欄に求人広告もしくは取次業者等を募集する広告を掲載することは、経営している商品あるいは役務の販売促進を目的としたものではないため、一般的な商慣習に合致する使用とは言えない)(登録商標の使用における注意事項3.5.3)。なお、台湾商標法において明文規定された「真正な使用(繁体字中国語:「真實使用」)につき、近年台湾最高行政裁判所で下された重要な判例(*3)では、「商標の使用が、販売促進を目的とするものでなく、商業取引の行為や計画がないことで、その使用が当該商標の指定商品・役務の市場や販路の維持もしくは開拓という経済的意義をもたらさず、またはその使用行為が客観的に見て商品・役務の出所を示すに至らない場合、真正な使用には当たらない。真正な使用に該当するか否かについては、商品・役務の種類・特性・取引期間、売上高、取引の仕方等が、一般的な商慣習に合致するものであったかどうか等、その事実から判断しなければならない。」としている。

(*2)どのような商標の使用証拠が一般的な商慣習に合致するかについて、台湾実務では、状況がケース毎に異なるためケース毎に判断している。
(*3)台湾最高行政法院判決2018年10月4日付民国107年度判字第571号。
 取消審判は、登録商標毎に個別に請求しなければならない。登録商標が指定使用する商品または役務の一部について請求することができる(商標法第67条において準用する同法第48条第2項、第3項)。なお、補正による指定商品の追加については、法律に明文規定がないが、実務においては一定の証拠を提出し、かつ、追加にて取消請求を求める商品または役務の分類の提出が遅すぎなければ、台湾智慧財産局は補正による指定商品の追加を認めている。ただし、第67条は第48条第2項の規定を準用していることから、追加取消請求を求める商品または役務については、別途取消請求することが望ましい。

(2)審判手続
 取消審判が請求されたとき、台湾智慧財産局は商標権者に期限を指定して答弁をさせなければならない。商標権者が答弁書を提出するとき台湾智慧財産局はその答弁書の控えを請求人に送付し、期限を指定して意見を陳述させなければならない(商標法第65条)。登録商標未使用を理由に(商標法第63条第1項第2号に規定)、台湾智慧財産局に取消審判を請求する場合、商標権者は当該商標の使用証拠を提出し、答弁しなければならない(商標法第65条第2項)。その提出した使用資料は、商標が実際に使用されていることを証明するものであり、一般的な商慣習に合致していなければならない(商標法第67条第3項において準用する同法第57条第3項)。また、商標権者が実際に使用している商標が、登録商標と異なるものの、社会の一般通念上、その同一性を失っていないときは、その登録商標を使用しているとみなさなければならない(商標法第64条)。

・商標の同一性(登録商標の使用における注意事項3.2.1および3.2.2):
 実際に使用している商標と登録商標が形式上多少異なるものの(例えば、英語の大文字と小文字の転換、横書きあるいは縦書き、楷書から隷書への書体の変更、商標の付属的な部分<非重要的な部分>のみの変更等)、実質的に登録商標の主な識別特徴を変更することなく、消費者に与える印象が同じであり、消費者に同一商標として認識されるときは、同一性を備えていることとなる。実際に認定する際には、一般の社会通念や消費者の認識を参酌しなければならない。一方、商標中に消費者の注意を引く主要部分を使用せず、実際に使用している商標と登録商標が著しく異なる場合は、同一性を失うことになる。同一性を備えていない場合、登録商標の「使用」には当たらない。
 次に、当該登録商標の使用における注意事項欄に掲載されている例を挙げる。

(a)商標の付属的な部分(非重要的な部分)のみが変更された場合

登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

(b)登録商標の色が変更された場合
 モノクロで登録している商標を他の色で使用した場合において、一般的な社会通念や消費者の認識として、形式的にやや違いがあるのみで、実質的に主となる識別的特徴が変更していないと判断される場合、原則的に当該登録商標の使用として認めることができる。しかし、カラーで登録された商標で、色自体が当該商標の主となる識別的特徴である場合や、商標が色彩のみからなる場合、他の色で使用すると、商標の主となる識別的特徴が実質的に変更されてしまい、同一性を備えていないと判断される。

登録商標(モノクロ)実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

登録商標(カラー)実際に使用されている図案
(同一性を備えていないと判断されたもの)
登録商標(色彩のみからなる商標)
(点線については権利不要求)
実際に使用されている図案
(同一性を備えていないと判断されたもの)

(c)登録商標の色および文字の並びが変更された場合

登録商標(カラー)実際に使用されている図案
(同一性を備えていないと判断されたもの)

(d)漢字が変更された場合
 台湾では繁体字中国語が公用語とされており、例えば「台湾」は現地で「臺灣」と書かれている。台湾文部省公認の辞書によると「台」は「臺」の異体字であり、簡体字でもあるが、台湾人の生活において繁体字の「臺」と同様に見慣れた書替字であるため、下記の台湾大学の登録商標である「台大」は、「臺大」と書き換えても一般的な社会通念上で同一性を備えていると認めることができる。
 ただし、全ての繁体字を簡体字に書き換えることができるわけではない。現地の需要者が必ずしも判読できないものや、繁体字とかなり差異がある簡体字(「潔」の簡体字である「洁」や、「業」の簡体字である「业」等)については、同一性を備えているかどうかを判断する際に、関連消費者の認識に基づいて認定しなればならない。

