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フィリピンにおけるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの解釈について
2017年05月25日
■概要
フィリピンでは製造方法以外の特徴によって製品を明瞭かつ適切に定義できない場合であって、かつ製品自体が特許性に関する法的要件を満たす場合に、プロダクト・バイ・プロセス・クレームの使用が認められる。審査段階において、プロダクト・バイ・プロセス・クレームは製品自体の特許性に基づき審査される(物同一説を採用)。一方、権利行使段階においてプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利範囲がどのように解釈されるかは不明である。■詳細及び留意点
1.審査段階(特許取得時)
製品クレーム、具体的には、化学製品または医薬製品のクレームは、一般に、その組成や、化学式、化学構造または化学的な性質によって定義される。製造方法によって定義される製品のクレーム、いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームは、フィリピンにおいて以下の状況下で認められる。
(1)製造方法以外の特徴によって、製品を明瞭かつ適切に定義できない。
(2)製造方法によって定義される製品が、特許性に関する法定要件、すなわち、以下の要件を満たす。
(a)新規性
フィリピン知的財産法としても知られる共和国法第8293号の第23条は、新規性を以下の通り定義する。
フィリピン知的財産法第23条(新規性)
発明は、それが先行技術の一部を構成する場合は新規であるとはみなさない。
(b)進歩性
フィリピン知的財産法第26条は、進歩性を以下の通り定義する。
フィリピン知的財産法第26条(進歩性)
発明を請求する出願の出願日または優先日において当該発明が先行技術に照らして当業者にとって自明でない場合は、その発明は進歩性を有する。
フィリピンの特許実務下においては、プロダクト・バイ・プロセス・クレームはクレームに記載された製造方法に限定されず、製品自体の新規性および進歩性に基づいて審査される(物同一説)。フィリピンにおいて製法限定説は採用されておらず、製品を定義する製造方法の新規性および進歩性とは独立して審査が行われる。プロダクト・バイ・プロセス・クレームは、記載された製造方法の新規性および進歩性にかかわらず、製造される製品が当該技術分野において公知であれば拒絶される。
よって、すでに知られた製品を新規かつ進歩的な方法で製造しても特許性は認められない。特許可能となるためには、新規な方法または修正変更された方法で製造された製品が、既知の製品と同一または既知の製品から自明であってはならない。
これらのことは、以下の通り、実体審査手続便覧の第3章(27頁4.7aおよび28頁4.7b)に具体的に記載されている。
「4.7a.発明が製品、例えば、化合物に関する場合、クレームにおいて、様々な方法、すなわち化学式や、その製造方法(他の方法による明確な定義が不可能である場合)、または、例外的にはそのパラメータにより、発明を定義することができる(下線は本記事作成時に追加したものである)」
「4.7b.製造方法によって定義された製品のクレームは、製品自体が特許性に関する要件、特に、新規性および進歩性を有するという要件を満たす場合にのみ認められる。新規な方法で製造されたという事実のみでは新規な製品であるとはされない。製造方法によって製品を定義しているクレームは、製品自体のクレームとして解釈され、クレームは、好ましくは、「方法Yにより得られる製品X(Product X obtained by process Y)」ではなく、「方法Yにより得ることができる製品X(Product X obtainable by process Y)」またはこれに類する記載形式を取るべきである。」
プロダクト・バイ・プロセス・クレームの例を以下に示す。
例1:製品Xおよびその製造方法の両方が、新規性および進歩性を有する。製品Xは、その製造方法によってのみ特定可能である。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得ることができる製品X。
(A product X obtainable by the process according to claim 1.)
例1では、製造方法および製品の両方が認可されうる。
例2:製品Xは先行技術の一部を構成するが、その製造方法は新規性および進歩性を有する。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得ることができる製品X。
例2において、製造方法クレームは認可されうる。一方、製品Xは、新規性欠如または進歩性欠如の何れかに基づき拒絶される場合がある。製造方法によって定義される製品Xの特許性は、「製造方法」自体ではなく、製造方法によってもたらされた構造や特性などの「製品自体の特徴」に基づき判断される。すなわち、プロダクト・バイ・プロセス・クレームはクレームに記載された製造方法に限定されない。
例3:製品Xおよびその製造方法の両方が、新規性および進歩性を有する。製品Xは、その製造方法によってのみ特定可能である。
クレーム1 以下の工程A~Cを含む製品Xの製造方法:
A
B
C
クレーム2 クレーム1に記載の方法により得られる場合の製品X。
(A product X when obtained by the process according to claim 1.)
例3のクレーム1は認可されうる。しかし、クレーム2は、「により得られる場合の(when obtained by)」という表現が不適切であるとして拒絶されることとなる。この不適切な表現は、「方法限定(process limitation)」とされ、フィリピン知的財産庁特許局の実体審査手続便覧において想定されていない。このような拒絶理由は、「により得られる場合の(when obtained by)」という不適切な表現を「により得ることができる(obtainable by)」と補正することにより解消される。
2. 権利行使段階(特許取得後)
権利行使段階において、被疑侵害製品とその製造方法の両方がプロダクト・バイ・プロセス・クレームの製品および製造方法と同じである場合、侵害が認定されることは確実である。
しかしながら、フィリピンには、異なる製造方法で製造された製品に対してプロダクト・バイ・プロセス・クレームの権利がいかに及ぶかを明確に定めた規則はない。フィリピンにおける特許権侵害訴訟の件数は大変少なく、現時点でプロダクト・バイ・プロセス・クレームに関する訴訟が行われたとの情報はない。
■ソース
・フィリピン知的財産法として知られる共和国法第8293号・実体審査手続便覧(フィリピン知的財産庁特許局)
■本文書の作成者
E.B. Astudillo & Associates (フィリピン法律事務所)■協力
日本技術貿易株式会社■本文書の作成時期
2017.02.16