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台湾の知財侵害刑事訴訟制度の概要

2012年11月20日

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■概要
台湾では、商標法や著作権法において刑事罰規定が設けられている。刑事訴訟は検察官へ告発し、起訴処分を経て地方裁判所で開始される。検察官への告発を経ないで、権利者自身が刑事訴訟を提起する自訴が可能である。
■詳細及び留意点

 

台湾の知財侵害刑事訴訟の流れ

台湾の知財侵害刑事訴訟の流れ

(1)刑事罰の例

 商標権侵害は非親告罪で、3年以下の懲役又は20万台湾ドル以下の罰金(商標法第95条)である。

 著作権侵害は親告罪が基本で(但し、ディスク販売による侵害は非親告罪)、複製権の侵害(著作権法第91条)、公開、上映、演出などによる侵害(著作権法第92条)の場合は3年以下の懲役又は75万台湾ドル以下の罰金、販売目的の無断複製の場合は6ヶ月以上5年以下の懲役又は20万~200万台湾ドルの罰金が科せられる(懲役と罰金の併科可能)。

 

(2)検察官への告発

(ⅰ)告発

 告訴は侵害を受けた者が侵害者を知ってから6ヶ月以内に行う(刑事訴訟法第232条、第237条第1項)。告訴を受けた検察官は、犯罪の疑いがある場合に捜査を開始する(刑事訴訟法第228条第1項)。検察官が証拠を入手し、容疑があると認められる場合は起訴処分となり(刑事訴訟法第251条)、地方裁判所で刑事訴訟が開始される。

 商標権侵害の刑事罰は非親告罪なので、検察官は告訴を待たずに訴追できるが、親告罪が原則の著作権侵害は、告訴がなければ、検察官は刑事訴追することができない。

(ⅱ)刑事訴訟手続が行われない場合

 刑事訴訟法第252条に規定する事由に該当する場合は不起訴処分となり、公共利益の観点から1年以上3年以下の起訴猶予期間とする起訴猶予処分を行う場合もある(刑事訴訟法第253-1条)。何れも刑事訴訟手続には入らない。

(ⅲ)現状

 現在の台湾実務では、起訴猶予処分となる場合も少なくない。官庁調査データによると、2012年1月から8月までに被疑事実が明白な案件(起訴するに足る案件)に対する起訴猶予処分がなされる割合は約20%となっている。

 

(3)自訴手続

 犯罪被害者は自訴の提起が認められている(刑事訴訟第319条第1項)。自訴手続は弁護士に委任して行う(刑事訴訟法第319条第2項)。自訴は検察官の捜査を経ずに直接訴訟段階に入るため、自訴人は自ら事前に十分な証拠を用意し、立証しなければならない。

 

(4)刑事訴訟手続

(ⅰ)地方裁判所

 検察官の起訴処分により、管轄権を有する地方裁判所で行われる(智慧財産 案件審理法第23条)。知的財産権に関する刑法、商標法、著作権法及び公平取引法などの刑事訴訟手続の第一審となる。

(ⅱ)知的財産裁判所

 地裁判決に不服の場合は上訴できる(刑事訴訟法第344条第1項)。上訴は知的財産裁判所に対して行う(智慧財産法院組織法第3条第2号、智慧財産案件審理法第25条第1項)。上訴期間は判決書送達日の翌日から10日以内(不変期間)であるが、判決の宣示若しくは公告後送達前に提起した上訴も有効である(刑事訴訟法第349条)。

(ⅲ)最高裁判所

 知的財産裁判所の判決に不服がある場合、最高裁に上訴することができる(刑事訴訟法第375条第1項、智慧財産案件審理法第26条)。上訴期間は判決書送達日の翌日から10日以内(不変期間)であるが、判決の宣示若しくは公告後送達前に提起した上訴も有効となる(刑事訴訟法第387条で準用する第349条)。第三審では、前審判決の法令違反を理由としなければならず(刑事訴訟法第377条)、刑事訴訟法第376条規定の列挙事由(法定刑が三年以下の懲役、拘留又は罰金の罪など)に該当してはならないなどの制約がある。第三審では原則として、口頭弁論は行われない(刑事訴訟法第389条第1項)。

 

【留意事項】

 知的財産案件の刑事訴訟では知的財産案件を担当する検察官を置かず、各地方裁判所の検察署に従事する検察官が捜査を担当する。各地方裁判所の検察官は知的財産関連案件の経験が比較的少ないので、十分に証拠(例えば、侵害品の写真又は現地弁理士などの専門家による鑑定分析など)を準備した上で告発することが望ましい。

■ソース
•知的財産案件審理の制度http://ipc.judicial.gov.tw/ipr_internet/index.php?option=com_content&view=article&id=112:2011-02-16-01-20-01&catid=52:2011-01-04-01-50-21&Itemid=373
•智慧財産法院組織法 http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=A0010090
•智慧財産案件審理法http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=A0030215
•法院組織法
http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=A0010053 •刑事訴訟法
http://law.moj.gov.tw/LawClass/LawAll.aspx?PCode=C0010001 •法務部ウェブサイト:検察統計
http://www.moj.gov.tw/site/moj/public/MMO/moj/stat/new/newtxt1.pdf)。
■本文書の作成者
聖島国際特許法律事務所(作成:2012年10月22日)
特許庁総務部企画調査課 根本雅成(改訂:2013年7月16日)
■協力
一般財団法人比較法研究センター 木下孝彦
■本文書の作成時期

2013.07.16

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