登録商標(モノクロ)実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

(e)文字、図形または記号が追加された場合
 登録商標に登録内容以外の文字や図形等が追加されると、消費者に与える印象が変わってしまうこともある。しかし、商品・役務の慣用商標や慣用名称、または品質・用途・機能・原料・産地・関連特性についての説明的な文字や図形、あるいは他の識別力を有しない装飾的な図案や記号等が増加されたのみで、商標の主となる識別的特徴が変更されていない場合は、同一性を備えていると認めることができる。

登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

※“electric systems(和訳:電気システム)”は、指定商品に関する説明的な文字である。
登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

簡単な線および「GROUP」という文字が追加されたが、その追加された文字は小さく、消費者の当該登録商標に対する認識を妨げるものではない
登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

(f)文字が追加される場合
 意味が変更されてしまった場合は、同一性が失われてしまうことになる。

登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていないと判断されたもの)

本件の「萃取」商標は、ミキサー、ジューサー等を指定商品としている。「萃取」は“抽出”という意味で元々存在している言葉であり、すでに若干の説明的な意味を帯びている。実際に使用している図案における「生機精華」・「機」とつなげると、“オーガニックエッセンスを抽出する機具”という意味になり、全体的に説明的な文字並びとなる。たとえ「萃取」という文字に登録商標を表すが付されていても、使用する態様はあくまでも説明的であるため、消費者が当該二文字を商品の出所を示す表示として認識できず、登録商標の使用とは認められない。

(g)ほかの商標や標示と併合的に使用された場合
 商品や役務に複数の商標や標示を併合的に使用することは、取引市場においてよく見られており、登録商標の主となる識別的特徴が変更されていない場合は、同一性を備えていると認められる。

登録商標実際に使用されている図案
(左の両商標と同一性を備えていると判断されたもの)

料理米酒=料理用の米酒。台湾料理においてよく使われる調味料の一種である。

(h)一部しか使用されていない場合
 登録商標を使用するときは、その図形の全体を使用すべきであり、一部しか使用していない場合、当該商標の使用とは認められない。

登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていないと判断されたもの)

上記の図案は、台湾から輸出する商品に使用されていたが、英字だけが表示されており、左の登録商標との同一性は失われていると判断された。

 例外として、識別力のない文字だけが削除された場合、同一性に影響を及ぼすことはない。

登録商標実際に使用されている図案
(同一性を備えていると判断されたもの)

削除された文字(ice cream)は、識別力のない文字であり、左の商標との同一性に影響を及ぼさない。

 なお、登録商標の指定商品・役務および実際に使用している商品・役務の同一性の判断については、商慣習において消費者が同じ商品・役務として認識しているかどうかによる。両者の間に上下位・包含・重複・相当という関係があれば、実際に使用する商品・役務が指定使用する商品・役務と合致すると認めることができる(登録商標の使用における注意事項3.2.2)。近年、台湾最高裁判所は、重要な判例(*4)を下し、これについてさらに補足説明をした。具体的な下位概念(例えばパウダーファンデーション、クレジットカードの発行)における使用は、上位概念(例えば化粧品、銀行業務)における使用に該当するが、その逆は成立しないと指摘した。

(*4)台湾最高行政法院判決2019年3月22日付民国108年度判字第133号。

 取消事由が、登録商標が指定使用する商品または役務の一部のみに存在するとき、台湾智慧財産局はその一部の商品または役務のみについて、その登録を取消すことができる(商標法第63条第4項)。

 登録商標を台湾智慧財産局により取消された商標権者は、取消されてから3年以内に、元の登録商標と同一または類似の商標を、同一または類似の商品もしくは役務について、登録、譲渡または使用許諾により使用することができない。台湾智慧財産局が処分を下す前に、商標権の放棄を声明したときも同様とする(商標法第65条第3項)。

 取消審判の請求人は、取消審判の審決前に、請求を取り下げることができる。ただし、同一の事実について、同一の証拠および同一の理由により、再び無効審判請求をすることはできない(商標法第67条において準用する同法第53条第2項)。

(3)行政不服申立
 台湾智慧財産局が下した「商標維持審決」あるいは「商標取消審決」といった行政処分に対し、取消審判請求人または商標権者は、審決書の送達後30日以内に、その上位機関である経済部に対し行政不服を申立てることができる(訴願法第14条、57条)。

■ソース
・台湾商標法
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=J0070001
・台湾商標法(日本語:台湾知的財産権情報サイト)
https://chizai.tw/wp-content/themes/chizai/uploads/20180628_2139171811_20180628-%E6%96%B0%E5%95%86%E6%A8%99%E6%B3%95%EF%BC%882016%E5%B9%B412%E6%9C%8815%E6%97%A5%E6%96%BD%E8%A1%8C%EF%BC%89-j.pdf
・登録商標の使用における注意事項(6.註冊商標使用之注意事項)
https://topic.tipo.gov.tw/trademarks-tw/lp-517-201.html
・最高行政法院判決(台湾司法院法学資料検索システム(中国語:「司法院法學資料檢索系統」))
https://law.judicial.gov.tw/FJUD/default_AD.aspx
・台湾訴願法
https://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?pcode=A0030020
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所
■協力
日本国際知的財産保護協会
■本文書の作成時期

2021.02.01

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