アジア / 審判・訴訟実務
韓国における優先審判および迅速審判制度
2019年05月16日
■概要
(2022年11月17日訂正:本記事のソースにおいて「韓国審判便覧 」のURLを記載しておりましたが、リンク切れとなっていたため、URLを修正いたしました。 )
韓国特許審判院では、通常の審判のほかに優先審判および迅速審判の3つの制度を設けている。審判請求があった場合、審理は請求日順に行われるのが原則であるが、一定の要件を充足し、優先ないし迅速審判の必要があると認められる場合は、当該事件が優先して審理される(審判事務取扱規程第31条、同31条の2)。
■詳細及び留意点
【詳細】
1. 優先審判制度
優先審判制度については、審判事務取扱規程の第31条に定められている。
(1) 優先審判対象
優先審判の対象は、審判請求の当事者等が優先審判の申請をすることができる場合と特許審判院の職権で優先審判対象として決定することができる場合がある。
(i) 審判請求の当事者等が優先審判の申請をすることができる場合
(a) 侵害紛争の事前または予防段階に活用するために警告状等で疎明した権利範囲確認審判、無効審判または取消審判の場合
(b) 知的財産権紛争により社会的な物議を起こしている事件であって、当事者または関連機関から優先審判申請がある場合
(c) 国際間に知的財産権紛争が引き起こされた事件で当事者が属する国家機関から優先審判の申請がある場合
(d) 国民経済上緊急な処理が必要な事件、及び軍需品等戦争遂行に必要な審判事件であって、当事者又は関連機関から優先審判申請がある場合
(e) 薬事法第50条の2または第50条の3により特許目録に登載された特許権(一部の請求項のみ登載された場合は、登載された請求項に限定する)に対する審判事件として当事者から優先審判申請がある事件の場合(ただし、薬事法第32条または第42条による再審査期間の満了日が優先審判申請日より1年以後である医薬品と関連する特許権に対する審判事件は除外)
(ⅱ) 特許審判院の職権で優先審判対象として決定できる事件/場合
(a) 補正却下決定に対する審判事件
(b) 審決取消訴訟で取り消された事件
(c) 審査官が職権により無効審判を請求した場合
(d) 従前に拒絶査定不服審判があった出願に対して、取消審決後再び請求された拒絶査定不服審判事件
(e) 優先審査した出願に対する拒絶査定(韓国語「거절결정(拒絶決定)」)不服審判請求の事件
(2) 優先審判の申請
優先審判を申請しようとする者は、優先審判申請書へその事実を証明する書類を添付し、提出しなければならない。
(3) 申請受理後の手続
優先審判の請求がある場合、審判長は主審審判官と協議し、審判政策課から優先審判申請書の移管を受けた日から15日以内に優先審判の要否を決定し、これを当事者に通知する(審判事務取扱規程第31条第3項)。
優先審判対象として決定された審判事件については、口述審理、証拠調査、検証または面談等を活用して、優先審判決定日から4か月以内に処理することを原則としている。当該事件が複雑で、遅延する場合は、最終意見書受付日から2.5か月以内に処理することとなっている(審判便覧(第7 編第4 章))。
2. 迅速審判制度
迅速審判制度については、審判事務取扱規定の第31条の2に定められている。
上記の優先審判制度とは別に、迅速な審判が必要と認定される件は迅速審判をすることができる制度である。
(1) 迅速審判対象
迅速審判の対象は下記の通りとなる。
(a) 知識財産権侵害紛争で法院に係留中や警察または検察に入件する事件と関連する審判
(b) 当事者一方が相手方の同意を得て迅速審判申請書を答弁書提出期間内に提出した事件
(c) 無権利者の特許という理由によってのみ請求された無効審判件
(d) 法院が通報した侵害訴訟事件または貿易委員会が通報した不公正貿易行為調査事件と関連した事件として審理終結されていない審判事件
(2)迅速審判の申請
迅速審判を申請しようとする者は迅速審判申請書にその事実を証明する書類を添付し、提出しなければならない。両当事者が迅速審判に合意する場合には、当事者の一方が相対方当事者の同意書を添付し、答弁書提出期間内に迅速審判申請書を提出しなければならない。
(3)申請受理後の手続き
(a) 迅速審判対象事件に対して審判長は主審審判官と合意し、審判政策課から迅速審判申請書の移管を受ける日または関連機関からの通報事実が受付された日から10日以内に迅速審判該当可否を決定し、これを速やかに当事者に通報されなければならない。
(b) 当事者系事件のうち侵害訴訟関連事件、迅速審判申請書が提出された事件に対しては答弁書提出期間満了日から1か月以内に口述審理を開催し、口述審理開催日から14日以内に審決しなければならない。
(c) 口述審理を開催する必要がないと認められる事件は迅速審判決定日または新しい証拠が提出された場合、両当事者の意見書提出期間満了日のうち遅い日から2.5か月または最初の答弁書提出日から1.5か月以内に審決しなければならない。
【留意事項】
(1) 知財侵害紛争等が起こり、優先ないし迅速審判申請をすることができる事件に該当するようであれば、これらの制度を活用することが望ましい。
(2) 他人の特許権等を侵害したとして警告状を受けた場合、無効審判と権利範囲確認審判を同時に請求する場合がある。すなわち、警告してきた相手の特許権について公知技術による無効を主張しながら、自己の実施中の発明が警告してきた相手の特許権の権利範囲に属さないことの審決を求める消極的権利範囲確認審判を請求する場合がある。その際、権利範囲確認審判のみを優先審判として進行させる場合、不利な決定を受けるおそれがある。例えば、無効審判で一部無効と審決された後に権利範囲確認審判を進行させれば、一部無効である部分については当然ながら権利がないので、残りの一部分についてのみ自己の権利範囲に属さない旨を主張すればよい。しかしながら、権利範囲確認審判の方を先行させた場合、本来ならば無効審判で一部無効とされるべきである部分が同一であるという理由で、特許権者の権利範囲に属するという審決になる可能性がある。したがって、両事件について優先審査申請するかまたは併合審理を求めるか、あるいは、まず無効審判を請求し、無効審判の進行を見ながら権利範囲確認審判を請求することが望ましい。
■ソース
・韓国審判事務取扱規程(韓国特許庁訓令第907号/2018年6月1日改訂)http://www.law.go.kr/admRulLsInfoP.do?admRulSeq=2100000129329 ・平成19年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「早期権利取得促進のための審判制度のあり方に関する調査研究報告書」
資料編資料III海外調査結果に、韓国審判事務取扱規程第31条の日本語訳あり
http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/10322385/www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/chousa/pdf/zaisanken/1902soukikenri_all.pdf ・韓国審判便覧
下記ページ内の.pdfファイルで閲覧可
https://www.kipo.go.kr/ipt/iptBultnMgmt.do?menuCd=SCD0400490&sysCd=SCD04&pgmId=BUT0000012#
■本文書の作成者
崔達龍国際特許法律事務所■協力
日本国際知的財産保護協会■本文書の作成時期
2018.07.20