アジア / 審判・訴訟実務 | アーカイブ
中国における商標無効審判制度(中国語「申請撤銷争議商標制度」)の概要
2012年08月27日
■概要
(本記事は、2017/8/17に更新しています。)URL:https://www.globalipdb.inpit.go.jp/judgment/13995/
登録された商標について、商標法第41条に基づいて商標審判部(中国語「商標評審委員会」)に無効審判を請求できる。無効審判手続は、主に(1)請求人による審判請求、(2)方式審査、(3)被請求人の答弁、(4)答弁に対する弁駁、(5)審判合議体による審理、(6)審決という審判の手順で進められる。請求人は、商標審判部が下した審決に不服がある場合、裁判所に行政訴訟を提起することができる。
■詳細及び留意点
(1)審理手続の流れ
(i)請求人による審判請求
商標無効審判(中国語「请求裁定撤销」)は、商標審判部(中国語「商标评审委员会(商標評審委員会)」)に対して行う。
無効審判は次の場合に請求できる。
(a)登録商標が、商標法第10条・第11条・第12条の規定に違反するとき又は欺瞞的手段若しくはその他不正手段により登録を受けたときは、何人も登録の無効を請求できる(商標法第41条第1項)。
(b)登録商標が、商標法第13条(他人の馳名商標を模倣等したもので公衆に誤認を与えるものは登録・使用禁止)、第15条(授権されていない代理人等による出願は登録・使用禁止)、第16条(地理的表示が当該地域によるものではなく公衆に誤認を与えるものは登録・使用禁止)、第31条(先に存在する他人の権利を侵害する商標、又は他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で先取りして出願した商標は登録不可)の規定に違反するときは、商標権者(中国語「商标所有人」)又は利害関係人(中国語「利害关系人」)は登録日から5年以内に商標審判部にその登録の無効を請求できる。ただし、悪意による登録の場合には、馳名商標権者は5年の期間制限を受けない(「商標法」第41条第2項)。
(c)先願の登録商標の権利者は、後願の他人の登録商標が自己の先願登録商標と同一又は類似である場合には、その後願商標の登録日から5年以内に無効審判を請求することができる(商標法第41条第3項、商標法実施条例(以下「実施条例」という)第29条)。
請求人は無効審判を請求するとき、商標審判部に書面の請求書類の正本1部を提出すると同時に、相手方当事者数に相当する副本を提出しなければならない。また、請求書類を提出した後、証拠を補足する必要がある場合、請求書に声明し、且つ請求日から3ヵ月以内に補足証拠を提出しなければならない。上述の法定補足期間は延長不可である。実務では、法定期間を過ぎても、引き続き補足証拠を提出できるが、特別な状況でなければ、審判官の参考資料にしかならない(実施条例第30条・31条、商標審判規則(以下「審判規則」という)第23条)。
(ii)方式審査
商標審判部は、審判請求書を受領した後、方式審査の用件を具備するか否か、つまり、請求書と証拠が要求の様式で記載し、提出されたか否かなどを審理する。要件を具備するときは、その請求を受理し、請求人に受理通知書を送付する。要件を具備しないときは、請求人に不受理通知書を送付し、且つその理由を説明する。補正が必要な場合、補正通知書を送付し、それを受領した日から30日以内に補正するよう請求人に通知する(実施条例第30条、審判規則第23条)。
(iii) 被請求人の答弁
商標審判部は商標審判の請求を受理した後、直ちに請求書の副本を商標権者に送達し、受領後30日以内に答弁するよう要求する。期間が満了して答弁しなくても、商標審判部の審理に影響を与えないが、実務上は、この反論のチャンスを利用して、答弁する商標権者が圧倒的に多い。
証拠を補足する必要がある場合、答弁書に声明し、且つ答弁書の提出日から3ヵ月以内に補足証拠を提出しなければならない(実施条例第31条・第32条、審判規則第19条・第20条)。
(iv)答弁に対する弁駁
当事者が法定の期間内に提出した証拠資料について、商標審判部が当該証拠資料を相手方当事者に送付し、指定の期限内に証拠抗弁(中国語「质证(質証)」を行うことを命じることができる(審判規則第20条2項)。
証拠抗弁手続とは、商標審判部が証拠交換通知書(中国語「证据交换通知书」)を請求人に送付した後、請求人はそれを受領した日から30日以内に、被請求人の答弁書を証拠を反駁できる証拠を提出しなければならないとするものである。なお、提出は1回限りである。
(v) 審判合議体による審理
審理は、原則として合議制を採用する。通常、3名以上の奇数人数の商標審判官により構成される合議体を結成して審理を行う。ただし、審理事実が明らかで、事情状況が簡潔な事件について、商標審判官1名の単独審判を行うことができる(実施条例第33条、審判規則第24条)
商標審判事件の審理は、原則として書面審理にて行う。ただし、実施条例第33条の規定により公開審判を行うと決定された場合はこの限りでない(「審判規則」第4条)。なお、公開審理の請求は、必ずしも商標審判部に許可されるとは限らない。審判規則第37条によれば、当事者が公開審理を求めるときは、公開審理を行う必要性についての具体的理由を提出しなければならない。よって、商標審判委員会は、当事者が提出した理由が十分であるか否かを考慮し、公開審理を行うか否かを判断することになる。通常は、公開審理を行わず、書面審理が進められる比率が圧倒的に大きい。
審理を経て終結された事件については、法に基づき決定又は裁定をくだす(審判規則第33条)。商標審判部が下した審決(中国語「裁定」)に不服がある場合、審決を受領した日から30日以内に裁判所に行政訴訟を提起することができる(商標法第32条、第33条、第34条)。
(vi)審決
商標審判部は、請求人と請求人が陳述した理由と提出した証拠を審理し、事実を判明し、法律を適用して審決を下し、書面の審決を当事者双方に送付する。登録商標の維持又は取消決定に不服がある場合には、審決を受領した日から30日以内に、裁判所に対して行政訴訟を提起することができる(「商標法」第43条、「審判規則」第29条)。
(2) 証拠提出の留意点
審判当事者は、請求の事実又は答弁の事実に対して挙証責任を有し、請求時または答弁時には、相応する証拠資料を提出しなければならない。証拠には、書証、物証、視聴資料などが含まれる。
証拠提出の際には、次の点に留意する必要がある。
(i)当事者が商標審判部に書証を提出するときは、原本を提出しなければならない(審判規則第42条)。全ての証拠について原本を提出することは困難であるが、実務上、重要な証拠は、できるだけ原本又はその公証本を提出すべきである。
(ii)中国以外の領域で形成した証拠は、当該証拠は所在国で公証・認証手続きを行わなければならない(審判規則第43条)。
(iii)外国語証拠を提出するときは、その中国語の翻訳文を添付しなければならない(審判規則第44条)。
【留意事項】
(1)商標法第41条第1項による無効審判は請求期限がない。第2項及び第3項は、通常5年間の除斥期間がある。悪意による登録の場合には、馳名商標権者は5年の期間制限を受けない。
(2)商標法第41条第1項による取消審判は何人でも請求可能。第2項は、商標権者と利害関係者に限られる。第3項は、先行登録商標の権利者のみに限定される。
(3)請求人又は被請求人は、審判請求又は答弁のとき、証拠を補足する必要がある場合、請求書又は答弁書に声明しなければならない。声明しない場合は、補足不可となる。
■ソース
・中国商標法・中国商標法実施条例
・中国商標審判規則
■本文書の作成者
一般財団法人比較法研究センター 清水利明・菊本千秋北京林達劉知識産権代理事務所
■本文書の作成時期
2012.08.10